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魔女が哭く、賢者はスープを飲む  作者: リンゴとタルト
第2章 太陽の咲く祭り

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21.やまない雨はなく

 気づけばもう夕方の鐘は鳴り終えていた。雨が止み、うっすらと明るさが滲む雲に覆われた空模様に時間の感覚が麻痺していた。


 マイラが描いてくれた案内図を頼りにリーリヤはなんとか1人でステーン家に帰り着く。


 玄関の扉を開けるとそこには2人の少女がいた。

 ふらりと外に出たきり戻らないリーリヤを心配し、セルマとヘレナは探しに行こうかと悩んでいたところだと言う。


「またリーリヤさんは勝手にいなくなって。何回目ですか、もうっ」


 咎める口調ながらも、ホッとした口ぶりのヘレナにリーリヤは何時ものように言い返す気にはならなかった。


 おずおずとセルマがリーリヤに手を差し出す。その小さな両手には、色鮮やかなたくさんの花が握られている。


「これ。迷惑かもしれませんが、リーリヤさんの分です」


 リーリヤは今朝の話を思い出す。

 セルマが用意してくれたのは花冠用の花だ。あれだけ素気なく扱ったリーリヤのために、この2人の少女はわざわざ準備してくれたのだ。


「勝手にごめんなさい。でも、出来れば一緒にやりたくて」


「どうせ、リーリヤさんだけではまともに作れないでしょうし」


「ヘレナちゃん」


「うっ!・・・・・・わ、わたしも、誰かさんがいないと張り合いがないというか、手持ち無沙汰というか。と、とにかく、1人でふさぎ込んでるんじゃありませんよ!」


「ヘレナちゃんなりに心配してるんです。わたしだってそうですよ。リーリヤさんの抱えている悩み事の力にはなれないかもしれません。でも、側にいるだけでもダメですか?リーリヤさん」


 親身に寄り添おうとするセルマと不器用ながら励ましてくるヘレナ。

 2人の想いを受けて、リーリヤは震える唇で言葉を紡ぐ。


「ありがと・・・」


 リーリヤの頬を涙が滑る。

 この2人になら相談してもいいのかもしれない。いや、したい。


 涙を見て慌てている2人に、リーリヤは手で顔を拭いながら語り掛ける。


「ねぇ、聞いてくれる?」











 鮮やかな赤いゼラニウム。


 繊細で涼しげなレースフラワー。


 上品で美しい青紫のベルフラワー。


 艶やかな黄色のバターカップ。


 丸くて柔らかなシロツメクサ。


 淡く青みを帯びた可憐なワスレナグサ。


 そして、甘く爽やかな芳香の真っ白なスズラン。


 リーリヤの部屋で、少女達は床一面に初夏の花々を広げている。

 いつぞやの教会での光景のように、3人で向き合って、それぞれの手元で花を編んでいた。


 リーリヤ達はそれぞれ寝間着に身を包んでいる。

 ヘレナの提案で、今夜は花冠を作りながらのお泊まり会をすることになったのだ。


 リーリヤは2人に教わって花冠を編み上げつつ、ここ数日あった出来事を語っていく。


 他の花の乙女からモニカが受けていた嫌がらせの件から始まり、それを助けるためにリーリヤはティアに助けを求め、結果として裏切られたこと。なにより、騙されていたとはいえ、リーリヤもそれに加担させられた。


 モニカは花の乙女としての大失態を暴かれることになり、望んでいた『太陽の巫女』の座を手に入れることは果てしなく絶望的だろう。それどころか、モニカは花の乙女自体を辞めるつもりらしい。


 そして、そのすべてにおいて、ティアが裏から糸を引いていた可能性が高いこと。


 ヘレナもセルマも静かに話を聞いてくれた。


「話はわかりました。モニカさんのあのお話はそういう裏があったんですね」


 モニカに関する悪評は既に2人の耳にも届いていたようだ。


「モニカちゃんは皆が言うような酷い人じゃないわ。街の人を騙してお祭りの主役の座をかすめ取ろうとしたなんて大噓よ。ただ一生懸命だっただけなの。皆の期待に応えようと必死だったのよ」


