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SCIENCE REBOOT  作者: 水素
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10/10

Episode : 10 (Neon) / アウトブレイク

ペニシリン水溶液が完成し、抗生物質がこの異世界にも誕生した。だが、今はたった1瓶。

ここから、ペニシリンを大量に作り出さなければ、この町は救えない。

ユズキは、醸造所にさらに人を集め、培養の方法、抽出作業、試薬の作り方や扱いを丁寧に説明していく。


(ユズキ)「いいですか、このアオカビには、人々を救う力があるのです、慎重にお願いしますよ」


ただ物質を生み出すのではなく、大量に、多くの人に届けるために。" 工業 " の考え方がこの異世界にも登場する。


一方で、馬之助には新たな仕事がある。 " 初便のペニシリンを届ける " というミッションだ。

患者から病原菌を採取して、培養。ペニシリンが効くのか確かめなければならない。また緊急性のある患者には、一か八か投与してみるべきだからだ。

馬之助は、走って、すぐにエリンの診療所へ戻る。だが、町にはやけに静けさが広がる。


(馬之助)「なんか、やけに静かだな」


不安が馬之助をよぎる。だが、不安になって立ち止まる暇もない。

やがて診療所に届くも、そこには地獄が広がっていた。

ユズキは、醸造所に出る前に、布マスクの配布、換気、お酒による消毒を提案していた。

だが、これは大衆に広がるのを " 抑制 " するだけで、完璧に感染を防ぐ方法などない。


そして、馬之助は、布マスクをして、必死にはたらくエリンを見つめていった。


(馬之助)「おい、大丈夫か?」


(エリン)「大丈夫よ」


(馬之助)「大丈夫な奴は、そんな咳しねぇよ」


ここでエリン自身が感染したことが判明する。

そして何よりきついのが、感染対策をしていても、完全には防げなかったという現実。


そして、馬之助は、診療を続けるエリンに、一瓶の水溶液を見せる。


(エリン)「何、それ?」


(エリン)「……ペニシリン?」


(馬之助)「まだ一瓶だ」


(馬之助)「でも、これで終わりじゃねぇ」


動かなくなった人々は、絶えず外へ運ばれる。重症患者も、たくさんいる。

馬之助は、もう一度覚悟を決め、布マスクを手に取る。消毒をして、病原菌を採取し、培養する。

培養皿は、ペニシリンを塗ったものと、塗っていないものの二つを用意する。” 対照実験 "だ。

結果が出るまで、しばらく時間がかかる。


だが――


馬之助には、待っている余裕などなかった。

診療所には、大量の患者で埋め尽くされていた。


(馬之助)「……おい、エリン」


(馬之助)「お前、休めよ」


(エリン)「私が休んだら、誰がこの人たちを診るの?」


馬之助は周囲を見渡した。

息が絶え絶えの患者。熱で意識が朦朧とする子供。水を飲むことすらできず、やせ細っていく老人。

馬之助は拳を握った。


(馬之助)「……だったら、俺もやる」


(エリン)「あなた、医学なんて知らないでしょう?」


(馬之助)「医療どころか、あいつみたいに薬の知識だってねぇ...」


(馬之助)「だが、まだ体力はある」


エリンが一瞬、黙った。


(馬之助)「お前一人に全部やらせるわけにはいかねぇだろ」


馬之助はすぐに袖をめくり、覚悟を決める。この異世界の服にも慣れてはいないが。


柳の葉を煮詰め、サリシンを取り出す。砂糖と果汁を混ぜ、補水液をつくる。

それを患者に投与していく。

患者を起こし、熱を測ってみる。背中をさすり、咳をこむ患者によりそう。

エリンの指示を聞きながら、できる仕事を一つずつこなしていく。


(エリン)「その人、まず水を少しずつ。果汁で喉がやられるから、補水液はダメよ」


(馬之助)「分かった」


医学の知識などない。

病気の仕組みも分からない。


それでも――


目の前の人間を放っておかない。


外では、町の人々が不安そうに診療所を見つめていた。

中に入ることを恐れる者もいる。だれも感染して、つらい思いをしたくないし、死にたくない。

それは当然の恐怖だった。だが、馬之助は恐怖を考える暇もない。


患者の一人が、突然大きく咳き込んだ。


(患者)「ゴホッ……ゴホッ……!」


エリンがすぐに駆け寄る。


(エリン)「この人、ちょっと待って……」


頻脈、呼吸数増加、チアノーゼ。どれも、感染により肺や気管支がダメージを追っている証拠。

そして、血を含む咳嗽。明らかに、緊急性があった。


(エリン)「このままだと、呼吸ができなくなる」


(馬之助)「……死ぬのか?」


馬之助は、懐に入れていた小さな瓶を見る。

透明な水溶液。


(馬之助)「これを使おう」


(エリン)「でも、本当に効く保証なんて――」


まだ培養結果はでていない。エリンの言う通り、抽出に失敗し、効果がない可能性もある。


(馬之助)「俺だって、これが何なのか全部分かってるわけじゃねぇ」


(馬之助)「ユズキが作った。菌を殺す力がある。それだけだ」


エリンは黙った。


(馬之助)「だけどよ……」


馬之助は患者を見る。


(馬之助)「何もしなかったら、この人は死ぬんだろ?」


沈黙。

そして、静かに頷いた。


(エリン)「何かおかしくなったら、すぐ止める」


エリンは、静かに馬之助から瓶を受け取る。


(エリン)「……いくわよ」


そして、エリンはペニシリンの入った瓶を静かに患者の口へ注ぐ。

本来は、静脈注射をして、直接血管に入れるのが望ましい。が、針は存在しない。


何も起こらない。

患者は苦しそうに呼吸を続けている。


三日が経っただろうか。

培養の結果がでた。馬之助は、そっと胸をなでおろす。

それに、あのペニシリンを投与していた患者も、回復に向かっている。まだたった一例だが成功例だ。


馬之助は初めて、その瓶を見て笑った。


(馬之助)「あいつ、すげぇもん作ったな」


(エリン)「どうやら、本当に効くようね」


エリンと馬之助は、顔をみて笑いあう。

束の間の安息が訪れる。


だが、馬之助は思い出したかのように、醸造所へ走り出す。結果をユズキたちに伝えるためだ。

馬之助が醸造所に戻ると、十瓶、二十瓶と、ペニシリンの入った瓶が積み上げられていた。


(ユズキ)「どうだった?」


(馬之助)「成功だ」


緊急性のある患者1人に投与してみたこと、培養したこと、そしてどちらも成功したことを丁寧に説明する。

ユズキの目には、涙が浮かんでいた。だが、まだ休む暇はない。彼らはまだ "武器を大量につくった" にすぎない。ここから、細菌と向き合い、倒していく本当の戦いが始まる。

参考文献


https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/05-%E8%82%BA%E7%96%BE%E6%82%A3/%E8%82%BA%E7%82%8E/%E5%B8%82%E4%B8%AD%E8%82%BA%E7%82%8E?query=%E8%82%BA%E7%82%8E


https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/05-%E8%82%BA%E7%96%BE%E6%82%A3/%E8%82%BA%E7%96%BE%E6%82%A3%E3%81%AE%E7%97%87%E7%8A%B6/%E5%91%BC%E5%90%B8%E5%9B%B0%E9%9B%A3?query=%E5%91%BC%E5%90%B8#%E8%A9%95%E4%BE%A1_v911173_ja

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