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[第一部完結]サラリーマンが異世界でダンジョンの店長になったワケ  作者: エルリア
第二十一章

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心に火を灯して

「信じてはなりません、適当な事を言って我々をだますつもりなのです。この結晶もそれらしく言っているだけで違う物の可能性も十分に・・・。」


「この結晶はそこにある黒い塊の中に入っていたものです。ここに強制的に転送される過程で持ってきた荷物は全て消し炭になってしまいました。しかしながらこれだけはそうならずに残っていました。」


「その証拠は?」


「証拠、ですか。」


「そなたが初めから持っていればそうはならないだろう。腰にぶら下げた短剣のように身に着けていた物は無事のようだしな。」


む、確かにその通りだ。


取り出すところを見ていたのならまだしも、現状では俺がそう言っているだけ。


ポケットに入っていれば初めから無事だっただろうし・・・。


ぐぬぬ、ここに来た時に全裸だったらまだしも、そうでない以上証明する方法が無い。


何やら雲行きが怪しくなってきたぞ。


「そこは信じてもらうしかありません。」


「信じるか。そもそもここに呼び出したのは、我らの計画を前進させるための手駒にする為。貴様をどう使うかは我々の手にゆだねられている。さっきの話は確かに面白かった、今後の参考にさせてもらうとしよう。」


「陛下!」


「ダークス、今の話をもとにもう一度計画を練り直すぞ。」


「待ってください、それでは!」


「誰も考えを話せばお前を逃がすと約束していない。お前が勝手にベラベラと話をしただけの事だ。違うか?」


「くっ・・・。」


「これまではその自慢の口でどうにかなってきたかもしれんが、ここではそうはいかん。お前を信じるやつは一人もいないのだからな。」


確かにその通りだ。


誰も逃がしてやるとも出してやるとも約束していない。


ただ、答えを、俺の考えを聞かせろと言われただけの話。


それを勝手に解釈して出して貰うために策を講じたわけだが・・・。


どれも無駄に終わってしまったようだ。


ダークスと陛下が何かを話しながら石塔を後にする。


待ってくれと叫んだ所で俺にはもうカードは残っていなかった。


その場に座り込み大きく息を吐く。


参ったね。


あれだけ考えた作戦だ、何とかなると思ったんだが・・・。


掌の上で結晶がころころと転がる。


鮮やかな緑と青色が落ち着けと言っているように見えてしまった。


そんなこと言うはずがないのに。


「だが、こんな所で腐ってたまるか。」


俺は帰る。


何としてでもここから出て、皆の所に帰ってみせる。


何年かけてもなんてことは言わない。


何なら今すぐにでもここから出てやる。


でもどうやって?


