今はただ無事を祈るのみ
昼間だというのに吐く息が白い。
いよいよ冬本番、そんな森の中をユーリと共に走り抜ける。
ウェリスの話では森に遊びに言った子供たちのうち数人が戻ってこなかったそうだ。
しかも子供の中には『黒い影に連れ攫われた。』なんて物騒な事をいっている子もいるらしい。
こっちの問題は解決したのに、この不気味な影は簡単には解決させて貰えないようだ。
「何人が帰ってきたんですか?」
「四人で森に入って帰ってきたのは二人だ。ティオも戻ってきてねぇ。」
「ティオ君が!?」
おいおいマジかよ。
走りながらウェリスから詳しく聞いていたがまさかの状況のようだ。
よりによってティオ君が巻き込まれたのか。
いや、誰が巻き込まれてもダメなんだけどまさか一番良く知っているティオ君が・・・。
「シャルちゃんには?」
「まだだ。水路を作ってるときにガキ共が泣きながら森から飛び出してきてな、何とか話を聞きだして飛んできたんだ。」
「すぐにばれると思いますが今は内密に。捜索については?」
「作業を中断して部下たちを先に森へ行かせた。ニッカさんがドリスに連絡して捜索隊を編成しているはずだ。」
今は時間との戦いだ。
早く見つければ見つけるだけ無事でいる可能性は上がっていく。
子供の話を信じるならば何者かに攫われた事になるしな。
それが魔物だったら・・・。
だめだ、悪いほうにばかり考えてしまう。
落ち着け、考えろ。
考える事しか俺にはできないんだから。
「ユーリはどう思いますか?」
「子供たちにはこの森のほとんどを教え込んだつもりです。何かに追われたのであれば安全な場所に逃げ込んでいるはず、まずはそこから探すのが得策かと。」
「大人と違ってこの森は彼らにとって庭みたいなものですし、子供の足ではそう奥までは行けないでしょう。まずはそこから探すほうがよさそうですね。」
「問題は何があったかだ。ガキの言葉を信じるわけじゃねぇがその影が魔物なら・・・。」
「今考える事はやめましょう。最悪の事しか思いつきません、それよりもどうやったら早く見つかるかを考えるほうが先です。」
「そうだな。」
ウェリスの気持ちもわかる。
誰よりもティオ君を可愛がっていたのは他でもないウェリスだ。
自分の子供が行方不明になってまともな神経でいられるはずが無い。
それがわかっているからこそセレンさんにも伝えていないはずだ。
何としてでも二人に聞かれるよりも先に見つけてあげなければ。
村に到着すると門の前には人だかりができていた。
「やっと来たか!」
「オッサン何か進展は?」
「まだ何も。さっき森に入った奴が帰ってきたが見つからなかったそうだ。代わりにこれを見つけてきた。」
そう言いながらドリスが後ろから出してきたのは見覚えのある剣。
「ティオのだな。」
「あぁ、子供たちが遊んでいたっていう岩の陰に落ちていたそうだ。」
「足跡は?」
「途中まではあったが落ち葉ばかりですぐに見えなくなった。くそ、よりにもよってあんな小さいガキ共が。」
「悲観するよりも動くほうが先です。すぐに第二陣を出発させます、準備は?」
ドリスのおっさんの後ろには真剣な顔をした10人ほどの村人が集まっていた。
聞くまでもなかったか。
手には武器。
防具こそつけていないものの、皆最悪の可能性を考えているようだ。
「いつでもいけるぜ。」
「ユーリは先に森の中へ、先ほど言っていた避難所のような場所に向かってください。」
「お前はどうするんだ?」
「もう一度子供たちに話を聞いてきます。」
「子供に?まともの話は聞けないぞ?」
「それでも現場を見ていたのは彼らだけなんです、大丈夫すぐ追いかけます。」
「わかった。おい、行くぞ!」
オッサンを先頭にユーリ達が森の奥へと消えていく。
よし、俺も急ぐか。
「俺も聞く意味は無いと思うがな。」
何て言うウェリスの言葉に肩をすくめて返事を濁す。
俺だってまともに話しを聞けるとは思っていない。
それでも直接聞くことにこそ意味があると思っている。
ウェリスに連れられて南側に新しく作られた住居へと向うと、一件の家から子供の泣く声が聞こえてきた。
