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[第一部完結]サラリーマンが異世界でダンジョンの店長になったワケ  作者: エルリア
第十八章

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無駄な時間なんて少しも無かった

幸いにも懐妊の報を受けてもニッカさんが倒れることは無かった。


ただ無言で頷き、おめでとうと小さくつぶやいた後はクルリと後ろを向いて黙ってしまった。


だがその背中はとても嬉しそうで、その背中を見たシルビア様もまた涙を流しながら笑っていた。


親子水入らずの時間を作ってあげたいのは山々だったのだが、状況が状況だけに今回は見送りだ。


すぐに産まれるわけではないので、また戻って来てからゆっくりとして頂こう。


「では私は先に戻る、シュウイチは・・・。」


「ニッカさんと少し話がありますので先に戻ってください。」


「わかった、早めに頼むぞ。」


「すぐに済みますから。」


本当であればシルビアと一緒に家まで戻るつもりだったのだが、帰ろうとした時に何か言いたげな目をしていたので先に帰ってもらうことにした。


イナバシュウイチは察しのいい男なんですよ。


え、そんなはずはないって?


いやいやそんなことありませんって。


「すみませんな、急ぎ戻らねばならぬというのに。」


「大丈夫です、どうしました?」


「本来であれば本人の前で言うべきなのでしょうが、この期に及んで恥ずかしくなってしまいましてな。年を取るというのは嫌なものです。」


「何を仰いますか、年を取ったからこそこうしてシルビアのお腹に新しい命が宿ったんです。おめでとうございます、ニッカさん。」


「それは私の言葉ですよ。イナバ様、本当に有難うございます。」


「これから大変なのはシルビアですけどね。」


セレンさんを見ていてもわかる、子供が出来た後に男が出来ることは多く無い。


多くは無いが全くないわけではないのでそこは誤解してはいけないけど・・・。


ともかく大変な奥さんを支えるのが旦那の役目。


それを全うするだけです。


「二人をどうかよろしくお願い致します。」


「お任せください・・・と言いたい所ですけど、まずは状況を把握しなければなりません。一足先にセレンさんセリスちゃんそれとエミリアとシルビアは最悪を考えて隔離しようと思います。その後お医者様を連れて戻ってきます。」


「本来であれば私が動くべきなのですが・・・。」


「嬉しすぎて倒れないでくださいよ、ニッカさんにはまだまだ元気でいてもらわないといけないんですから。」


「そうですな、孫の顔を見るまでは・・・。」


「顔どころか孫の子供を見るまでは元気でいてもらいますからね。」


「それはそれは、だいぶ長生きしなければいけませんな。」


この世界の平均寿命がどれぐらいかは知らないが、それぐらい長生きしてもらいたい。


それは俺もシルビア様も同じ思いだ。


「夕刻までにはお医者様を連れて戻ってきます。それまでは村の皆には内密に。」


「えぇ、無用な不安を与えるわけにはいきません。」


「ですが、すでに体調を崩している人がいるのもまた事実。出来るだけ近づかないようしてもらえますか?」


「その辺りは上手く取り計らいましょう。プロンプト様への報告も含め、お願い致します。」


「任されました。」


さて、報告はこのぐらいにして急ぎ家に戻るとしよう。


俺達だけ逃げ出すように見えるかもしれないが、それも小さな命を守るためだ。


そんな事で文句を言う人はいないだろう。


村長の家を出て、家までの道を小走りで戻る。


店はニケさんとユーリに丸投げする形になるなぁ。


昨日はこれからは自分で!とか何とか思っていたのに、全く恥ずかしい話だ。


でもそんな事を気にすることなく、二人は笑顔で送り出してくれるんだろう。


俺の大切な家族。


でもさぁ、奥様方が妊娠してすぐ次は私達って、気が早くないですか?


え、待たせるだけ待たせたお前が言うな?