切り札はある。


あるが、それを使って本当に出れるかは未知数だ。


無双系の主人公と違って自分一人で敵陣から逃げかえれるようなチートスキルは持ち合わせてないんでね。


頼みの精霊もこの石塔の影響か全く反応はない。


二人が居なかったら何もできないへっぽこ精霊師だからなぁ、俺は。


その場にへたり込み、壁に背を預ける。


初戦は敗退。


だがまだ終わりじゃない。


二回戦も三回戦もまだある。


いや、無かったとしても勝ち取ってやる。


でもその為にはちょっと休憩だ。


そのまま壁にもたれたまま、俺は意識を手放すのだった。



「・・・おい。」


「ん?」


「おい、聞こえるか。」


突然聞こえてきた声に慌てて顔を上げる。


だが、瞼を開けたばかりで思うように焦点が合わない。


「誰ですか?」


「気が付いたようだな。」


「その声は・・・。」


「とりあえず今は時間がない、そのまま聞け。夜中にもう一度ここに来る。その時までに意識をはっきりさせておけよ、わかったな?」


焦点が定まる前に声の主はどこかに行ってしまったようだ。


何処かで聞いたことがあるんだが思い出せない。


でもそんなに前じゃない、結構最近聞いた声だ。


「とりあえず今日の夜中に誰かが来る。」


自分に言い聞かせるようにつぶやいた。


誰かが来る。


時間が無いことから察するに警備の隙をついてここに来ているんだろう。


ワザワザそんなことをする必要があるという事は、ダークス側の人間じゃないという事だ。


ってことは。


「一人しかいないよな。」


国王のやり方に反発して行動している人物。


そう、ミハエル王子だ。


あの声はおそらく側近のゴリラ・・・じゃなかったゴリア氏だろう。


どうやって俺がここにいるのかを知ったかわからないが、まだまだ負け試合ではなさそうだ。


逆転の目はまだある。


切り札はまだとっておいて良さそうだな。


腹時計から察するに昼過ぎもしくは昼の中休みの頃だろう。


食事は残念ながら来ていないようだ。


今頃ダークスたちは俺をどう使うかの算段を練っているんだろうなぁ。


兵糧攻めにして俺の意思を刈ろうとしているのかもしれない。


ならやる事は一つだ。


「寝よう。」


何かあれば声を掛けてくるだろうさ。


夜まではまだ時間がたっぷりある。


今のうちに寝だめしてその時に備えるのが得策だ。


ついでに体力も温存できる。


固い床に転がり目を閉じる。


二回目の睡魔は思ったよりも早く訪れ、眠りにつくのだった。


「この状況でよく寝れるな。」


どれぐらい寝ていただろうか。


また誰かの声がする。


「月は出ていますか?」


「何を言っている、まだそんな時間ではない。」


「そうですか。という事はそろそろ夕食の時間ですね。」


「お前、自分が置かれている状況が分かっているのか?」


今度はあっさりと焦点があった。


上を見上げると呆れた表情のダークスが俺を見下ろしていた。


俺の考えと違い手には食べ物らしき物が見える。


どうやら兵糧攻めは無さそうだな。


「拉致監禁されて出番が来るまで待機中、って感じですね。」


「出番は当分なさそうだがな。」


「それで、私の案は上手くいきそうですか?」


「悔しいがそれなりに参考にさせてもらう。だが参考にする程度で本筋は我々が当初決めた通りに進行するだろう。」


「まぁ為になったのなら構いません。国からは何か言ってきましたか?」


「それを言ってどうする。」


「いえ、みんな元気かなと思いまして。」


残念ながら教えてくれる気はなさそうだ。


またぽろっと漏らしてくれないかなと期待したが、三度目はさすがに期待し過ぎか。


「家族の身の前に自分の身を案じるんだな。」


「その感じではまだ殺す気はないのでしょう?」


「お前にはまだ利用価値がある。殺すならたっぷり使ってからだ。」


「強制転送の元を取らないとって感じですね。」


「煩い、これでも食ってさっさと寝ろ。」


ダークスが上から何かを放り投げてくる。


それは放物線を描き俺の手にすっぽりと収まった。


ナイスキャッチ。


「お水は頂けないんですか?」


「いちいち注文の多い男だな。」


「喉を詰まらせて人質が死んだら困りません?」


「・・・そこの水差しをよこせ。」


最初に渡された水差しを降ろされた紐に括り付ける。


このまま思いっきり引っ張ったらダークスは落ちてくるんだろうか。


落ちてきたところを短剣で脅して・・・。


脅した所で進展無さそうだな。


殺しても代わりはいるとか言われそうだし。


そして俺も殺されると。


パスだな。


水差しはするすると登って行き、水をたっぷりと入れて戻ってきた。


「どうもありがとうございます。」


「余計な事を考えても無駄だぞ、魔力は遮断されているし出ることは不可能だ。」


「安心してください、登るだけの技術も筋力もありませんから。」


「精霊師も精霊が呼べなければタダの人か。」


「その通りですよ。」


「その余裕もいつまで持つことやら。」


自分の優位が崩れないからか今日は少し余裕のある感じだ。


表情があまり変わらない。


空の水差しを持ってダークスが石塔を出ていく。


ドアが開くと同時に一瞬だけオレンジ色の光が見えた。


「馬鹿者!外を戸を閉めておけといっただろ!」


「も、申し訳ありません!」


戸が閉まる前にダークスの怒鳴る声が聞こえたが、すぐになにも聞こえなくなった。


どうやらそこの戸はかなり厳重に封をされているようだな。


加えて二重構造になっていると。


そうでもしないと魔力を完全に遮断することは出来ないのだろう。


でも、一瞬。


その一瞬だけでも外界とここが繋がった。


俺は魔法や魔力に詳しくないけれど、一瞬でも繋がれば俺がどこにいるかわかるんじゃないだろうか。


何故そう思うかって?


ポケットが熱いからだよ。


慌ててポケットに手を突っ込むと、精霊結晶が熱を帯びていた。


余りの熱さにおもわず手を放しそうになったがすぐに熱が無くなり、いつもの冷たい結晶に戻る。


ほんの一瞬だけども外界と繋がった事で結晶が反応し、熱を帯びた。


そう考える事が出来るんじゃないか?


