転送されたその先は
「ついこの間話をしたというのに、こんなことになってすまない。」
「別にププト様が謝る事ではありません。」
「今頃彼も悩んでいるだろうな。」
「悩む暇もないほど忙しいかもしれませんよ。」
現状をどうにかしようと必死に奔走しているだろう。
少ししか話をしていないが、あの人はかなり正義感のある人だ。
自分の父親を止めるにはどうすればいいか必死に考えているに違いない。
「隣国の状況は冒険者仲間でも話題に上がっていました。かなり魔物が増えており、ダンジョン外でも危険な場所が多いとか。その分実入りもいいので、一発当てようと隣国に向かう冒険者も増えていると聞きます。」
「それはこちらでも把握している。それなりに実力を積んだ冒険者が多数出国していると報告があった。」
「自主的に、ですよね?」
「もちろんだ。その頃はまだ国境が開いていたし、殆んど自由に行き来できていたからな。」
「許可証のようなものは?」
「一応申請書類はあるが、犯罪者でなければ自由に出入りできる。物の行き来もそれなりにあったはずだ。」
ふむ、かなり友好な関係にあったわけだな。
にもかかわらず、裏ではかなりエグい事をやっていたと。
それがばれてすぐに国境を封鎖とか、子供かっての。
「一体何のために人を欲しているんでしょうか。」
「わからん。職人だけ、商人だけ、であれば色々と考えることも出来るが冒険者に娼婦、農民も攫われていると聞く。」
「まるで新しい街でも作るみたいですね。」
土地はあっても人は作り出せない。
作り出せないのなら連れてくれば良いというこれまた子供的な発想だ。
食料と水さえあればとりあえず生活できる、そこに住まわせて発展させようとか考えているんだろうか。
「新しい街ですか。でも何のために?」
「さぁ。」
「適当なこと言うんじゃないわよ、まったく。」
「いやいや、あながち間違ってないかもしれんぞ。有能な人材ばかりを集めた街だ、さぞ発展する事だろう。」
「発展するためにはより多くの人と金、モノが必要です。そこだけ栄えたところで意味はありませんよ。」
「だが起点にはなるだろう。そこを中心に少しずつ大きくしていけばいい。」
「何のために?」
「さぁ、それは知らん。」
状況が分からないからみんな言いたい放題だ。
ま、それが言い合えるだけ気心の知れた関係というわけだけども。
元冒険者ギルド長に、現領主、そして精霊師が二人。
ちょいとキャラが濃厚すぎませんかねぇ。
うち一人は他力本願全開の精霊師だけどな。
「着いたわよ。」
「これが転送陣ですか。」
「あら、ティナさんは初めて?」
「はい。話には聞いていましたが使用するのは初めてです。一介の冒険者にこれを使う財力はありませんから。」
「簡単に使えれば便利なのだが、世の中そう上手くはいかんな。」
「むしろこんなのがポンポン使えたら、世の中大変な事になりますよ。」
一瞬で離れたところでも移動できるどこでもドアだ。
そんなものが多用出来てしまったら根本的に世の中が変わるだろう。
物流業者は死に絶え、街道の村々はさびれていく。
まるで高速道路が出来てさびれてしまった村や町のようにね。
仕事が減り、人口が減り、土地が荒れ、そして魔物がはびこる土地になる。
冒険者が街道を行きかっているからこそ魔物が掃除されていたのに、それが無くなってしまったら誰が魔物を退治するんだろうか。
大きな街に人が溢れ、入れなかった人が周りにスラムを作り、環境が荒れ、貧富の差が拡大する。
一極集中型も考えものだな。
もちろんメリットも沢山あるから決して否定はしないけど、こういう物は多用出来ない方がいいんだ。
出来てもせめて、メルクリア女史のように個人の移動に限るとかね。
ぶっちゃけそれもすごいんだけども、残念ながら世の中に出来る人はほとんどいない。
っていうかメルクリア女史ぐらい?
フェリス様は言葉を飛ばしてきたけれど、転送はしてこなかったしなぁ。
俗にいうチートスキルってやつだな!