いやまぁそうなんですけど、奥様公認とはいえ中々躊躇するところもありまして。


世の中のハーレムを築く皆さまってどんなメンタルしてるんでしょうね。


まさにエロゲの主人公って感じなんでしょうか。


孕ませてなんぼ!みたいな。


流石にその思考にはなかなか慣れないヘタレでございます。


「お待たせしました。」


「お帰りなさい、準備は出来てますよ。」


「早いですね。」


「貴重品だけで後は向こうで手に入れられるからな。」


「それもそうですね、ネムリにお願いして準備してもらいましょう。馬車の中で必要なものを書き出しておいてください。」


「わかった。」


店に戻るとエミリア達が準備を終えて俺の帰りを待っていた。


本来であればジルさんにも避難してもらうべきなんだが、本人の強い意志で今回は見送りになったらしい。


『残念ながらまだ私のお腹には新しい命がおりませんので。』


だ、そうだ。


それを聞いたガンドさんが何とも言えない顔をしていたが、この二人にもいずれ新しい命がやって来てくれるだろう。


気づけばこの一年で三組もくっついているんだからそりゃ出産ラッシュにもなるよな。


「ではお店はお任せします、夕刻までには戻りますので。」


「ご主人様、どうぞこちらの心配はなさらず奥様方をお願い致します。」


「安心して行ってきてください。」


お腹に新しい子が宿っているとは言え身重というわけではない。


エミリアは前回倒れてしまったがシルビア様は相変わらずだ。


荷物も少ないのでとんぼ返りで村まで戻り、先に準備を終わらせていたウェリス達に合流した。


「話はニッカさんに聞いた、俺も例の病については覚えがあるから出来ることはやっておくつもりだ。」


「お願いします。と言っても、今は隔離程度であまり大ごとにはしないでくださいね。」


「わかってるよ。」


村の方はドリスのおっさんに任せておけば大丈夫だ。


慌てて馬車に乗り込む俺達に村の人達が不思議そうな顔をしていたが、とりあえず笑顔を返しておいた。


逃げるんじゃない、安全の為だ。


エミリアもシルビアも申し訳ない顔をしているが、そう言い聞かせて納得させている。


セレンさんはセリスちゃんを大事に抱え、その横をしっかりとウェリスが支えている。


「では行きます!」


馬車の操縦はまさかのハル先生。


正直見た目は頼りないけど、手綱さばきは中々である。


猛スピードで街道を進み、あっという間にサンサトローズの丘の上に到着した。


「ではここからは歩いて向かいます。皆さんはそのまま谷へ向かってください。」


「騎士団にも話を通しておいてくれるか?」


「もちろんです。」


「シュウイチさん、気を付けてくださいね。」


「あはは、目と鼻の先ですから大丈夫ですよ。」


これだけイベントが盛りだくさんなのに、これ以上何か起きるとかやめて頂きたい。


馬車はそのまま丘を下り、途中の道を反対側に逸れて行った。


さて、俺も行くとしますかね。


まずは騎士団に向かい、その後ハル先生に聞いたお医者様に事情を説明に行く。


それからププト様に状況を説明してネムリの店に商品を頼みに行って先生と一緒に村に戻る・・・と。


毎度のことながらイベント盛りだくさんだな。


けど今回はあまり切羽詰まっていないから幾分か気分は楽だ。


というか、二人のお腹に命が宿ったことをいまだに夢のように感じているのかもしれない。


俺が父親か・・・。


ミド博士の事を笑えなくなってしまったな。


きっと、いや間違いなく同じように取り乱してしまうんだろう。


早めに挨拶に行って色々と情報収集せねば・・・って今はそれどころじゃなかった。


急がないとあっという間に一日が終わってしまう。


そう気合を入れなおして両足を叩くと、サンサトローズまでの道を一気に駆け降りた。



「話は分かった、こちらでも調査を進めておく。」


「ウェール先生には先に村の患者を確認頂きまして、その後直接ご報告に上がると伺っております。その後の事に関しては・・・。」


「それは私の仕事だ。代わりにお前には村の件を一任する、構わないな?」


「もちろんです。」


「しかし流行り病か、相変わらず災難続きだな。」


「全くです。」


とりあえずこれでププト様への報告も終わりっと・・・。


「最悪の事態を考えて薬草は出来るだけ確保しておこう。だが、値段が値段だけにタダというわけにもいかん。」


「それはわかっています。村で必要になった分は私が何としてでも用立てますので、準備だけお願い出来ますでしょうか。」


「だがそうすればせっかく稼いだ金が全て無くなってしまうぞ?」


「その時は友人として頭を下げに来ますよ。」


「無力な友人で済まないな。」


「その友人につい先日助けられたばかりです、これ以上恩を売ったら何を請求されるかわかったものじゃありませんから。」


「言うではないか。」


いや、本当の事だし。


そういうとお互いに目を合わせて、ニヤリと笑い合う。


でもまぁ、それとは別にこれ以上何かしてもらうのはさすがに申し訳ないって気持ちもある。


他力本願男とはいえ、線引きは大切だ。


そうじゃないと自分で何もできない男になっちゃうからね。


「それでは失礼いたしました。」


「嫁さんによろしく伝えてくれ、それと、大事の無い様にと。」


「ありがとうございます。」


お礼を言って応接室を出ようとドアまで向かったその時だった。


「そうだ、イナバ!」


「はい?」


「お前はいい父親になれる、安心しろ。」


「ありがとうございます。」


まるで心を見透かされたようだ。


喜びと不安をうまく処理できていない俺の背中をどんと強く推すようなその言葉に、俺は大きく頭を下げた。


大丈夫だ。


そう言われることがどれほど心強いか。


やっぱりこの人にはかなわないなぁ。


テナンさんに見送られてププト様の屋敷を出てそのままネムリの店に向かう。


事情を説明すると快く品物の手配を頼まれてくれた。


ネムリとの付き合いももう一年以上になる。


いつも無理ばかりお願いしているのに嫌な顔しないのは、商人の鑑だよなぁ。


「そんなこと言っても何も出ませんよ。」


「あ、聞こえてましたか。」


「イナバ様こそ、素晴らしい事ばかりしているじゃありませんか。」


「それが『商人として』であれば何も言いませんが、それとは随分とかけ離れたことばかりしてきたような気がします。」


「それを含めてのイナバ様です、僅か一年のうちにこの街で、いえこの国でこれだけ名を売った商人はイナバ様だけですよ。」


この世界に来て一年。


最初は無名だったシュリアン商店も今では少しずつ名前が広まってきている。


冒険者に広がるならまだしも、最近じゃ貴族にも名前が広まってしまったからなぁ。


元老院があんなことになったことも有り、さりげなくガスターシャ様からもお誘いがある。


いったい俺に何を求めているんだろうか。


精霊の祝福があるとはいえ、ただそれだけの男ですよ?


