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エピローグ

「というわけで、私はこの姿になったってわけ。それで錬金術師になったのよ。エリオンの後を継いで、アレヴェルがくれた命を全うするために」

 美しいドレスをまとった錬金術師は、優雅に手に持ったグラスの酒を空けた。紛れもない男の体で。

「それからその魔法陣は削って消したわ。自然の摂理に反するものですものね」

 たぶん、それでよかったのだろうと私は思った。

「故郷の村に帰れなかったのは辛かったわね。こんな姿じゃ親だって信じてくれないだろうし。でも、何年かして偽名で行ってみて、両親の姿を見られたからよかったかな」

 イルラナは、軽く溜息をついた。 

「だから私は自殺なんて絶対にできないの。アレヴェルに申し訳がたたないもの。私が死ぬとしたら、病気か事故か老衰か殺されるか、ね。あら、結構種類があるわね」

 そう言ってイルラナはクスクスと笑った。

 『アレヴェルに申し訳がたたない』。イルラナの言葉が何度も何度も心の中で鳴り響いた。

 アレヴェルが最期に望んだことは、イルラナが生きることだった。では、妻が最期に残ったことは? それはアレヴェルが望んだことと大して変わらないように思えた。ただ、相手がイルラナではなく……

「それにしても……」

 信じられないと言いかけた言葉を私は慌てて飲み込んだ。失礼になるかと思ったからだが、相手にしっかりと聞かれていたようだ。

「え? 信じられない? さあ、どうかしら。本当かも知れないし、あなたを勇気づけるための作り話かも知れない。どっちでもいいじゃないの」

 そう言って、彼女はにっこりと微笑んだ。その胸には、銀色のペンダントが揺れていた。

「そろそろ、私は帰るわ。じゃあね」

 去って行くイルラナの姿を見送りながら、私もしばらくしたら店を出ようと思った。死に場所を探しに行くのではなく、どこか、新しく生きていける場所を探しに。


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