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[第一部完結]サラリーマンが異世界でダンジョンの店長になったワケ  作者: エルリア
第十八章

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1歩進んで0歩下がる、それ即ち前進也

「ダメですか・・・。」


「残念ながら発見したとの報告は上がりませんでした。似たような薬草は数多く持ち込まれていますが、今回の特効薬になる薬草ではありません。」


「その場合にギルドはどんな対応を?」


「初心者には予定通り受託報酬をお渡ししています。また、薬草を持ち込んだ冒険者には買い取りという形で相応の対価をお支払いしてあります。」


「そこまで対応して下さり、ありがとうございました。」


依頼掲示から三日。


難しいとはわかっていながらも、もしかしたらという一縷の望みは残念ながら叶う事は無かった。


話に聞いていた通り、かなり珍しい薬草のようだ。


ププト様が王都にまで連絡してくれたようだが、似たような病が別の地域でも発生しており、そちらに使用してしまったため品切れという返答だった。


幸いにも感染は広がっておらず、感染者も今の所重症化していない。


だが着実に容態は悪化している。


朝一番で話を聞きに行くと、昨日までは自由に家の中を歩き回っていたのに、今日は立ち上がるのにも力がいるような感じという返事が返ってきた。


このままいけばどんどんと悪化していく可能性が高い。


それまでに何とかして薬草を手に入れられたらと思ったが・・・。


そう上手くいかないようだ。


「依頼はどうされますか?」


「一度中断していただいて貰えますでしょうか。継続したいのは山々ですが、受託報酬も結構お金がかかってしまうので・・・。」


「そうですね、今回だけでも銀貨30枚。このままずるずるお支払いし続けるというのは私も心苦しいです。」


致し方あるまい、別の方法で薬草を探してみよう。


ティナさんにもう一度お礼を言って冒険者ギルドを出て、次に向かったのは魔術師ギルドだ。


あそこなら倉庫とかに眠っているかもしれない。


「アンタだけなんて珍しいじゃない。」


「ご無沙汰しています。」


「また面倒なことになっているらしいじゃない、アンタは大丈夫なんでしょうね。」


さぁギルドに入ろうかと思ったら、大きな扉の前でリュカさんが待っていた。


まるで俺が来るのがわかったような感じだが、おそらくそうなんだろう。


俺の精霊波導は特別だからなぁ。


「女性しか感染しない病ですので。」


「アンタ自身は持ってないのかって聞いてるの。発症はしなくても感染している可能性はあるんでしょ?」


「それについてもご安心を。過去の症例から発症者の身からしか映らないことは確認済みです。何でしたらシルフィの力で吹き飛ばしますか?」


「それよりもウンディーヌに全部流してもらった方がいいんじゃないかしら。」


「さすがにそれは・・・。」


「冗談よ、入りなさい。」


俺が菌を保有していると魔術師ギルドに感染が広がってしまう。


もしそうなってしまったら、ギルドを通じて全世界に広がってしまう可能性もあるわけだな。


そりゃ俺が入る前にリュカさんが来るわけだ。