期待値が高すぎて議員なんかになったら胃に穴が開いてしまうだろう。


平々凡々でいいんです。


これから生まれてくる新しい命に囲まれて、幸せな人生を歩む。


それが俺の今の夢だ。


「なに小さい事言ってるんですか、シュリアン商店にはもっともっと大きくなってもらわないといけないんですから。」


「今や王都でも大人気のネムリ商店のセリフとは思えませんね。」


「それもイナバ様方のお力があってこそ、ジュジェさん達も同じことを言うと思いますよ。」


皆さん俺の事をすごい人だと言いすぎなんですよとは、流石に言えないよなぁ。


人の好意は素直に受け入れろ、否定すればそれは逆に失礼になる。


そんな事を昔先輩に言われたのを思い出した。


皆の期待にこたえられるような男になるには、これからも頑張り続けねばならない。


むしろ頑張らない理由があるのか?


いや、ないよな。


「では品物の手配はお任せしました。」


「大変な時だとは思いますが、頑張ってください。」


「ありがとうございます。」


ネムリも頑張ってとお互いに健闘をたたえ合い、騎士団で彼女を引き取るとお医者様の待つ馬車へと戻った。


ほったらかしにしてしまったので少々ご機嫌斜めだったがなんとか宥めたのは内緒だ。


「お待たせいたしました。」


「さっきは気づかなかったがお前がトリシャの言っていた男か、あの子が世話になったな。」


「え、トリシャさんをご存じなんですか?」


「ジルダの爺さんには過去にいくつも貸しがあってな、あの娘の治療も過去にしたことがある。」


「そうでしたか。」


ハル先生の師匠にあたるウェール先生。


真っ白く長いひげはまるで魔法学校の某先生を彷彿とさせる。


この先生に診てもらったら絶対に大丈夫、そんな風格の人だ。


「その娘が、自由になったと知ったら死んだあいつも本望だろう。あの子の為に尽力してくれたと聞いている、亡き本人に代わり感謝を述べよう。」


「そんな。あれは話の流れと言いますか、むしろ助けられたのは私の方ですから。」


「人は誰かを助け助けられて生きていく、私も同じことだ。」


「先生も治療した人に助けられているのですか?」


「もちろんだ。彼らの笑顔が私の源、私の原動力なのだから。」


なるほどなぁ。


本当に、THEお医者様!って感じの人だ。


「今回の流行病も過去に治療されたとか。」


「あぁ、ニッカ様とも親交は続いている。今度孫が産まれるそうじゃないか、彼もゆっくりはしていられないな。」


「最近診られたことはありますか?」


「最近は無いが、なんだ気になる事があるのか?」


シルビア様もいないし、ここは正直に事情を説明するべきだろう。


「実は何度か強い胸の痛みを感じていて、この前はそれで倒れたことも有りました。日に日に強くなっているそうです。」


「何だと。」


「今回は村の女性を確認してもらうというお話でしたが、一緒に診てもらうことは出来ますでしょうか。あ、もちろんお代はお支払いいたします。」


「目の前に患者がいて診ないわけがないだろう。任せておきなさい。」


「ありがとうございます。」


「こんな素晴らしい息子を貰って、彼も幸せ者だな。」


本人ではなく他の人にもそう言ってもらえることがどれだけ嬉しい事か。


ニッカさんが幸せだと感じてくれることが、俺の喜びになる。


俺に出来ることがあるなら何でもしよう。


これは決してシルビアの為ではない、自分がニッカさんにそうしたいから思うのだ。


この世界に来て一番最初に俺を認めてくれたのは何を隠そうあの人なのだから。


沢山の人に認められ、信じられ、そして背中を押してもらえる。


この一年大変だったけれど、少しも無駄な時間は無かった。


どれだけ充実していたかが良くわかる一年だともいえるだろう。


その、たくさんの人たちにまた恩返しできるよう、いつものように俺は俺に出来ることをする。


流行り病なんぞに負けてたまるか。


とはいえ、そうと決まったわけではないのでしっかりウェール先生に診てもらい判断してもらうとしよう。


もちろんニッカさんも一緒にね。


先生、よろしくお願いします!

沢山の人に認められ、助けられ、彼は本当に幸せ者ですね。

物語ではたった一年かもしれませんが、書いている私も彼に色々と勉強させてもらいました。

ありがとう。

その感謝の言葉は、尽きることがありません。


さて、物語はそろそろ終盤。

果たして流行病はどうなるのか。

もしそうだ押したらどう解決するのか。

ただの商人が一年でどれだけ成長したのかを、ご覧いただければと思います。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

また次回もよろしくお願い致します。

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