うらやましい。
「さぁ入って。」
「最初は私が行こう。」
「お願いします。」
ププト様が巨大な魔法陣の中心に立つ。
しばらくすると魔法陣が青く光りだし、そして一瞬にして姿が消えた。
「本当に消えましたね。」
「ダンジョンの転送装置と同じ感じよ。」
「そういえばそんな感じです。そう聞くと怖くなくなりますね。」
「じゃあそのついでにさっさと行くわよ。」
「はい!」
続いてティナさんが転送陣に乗り移動する。
その次が、俺だ。
「私もすぐに追いかけるわ。」
「では向こうで。」
最後に俺が転送陣の中心に入る。
メルクリア女史に見守られながら、足元の魔法陣が青く輝きだし・・・。
ここでトラブルとか起きたら笑うよな。
そんなことを思いながら魔法陣が光るのを見つめていた。
「あら?」
「え?」
「ちょっとまって何か変よ。」
嘘だろ。
いよいよ転送だと思った所でメルクリア女史の慌てた声が聞こえてくる。
だが時すでに遅し。
「ちょっとま・・・。」
一瞬の暗転。
そして気づいた時には転送が完了していた。
だがそこに先に行った二人の姿はない。
「これはこれは、たった一回でまさかこんな大物が引っかかるとは思いもしませんでした。」
突然の事に事情がつかめない中、誰ともわからぬ声が聞こえてくる。
「捕えますか?」
「あぁ見えて複数精霊の祝福持ちの精霊師です。拘束は無意味でしょう。」
「ほぉ、アレが噂の精霊師か。」
「いかにも。今回の件を公にし、私に何度も苦汁をなめさせた男です。」
「そうは見えんがな。」
「人は見た目によりません。たった一回しかできない強制転送で彼が手中に入ったのは行幸と言っていいでしょう。」
「プロンプトのほうがよかったのではないか?」
「あの男は頭が固い、下手に手を出して自害されるよりも家族持ちのほうが何かと使いやすいのです。」
辺りを見渡せど、見えるのは足元の魔法陣と石造りの壁のみ。
まるで某天空の城にヒロインが捕えられた石塔のようだ。
って、上か!
慌てて上を見るとぽっかりと空いた天井から男が二人こちらをのぞき込んでいた。
初老と中年の男性。
一人はかなり豪華な服を着ているが、残念ながら面識はない。
「どういうことか説明してもらえますか?」
「驚いた、この状況で慌てるわけでもなく冷静に説明を求めてきたぞ。」
「そういう男なのですよ。」
「面白い。初めに話を聞いたときはバカなことをと思ったが、確かにこういう男こそこの国には必要だ。」
「そうでしょう。だが残念なことに、我々の計画を邪魔したのもこの男なのです。いかがいたしますか?」
我々の計画?
この国?
情報が少なすぎて何が何やらわからない。
そうだ!
「ドリちゃんディーちゃん聞こえる?」
とりあえず二人を呼んで・・・ってあれ?
声をかけども反応がない。
おかしいな。
いつもならすぐに駆け付けてくれるはず。
森が遠いとかそんな感じではなく、まったく反応がない。
そんな感じだ。
「精霊を呼んだって無駄ですよ。ここには強力な魔力遮断の術式をかけてあります。それに、強制転移の影響でかなり魔力が乱れている。当分援軍はないと思うべきです。」
「援軍。なるほど、ここはハーキネン王国でしたか。で、そちらの偉い方が国王陛下。では貴方は?」
「随分とのんきな話し方をしますね、貴方自分の置かれている状況が分かっているんですか?」
「何かしらの方法で転移先を変更したんでしょう。恐らくは商店連合に入る所を密偵から連絡してもらい、機を見計らって強制転移を行った。標的は三人のうちの誰でもよかったようですし・・・。ティナさんやププト様じゃなくて本当によかった。」
「自分よりも他人の心配ですか。つくづく噂通りの男ですね。」
苦虫をつぶしたような顔をするオッサン。
失礼、中年男性。
はて、この人に何か悪いことをしただろうか。
「どういう噂かは存じませんが、私はただの商人ですよ。」
「あの国ではただの商人が精霊の祝福を授かっているのか?」
「まぁ、そういう事です。そんな特殊なのは私くらいのものですけどね、国王陛下。」
「トーター、どうやらお前よりも一枚も二枚も口が達者なようだぞ。」
「えぇ、そうでしょうね。」
「トーター・・・。あぁ、貴方がダークスですか。」
なぜすぐに気づかなかったんだろうか。
ダークスがハーキネン王国の国王と通じている。
ついさっき先日その話をしたところじゃないか。
そうか、あいつが。
「そういえばそんな名前を使っていましたね。」
「色々とあくどい事をして下さったようで、おかげでいい迷惑をこうむりましたよ。」
「いい迷惑なのはこちらの方です。せっかくの計画を台無しにして、どう落とし前を着けるつもりですか?」
「私に見つかるようなやり方をするからです。やるならもっと巧妙にするべきでしたね。」
「言われているぞ、トーター。」
「言い返したい所ですが、これが現実。受け入れるしかないでしょう。」
お、あっさり引き下がりやがった。
