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[第一部完結]サラリーマンが異世界でダンジョンの店長になったワケ  作者: エルリア
第十八章

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番外編~それぞれの日々~

隔離生活初日~エミリアの場合~


「まさかこんなことになるとは思いもしなかったな。」


「本当ですね。」


「皆さん大丈夫でしょうか・・・。」


「大丈夫だ、シュウイチなら必ず何とかしてくれる。」


巨大な門が大きな音を立てて閉じられる。


当分はここが私達の住まいだ。


「さぁ、奥に行くとしよう。このままではセリスがのぼせてしまうぞ。」


「そうですね、セレンさん行きましょう。」


「はい。」


巨大な谷は奥へ奥へと続いてるようだ。


昔ウェリスさんが盗賊をしていた時にココを根城にしていたらしい。


それをシュウイチさんが対峙して今は騎士団が訓練所として利用しているそうだ。


そこを隔離所として利用する。


最初に聞いたときはどうしてそんなことをと思いもしたけれど、今はわかる。


四人だけじゃなく六人を守るためにはこうするしかなかったんだって。


そう思いながら自分のお腹をそっと撫でた。


まだ小さいから動いたりしないけれど、確かにそこにいる。


私達の大切な赤ちゃん。


もう私一人の命じゃない。


二人分の命を背負っている。


そう思うと急に不安な気持ちに押しつぶされそうになるけれど、それよりもこの子を守らなければならないという強い使命感を感じる。


「不思議だな、自分の体の中に別の命がいるというのは。」


「本当ですね。まだ全然実感がありません。」


「エミリアは悪阻がきているそうだな。私なんてそれもないからもっと実感がないぞ。」


「でも、わかりますよね?」


「あぁ、確かにここにいる。それはわかる。」


「お二人もお母さんの顔になっていますね。」


そんな私達のやり取りを見てセレンさんがうれしそうに笑っていた。


お母さんとしての心構えとか、これを機にたくさん聞いておかないと。


「アーゥアー!」


「どうしたのセリス。」


「ふふふ、嬉しそうに笑っているではないか。ここが気に入ったのか?」


「日陰は気温も低くて過ごしやすいのかもしれません。」


セレンさんが笑うとセリスちゃんも声を出して笑った。


私のお腹からあんなに可愛い子が産まれるなんて・・・。


やっぱり実感がないなぁ。


「ほら、さっさと行くぞ。」


「あ、はい!」


そんなことを考えているとお二人が先に行ってしまった。


慌ててその背中を追いかける。


大丈夫、シュウイチさんが何とかしてくれる。


だから私達はここで待っていればいい。


もう一度お腹を撫でて不安な気持ちを吹き飛ばし、新しい住居を目指した。



隔離生活七日目~シルビアの場合~


ココでの生活もだいぶ慣れた。


正直この狭い場所に缶詰めになると聞いて覚悟をしていたが、不自由が無さすぎてむしろ申し訳なくなる。


定期的な報告を聞けばシュウイチ達は随分と大変だったそうではないか。


それでもアイツは私達が信じた通り何とかしてしまった。


さすが私の選んだ旦那だ。


聞いていたか?お前の父親はまた皆を救ったぞ。


そんな風に思いながら自分の腹を優しく撫でてやる。


エミリアは時々だるくなるそうだが、今の所私にはその兆候はない。


セレン殿曰くこういうのには個人差があるらしい。


個人的には辛くてもそういった兆候があれば逆に安心できるのだが・・・。


「贅沢な悩みという奴だな。」


恐らく父親と同じで他人に迷惑を掛けたくないんだろう。


そんな所まで似なくていいんだぞ。


もっと私に頼れ。


お前が必要な物、お前が望む物、そのすべてを私が用意してやる。


それが母親としての務めだ。


だがそれも大きくなるまでの話しだ。


そうだな、ティオと同じぐらいになれば厳しくする必要があるだろう。


なんでも用意してもらえると思ってもらっても困る。


大きく強くなれよ。


お前の父親を超えるぐらいに。


だが、大変だからなあの男を超えるのは。


シュウイチは、お前の父親はそういう男だ。


「あ、エミリア様今日も鍛錬ですか?」


「あぁ、動かないと体が鈍ってしまう。軽い稽古であれば問題ないとウェール先生からも言われているしな。」


「私もした方がいいんでしょうか。」


「ある程度の体力は必要だと思うが、エミリアは別に問題ないのではないか?」


「・・・いいえ、私も頑張ります!」


いつになくエミリアが真剣な顔をしている。


何かあったのか?


