この戦いに終止符を
目の前に聳え立つ重厚感のある大きな扉は、まるで自分の存在を示すかのように青白い光を放つ。
その明かりは薄暗かったこの空間を満たすかのように、一瞬にして青色に染め上げる。
「これは!」
セレネを抱きとめた状態のまま、カリアスは後ろを見上げている。強大な魔力の存在に圧倒され、全身の毛穴がプツプツと浮き出るのを感じた。
「カリアス! あれ見て!」
不意に、腕をトントンと叩かれて、カリアスは腕の中に収まっているセレネに視線を移した。
彼女の細い綺麗な指先が、今にもこちらに襲いかかってきそうなダンジョンボスの姿を捉えている。深緑の瞳は狂気に満ち、大きく開けた口からは、牙が剥き出しギラついている。
両翼を大きく広げ、前傾姿勢に傾いたドラゴン。
しかし、その姿はこちらに近づくこともなく、火を吹くこともない。
「一体、どうなってるんだ……」
巨大なドラゴンは時が止まったかのように、動きをピタリと止めていた。
力の抜けたカリアスの腕から、セレネが一歩前に進み「お母様……」と言葉を漏らす。
(今にも動き出しそうだけど……。この扉の仕業なのか?)
カリアスが触れたことで発動した溢れんばかりの魔力。それがドラゴンにも影響を与えているのだろうか。
ダンジョンに支配された魔物に影響を与える魔力。
それは、大きな意味を持つ。
「これがダンジョンの核……なのか……」
この状況を打破するために探し求めていたもの。
それが今、自分達のすぐ後ろに存在している。
カリアスは背筋に冷たい風が走ったような感覚がした。
「ワレと契約を結んだ器、答えを求めよ……」
浮き出た青白い文字を見上げながら、セレネがぼそっと呟いた。
「そう書いてあるのか?」
「ここに入った時と同じような言葉が大きく書いてある。でも、それ以外の文字列は別のことが書いてあるみたい」
「別の事って?」
「醜い戦いを犯し、この美しい世界を汚してしまった。せめて、更なる悲劇が訪れることのないよう、我々はメノルタをとある場所に隠す。選ばれし器、穢れなき心で現実を見定めよ……」
まるで懺悔のような言葉。
メノールターナが引き起こしたとされる最悪な歴史が、本当にあった出来事なのだと証明されたようで、カリアスの心がギリッと音を立てる。
「メノルタを隠す……」
「メノルタって確か、ドラゴン全ての聖母、創造神だっけ?」
「うん」
過去に起きた悲劇の全容、メノールターナとメノルタの関係。
考えたいことは沢山あるが、今はそんな場合ではない。
「他には、何か書いてあるか?」
「えっと……魔力の消滅は縛りを解き、命の解放は全ての始まり。選択せよ」
「やっぱり、ダンジョンが魔力を失えば、囚われた命が解放されるという事か」
カリアスの予想は概ね当たっていた。
そして、魔力の根源である核がこの扉だと分かった今、すべき事はただ一つ。
「この扉を破壊しよう」
貴重な古代文字が刻まれている扉を壊すのは、研究者として正直とても心が痛む。
だが、自分の私的な好奇心で、ここに来た目的を見誤ってはいけない。
この巨大な扉をどうやって壊すのかという問題もあるのだが、隣で「ふん」と鼻から息を吐き、やる気満々になっている少女がどうにかしてくれることだろう。
まったくもって、頼もしい存在である。
「セレネ、くれぐれも怪我だけはしないように!」
「怪我してもまたカリアスが治してくれるでしょ?」
「それはどうしようもなかった時でっ! ってちゃんと話を聞け!」
セレネの体は光に包まれ、もはやカリアスの反論など聞こえていないだろう。
一瞬のうちに美しいドラゴンが現れ、「グオァーーーー!」と雄叫びを上げると、そのまま扉へと突っ込んでいった。
「ドッゴーン! ドッゴーン! ドッゴーン!」
セレネが扉に体当たりする度、激しく地面が揺れ、周りからパラパラと小石や土埃が落ちてくる。
硬く頑丈にできているであろう扉も、最強魔獣の集中攻撃を受け亀裂が入り始める。
根を張るように増えていく亀裂が扉全体に到達した時、セレネは攻撃を一旦やめ、空間の外周を大きく羽ばたき始めた。だんだん加速していくその姿は、まるで弓から放たれた矢のように一気に扉へと突っ込んでいく。
「ドッゴーン! ゴゴゴゴゴゴーーーー」
セレネの渾身の一撃で大きな扉は強度を失い、眩しいほどの青い光を放ちながら崩れ始める。
強烈な光に当てられたカリアスは視界が真っ白になり、殴られたような激しい頭痛に襲われるのだった。