てっきり感情に任せて言い返してくると思ったのに。
国王陛下の前だからだろうか。
「で、いつになったらここから出してもらえるんです?これから王都に行く予定だったんですが。」
「わざわざ呼び寄せた貴方を返すとでも?」
「人を勝手に呼び寄せておいて返さない理由がありますか?まったく、いい迷惑だ。」
「こちらとしては最高の手駒を手に入れたと喜んでいる所です。」
「寝返るつもりは微塵もありませんが?」
「その口もいつまでもつのやら。陛下、参りましょう。」
「いいのか?」
「今は活きが良すぎます。もう少し締め付ければ多少静かになるでしょう。」
「くれぐれも殺すなよ。お前が言ったように最高の手駒だ、これを使わない手は無い。」
「もちろんわかっております。」
いや、わかっておりますじゃないって。
あっという間に二人の姿が見えなくなり、扉か何かが締まる音が響いてきた。
しんと静まり返る石塔内。
残念ながら少年が首を突っ込んで抜けなくなるような隙間すらない。
魔法陣に手を当ててみるももちろん反応するはずもなく、黒い塗料で描かれた複雑な紋章は静かなままだ。
「まいったね。」
それしか言葉は出なかった。
王都に行きこれからどうするかを話し合うはずだったのに、まさか敵陣のど真ん中に呼び出されるとは思わなかった。
今頃向こうは大変な事になっているだろう。
魔力を遮断されているという事は、メルクリア女史が俺を探し当てることが出来ないという事だ。
突然いなくなった俺に、慌てふためいている事だろう。
良かったのは家族が居なかったこと。
あの場に皆がいたら騒ぎになるどころではない。
流石に状況もわからず俺が居なくなったと言うことはしないだろう。
当分はうそをついて、元気だとかなんとか言ってくれるに違いない。
「とりあえずどうやってここから出るか。それを考えないとな。」
静かな石塔に俺の声だけが響く。
念の為に何度かドリちゃんとディーちゃんの名前を呼んでみたものの、反応は無し。
リェース様に呼び掛けてもダメだった。
お膝元でもないし仕方ないかな。
頑張って上に登る事ができれば、さっきまであの二人がいた場所までいけるかもしれないが、ネズミ返しのようになっているので上がれそうもない。
っていうか、そんな体力も腕力もありません。
仕方ないので魔法陣の真ん中に座り込み考えをめぐらす。
どういう仕組みかは知らないが、奴らはインターセプトして俺を強制的にこちら側に転送させた。
目的は不明。
さっきも言ったように商店連合に入った所を狙って、転移するタイミングを知ったんだろう。
ピンポイントに俺を狙うことは不可能だろうから本当に偶然俺が呼ばれたに違いない。
マジで俺でよかったよ。
ティナさんの身に何かあったと思うと心配でたまらないし、ププト様だったら色々と面倒な事になる。
その点俺だったら、何とかなる。
かもしれない。
いや、いきなり拷問とかされたらあれだけどさ。
幸い毒物は効かない体なんだ。
でもなぁ、痛いのはイヤだなぁ。
爪剥いだりするのかなぁ。
そんなことを思うと背中にゾクゾクとした何かが走った。
自分で自分を不安にさせるのは辞めよう。
ともかく、現状では何もできない。
助けも呼べないし、出ていく事も出来ない。
ならどうするか。
「とりあえず待つしかないか。」
相手の出方を待つ。
それから考える。
精霊を呼べないようにする拘束具とかが無ければ、外に出れた時点で俺の勝ちだ。
もちろん相手もそうさせないために俺を外に出すことは無いだろう。
って事はだ、飯を食わさず弱らせる感じだろうか。
あれ、そういえば荷物はどうしたんだ?
たしかそれなりの荷物を・・・と周りをもう一度見てみると、部屋の隅に何やら黒い何かが転がっている。
慌てて近づくと、ものの見事に真っ黒だった。
普通に焼いてもこんな風にならないぐらいに、ボロボロで手に取るだけで崩れ落ちてしまった。
俺の着替えが・・・。
エミリアが仕込んだ食料も薬も何もかもなくなってしまった。
って、おやおや?
ボロボロの塊の奥に何かがある。
もう一度真っ黒な荷物の中に手を突っ込むと、固い何かが手に触れた。
そいつを引っ張り出してみる。
「そういえばこんなものも持たされたっけ。」
そこにあったのは鮮やかな青と緑の色をした石。
森と水二人の精霊が俺の為に作ってくれた融合結晶がそこにあった。
雪国ならぬ隣国でした。
いやはや世の中何が起きるかわかりませんが、最悪を口に出すとそうなるジンクスは健在です。
あの時に変な事を言わなければ・・・。
そんな事で悔やむような彼ではありませんけどね。
とはいえ、突然隣国に転移して孤立無援。
頼みの精霊も幼女も来てくれません。
そんな状況で彼が抜け出す方法とは・・・。
それはまた次回という事で。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
また次回もよろしくお願い致します。