そんな感じだから中に入った後も人が近くに寄ってくることはなく、それ所かまるで腫物を触るような目で俺を見てくる。


そんなに警戒しなくてもうつらないよと口で言っても、こればっかりは信じてもらいにくいからなぁ。


上に立つ人間がその部分をしっかりと示してくれるとありがたいんだけど、残念ながら噂を止めることは出来ない。


特に今は噂が広まってすぐだから尾鰭背鰭が付きやすい。


いつものように回廊を抜けてフェリス様のいる塔の前まで行った所で、リュカさんの足が止まった。


門番と何か話をして戻ってくる。


「フェリス様は来客中みたい。いつ終わるかわからないけど、どうする?」


「そうですね、リュカさんの権力で魔術師ギルドの倉庫を見せてもらうことは出来ますか?」


「倉庫に入って何するつもりなのよ。」


「流行り病に効く薬草を探しているんです。もしかしたらここにあるかもしれないと思いまして・・・。」


「あるかもしれないけど、タダじゃ無理よ?」


「もちろんお金は払います。むしろ払わせてください。」


あるのならそれだけで大助かりだ。


来た道を引き返し、反対側の回廊を進む。


フェリス様のいる塔への回廊は明るい光が降り注いでいたが、こちらはどんよりと暗く、奥に行けば行くほど光量が無くなっていった。


いつの間にか地下にでも入ったんだろうか。


「ここで待ってて、今倉庫番に話をつけてくるから。」


魔灯が等間隔で設置された回廊を進んでいると、何もない場所で待つように言われた。


奥はまだまだ同じような光景が続いている。


っていうか誰もいないんだけど誰に話をつけるんだろうか。


「メール、いるー?」


「いるよ~。」


リュカさんの問いかけに魔の抜けた声で返事が返ってくる。


かなり大きな声だった為、おもわず耳を抑えその場にしゃがみ込んでしまう。


「ちょっとちょっと、声大きい!」


「ごめんね~、久々のお客様だから加減がわからなくて~。」


注意を受けてだんだんと声が小さくなっていく。


それでもビリビリと空気が震えるほどの大きさだ。


「誰とお話しているんですか?」


「だから倉庫番よ。」


「申し訳ありません、私には姿が見えなくて。」


「見えなくて当然よ、倉庫がしゃべってるんだから。」


倉庫がしゃべる?


「ちょっと~、人を倉庫呼ばわりしないでくれる~?」


「倉庫じゃ無かったら何なのよ。」


「えっとぉ~、生きてる倉庫?」


「同じじゃない。」


「違うよ~、他の倉庫は返事なんてしてくれないでしょ~?それにどこに何が置いてあるかなんてわからないわよ~。」


「まぁ、確かにそうよね。」


いや、一人で納得されても困るんですけど。


つまりはあれか?


倉庫が生きていて中身を把握しているという事なのか?


「そうよ~、よくできました~。」


まんまじゃねぇか!


「あのさぁ、コイツが珍しい薬草を探しているんだけど、ある?」


「珍しいだけじゃわからないわよぉ、名前とか、種類とか、何に使うかとか、教えてくれないと~。」


「女性しか罹らない流行病を治療するのに使われる薬草です。名前は分かりませんが、20年ほど前にサンサトローズ近郊で発生した記録があります。また、つい最近も別地方で似たような病が出たそうです。」