「でも、そこを利用されてしまったんですよね」


 ヘレナがすんなりと受け入れてくれたことにリーリヤは驚く。

 現実にはモニカが犯してしまった失敗しか見て取れない。

 今更になって事情があったのだと言っても意味なんてないと思っていた。


「信じてくれるの?」


「正直、悪い噂が一気に広まりすぎて、意図的に思えてなりませんし。・・・それにリーリヤさんがいい人だって思ったんでしょう?」


 リーリヤは頷く。


「うん」


「なら、わたしも信じるだけです」


 ヘレナがそう言ってくれたことがリーリヤは嬉しかった。


「ありがと」


 ヘレナは頬を赤くして顔を背ける。


「家族ですから当たり前でしょう」


「ふふっ。ヘレナちゃんったら、素直になったね」


「・・・ちょっぴり反省することにしただけです。セルマさんもそんな意地悪を言うとは思いませんでした」


 セルマがいたずらっぽく微笑む。

 むず痒かったのか、ヘレナが咳払いをして話を戻す。


「それにしてもわかりませんね」


「あっ、誤魔化した」


「違います。真面目な話なんですから、セルマさんもちゃんと聞いてください」


「は〜い」


 にこにこするセルマにヘレナはやり難そうにする。


「まったく。いいですか?推薦をしたのは赤薔薇会、いえ、ヘレニウス家の令嬢(あの人)なんですよね?モニカさんを貶めることが目的なら、どうしてわざわざ推薦なんかしたんでしょう?」


「確かにそうね」


「なぜでしょう?」


 ヘレナの疑問にリーリヤもセルマも首を捻る。

 うーん、と3人で顔つき合わせて悩む。

 リーリヤが思い付いたことを上げた。


「上げてから、落としたとか?」


「なるほど。中々えげつない発想ですね」


「そ、そうかしら」


「でも、あり得ます。なにせ、あのヘレニウス家ですから」


 ヘレナは忌々しそうに言い切る。

 ヘレナもヘレニウス家もしくはティアの悪巧みに巻き込まれた経験があるのだろうか。ヘレナの話し方は伝聞というよりも実感が籠もっていた。

 それこそ接点なんかなさそうではあるが。


「ティア様はそんなにモニカ姫を恨んでいたんでしょうか」


 セルマは悲しげに眉をひそめる。

 感受性が鋭く、優しいセルマは他人事であっても、自分のことのように考えられるのだろう。


 しかし、リーリヤはその疑問に答えることはできなかった。


「わからないわ」


 問いただしたときのティアの感情は、確かに『怒り』だった。

 でも、あれはモニカに対してではない。リーリヤに対するものだった。


 それにティアは『責務』と言っていた。本当に義務感だけで、あんな酷い仕打ちをすることができるのだろうか。だとしたら、その義務とは、大義とはいったい何なのだ。


「うだうだと考えていても仕方がありませんね」


 ヘレナが嘆息する。


「どのような考えであったにせよ、今更の話になってしまいます」


「やっぱり、そうよね」


「はい。はっきり言って、わたし達にできることはありません」


 世間からのモニカへの心象は、もう簡単にひっくり返らない。少なくとも、リーリヤ達が足掻いたところで、モニカの悪評は揺るがないだろう。


 そんなことは初めから()()()()()()