どうやらここのようだ。
「二人戻ってきたんですよね?」
「あぁ、この家の兄弟だ。」
「じゃあ居なくなったもう一人は・・・。」
「どうしてうちの子だけ置いて逃げてきたのよ!どうして!」
と、中から耳を劈くような女性の叫び声が聞こえてきた。
ティオ君と一緒に行方が分からない子供の母親だろう。
急ぎ家の中に入ると大声を上げて泣く子供が二人、それを守る様に抱きしめる母親と髪の毛を振り乱して叫んでいる女が一人。
修羅場だな。
「おい落ち着け、子供が怯えてるだろ。」
「落ち着いてなんていられないわ!うちの子が帰ってこないのよ!あの子にもしもがあったら!」
「そうならない様にさっき男たちが森に入った。今ここで責めたってお前の子供は戻ってこないぞ。」
「わかってるわよ!」
ウェリスが間に入るも効果は薄い。
いや、むしろ悪化したような・・・。
「ウェリスの言う通りです、ここで二人を責めてもお子さんは戻ってきません。」
「イナバ様!どうして、どうしてこんなことになったんですか!ここだったら新しくやり直せるって、何の心配もないって信じてきたのに!」
「それは私にもわかりません。ですが何が起きているかを確かめる為に話を聞きに来たんです。お願いします、どうか冷静になって考えてください。貴女が逆の立場ならどう思いますか?」
子供がいなくなった人に冷静になれっていうが無茶な話だと分かっている。
でも、それを押し通してでも今は情報が欲しいんだ。
俺の言葉にハッとしたような顔をする母親。
自分が逆の立場ならどうするか、そう思った時に守るべきはなにか。
そう、自分の子供だ。
自分が今何をしていたのか気づいた母親はドリスを押しのけるようにして家を出て行った。
「ウェリス、後を追いかけてください。」
「ったく、仕方ねぇなぁ。」
悪態をつきながらも追いかけてくれるのがウェリスという男だ。
嵐が去りホッとしたような顔をする母親に俺は優しく微笑んだ。
「もう大丈夫ですよ。」
「イナバ様、ありがとうございました。」
「あの方を恨まないで上げてくださいね。」
「わかっています。もし私が同じ立場だったら、同じようにしていたとおもいますから。」
同じ母親だからわかるんだ。
どれだけの絶望があの母親を襲っているのか。
そしてそれが自分の立場だったらどれだけ恐ろしいかというのもわかっている。
今回いなくなったのが二人。
自分の腕の中で泣いている子供がそうだったかもしれないんだ。
今回はたまたま幸運だった。
「お話聞かせてもらえますか?」
「もちろんです、さぁ貴方達泣いてないでイナバ様に教えてあげなさい。」
母親の腕の中から兄弟が恐々顔を上げる。
二人を怖がらせないように俺はできる限りの笑顔で二人を見つめた。
「怖かったね、もう大丈夫だよ。」
「もう、怒らない?」
「大丈夫怒ってないよ。」
「ほんとに?」
「もちろん。」
おそらく事情を聞こうと大人に詰め寄られたのが怖かったんだろう。
それに加えてあの母親の勢いに完全に閉じこもってしまった。
そりゃ、何も聞き出せないわけだ。
でも誰も責められない。
皆いなくなった二人を助けたいと必死だったんだから。
周りを見渡し母親と俺しかいないことにホッとした顔をする兄弟。
どうやら話を聞けそうだな。
「いつもの岩場で遊んでいたんだよね?そこで何があったのかな。」
「あ、あのね森の奥から黒い影が出てきたの。」
「それをティオが見つけて追い払おうとして剣を抜いたんだ。」
「僕、怖くなって先に逃げちゃって・・・そしたら弟も後ろを追いかけて来て。気づいたら二人が後ろにいなかった。」
「そっか、怖かったね。」
いきなり見た事も無い影に出くわしたら大人でも逃げだすだろう。
俺なら間違いなくビビれる自信がある。
これは子供だからとかいう問題じゃない。
「イナバ様、二人とも大丈夫だよね?」
「大丈夫、村中が二人を探していますからすぐに見つかりますよ。」
「でも、あの影に食べられちゃったら・・・。」
「その影ってどんな感じだったか覚えているかな?」
「僕すぐ逃げ出したから・・・。」
「あのね!僕と同じぐらいの黒い奴が岩の側に立ってたの!」
