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リトライ;リバース;リサイクル  作者: 四十九院紙縞
第4話 存在価値

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(8)――このままでは、少女が殺されてしまう。

【語り部:五味空気】


「――うっ、ぐ、ぁ……!」

 脳みそが掻き混ぜられて蕩けてしまうのではないかと危惧した、次の瞬間。

 少女の短い悲鳴が耳に入った。

 慌ててそちらを見遣ると、左足に深々とナイフを突き刺された少女が、膝をついていた。ついさっきまで互角に刃を交えていたと思ったが、なにがその均衡を崩したのか。

 そんな疑問は、少女の状態を見れば一目瞭然だった。

 少女は肩を激しく上下に揺らしていて、これ以上動けないほどに息切れを起こしていたのである。あんな大きな鎌を振り回し続けていれば、それだけ体力も削られるに決まっている。スタミナ切れと考えて間違いない。そんな状態では、攻撃を喰らっても不思議はなかった。むしろ、よく健闘したほうだろう。

「やれやれ、貴女の実力はこんなものですか」

 目を細めてそう言う天神絶途の息は、全く乱れていない。

「その大鎌、貴女が持つには力不足のようだ」

 わざとらしく靴音を鳴らし、天神絶途はじっくりと少女に歩み寄る。

 僅かに肩を震わせた少女は、険しい顔つきで左足のナイフを抜くと、大鎌の柄を頼りに立ち上がった。いつまでも敵を目前に座っているわけにはいかない。賢明な判断だ。だが、立ち上がれたところで、少女に勝機はほとんどないと言っていいだろう。両者の圧倒的な実力差をまざまざと見せつけられ、少女は苦虫を噛み潰したような顔を浮かべている。

「その大鎌は私のコレクションとして、後生大事に使わせて頂きます」

 大鎌の攻撃範囲に入らないぎりぎりのところで、天神絶途は足を止める。

 最後の最後で大鎌を振り回されたときの用心なのだろうが、少女にはもうそこまでの気力はないように見えた。既に体力は尽き、手も痺れてきているかもしれない。加えて左足の怪我だ。立っているだけでも精一杯だろうに。

「どうもご苦労さまでした、清風風視さん。未熟な『死神』との勝負でしたが、そこそこ楽しめましたよ」

 言いながら、天神絶途はナイフを数本取り出した。そうしてまたも予備動作なしに、少女に投げつける。

「っ――」

 今の少女に、それを避ける術はない。全弾命中。ナイフは少女の両腕に突き刺さった。がくがくと震える手で、しかし少女は大鎌から手を離そうとしない。

「――っ」

 このままでは、少女が殺されてしまう。

 ほとんど脳髄反射で、握り締めたままだったトカレフを構え――それに意味がないことを思い出す。この銃に、弾はひとつも入っていないのだ。どれだけ正確に照準を合わせたところで、空撃ちに終わる。

 けれど、なにもせずにはいられなかった。

 だってこのままじゃ、少女が殺されてしまう。

 一刻でも早く、手当てだけでもしてやらなくては。

「大丈夫。すぐ楽にしてあげますから、怖がらないでください」

 そう言って天神絶途が取り出したのは、アンカライトナイフ――彼が勝負に決着をつける際、必ず使っている得物だった。天神絶途の中では、もう勝負はついたも同然のようだ。

 くそ、どうすれば良いんだ。

 無意味に照準を定めたまま必死に頭を働かせたが、少女を死なせない方法が思いつかない。

「……――っ」

 焦る心で少女の様子を窺う。

 刹那、俺の中に蔓延っていた逡巡は一掃された。

 気づけば、トカレフを腰元に突っ込み飛び出していた。

 足元がふらつく。血が足りない。視界が歪んで霞む。

 だからどうした。

 間に合え、間に合え、なにがなんでも間に合わせろ。

 必死で足を前に進める。

 天神絶途なんかに、少女を殺させてたまるものか。

「――くそっ」

 今まさに殺されるという瞬間、少女の浮かべた表情が、瞼の裏に焼きついて離れない。

 あの状況で、少女はひどく安らいだ表情を見せたのだ。

 殺された両親に会えるとでも思ったのか? 

 復讐なんて苦しい業から解放されるとでも? 

 ふざけんな。

 そんなの、絶対に許さない。

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