「まっててね~、ちょっと探すから~。」


今だ回廊の先の光景は変化しない。


ただ聞こえてくるのは間の抜けた声だけだ。


だがその声も探しに行くと言ってからぱったりと途絶えてしまった。


「先にはいかないんですか?」


()()()()んじゃなくて、()()()()の。」


「行けない?」


「そそ、ここに印があるでしょ?ここから先はメールの管轄だから私達は入れないの。というか、入ったら最後出てこられないが正しいかな。」


「それって危なくないですか?」


「ギルドの人間ならこの先が危ない事は知ってて同然だもの、危なくないわ。」


つまりそれを知らない人間が勝手に入ったが最後、戻れなくなる。


そういうわけだな。


盗人とか盗人とか盗人とか。


「異空間に繋がっているとか?」


「ん~、詳しくはフェリス様も知らないんじゃないかしら。ただ言えるのはこの先はメールのお腹の中って事よ。」


「それは誰も近づきませんね。」


「あぁ、消化はされないから大丈夫。じゃないと倉庫の意味ないもの。」


「そりゃそうですね。」


入れたものが無くなってしまったら倉庫の意味はない。


フェリス様も知らない何かが魔術師ギルドの倉庫を担っている。


世の中まだまだ知らないことがいっぱいあるなぁ。


「おまたせ~、わかったわよ~。」


「本当ですか!」


「かなり古いけど、傷んでないはずだから大丈夫だと思うの~。」


「いくつ、いくつありますか?」


「えっとね~、一つだけなの。」


一つ、一つか・・・。


でも無いよりかは全然ましだ。


一つでもあれば重症化しても一人は救える。


それに全員一斉に重症化するわけではない。


その間にまた一つ見つかるかもしれないんだから。


「それでも結構です、頂けますでしょうか。」


「え~、私が決めていいのかなぁ。リュカ~、どうなの~?」


「何十年も眠ってたんでしょ?別にいいんじゃない?」


「でもでも~値段なんてわからないし~。」


「そっか、値段か。いくらで買い取るつもりだったの?」


「冒険者ギルドでは発見時銀貨80枚を支払うつもりでした。」


ここで値切る意味はない。


商人であればその辺もしっかり値切るべきなのかもしれないが、今はそういう場合じゃない。


手に入るのであれば正直いくらでもいい。


「そんなに高いの?」


「前は金貨1枚で取引されたそうですが、さすがにそこまでは出せなくて・・・。」


「後いくついるのよ。」


「二つ、いえ三つは欲しい所です。」


「それでも金貨3枚、大丈夫なの?夏までにお金いるんでしょ?」


そういえばリュカさんも事情を話したことがあったな。


「あはは、その辺はまぁ何とかしますよ。」


「なんとかなるの?適当なこと言ってエミリアを悲しませたらただじゃおかないんだから。」


「それはもちろんわかっています。」


皆が幸せにならなければ意味が無い。


ウェリスの時がそうであったように、俺もまた同じようにならなければ。


これがまた大変なんだよね。


「わかったわ、銀貨1枚で譲ってあげる。」


「え?」


「だから銀貨1枚出しなさいよ、それで譲ってあげるわ。」


「え~、いいの~?」


「何十年も仕舞いっぱなしなのが悪いのよ。覚えている人がいたらとっくに取り出してるわ。そんな品がメールの中には山ほどあるんだから。」


「まだまだお腹いっぱいじゃないよ~?」


あ、やっぱり食事感覚なんですね。


でもマジで銀貨1枚でいいんだろうか。


金貨1枚の間違いでしたとか言われない?


