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黒淵の宝石者~Abyss・jewelers~  作者: ひしがたくん
第一章 黒淵と白頂
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第二話 運命の扉/異世界人

「俺はピースシーカー団長、アビスだ。異世界人、俺と共に来ないか?」


この人は何を血迷ってるんだろう。

自己紹介なのは分かる。ただ出会って早々ナンパはないだろう。ボロボロだが、ここは牢獄だ。こんな事を言えるのは外部の人間ぐらいだろう。

全身黒ずくめで背中にはスケートボード……ではなく剣身の広い一振りの大剣。囚人や看守がこんな装備を身に着けて良い訳がない。更に滴り落ちる血と地面に倒れ込む看守から、たった今人を殺めた事が容易に想像できる。そして妙に現実味のない深碧の微塵の利いた黒髪や澄んだ翡翠の目からはここが異世界なのだと自覚させられる。


「なんで私を助けるの?」


単純な、それでも大切な疑問だ。ここまで危険を犯してまで私を助ける意味なんて無いはずだ。ピースシーカーなる組織を知らない以上、警戒するに越したことはない。


「君が重要参考人だから、かな」


彼は迷いなく答えた。怪しい。やっぱり怪しい。こんな知らない組織の怪しい人物についていこうと思えるほど私はバカではない……はず。でもこれだけは言わせてほしい。


なんでこんなことになっているの?


ここに連れてこられてからずっと、こんな疑問が頭をよぎっている。訂正しよう。私はバカではないが、立て続けに起こる理解不能な事象に対して完璧に対処ができるほど天才でもなかったらしい。しかもこのシチュエーションにワクワクしている自分がいる。それは救済の安堵からなのか、狂人への一歩の証なのか。


「お前ら全員動くな!!」


どのくらい時間が経ったのだろうか。いつの間にか、大量の看守が私と、アビスの周りを包囲していた。彼らは警棒も銃も、ましてや私達を拘束できそうな武器すら持っていない。唯一の装備といえば、看守が左腕に着けている小手ぐらいだ。そんな状態で大剣を装備した男に勝てるのだろうか。


「小手持ちが8人。マズったな……」


アビスが小声で呟く。どうやら割とマズイ状況らしい。


「あの小手に何か仕掛けがあるの?」


「ああ。被弾したらマズイとだけ覚えておいてくれ」


やっぱりあれは武器だったようだ。ん?被弾?ってことはあれ遠距離武器なんだ……


「何をコソコソしている。まずはその武器を下ろし、こちらに渡せ」


リーダー格であろう看守がそう言うやいなや、彼は素直に大剣を空中に置いた。スケートボードを置くように優しく静かに、剣身の腹が上を向くように。


「投降の意思を見せろ」


両手を挙げる。この状況では、逃げる以前の問題だ。こうするしかない。


「そうだ、素直でよろしい」


リーダー格の看守が誇らしげに呟く。うっすら笑みを浮かべ、高らかに笑い始める。


「この武器は押収させてもらう。おい、やれ」


リーダー格の看守の合図によって、数人の看守が動き出す。彼らはアビスに近づくと、大剣を拾い、無防備な腹に一撃を加えた。左の小手で。アビスは短い呻き声とともによろけ、片膝をついた。


「神聖なる帝国軍様に使わせてもらえるんだ。感謝しとけよ」


どうやら勝ちを確信しているらしい。看守は他の仲間と談笑し始めた。勝利故の慢心か、彼らには気づいていないようだ。


「計画……通り……」


アビスは攻撃を受ける直前、今の看守と同じような笑みを浮かべていたことに。


起床せよ(ア・ウェイクニング)



看守の余裕は、一瞬で失われた。

まばゆい閃光とともに大剣がひとりでに動き出す。押収した大剣を抱えていた看守は、反射的に手を離し、両目を塞いだ。看守は迫りくる大剣の刺突攻撃に対応できない。次々に腹を貫かれ、倒れていく。普通、剣は自分で走ったりしない。その常識が、私と彼らの脳に焼きついていたのだろう。


「お前ぇ、何をした!」


何が起きているのか理解できなかったのはリーダーである彼も同じだった。剣とアビスを交互に見る。怪物を見るような、そんな目をしていた。


「契約の恩恵だよ。帝国直属の騎士なら戦場で何回も見たことがあるだろ」


低い声。初めて話した時と違い、冷酷な拒絶の声だった。看守は狼狽えた。それを見逃すはずもなく、彼の元に猛スピードで剣が近づいてくる。しかし彼は対応できた。流石リーダーなだけある。とっさの判断で体をずらしたのだ。剣は腹の代わりに右足の太腿を貫いた。片足を失った看守は倒れ込み、打撃の衝撃から回復したアビスはゆっくりと立ち上がった。形勢逆転だ。

剣はいつの間にかアビスの手に戻っていた。


「さあ、どうする?」


決断を迫られた。目線は未だ看守に向いていた。それでも確かに私に問いかけている。そんな気がする。この人に着いて行くか、このままか。生きるか、死ぬか。でもこの人は看守を少なくとも一人は殺している。彼に着いて行くとなると、無論逃亡生活だ。でもここで……ここで死ぬぐらいなら。





何だってやってやる。





その瞬間、私の中で何かが切れた。


「決めたわ。私、貴方に着いて行く」


もう迷いはない。


「分かった。行こう」


アビスは振り向いて答えた。そして大剣を振り下ろし、私の足についていた鎖を断ち切った。さっきのように大剣を空中に置き、彼はそれに乗った。その答えを待っていたと言わんばかりの、慣れた手つきで。そのさまはオリンピックで見たボード系競技に出場する選手のそれだった。

アビスが自身の剣の腹を軽く叩く。乗れって意味だろう。


「まっ……待て!!こんなこと、帝国が黙ってはいられないぞ!」


看守の声だ。でももう、私にその言葉は届かない。振り向き、呟く。


「さよなら」


たった一言。もうここに用はない。なんなら恩もない。今後、私を狙う人物は出てくるだろう。帝国との戦闘になるのも確実だ。確かに言えることは、ここで死ぬよりかはマシなことだけだ。











空を飛んでいる。飛行機とかヘリコプターとかの大型機械ではなく、大剣に乗ってだ。夜風が心地良い。アビスいわくこの乗り物(?)は基本的に一人乗りで、立って乗るものらしい。疲れのせいか、立っている余力も無かった私は、アビスに背負ってもらう形になっていた。子供みたいで多少恥ずかしいが、しょうがない。少しの辛抱だ。

にしても美しい街並みだ。いつか私専用の乗り物を手に入れよう。そしてどこかこの世界を旅したい。暗闇の中流れ行く街並みを眺めながら、私は無意識のうちにこれからについて考えていた。


まだ私はこの世界について何も知らない。今日は私の人生の中で大きな分岐点だったのかも分からない。それでも、今私は生きている。こうして生きている。


「それでいいじゃない」


不思議と声が出ていた。


「何か言ったか?」


「何でもない」


心地良い風と、前にいる私より少し大きな背中にそっとその身を預けた。

どうもこんにちは。ひしがたくんです。基本は二話完結型で作るつもりです。次回はようやく説明回です。

次回

第三話 宝石の世界/契約の権能

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