と、弟君が兄に代わって元気よく答える。
そうか、この子はまだ兄貴よりも現場に残っていたのか。
歳はティオと同じぐらいかな。
「岩の側にいたの?見た目はどんなのだった?」
「えっとね、顔とかはわからないけど角があったよ。」
「角かぁ、魔物についてはユーリから聞いてるよね?」
「うん!ユーリのお姉ちゃんから森の魔物いついて教えてもらった!」
「それと同じ奴だった?」
「んー、ちょっと違うと思う。初めて見るやつだった。」
この森に出る魔物はモフラビットやコボレートなどだが角があるやつはいなかったはずだ。
はぐれや魔力溜まりから生まれた可能性もあるけれどそれならユーリに発見されていておかしくない。
ここ数日は初心者冒険者を連れて毎日森に入っているし、そうだとしたら何かしらの痕跡を発見しているはずだ。
俺が見た影もこの子が見たやつと背格好などは一致する。
でも角があったかどうかまではわからなかったなぁ。
「ティオ食べられたりしてない?」
「大丈夫、ティオ君は強いから。」
「そうだよね!あの時だって剣を抜いて僕たちを守ろうとしてくれたんだよ!」
「そっかぁ。」
「でも僕怖くってすぐお兄ちゃんの後追いかけたから・・・。」
「それでいいんだよ。良く帰って来たね。」
もし魔物だったら命はなかっただろう。
この二人が戻って来たからこそ、ティオたちが取り残されているのが分かりこうやって大人がすぐ助けに行けたんだ。
全員いなくなっていたら気づくのに時間がかかっていた。
母親に抱きしめられくすぐったそうに笑う兄弟。
生きていてよかった。
そして、ティオ君たちも生きているはずだ。
「よく覚えていたね、ありがとう。」
「イナバ様二人を助けてあげて!」
「任せなさい。」
ドンと胸を張り二人のお願いに答える。
何としてでも見つけ出す。
そんな強い決意と共に家を出るとちょうどウェリスが戻って来た。
相変らずナイスタイミングだ。
「何かわかったか?」
「えぇ、岩の陰で見たのは子供ぐらいの背丈で角があったそうです。」
「それだけか?」
「角のある魔物はこの森にはいません、それだけでもかなりの情報かと。」
「はぐれの魔物だっている。」
「それなら連日森に入っている冒険者とユーリが気づくはずです。恐らくそれ以外の何かと接触したんだと思います。」
「なんだよそれ以外の何かって。」
それが分かれば苦労しないんだよ。
何も森に入っているのは村人だけじゃない。
ナーフさんだってこの森にはよく来ているし、ダンジョンに来る以外の冒険者もなにかしらの依頼を受けて入っている可能性だってある。
まぁその場合はすぐに保護して村に連れてきそうなものだけど・・・。
「ともかく私達も森へ急ぎましょう。それと先ほどは助かりました。」
「お前の一言で少し正気に戻ったようだ。ったく、面倒な事頼みやがって。」
「でも上手くいったじゃないですか。」
「俺だってティオが帰ってこないんだ気持ちはわかるさ、それよりも泣いてる女は苦手なんだよ。」
お前は何処の掃除人だよ、
他の女にはもっこりしない癖に良く言うなぁ。
「ともかく二人は無事ですよ。」
「ほんとかよ。」
「私の勘がそう言ってます。」
「頼りにならねぇ勘だなぁ。」
「それにやられた人間が何を言いますか。」
「それもそうだな。頼りにしてるぜ。」
「絶対に見つけましょう。」
まぁ勘じゃ無くて作戦と他力本願でウェリスを捕まえたんだけど、それでこいつの気がまぎれるならそれでいい。
最悪を考えるな。
最善を考えろ。
今もティオ君たちは俺達の助けを待っているはずだ。
必ず無事でいる。
だから何としてでも見つけ出す。
その強い意志をもって俺達も森へと向かうのだった。
今度はちょっと大ごとのようですね。
迷子というよりかは行方不明に近い感じでしょうか。
魔物に襲われたのかそれとも・・・。
次回は迷子の二人を探して森の中を大捜索です。
どうぞよろしくお願いします。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
また次回もよろしくお願い致します。