「リーリヤさんはどうしたいんですか?」


 セルマの大きな緑色の瞳がリーリヤの顔を覗いてくる。


「モニカ姫と、どうなりたいんですか?」


 セルマはリーリヤの気持ちを汲み取ろうと、心に寄り添おうとしてくれる。

 リーリヤはセルマのあたたかな思いやりに身を委ねるように目を瞑る。


「このままにしておきたくない」


 あの女(ティア)の言うとおりに、まるで切り捨てるかのようにモニカに全部の責任を押し付けて、モニカと関わる前の生活に戻るのは嫌だった。


 友達面して近付いて、夢に届きそうなところで揚げ足を取って、足を引っ張って、挙句の果てにはお前が悪いのだと嘯いて背を向ける。


 そんな女のままでいたくない。


 魔女の誇りはもう失ったとはいえ、誇り高い生き方に臨んできた過去の自分が、そんな無様な生き様を許せるはずもない。


 いや、答えはもっと単純なはずだ。邪魔な誇り(プライド)なんて投げ捨てて、心の奥から掘り出してきた想いを言葉にする。


「仲直りしたい・・・。いえ、違うわね。私達はまだ本当には友達になれてなかったのかも。だって、お互いのことをまだ全然知らないもの。だから、そう、私はモニカちゃんと友達になりたいのよ」