「どうした?」


「実は、ここが快適過ぎてお腹にお肉が・・・。」


「なるほど運動不足というわけか。」


「セレンさんのご飯が美味しいのがいけないんです!毎日毎日あんなに美味しいお料理を食べたら、もう離れられなくなってしまいます。」


「ハハハハ、まさに胃袋を掴まれるという奴だな。ウェリスもそうやって捕まったのだろう。」


「もっとお料理の勉強をしなければなりません。でも、今はこのお肉をどうにかしないと!」


そう言いながらエミリアが自分の腹を服の上からつまむ。


うーむ、確かに最近顔が少し丸くなったような気もするな。


子供が出来ると太りやすくなると聞くが、エミリアの場合は本人の言うように運動不足が原因だろう。


「どれ、無理のかからない程度で鍛錬を付けてやろう。」


「やった!シルビア様お願いします!」


「だが、鍛錬するからには中途半端では済まさんから覚悟するのだぞ。」


「もちろんです。これも痩せる為ですから。」


「子供の為ではないのか?」


「だって、シュウイチさんに会うのに太っていたら嫌じゃないですか。」


私としたことが母親であると同時に妻でもある、その気持ちを忘れていたようだ。


心なしか私の腕にも肉がついているような気がする。


これはいかん。


「お互いに頑張るぞ、エミリア。」


「はい!シルビア様!」


今朝受けた報告によると、このまま終息すれば休息日の最後には家に戻れるそうだ。


それまでの間に絞れるだけ絞らなければ。


こんな母親だが許せよ。


もう一度自分の子供にそう言い聞かせ、エミリアと共に鍛錬を始めたのだった。



隔離生活十日目~セレンの場合~


「はぁ~・・・。」


「だいぶお疲れですね、セレンさん。」


「慣れたとはいえ二刻に一度の授乳は疲れます。すみません、その度に起こしてしまって。」


「なに、気にするな。今後の予行演習だと思えば苦にならん。」


「そうですよ。お腹いっぱいになった時のセリスちゃんの顔、可愛いです。」


真夜中の授乳。


いつもならウェリスさんが手伝ってくれるけれど、やはりお二人にお願いするのは気が引けてしまう。


幸い今日はすんなり飲んでくれたので、げっぷをさせておしまいだ。


「私がやっても構わないか?」


「いいんですか?」


「あぁ。」


満足して眠たそうな顔のセリスだけど、このまま寝てしまうと大変なことになる。


ほんの些細な事で死んでしまう。


この子はそれだけか弱い生き物なんだから。


「うーむ、軽い、小さいなぁセリスは。」


「赤ちゃんは皆このぐらいですよ。これ以上大きかったら産むとき大変なんだそうです。」


「確かにそうだな。よしよし、吐いて楽になれ。」


優しくトントンとセリスの背中を叩くシルビア様。


村長の娘様で昔何度かお会いしたことがあるけれど、まさかこの方とこんなに親密になるとは一年前は思いもしなかったな。


ううん、まさか自分が母親になるなんて思いもしなかった。


あの人が死んでしまって、もう私には幸せな日々は来ない。


そんな風に思っていたことも有った。


でも、ウェリスさんが来てくれた事で私の世界は変わったの。


灰色だった私の世界にどんどん色が戻ってきた。


大変なことも沢山あったけれど、どんな時も私を守ってくれた人。


そして、私にセリスを授けてくれた人。


あの人と一緒になって本当に良かった。


それも全てシルビア様やエミリア様、そしてイナバ様のおかげだ。


私が今こうしていられるのはこの人達のおかげ。


いつの日かこの子が大きくなった時にはその話をいっぱいしてあげなくちゃ。


そんな風に考えながらセリスを見つめていたその時。


ゴポ!とすごい音を立ててセリスがお乳を吐いてしまった。


どうしようシルビア様のお召し物が汚れてしまった!


