第五話 奪ったはずだった
ロゼー視点です。
お母様は身分が合わずに愛し合っていたのに引き裂かれたのだと常々言っていた。その原因がお姉様の母親だと。
「あの娘の婚約者はこの国の王子様なのよ。私の可愛いロゼー。あなたはあんな女の娘になんて負けないわよね? きっと王子様を射止められるわ」
真っ赤な唇でお母様はあたしにそう囁いた。
お母様はこの侯爵家の女主人となり、あたしは侯爵令嬢となった。
毎日楽しいことばかりだった。
綺麗な服を着て、美味しいものを食べて、指示するだけでメイドが全てのことをしてくれる。
馬鹿にしてくるメイドは辞めさせたし、可愛いあたしはどのパーティーに行っても人の目を引いた。
「ロゼー嬢、本日もお美しい。まるでアイリスの花のようです」
「いやいや、ロゼー嬢の美しさは妖精と言えましょう。ロゼー嬢こそ、地上に降りた妖精です」
口々に褒め言葉が降ってくる。
たくさん褒められ、たくさん愛の言葉を向けられた。
高価なプレゼントだっていくつも貰った。でも、それらは皆男爵令息や伯爵令息だ。
お姉様の隣にいるのは王子様。正真正銘この国の王子様なのだ。
あたしは、彼を狙うことにした。
お姉様の婚約者だから近付きやすいし、容姿はあたしの方が優れているのだから。
「ジェラルディ殿下、ごきげんよう」
「やあ、ロゼー嬢。今日も可愛らしいね」
「嬉しい……。ジェラルディ殿下もとても素敵ですわ。やはり聡明なジェラルディ様はお姿にも出ていらっしゃって、あたしなんかお姉様にいつも連れ子だからダメなところばかりと言われていて……あまりおそばに居ちゃダメ、ですよね?」
「そんなことないっ! エルシアは君にそんなことを……連れ子だろうと君もれっきとした侯爵令嬢なんだから胸を張っていいんだよ。それに、私のそばに居るのは全然構わないよ」
「本当ですか? 嬉しい。そんなこと言ったら甘えちゃいます。……あの、ジェラルディ様ってお呼びしてもいいですか?」
「もちろんだよ」
「あたしのこともロゼーって呼んでくれますか?」
「ロゼー?」
「はい、ジェラルディ様」
「ロゼーは可愛いな」
「嬉しいです。……ジェラルディ様も、とーっても素敵です」
耳元で囁き、控えめに触れる。お母様がお父様にするようにジェラルディ様にしていく。
するとどんどんジェラルディ様と親しくなった。
「お姉様があたしのこといらない子って呼ぶんです」
「お姉様はあたしが侯爵令嬢だって認めてないみたい」
「お姉様はあたしのことを、お嫌いなのだわ」
「ねぇジェラルディ様、あたしはいらない子なんですか?」
涙を浮かべて問いかける。
「そんな訳ないじゃないか、ロゼー。君はいらない子なんかじゃない。少なくとも、私には君が必要だ」
「ジェラルディ様……嬉しい」
そして、初めてキスをした。
逢瀬を重ねるにつれ、触れるだけのキスは深くなっていく。
侯爵家の生け垣の陰で、パーティー会場の庭の隅で、パーティーの控え室で、数えきれないほど逢瀬を重ねた。
そして運命のあの時、お姉様とジェラルディ様の婚約が解消された。
「でしたら、婚約者を変更いたしましょう。ジェラルディ殿下は常々完璧だけど冷たいと仰っていました。私のような妻はいらないのでしょう? であれば、私との婚約を望んでいないということになります。ならばロゼーに譲りますわ」
お姉様はそう言うと、会場を去っていった。
やっと!
やっと、お姉様からジェラルディ様を奪うことができた!
王子様はあたしのものになった!
やっぱりお姉様よりあたしの方が選ばれるのよ!
嬉しさでいっぱいだった。
身も心もジェラルディ様に捧げた甲斐があった!
「ジェラルディ様っ! あたし達、結婚できますの、ね……」
ジェラルディ様の方を向くと、ジェラルディ様は焦った顔をしていた。
「え、エルシア? なぜだ……エルシアは私のことを愛しているのだろう? 私は婚約解消など望んでいない」
「ジェ、ジェラルディ様?」
「ああ、エルシア……これは何かの間違いだ。そうだ。明日になったらまたエルシアは私の元に戻ってくるはずだ。そうだよな、私の事を愛しているんだもんな」
まるで、あたしが見えていないかのようにジェラルディ様は独り言を呟いてその場を去っていった。
「え? どういうこと?」
ジェラルディ様は何度も私を愛してると言ってくださった。でも、今のジェラルディ様はまるで──
そんなはずない。
「お父様、きっとお姉様は短気を起こしただけですわ。それに、実はあたしとジェラルディ様は愛し合っておりますの。お姉様なんかよりももっともーっとあたしの方がジェラルディ様に愛されておりますわ。婚約者が交代しても問題はありません」
「そうなのか? 先ほどは焦っておられたように見えたが」
「ええ、公での婚約解消に動転されたのですわ、きっと。でも先ほどもジェラルディ様が仰っておりましたわ。婚約者を交代したいって。だから、お姉様が短気を起こしてしまわれた。あたしは王妃になりますが、お姉様は侯爵家におります。なんの問題もありません」
「そう、だな」
「はい」
「そうか……殿下と愛し合っているのか」
「はいっ」
「ジェラルディ殿下はどちらに行かれたのだ?」
「あ、えーと……呼ばれて、王家の方々のところに戻られました」
「そうか」
「はい」
一抹の不安を残したまま、パーティーの夜は過ぎていった。
長子が王になるという国。
ジェラルディがアレなのでエルシアが婚約者に選ばれました。
補佐がしっかりしてたら国は回る。
その代わり決定権は与えられませんけども。
それでも、自分の得意分野を見出し国に貢献する。その道はいつでも開かれてましたし、エルシアも協力を惜しまなかった。
伸ばした手をしっかり掴む女、それがエルシアです。
残念な王太子ですね。
読んでいただきありがとうございます。
リフレッシュに下記のお話などいかがでしょうか?
完結してます。
よろしくお願いいたします。
【連載・完結】
泣けるハッピーエンドが読みたい方へ。
不治の病を宣告された悪役令嬢が、愛する王子に嫌われることを選んだ──その理由とは。王子は真実を知り、彼女を救うために奔走します。シリアスだけど最後は絶対幸せになれる、涙の純愛物語です。
余命一年の悪役令嬢は、愛する人に嫌われるために画策します
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