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更紗の脈理  作者: VIKASH


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3/60

3

 



 私の姉は、変わり果てた姿で目の前に立っていた。

 その変貌には正直驚いたが、姉も私も互いのことを覚えていなかった。


 ――本当にこれが姉なのか。

 私には分からなかった。


 姉の名前すら思い出せずにいた。ただ、サ行に関係があることだけは記憶にあった。

「ス」だったか、「セ」だったか……いや、そうだ。「サ」だ。

 姉の名前は“サ”から始まっていた。今しがた、それを思い出した。


 私にできることは、その程度だった。

 名前を思い出し、目の前の人物と見比べる――それだけだ。


「止まれ」

 その言葉の意味が分からなかった。なぜなら、そこにいるのは姉のはずだったからだ。

 だが、様子がおかしい。声を発さなければ、剣を携え、そして唐突にこう言ったのだ。


「私は、猿だ」


 ――普通ではない。私は即座に悟り、引き返そうとした。

 猿ならば人を襲うだろう。少なからず、私も人間である以上、身の危険を感じざるを得ない。


 慌てて階段を駆け上がる。背後から轟くのは姉ではなく、猿の咆哮だった。

 耳を塞ぎたくなるほどの叫びに、星の民は何も言わない。

 私は耐えきれず、その場に蹲った。


 ――さあ、猿よ。私から逃れられるか?


 毛むくじゃらの猿を前に戦うのは気味が悪かった。

 それが姉の声を持つ猿であるならば、なおさら戦えない。

 だが、通さぬというのなら、強硬手段に出るしかない。


「猿よ、貴様には私の気持ちなど分かるまい。私がどれほど本気かもな」。


 私は悲しみに揺れながらも、自分に宿る力を思い出した。

 ――星の民が使うとされる特異能力。


「玉」


 私の手から、エネルギーの球が放たれた。

 地下を覆う鉄骨も外壁もろとも消し去り、猿を直撃する。


 猿はその一撃に耐えたが、驚いたのか、やがて姿を消した。

 私の力を知ろうとする者は誰もいない。

 だからこそ隠さなければならない。決して、誰にも知られてはならない。


 安堵とともに呟く。

「どいたな……猿よ。貴様は姉なのか?」

 しかし、もうそこにはただの猿しか見えなかった。私は幻影を見ていたに違いない。


 ――これからどうする。

 柵を越えた先から、生きて帰れるのか。


 焦燥に駆られながら柵を引き千切る。

 手から血が噴き出した。


「玉」の代償だ。犠牲を伴う力。


 視界がぼやけ、足元に血溜まりが広がっていく。温かい感触。

 ――これが血の池地獄か。

 くだらない考えを抱きながら、腕を押さえた。


 一人では何もできない。だが、私には星の民がいる。

 彼が、あるいは彼女が、傍にいる。


 その時、星の民は告げた。


「戻れ」








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