表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
[第一部完結]サラリーマンが異世界でダンジョンの店長になったワケ  作者: エルリア
第十八章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

513/676

人事を尽くして天命を待つ

動揺はあったけど混乱はなかった。


過去の経験が皆を冷静にしたのかもしれない。


女性にしか罹らない流行り病が出たという事実を疑うことなく受け入れ、そして信じてくれた村の人達に俺は頭を下げることしかできなかった。


ありがとう。


「こっちの件は任せとけ。」


「ニッカさんもよろしくお願いします。」


「何もするなって言っても何かしたがるだろうから、無理のない程度に働かせるつもりだ。」


「あはは、それがいいと思います。」


ウェール先生は一足先にサンサトローズへ戻り、そのままプロンプト様に状況を報告してもらう事になっている。


とりあえず俺は店に戻るつもりだ。


ニッカさんを助ける為に、出来ることをやっておきたい。


「でも、何でみなさん落ち着いて受け入れてくれたんでしょうか。」


「はぁ?お前まだそんなこと言ってるのか?」


「だって流行り病だなんて聞いたら普通動揺するでしょ。」


「そりゃ動揺はしてるだそうさ。だがな、お前が何とかするって言ったんだ、俺達はそれを信じるだけだよ。」


「確かにそうは言いましたけど・・・。」


「なんだ、出来ないのか?」


「出来ますよ。絶対に何とかしてみます。」


自分の店と同じぐらいにこの村、そしてこの村のみんなが大切だ。


皆を助ける為ならなんだってする。


それをわかってくれているから、皆は何も言わず俺の言う事を信じてくれた。


女衆は全員隔離。


とりあえず畑仕事は最小限にし、女衆の仕事を男衆で何とか回すことになった。


表に出なければ感染が広がることはない。


女衆の皆さんには窮屈な思いをさせるが、みんな笑顔で受け入れてくれた。


それどころか『久々にゆっくり休める』なんて言う人もいたな。


いつもご苦労様です。


この世界に来て一年。


村と、村の人と、そして俺の店。


一蓮托生の一年だった。


それはこれからも続いていく。


その為に俺は行動するんだ。


幸いにも新たな感染者は見つからなかった。


なので必要な薬草は三つ。


余分を見て四つ手配する必要がある。


それと、ニッカさんの薬になるボログベアの胆だ。


「じゃあお前はお前に出来ることをやれ。俺達は俺達に出来ることをする。なに、しばらくの間飯が不味くなるだけだって。」


「不味くならないように努力しましょうよ。」


「一日や二日で女衆よりも美味い飯が作れると思うか?」


「絶対に無理ですね。」


「だろ?なら我慢するだけだ。ほら、さっさと行ってこい、薬の件任せたからな。」


「はい!」


背中をドンと押されて俺は走り出す。


村を突き抜け、門を超え、街道を抜ける。


向かうは自分の店。


休まず走り抜け、息を切らしながら店の中に飛び込んだ。


「お帰りなさいませご主人様、ひどい顔ですよ。」


「帰ってきて早々、ひどい顔はひどくないですか?」


「疲れで語彙力を失っているようですね、ジル様お水をお願いします。」


「すぐ持っていきます。」


語彙力を失うって、どこで覚えてくるんだよそんな言葉。


って俺の記憶か。


汗だくになりながら息を切らす俺にジルさんがお水を持ってきてくれた。


それを有難く頂戴し一気に喉に流し込む。


冷たい水が喉を通り胃の中に落ちるのが分かった。


そういえば昼から何も食べてない。


それを認識した瞬間今度はお腹がグゥと鳴ってしまった。


「水の次は食べ物ですか。ご主人様は欲望に忠実なようです。」


「だからその言い方はどうかとおもいますよ?」