 関係が拗れたのは、リーリヤがきっかけで、そんなリーリヤが言うのはおかしいとわかっている。

 でも、モニカがどう思っていようと関係ない。これが嘘偽りないリーリヤの気持ちだ。


「それに―――」


 付け加えるならば。リーリヤに言う資格はないのかもしれないけれども。


「花の乙女を辞めないで欲しい」


 あれだけ人々に素敵な笑顔を与えていたモニカが、花の乙女として相応しくないとは言わせない。たった1度の失敗で、その道を諦めて欲しくなかった。

 どちらの想いも本当で、どちらの願いもモニカに否定されるのは怖い。

 けれども、リーリヤの気持ちをぶつけたいと思った。


「覚悟は伝わりました」


「はいっ!協力しますよ!リーリヤさん!一緒にどうしたら気持ちが伝わるか考えましょう!」


「もちろん、わたしも」


 ヘレナとセルマは、リーリヤの想いを受け止めてくれた。無理とも、無駄とも言わずにだ。


「2人共・・・」


 リーリヤは胸に手を当てる。

 胸を満たすぬくもりが心地よかった。


「まだ、友達になれるかしら?」


 セルマは目を伏せる。翠色の瞳が長いまつ毛に隠れた後、すぐにリーリヤへ向く。


「モニカ姫が過ちを認める正しい心を持っているなら」


 セルマの言う『過ち』とは、リーリヤの犯した()()であり、モニカの犯した()()でもあるのだと思う。


「それを知っているのはリーリヤさんですよ」


 リーリヤはモニカを思う。

 答えは言葉にするまでもなかった。

 宵闇色の瞳に映るリーリヤの意志を汲み取って、セルマは優しく微笑んだ。


「一番悪いのは、リーリヤさんでもモニカさんでもないです!あの性悪女ですから!」


 ヘレナが不機嫌に愚痴る。

 対象は無論ティア・ヘレニウスのことだ。

 ヘレナの不満の矛先はリーリヤにも突き刺さる。


「だから言ったでしょう!?あの女には気を付けてくださいって!リーリヤさんは全然耳を貸してくれませんでしたけど!」


「はい・・・、すみません・・・」


「まぁまぁ。仕方がないよ、ヘレナちゃん」


 セルマが取りなしてくれるが、これに関してはリーリヤも不用意だったと思う。誰かに相談の1つでもしていたら、こんな事態にはなっていなかったかもしれない。


 ヘレナは一旦怒りを吐き出し切ったのか、フンッと荒く息を吐く。


「反省しているようですから、ここまでにしてあげます。それはそうと、どうやってモニカさんを探しましょうか。お店にはいなかったんですよね?」


「そうだよね。モニカ姫はどこかに行っちゃったんだよね。わたし、教会の方に相談してみようかな?」


「家出の選択肢としては定番ですよね。でも、この街の教会は数が膨大です」


 紅の乙女の伝承の発祥の地は伊達ではない。

 フルクートには軽く100を超える教会がある。一つ一つを探して歩くだけでも数日は掛かる。


「それなんだけど、なんとなくどこにいるかわかる気がするの」


 リーリヤには確信があった。きっと()()()にいる。

 ヘレナ達にも場所を伝えると納得したようだった。


「では、その点は解決ですね。次は、仲直りのための作戦を考えましょう」


「はいっ、はいっ。わたしに良い案があります」


 いつしか初夏の夜は更け、フルクートにもほんの短い薄闇の時間が訪れる。

 それでも、ステーン家の一室にはいつまでも明かりが灯ったままだった。











 雨上がりの湿った風がアルマスの前髪を揺らす。

 アルマスは工房の執務室で1人佇む。


 その視線は空いた窓の先にある庭の草陰を見ているようで見ていない。

 虚空を凝視して動かないアルマスの瞳には、何重もの知謀が飛び交っている。


 やがてアルマスは何事もなかったかのように瞬きをする。

 それを待っていたかのように、薄闇の広がる窓の外から声がかかった。


「心地良い夜だね、錬金術師くん」


 しゃがれた老婆の声にアルマスは舌打ちする。また謀ったようなタイミングで現れたものだ。


「夏至が近い割には闇が濃い。雲が良い仕事をしているね。願わくば白夜を塗り潰すほどの嵐が来ればと思っているんだけど」


「嫌味ですか」


 一瞬の沈黙を得て、笑い声が闇に響く。


「まさか!この程度の事態(もの)で絶望なんて言わないで欲しいね。だって、君、もう迷ってなんかいないじゃないか」


「・・・・・・」


「見据えているのはその先だろう?」


 声の主はアルマスの回答を待たずに続ける。

 端からアルマスとまともな会話をするつもりがないのだ。


「ああ、愉しみだよ。誰かさんの撒いた種が芽吹き始めているようだしね。ふふふふっ。あははははっ」


 不吉な哄笑が暗闇に響く。

 掠れた声には隠しきれぬ愉悦が含まれている。


「精々足元を掬われないように気を付けるんだね」


「言われなくても」


 これ以上の戯言に付き合う義理はない。アルマスは窓を閉めようとする。

 しかし、声の主には最後の問答があったらしい。


「そうそう。あの娘はどうするんだい?」


 ()()()とはアルマスが匿っている1人の少女のことだ。雨の中、工房の入り口に座り込んでいた赤毛の少女(モニカ)は、工房の隣にある母屋の屋敷にいる。


 くだらないとアルマスは思った。この質問にどんな意味があるのか。答えなど決まっている。


「どうもしませんよ」


 居場所がないというから貸してあげた。厳密にはアルマスが使用の許可を得ているのは、この工房だけなのだが構うまい。誰かが住んでいるわけでもなし。実質、アルマスが管理しているようなものだ。


 だが、匿うだけで何もしていない。

 話を聞くことも、慰めることも、励ますことも。どれもする気はなかった。


「それは俺の役目じゃないですから」


 アルマスは窓を閉め切る。

 言ったのは本心だ。

 けれど、もっと根幹の考えは別だ。

 

「何より、どうでもいい」


 窓ガラスに映りこむアルマスの顔は酷く冷たかった。











 空を覆う白い雲がうっすらと光を帯びている。朝が来たのだ。


 誰もがまだ活動を始める前の時間。

 そんな早朝からアーリコクッカ広場では動き回る影があった。


 顔から手足まで青痣だらけになっている小太りの青年の名はクスターだった。


「良し。傷んでいるところはないな」


 クスターは広場の中央に置かれたままになっている船の整備をしていた。


 先日の大騒ぎの中にあっても―――太陽の恵み亭から距離があったこともあるのだろう―――船に直接的な被害はなかった。それでも、念のために確認をする必要があったのだ。


 この船はお祭りの最中にモニカが乗る予定になっている。もし船に穴が有って沈みましたじゃ冗談にもならない。


「後は船底に溜まった雨水を排水するだけだ」


 こんな朝早くから作業をしたのにも理由がある。

 昨日まで降っていた雨によって船が腐って傷まないようにするためが1つ。そして、昼間のうちには船を湖に移動させる大掛かりな作業があるのだ。できることは早いうちに済ませてしまいたい。