慌てて駆け寄ろうとした私をシルビア様が優しく制す。


「スッキリしたか?よかったなぁこれで安心して寝れるだろう。ほら、セレン殿所に行け。」


頭を優しく撫でて愛おしそうにセリスを差し出すシルビア様。


「ありがとうございます、でもお召し物が・・・。」


「こんなもの洗えば済むだけの話だ。早く寝かしてやるといい。」


この子が吐き出したのをエミリア様が手早く処理してくださる。


一人の時は不安ばかりだった子育ても、皆さんがいて下さるお陰でどれだけ救わているんだろう。


お二人のお子さんが産まれた時には、私がしっかりとお手伝いして差し上げなきゃ。


「すまんな、エミリア。」


「大丈夫です。」


「さて、寝るとしよう。」


「次は私がお手伝いしますね、セレンさん。」


「有難うございます。」


お部屋の明かりを消すと暗闇があたりを支配する。


でもそれはちっとも不安じゃなくて・・・。


もう少ししたらあの人に会える。


それが楽しみで、気づけば眠りについていた。



隔離生活14日目~イナバの場合~


「それじゃあ行ってきます。」


「気を付けて行ってらっしゃい。」


「お二人によろしくお伝えください。」


今日は休息日最終日。


いつもであれば皆でサンサトローズに繰り出しているのだが、今回は状況が状況だけに見送ることになった。


っていうか、仕事が山積みで片付かなかっただけなんだけども・・・。


ともかく急いで村に行かなければ。


そろそろ先生をのせた馬車が村に到着するはずだ。


そのまま患者を診てもらい問題が無ければ無事に流行り病は終息した事になる。


そうなれば二人を迎えに行ける。


二週間離れたことは何度もあったけれど、やっぱり離れるのは寂しいなぁ。


でもそれも今日で終わりだ。


あぁ、早く二人に会いたい。


家を出て駆け足で村へと向かう。


昨夜は色々あってあまり眠れなかった。


本当にどうすればよかったんだろうか。


我ながらヘタレすぎて困ったものだが、一応二人に話を通しておかないと・・・。


「あ、イナバ様!」


「あれティオ君どうしたの?」


「先生がイナバ様を呼んで来いって!」


「それで呼びに来てくれたんだ、有難う。」


半分ぐらい進んだところでティオ君がかけてくるのが見えた。


予想通り先生が来たらしい。


こりゃ急いでいかないと。


「シャルちゃんは?」


「お姉ちゃんはセレンさんのお家をお掃除してるよ。」


「そっか、帰ってくるもんね。」


「うん!早く会いたいなぁ。」


この会いたいはどっちだろうか。


親のいない二人にとってウェリスとセレンさんは親同然の存在だ。


二週間母親に会えなかったと考えれば寂しくなるのは致し方ない。


でもこの様子はどうやら違うみたいだ。


「妹が出来たみたいで嬉しい?」


「うん!僕がしっかり守ってあげるんだ!」


「えらいなぁティオ君は。」


「だって姉ちゃんに守ってもらったんだもん。だから僕も姉ちゃんみたいにするんだ!」


初めてこの村の一員になった時はあんなに小さくて頼りなかった少年が、今はこんなに大きくなった。


まだ一年もたっていないのになぁ。


これからどんどん大きくなる。


間違いなく皆を守れる男になるよ、ティオ君は。


二人で急ぎ村に向かうと西門の前ドリスのオッサンが俺達の帰りを待ちわびていた。


「お、きやがったな。」


「すみません遅くなりました。」


「ちょうど診察が終わって、今ニッカさんを見てもらっている所だ。」


「それで結果は?」


「問題ない、流行り病は終息したと考えていいらしい。やったな!」


「あぁ!」


オッサンが突き出した拳に拳を合わせる。


よかった、本当に良かった。


「一時はどうなる事かと思ったが、これでやっとうまい飯が食えるぜ。」


「結局うまくならなかったんですね。」


「こんな短時間で女衆みたいな飯が作れるかよ。あいつらも不味い不味いばかり言いやがってまったく。」


「皆さんも外に出れずにイライラしてたんですよ。でも今日でそれも終わりです。」


「そうだな、これで元通りだ。」


見た目には変わらなかったが、村の人達にも大変な苦労を掛けた。


でもそれも終わり。


いつものように夏が来るのと同じように、いつもの日々が戻ってくる。


畑の手入れはそれなりにしてきたけれど、やはり手の足りない部分が出てしまった。


それを巻き返そうとみんな頑張ってくれるだろう。


このままいけば予想以上の収穫が出来る。


また皆で祭りができるな。


楽しみだ。


「終わったぞ。」


「先生!どんな感じだ?」


「血栓はどこにもない、血の巡りも魔力の流れも良好だ。もう安心だろう。」


「よっしゃぁ!」


「ドリス、先生の前だぞ。」


「いいじゃねぇかよ!村もニッカさんも元通りだ!とりあえず俺は皆に知らせてくる!」


オッサンが妙なテンションで走って行ってしまった。


まぁわかるけどね。


「ニッカさん良かったですね。」


「本当に有難うございました。」


「体力は戻ってないから仕事はホドホドにしろよ、孫の顔が見たければな。」


先生に忠告されニッカさんが恥ずかしそうに笑う。


長年の付き合いがあるお二人だからこそこんな会話が出来るんだな。


「では先生、行きましょうか。」


「あぁ行くとしよう。」


「すみませんな、忙しい所を呼びつけまして。」


「まったくだ。」


そうはいうものの先生も心配していたのだろう。


無事にニッカさんが完治して嬉しそうだ。


「おーい、馬車の用意が出来たぞ。」


「では先生行きましょうか。」


「あぁ、街までよろしく頼む。」


無事にすべてが片付いた。


という事は、四人を迎えに行けるというわけだ。


ウェリスが年甲斐もなく馬車の前で手を振っている。


奥さんと娘に早く会いたい。


親バカと旦那バカ?全開だぞって、俺もそうか。


楽しみで楽しみで仕方ない。


「では行ってきます!」


先生と乗り込み着席すると同時に馬車は勢いよく走りだした。


「安全運転でお願いしますよ!」


「わかってるって!」


絶対わかってないだろこれ!


馬車が猛スピードで街道をひた走る。


愛しい人に会うまであと少し。


もう少しの辛抱だ。

やはり番外編は必要だろうという事で最後まで一気に書き上げました。

隔離してからのそれぞれの日々。

少々というかかなりのノロケになりましたが、彼のいない所で彼女たちはこんな風に過ごしていたんだと書きたかっただけです。

本当に、作者の自己満ですのでどうぞお許しを。


この間書いたように続けるかどうかまだ悩んでおります。

このまま二年目に突入するのか。

それとも時期を変えるのか。

未来の話にするのか。

でもそうなったら中年サラリーマンの話じゃなくなってしまうんですよねぇ。

困ったものです。


でも考えるのは楽しいですね。

この先がどうであれ、楽しんでいただけたのなら幸いです。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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