(5)――「私が殺すまで、死んじゃ駄目なんだから……!」
【語り部:陜ィ�ィ雎趣ソス陜ィ�ィ陷�スヲ】
こうして君に助けられるのは、これで二度目。
一度目のことを、君は覚えているだろうか。
【語り部:五味空気】
「少し、怒ってます」
少女と連れ立って入った廃工場の、その隅っこ。
そこには休憩室として使われていたらしい四畳ほどの小部屋があった。そこに入った途端、少女は強引に俺を床に座らせ、唇を尖らせて言う。
「服が汚れたことじゃありません。そんなことで、私は怒りません」
そこは怒るポイントだろう、可愛い服だったんだから。
そう言いたいのは山々だったが、怒っていると宣言した人間相手にそれはできない。そんなことをすれば火に油だ。
それに、少しだけ頭がくらくらとしていて、軽口を叩けるような状態ではなかった。どうせ治るにしても、血を流し過ぎてしまったらしい。ちょっと眠い。
「助けてくれたことには感謝しています。貴方が庇ってくれなければ、私は死んでました」
これで二度目ですね、と少女は言う。
そうして少女はポケットから花柄のハンカチを取り出したかと思うと、てきぱきと俺の肩口にそれを巻いた。さらに両手を傷口に当て、圧迫止血まで試みるようである。
「……どうして」
呟くように、少女は言う。
ほとんど真横にある少女の表情を窺うことはできない。しかしその言葉に『悲しい』という感情が含まれていることくらいはわかった。けれど、なにに対して?
「どうしてこんな大怪我してまで、私を助けてくれるんですか」
痛くないんですか。
怖くないんですか。
そう問いかける少女の手は、微かに震えていた。
「痛いし、怖いよ。でもほら、すぐ治っちゃうから」
「そんなの、傷ついて良い理由にはなりません」
そう言われても、あのときはこれが最善の策だった。少女の手を引いて避けることもできただろうが、興奮状態ではその手を振り払われかねない。それなら俺の身体を盾にしてしまったほうが早かった。全て理に適っている。どうしてと訊かれたって、身体のほうが先に動いてしまうのだから仕方がない。
「もっと自分を大切にしてください」
「うん、そうする」
「記憶が戻るまで、死んじゃ駄目ですからね」
「うん」
「貴方が犯人だったら、私が貴方を殺すんです」
「うん」
「私が殺すまで、死んじゃ駄目なんだから……!」
「うん」
どうやら自分で思っている以上に出血していたらしい。少女の言っていることを、半分も理解できなくなっている。
と。
そのときだった。
コツ、コツ、コツと。
廃工場内に、革靴でコンクリートの地面を踏み鳴らす音が響く。
少女が物陰からそっと外を覗いたが、そんなことせずともわかる。天神絶途に追いつかれてしまったのだ。
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