ドリちゃんもディーちゃんも俺を必死に探してくれている。


もしかするとこの結晶を伝って出てくることが出来るのかもしれない。


ならば外の扉さえ開けることが出来れば・・・。


でもどうやって?


ここから一歩も出れない状態でどうやって戸を開けさせる?


叫んでもわめいても誰も来てくれそうにない。


火を起こすのはどうだろうか。


手配してもらった資料は良く燃えるかもしれないが燃やす道具が無い。


火打石の一つでも持ち歩くんだった。


っていうか、密封されている所で火なんか起こしたら酸欠で死んでしまうだろう。


はい、パス。


ぐぬぬ、方法が何もない。


夜を待つしかないか。


仕方がないので渡された包みを開け、入っていた固いパンを頬張る。


お、パンの下に干し肉も入ってるぞ。


なんだかんだ言ってちゃんとしたもの食わせてくれるんだな。


野菜が無いけど。


固いパンと塩辛い干し肉を水で流し込み腹を満たす。


辺りを見渡して何かないか考えてみるも特に思い浮かぶことも無く、ふと魔法陣の真ん中に立ってみた。


よくある五芒星とかではない。


幾重にも重なった円の淵に複雑な文様が描かれている。


これを暗記するのはさすがに無理だな。


叩いても触っても反応なし。


融合結晶を置いてももちろん駄目。


座って集中してみてももちろん反応なし。


駄目だこりゃ。


再転送とかできたら最高なんだけど、これインターセプト用みたいだから下手に転送に割り込んで変なところに行ったらそれこそ大変だ。


大人しくしておくのが一番だろう。


急に作動されても困るので隅っこの方に移動する。


ふぅ、落ち着いた。


今日の夜ミハエル王子が来る。


恐らく味方になってくれるだろうけど、どういう要件なのかは謎のままだ。


父親を倒す手伝いをしろと言われるかもしれないし、実は敵でしたっていう可能性もある。


でもこの状況に変化をもたらす唯一の鍵でもある。


さて、鬼が出るか蛇が出るか。


菩薩様だったら最高だなぁ。


なんてことを考えながらいくつもの選択肢を考えていると、あっという間に時間が過ぎて行った。


そして、その時はやってくる。


密封されているはずの空気が動いた。


外の戸が開き、誰かが入ってくる。


「イナバ殿。」


「ミハエル王子、こんな所でお会いできるとは思いませんでした。」


頭上には二人の人影。


でも今回はいつもと違ったメンツだった。


「手短に言うぞ、そなたをここから出そうと動いている。だが、思った以上に警備の目が厳しく連れて出たところですぐにつかまりそうな状況だ。もう少し時間をくれ。」


「お気持ち有難うございます。私は大丈夫ですので、外の状況だけ教えてください。」


「今の所軍事的な衝突は起きていないが、どちらも国境に兵を集めてにらみ合っている。」


「私の事は?」


「こちらにいるとは思っていないようだ。今頃必死になってお前の行方を捜しているだろう。」


今の所は膠着状態。


もちろんレアード陛下が人材を放出することなどありえないので近いうちに小競り合いは起きるだろう。


一度でも血が流れれば後は泥沼の始まりだ。


何としてでも血が流れる前に脱出しなければ。


「殿下。」


「もう時間か。」


「どうぞお戻りください、私は大丈夫ですから。」


「必ずやそなたを国に戻す、それだけは信じてくれ。」


「もちろんです。そうだ、殿下!」


出て行こうとする所を慌てて呼び止める。


「どうした。」


「外の戸とここの戸をわずかな時間でも開けっ放しにする事は出来ませんか?」


「不可能ではないと思うが・・・わかった、何とかしてみよう。」


「お願い致します。」


可能性は紡いだ。


王子は味方だったし、戦争はまだ起こっていない。


それが分かっただけでも十分すぎる収穫だろう。


後は待つのみ。


じれったいが今の俺に出来ることはそれしかない。


空気の流れが止まり、また一人残される。


悲壮感は一切なかった。


むしろ前向きな気持ちになる。


まだやれることはある。


可能性はある。


その事実が俺の心に火を灯し続けていた。


やはり王子は味方だったようです。

そして逃げ出すための可能性も見つかりました。

一人じゃないとわかった彼の心には真っ赤な火が灯っている事でしょう。

その火を燃料に前に進み続けます。

そろそろ物語は終盤。

どんでん返しの為に、彼は考え続けます。


ここまでお読みいただきありがとうございました。

また次回もよろしくお願い致します。

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