「本当の事ですから。」


「相変わらずお前んとこのダンジョン妖精は容赦ねぇなぁ。」


「全くです。」


「奥様方は無事に到着したのですね?」


「えぇ、サンサトローズ手前で別れましたが荷物の手配もしていますので今頃ゆっくりしているのではないでしょうか。」


この時間であればネムリが荷物を届けた後だろう。


頼まれた品物のほかに、食べ物や飲み物など多目に準備してもらっている。


残ったら騎士団の皆さんに食べてもらえば問題ない。


「イナバ様、お疲れ様です。」


「ニケさんも一日有難うございました。」


俺が帰ってきたことに気づいたニケさんが、カウンターをくぐってこっちにやってくる。


少々疲れた顔をしているな。


それもそうか、一人で店を回したんだもんなぁ。


「今日はお客様も少なかったので何とかなりました。」


「本当にお疲れさまでした。恐らく明日からは少なくなると思うので、生鮮品は少なめの発注で良いかもしれません。」


「という事はやはり?」


「えぇ、流行り病だったようです。幸い重傷者はおらず村の協力を得て隔離を実行していますが、今晩のうちにサンサトローズ中に知れわたる事でしょう。女性しか罹らないとはいえ、病と聞けば躊躇するでしょうから必然的にこちらに来る人は減ると思います。」


それを聞いた瞬間に全員の表情が曇ったのが分かった。


でも俺の顔はそうではない。


今までのように切羽詰まってどうにもならない!っていう状況じゃない。


まだまだ出来ることがたくさんある。


冒険者も、少なくなるだけで全く来ないわけではないだろう。


実際、来てもらいやすい手段も取るつもりだ。


というか、ニッカさんを救うための手段かな?


「そんなに暗い顔をしないでください。ユーリ、ダンジョンの魔力はどんな感じですか?」


「このままいけば後一期程で拡張できるかと思われます。」


「ということはそれなりに溜まっている状況ですよね?」


「そうなります。ご主人様、何をなさるおつもりですか?」


明るい顔で質問攻めしてくる俺にユーリが不思議そうな顔をする。


心の声が聞こえるユーリでも俺のポジティブな状況は理解しづらいようだ。


「ある魔物を召喚したいんです。ボログベアっていうんですけど・・・。」


「それまた珍しい魔物だな。」


「ガンドさんはご存じでしたか。」


「あぁ、過去に何度かな。それでもその程度だ。掃除屋は人を嫌うし他の魔物も苦手だからな。」


掃除屋。


なるほど、そういう呼び名なのか。


確かに毒草を食べ魔物を処理するんだからその名にふさわしい働きをしている。


「ボログベア・・・ですか。召喚出来るかはオーブで確認してみない事には何とも。」


「一匹でもいいんです、出来るのであればお願いします。」


「ですが何故そんな魔物を?」


「シルビアが居ないので言いますが、実はニッカさんも別の病気なんです。その治療にどうしても必要なんですが状況は極めて悪く、出来るだけ早急に手配しなければなりません。」


「そういう事ですか。わかりましたすぐに確認します。」


大きく頷いたユーリが慌てた様子で店の奥へと走って行った。


これで何とかなればいいんだけど・・・。


「そういう事情なら俺もダンジョンに入るか?」


「もしもの場合はお願いするかもしれません。別件で冒険者ギルドに行くのでまずはそっちで探してもらうつもりです。」


「だが急ぐんだろ?」


「そうなんですけども・・・。」


「ならいいじゃねぇか、余れば売ればいいだけの話だ。」


「とかいいながら、自分が暴れたいだけではないですか?」


俺に任せとけと言わんばかりに胸をドンと叩くガンドさんに冷静なツッコミを入れるジルさん。


「それはお前もだろ?」


「そんなこと一言も申しておりませんが?」


とか何とか言いながらエアメイスの素振りをしているのは何故でしょうか。


いや、助かるんですけどね?