「くそっ。僕だけじゃ時間が掛かる。人手が欲しいときにどうして誰も来ないんだ」


 クスターは船の甲板に設置された手押しポンプを使って船底に溜まった水を掃き出す。


 船を広場に展示する計画もクスターが好きで始めたことだが、いつもであれば勝手に人が集まるはずなのに。


 せめて誰かに声をかけておけば良かったか。1人でこなすには流石に無謀すぎた。


 そのとき、広場に酔っ払いの集団が現れる。大方、お祭り前に羽目を外して朝まで飲み明かしたのだろう青年達だった。


「ふんっ」


 クスターは鼻を鳴らす。

 ただ酒を飲んで能天気にバカ騒ぐ。それの何が良いのか。


 クスターなら『推し』のことを考え、『推し』のために何かをした方が余っ程有意義だ。


 しかし、別の考えを持つ人種がいることも理解している。


 自分の意見を他人に無理矢理押し付けるなんて反吐が出る行為だ。クスターの信条に反する。


 しかし、例外はある。譲れない一線を越えられたときだ。


 クスターは汗と一緒に一昨日の広場で殴られたばかりの頬を拭う。鈍い痛みが走るがグッと押し殺す。


「僕は信じてる」


 クスターが抱くモニカへの『熱』は、たかが一度の失敗を目の当たりにしたくらいで冷めるほどちゃちではない。今もモニカを推す気持ちは揺らいでいない。


 通りがかりの酔っ払いを無視してポンプの掴みを握りしめた矢先、集団の中にいた青年がクスターに向けて手を挙げた。


「あれぇ、クスターじゃないかぁ」


 酔いで顔を赤らめて、呂律も怪しい青年が同じファンクラブの一員であったことに遅れて気付く。つい一昨日もクスターが広場でモニカの素晴らしさを説いて回ったのに付いてきた奴だ。


 親しいとは思っていない。だが、馴れ合いはしない主義のクスターでも仲間意識くらいはある。

 クスターほどではないとはいえ、モニカへの『愛』を熱く語り合えるファンクラブの有志である。


 この大変な時に酒を飲んでるんじゃないという気持ちを呑み下し、泥酔しててもポンプを押す労働力くらいにはなるだろうと手伝わせようとした瞬間だった。


「お前も()()()()()してないで一緒に飲もうぜ」


 ふざけた口振りにクスターは頭に血が上る。


「そんなことだとっ!?」


 相手の胸倉を掴もうとして、横から野太い丸太のような腕が伸びて逆に掴まれる。


「おいおい。喧嘩はやめようぜ。この間、くだらないことで散々な目にあったばかりだろ?」


「貴様っ・・・!」


 痛いほどに握られた腕はぴくりとも動かない。それでも、クスターは唇を剥いて怒りを吐き出そうして固まる。


 見知った顔だったからだ。

 彼は太陽の恵み亭で働くパン職人の青年、つまりはモニカの親衛隊だった。それだけではない。よく見れば集団のほとんどがそうだ。

 親衛隊で見かけたか、ファンクラブに入っていた奴ばかりだった。


「どういう、ことだ?」


 青年の1人が雑に頭を掻いてから、あっけらかんと言う。


「あー。冷めちゃったんだわ」


「お前っ!それでも親衛隊か!?」


「ちっ。離せよっ」


 もう片方の手で再び掴みかかろうとしたクスターを、青年は力ずくで振り払う。


「お前らの熱意は、その程度だったのか・・・!」


 クスターは地面に転がされて這いつくばる。

 拳を握り、硬い石畳に叩きつける。血が滲むのなんて関係なかった。


「もういい!貴様らなんか!とっと失せろ!二度とあの娘のファンを名乗るんじゃない!」


「喧嘩はダメですよぉ」


 甘ったるい声がした。

 男共の中からピンクブロンドの髪の女性が進み出てくる。若く、豊満な肉体をした妖艶な格好の女性だった。


「そうです~。ねぇ、そこのお兄さん。ちょっとお話いいかしら~?」


 漂う色香にクスターは釘付けにされた。

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