ドラゴンの激突
カリアスの作戦は見事に成功した。
足元には、薬を吸って寝息を立てるアルバートの姿が転がっている。意識が飛んだ瞬間、彼の眷属である炎の精霊サラマンダーも姿を消し、邪魔な者は全員いなくなった。
(すまないが、少しの間寝ててくれ)
「セレネ! 作戦完了だ!」
カリアスはそう叫ぶと、目の前で相対する二体のドラゴンへと視線を移した。
ダンジョンボスであるドラゴンは攻撃を止めたものの、こちらの様子を鋭い眼光で伺っている様だ。
いつ攻撃を再開してもおかしくは無い。
カリアスの体には、ビリビリとした緊張感がひっきりなしに続いている。
(さて、ここからが本番だな……)
ここまで来たはいいものの、結局、どうやってドラゴンの正気を戻しここから救うのか。
その手立ては未だカリアスの頭には浮かんでこない。
すると、ドラゴンの姿をしていたセレネから光が放たれ、みるみるうちに姿形がいつもの人間の姿に戻っていった。
「お母様! 私です! セレネです!」
大きなドラゴンに向かって、必死にそう語りかける。
「お母様!」
「グラァァァァァァア!」
しかし、セレネの訴えも虚しく、空間を揺さぶる様な大きな唸り声をあげ、両翼を力強く動かし始めた。
(クッソ! やっぱダメか……)
カリアスは地面から引き剥がされない様に、両足を開き前傾姿勢で踏ん張る。
歯からはギリッという音が漏れた。
ダンジョンに囚われた魔獣たちは、感情や記憶を失っているのだとカリアスは考えている。
ただ、侵入者を襲うことのみ。それだけしか彼らにはない。
「お母様っ! セレネです! 思い出して!」
「セレネ、無駄だ! きっと忘れてる!」
暴風が強くなり始め、踏ん張っていた足もズルズルと後退していく。このままでは、吹き飛ばされて壁に激突しかねない。下手すればそのまま死んでしまうだろう。
「セレネ、ドラゴンの姿に戻るんだ!」
「でも!」
「頼む! 次の策を考える時間が欲しい!」
今は一刻を争う。
「セレネ!」
両手を握りしめ項垂れたセレネの姿が、また光に包まれ大きく膨れ上がっていく。
白銀に輝く両翼が大きく開かれ、前後に動き始める。
「ビギギギギ!」
ドラゴン同士が生み出す暴風の激突で地面や壁が振動し、引き裂かれる様な凄まじい音が鳴り響いた。
「なんて……無茶苦茶なっ」
まさにドラゴン同士の衝突は災害級である。
この空間が衝撃に耐えているだけでも、不思議で仕方がない。
だが、二体の攻撃は拮抗している。
エメラルドグリーンの瞳が、こちらに力強い視線を向けてきた。
その目配せに応える様に、カリアスはコクリと頷く。
(セレネが時間を作ってくれた。無駄にするな俺!)
カリアスはふーっと息を吐き、額に滲み出ていた汗を拭う。
(さて、どうするか……)
苦笑いを浮かべ、爆発しそうなほど波打つ血液の流れを感じながら、カリアスは相対するドラゴンの姿を見つめるのだった。