「イナバ様、別件という事は何かあるんですよね?」


「流行り病に効く薬草を探してもらおうかと思っています。具体的な場所などはわからないのですが、成功報酬制で依頼を出して一つでも見つかればといったところですけど。」


「そんなに珍しいんですか?」


「前回は一つにつき金貨1枚要求されたとか。」


「「「金貨1枚!?」」」


三人の声が見事にハモる。


まぁそんな反応になりますよね。


普通の薬草が銅貨30枚で売られていることを考えたら333倍だ。


「ちなみに成功報酬は銀貨80枚を想定しています。」


「儲けなしかよ。」


「儲けるために探すわけではありませんから。」


「ですがその金額であれば皆さん喜んで探してくださるのではないでしょうか。」


「欲を言えば依頼料も欲しい所だな。安くてもいい、受託するだけで金が入れば新人はやりやすいだろう。」


「なるほど・・・。」


という事は、初心者には受託報酬制(成功報酬付き)中級以上には成功報酬制で依頼を出すのがいいのかもしれない。


さすがガンドさん、冒険者の実情をしっかりと把握している。


「でも、そのお金の他に魔物の胆も依頼されるんですよね?それも高いのでは?」


「確か・・・それも金貨1枚ぐらいだったか?」


「使用できるのが無傷の胆のみなので金貨3枚はくだらないそうです。」


「そんなにするのかよ!」


「昔は少ないながらもそれなりの数が見つかったそうですが、今は乱獲されその数も減らしているのだとか。特にサンサトローズ周辺のダンジョンでは目撃されていない・・・というのが先生の話です。これについても冒険者ギルドで確認してきます。」


恐らく今回の依頼で金貨6枚は飛んでいくだろう。


それだけの蓄えはあるが、それを使えば俺の目標は達成できなくなる。


それでもいい・・・とは言わない。


その辺はグレーゾーンすれすれのやり方を駆使して何とかするつもりだ。


もちろんそれが出来るかどうかも確認してからだけど。


出来なければ・・・いや、出来ないことを考えても仕方がない。


出来るビジョンを考えていよう。


最悪についてはもう考え尽くしたんだから。


そして今がその最悪の状況だ。


後は上がるだけ。


「お待たせしました。」


と、いいタイミングでユーリが戻ってきた。


あぁ、表情を見ただけでわかる。


「ダメとは一言も言っておりませんよ、ご主人様。」


「という事は?」


「召喚は出来ます。ですが魔力をかなり消費しますので召喚できるのは一匹だけでしょう。それと拡張はこの秋にずれ込むことになります。それでも召喚されますか?」


「もちろんです。」


召喚出来るなら最高だ。


一匹分でも胆が取れればニッカさんは助かる。


それどころか金貨3枚のお金が浮くことにもなるんだ。


これはデカい。


「魔物の特性上召喚後場所の特定はできないと思ってください。階層のどこかに潜んでいる、そういう形になります。」


「それを探し出し、しかも胆を傷つけずに倒す必要があるわけだな。」


「腕利きの冒険者なら問題なく仕留めるでしょう。」


「逆を言えば腕に覚えのない冒険者は手を出すなという事になりますね。では、出現場所を報告すれば報奨金を出すような形をとってベテランに処理してもらえるようにしましょうか。名付けて『ボログベアを探せ!』とかどうですかね。」


「・・・もう少しいい名づけでお願いします。」


え、ダメ?


縞々男を探せからヒントを得たんだけど・・・。


ちょっと、全員でそんな顔しなくていいじゃないか。


「いつ召喚するんだ?」


「お望みであればいつでも。」


「じゃあ店を閉めてからだな。夜は俺が行く。」


「では朝になったら私が行きましょう。」


「追い込まなくていいのか?」


「情報を得られるのであればどこからでも問題ないかと。」


ベテランという事はガンドさんを慕っていつも来てくださる皆さんにも頼めるという事だ。


その場合はやっぱり報奨金を出すべきだよな。


金貨3枚は無理だけど、食事を無料にするとかそういった感じのサービスで了承を得れれば最高だ。


「では引き続きこちらはお任せします。」


「今から行かれるんですか?」


「病の件もありますから出来るだけ正確な情報をギルドに流しておきたいんです。終わればまた戻ってきます。」


「・・・行かないでくださいと言っても聞かないのはいつもの事です。どうぞお好きになさって下さい。」


えぇそうさせてもらいますとも。


別にエミリア達がいないから好き勝手しているわけじゃないからね?