「ほら、さっさと出す!メールもそこに出しといて!」


「は~い。」


リュカさんに急かされるままカバンから銀貨を取り出すと同時に、先程まで何の変哲もなかった回廊の景色が突然歪み、ダンジョンの入り口のような真っ黒い壁が現れた。


そこから吐き出されるように鮮やかな緑色の草が飛び出してくる。


「確かに銀貨1枚で譲ったわ。メール、記録しといてね。」


「わかった~。」


「あの、本当にいいんですか?」


「いいから渡したのよ。もし足らなかったら別で請求するわ、夏が過ぎたらね。」


なるほど。


とりあえず今はこれで渡しておくという事か。


それならノルマを達成した後だから何とかなる。


考えてないようで意外に考えていたんだな、リュカさん。


「なんだか非常に失礼な事言われた気がしたんだけど?」


「滅相もありません、ここに来て本当に良かったです。」


「まぁいいわ、まだ後三ついるんでしょ?あてはあるの?」


「あと何か所かあたってみるつもりです。」


「私も知り合いにあたってみるから、でも期待しないでよね。」


「十分です助かります。」


交友関係の広いリュカさんならもしかするともしかするかもしれない。


薬草を大事にカバンに納め、改めて頭を下げると急ぎ魔術師ギルドを後にする。


次は商業ギルド、それからネムリの店にも聞いてみよう。


それでもなかったら・・・。


いや、今は行動第一だ。


無かったらなかったらでその時考えたらいい。


夕刻にはまた店に戻らないといけないので時間はあまりないな。


急ごう。



だが、淡い期待もむなしくどちらにも薬草は無かった。


沈む気持ちをなんとか持ち上げて村へ向かう定期便に揺られる。


一つは手に入った。


でも残りはまだだ。


この三日、ガンドさんをはじめ流行り病に臆せず多くの冒険者がやって来ては頑張ってくれているものの、ボログベアを発見したという報告は上がっていない。


討伐ではない、発見報告すらないのだ。


ユーリ曰く魔力はしっかり消費されているので召喚されていることは間違いないらしい。


だが、いつもなら地下室のMAPで把握できるはずなのにそいつだけ表示されないらしい。


誰かに討伐されてしまったのか。


それともまだいるのかさえもわからない。


せめて発見報告ぐらい上がっていたらいいんだけど。


夕暮れに染まる森を眺めながら俺は大きなため息をついた。


世の中上手くいかないものだ。


いや、今までがうまく行き過ぎたのか。


どんな状況でもなんとかなってきた。


もちろんそれは俺の力ではなくて、色々な人の力を借りて、だけども。


今日だってリュカさんのおかげで薬草を手に入れることが出来た。


ゼロではない。


確実に進んではいる。


それは間違いのない事実だ。


まだ何とかなる。


大丈夫だ。


そう自分に言い聞かせて流れゆく景色を見つめ続ける。


村に到着後はドリスのオッサンに薬草を託して店に戻った。


一個であれだけ喜んでもらえるとは、探したかいがあったってものだ。


そんな感じで沈んでいた気持ちが少しずつ戻ってきた頃、店の中からものすごい大きな声が聞こえてきた。


慌てて扉まで走り、勢いよく中に入る。


「どうしました!?」


「喜べ!やっと見つけた奴が出たぞ!」


「本当ですか!」


「13階層で見たという報告が複数上がりました。間違いないと思われます。」


歓声を上げながら抱き着いている冒険者たち。


その中で恥ずかしそうにしているのが報告をくれた冒険者なんだろう。


よかった、本当に良かった。


「イナバ様、そちらはいかがでしたか?」


大盛り上がりする冒険者たちの間を縫うようにしてニケさんがこちらに向かってきた。


「何とか一つ見つけました。」


「本当ですか!」


「やったじゃねぇか!」


ガンドさんが嬉しそうに俺の背中をバシバシと叩いてくる。


まるで自分の事のように喜んでくれる冒険者たち。


あぁ、この仕事をしていて本当に良かった。


「店を閉めたらジルと二人で追い込むつもりだ、今日こそはいい結果を持ち帰ってやるから期待してろよな。」


お二人ならきっと、いい結果を持ち帰ってくれるに違いない。


でも、もし見つからなかったら?


期待と不安が混ざり合い何とも言えない気分になる。


「どうかよろしくお願いします。」


「そんな顔するなよ、お前の方も絶対に何とかなる俺が保証してやるさ。」


「どこからその自信が来るのかはわかりませんが、私も同じように思っております。神はこれまでの行いを全て見ております、イナバ様ほどの行いがあれば必ずやいい方に事が進むでしょう。」


「俺を信じずに神を信じるのかよ。」


「そのどちらもと言っているのです。ヘタをしたらもう一本の腕をへし折ってやりますから覚悟してください。」


姐さんそれだけは勘弁してやってくださいと周り冒険者が間に入ったその時だった。


カランカランとドアに設置したベルが鳴り、誰かが店に入ってくる。


「いらっしゃいませ、ようこそシュリアン商店へ。」


つい反射的に挨拶をしながら後ろを振り返ってみると・・・。


「何やら大盛り上がりのようですね、外まで声が聞こえていました。」


「あれ、貴方は。」


「お久しぶりですイナバ様、直接お会いするのはいつぶりでしょうか。」


そこにいたのはこの店を一番最初に訪れた人物。


そして、今一番会いたかった人が、俺を見て笑っていた。

後退しなければいいです。

歩みがわずかでも進んでいればいい。

それは即ち前進です。


一歩あた一歩と確実に進んでいます。

それはいずれ結果となって現れることでしょう。

彼の前に現れた人物のように。


ここまでお読みいただきありがとうございました。

また次回もよろしくお願い致します。

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