そこは間違えないでね?



それから再び村に戻って彼女にまたがりサンサトローズに到着したのが夜遅く。


流石に冒険者ギルド前に人はいないが、中からはうっすらと明かりが漏れていた。


誰かいるようだ。


「すみませ~ん。」


「あれ、この声はイナバ様ですか?」


時間外だろうから遠慮がちに呼びかけてみると中から聞き覚えのある声で返事が返ってきた。


「すみませんティナさん、夜分遅くに。」


「今日は夜勤担当なので構いませんが・・・どうされたんですか?」


ギルド長自ら夜勤とはご苦労様・・・な訳がないよな。


村の状況を聞いて絶対に俺が来ると待っていたんだろう。


ほんといつもご無理言います。


「お聞きになっているかもしれませんが、村で流行り病が出てしまいましてその報告に参りました。」


「つい先ほどププト様より連絡がありました。大変でしたね。」


「女性しか罹らない病ですので男性冒険者は問題ありませんが、女性冒険者の皆さんには当分の間、村と当商店ならびにダンジョンの使用をお控えいただきたいのです。」


「わかりました明日の朝一番に全冒険者に告知致します。でも、それだけじゃないですよね?」


「あはは、さすがティナさんお見通しでしたか。」


ティナさんと知り合ったのは何時だったかなぁ。


その当時から無理ばっかり言って迷惑をかけてきた気がするよ。


当の本人はそんなことないというかもしれないけれど、今回もよろしくお願いします。


「私達に出来ることであれば何でも仰ってください。」


「では今回もお言葉に甘えまして・・・。」


それから状況を全て説明し、依頼の内容をすり合わせていく。


まずは薬草探し。


ガンドさんの助言通り初心者へは受託報酬付き、それ以外の冒険者には成功報酬とギルドから色を付けてくれることになった。


それからボログベアの胆は完全成功報酬制で金貨2枚を出す事に。


これに関しては目撃例がかなり少ないので賭けみたいなものだが、金額が金額なので探してくれる冒険者も出てくるだろう。


どちらの依頼も俺とシュリアン商店連名で依頼を出して冒険者の認知を上げていく。


この一年でたくさんの冒険者に名前を憶えてもらったから、少しでも反応があるといいんだけど。


「こちらも明日の朝一番に依頼を掲示しますね。」


「よろしくお願いします。」


「どちらも難しい依頼ですが、きっとみんなが力を貸してくれるとおもいます。イナバ様は安心してお待ちください。」


「今回も冒険者の皆さんのお力が頼りです、なにとぞお願いします。」


「本当は私もお手伝いできればいいんですけど・・・。」


「そんな、こうやって無理を聞いて下さっただけで大丈夫です。一応こちらは大丈夫だともいますが、ティナさんも病に気にはお気を付けください。」


「ありがとうございます。イナバ様も無理だけはしないでくださいね。」


「あはは、無理するのが仕事みたいなものですから。でも有難うございます。」


とりあえず今打てる手は打った。


もう一度お礼を言って立ち上がり冒険者ギルドを後にする。


見上げた夜空にはたくさんの星が瞬いていた。


今回の依頼期限まで三日。


後は結果を待つだけだ。


病は終息するのか、それとも拡大するのか。


ニッカさんの病気は。


不安はあるけれど、人事を尽くして天命を待つしか他はない。


ふと、一条の流れ星が視界を横切った。


どうかすべてうまく行きますように。


流れ星が消える前にそう、願った。

やるだけのことはやりました。

後は結果を待つばかり。

目に見えない相手と戦うのは精神的にも体力的にもしんどいものがあります。

作品の中がそうであるように、現実世界もまた見えない敵と戦っています。

戦っている全ての人が勝利を得ますように。

その為に個人が出来ることをやるしかありません。


自粛自粛の世の中ですが、少しでも娯楽を持ってここ安らかに過ごしてくださいますように。

ここまでお読みいただきまして有難うございました。

また次回もよろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