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9話 街へ

 ウォルが森の外に出ると速度を落とす。

 アルテは自身で気が付いていなかったが、顔色も悪く震えていた。


「大丈夫かアルテ?」


「くぅーん」


 ウォルは歩みを止めて背に乗せているアルテを気遣う。

 キースもアルテの異常に気が付いている。


「だ、大丈夫。ずっと森にいたから、思ったよりも緊張したみたい。

 変だね、こんなに外は美しいのに、少し怖いと思ってしまったんだよ」


「……大丈夫だ。俺が付いてる。それに、アルテにはウォルがいるだろ」


「ウォン!」


 任せといてよ! と言わんばかりに誇らしげに鳴くウォル。

 二人のおかげでアルテの震えは収まっていく。冷え切った指先に血脈が再び満たされていく。

 背後にいるキースの思いやりと、またがっているウォルのぬくもりがアルテを包んでくれている気がした。


「ありがとう。うん! もう大丈夫、キース、村は遠いの?」


「いや、あの山に向かってウォルなら走ってすぐだ」


「よし! ウォル、お願い!」


 再びウォルが大地を蹴って走り出す。

 美しい緑の草原に、太陽を受けて白銀に光る狼が駆ける姿は、もし、見る者がいればそれは美しく見えただろう。


「……おかしい、いつもならもう村の人間が仕事してるはずなんだが……それに、この畑は……」


 周囲に畑が見え始めるとその異常さにキースが気が付く、畑には作物が実っておらず荒れ放題。

 今日は曇り空だが普段の森の外はきっと額に汗する日々なのだろうが、からっからに土が乾いて、死んでいる。


「ところどころ積まれている植物は……腐ってるね……」


 畑の脇に積まれた草の山からは不快なにおいが発せられている。ウォルは顔をしかめながら畑の間を走り抜ける。


「見えた……おかしいぞ、木の柵がボロボロだ……」


 村の建造物は確認できるが、村を囲む堀と木の柵はところどころ壊れていて、とても人が住んでいるようには見えない。キースが離れて数か月しかたっていないはずだが、村は彼の知る場所とはまるで変ってしまっていた。


「おい! 誰かいないのか!?」


 村に入るとキースはウォルから下りて各建物を覗いて回っていく。

 どの建物にも人の気配はなく、人々の生活していた跡は消えかかっていた。


「どういうことだ!? 何が起きたんだ?」


 キースは建物の中を確認するごとに狼狽の色を濃くしていった。

 そして最後の村長の家の中で現状の謎を解くカギを見つける。


「……くそ! 村のやつらがダークの糞貴族に連れていかれたみたいだ!」


「ダーク?」


「ああ、うちの村を納めている糞野郎だ!!

 村長の日記に書いてある。急な徴収があって、何もない村は全員奴隷として……糞が!

 俺らになんて謝ってる場合じゃねーだろ……」


「いつ頃の話なの?」


「日記は……くそ、今日が何日なのか正確にわからねー……」


「僕とキース達が出会って117日だよ」


「な……覚えてるのか?」


「うん、あの日から嬉しくて毎日数えてるんだ。何日に何が起きたとかも覚えているよ」


「すげーなアルテ……まてよ、あの日は3の月の13日目だったから……今は7の月の10日目……日記が6の月の25日目だから……二週間前だな」


「ここから街までは?」


「馬車で連れてかれれば一週間くらいだな……」


「村の人数は?」


「……くそ……結構、犠牲者が出たみたいで……40人ほど……ラクサばーさんも逝ったのか……リサナばーさんが悲しむなぁ……」


「街へついて一週間、奴隷の契約ってそんなにすぐにできるの?」


「いや、40人なんてすぐには無理だ。俺だって準備に一月はかかった。

 ってことは……」


「今からすぐにあと追えば、奴隷化される前に助けられるんじゃない?」


「だけどよぉ! ダークは糞野郎だけど貴族だ……貴族に逆らえば……俺はいいけど、アルテやそれに森の皆はどーするんだよ!?」


「うーん……とりあえず、街に村の人々の様子を見に行かない?

 今どういう状況かわからなければ、どうするかも決められない」


「ああ、そ、そうだよな。すまねぇアルテ、お前に当たっても仕方がねーんだけど……

 ほんとは貴族に怖気づいて動けねぇ自分に腹が立ったんだな……すまん」


「うん、キースのそういううところ好きだから気にしないで」


「な、ば、バカ野郎! は、早く行くぞ!」


「その前に、ここで昼ごはんにしよう。ウォルもまだまだ走ってもらうことになりそうだし」


「ああ、そうだな。……ありがとよ、アルテが冷静でいてくれて助かる」


「それと、使えそうなもの捜してまとめておこう。森に持ち帰りたいから」


「おう!」


 それからキースは村の中をくまなく探索し、使えそうなものはまとめて村長の家の中に置いておく。

 アルテの作った食事を三人で平らげたらすぐに村を出発して街へと向かう。


「ウォルの早さなら2日で街につける! 頼んだ、村のやつらを助けに行こう!」


「そうそう、キースはそうやってがむしゃらに前に進んでるほうがいいよ」


「アオーーン!!」


 ウォルはキースの想いに答えるように力強く大地を蹴って進む。

 銀狼の脚力は馬の比ではない、ただの大狼ではその速度を維持できるのはわずかな時間だが、魔獣である銀狼の体力は底なしだ。

 キースの予想を反して、わずか一日半で街を視界に収める。


「し、信じらんねぇ……ウォルは凄いな!」


「ウォン!」


「それじゃぁウォル街の外で待っていてね。何かあれば呼ぶから……」


 ウォルはあたりをうかがうと街のそばにある森を見つける。


「うーーー、ウォンウォン!」


「わかった。あの森にいるんだね」


「あ、あんなに離れて大丈夫かよ?」


「ウォルはこの笛の音ならここから昨日野営したところにいても聞き取るよ」


 アルテは懐から木製の犬笛を取り出す。アルテお手製の笛だ。


「な!? ……伝説の銀狼なんだって今回の旅で思い知らされた……ウォルは凄い」


 キースに撫でられて誇らしげにウォルは胸を張る。


「街は入るのに税金がかかるんだが、じーさんたちが必要になるかもって持たせてくれた金がある。

 アルテも知ってるよな?」


「大丈夫……街へは来たことがあるよ……」


「……よし、行こう」


 キースはアルテの少し曇った表情を見逃さず、それ以上詮索はしない。

 二人は街の入口へと足早に向かっていく。


 セラの街。

 この周囲の村を納めるダーク男爵の居住のあるこのあたりで一番大きな街。

 高さ3mほどの石造りの防壁とその周囲を堀に囲まれた街。

 街の入り口は東と西に大きな門を備えており、東の門から伸びる街道は帝国首都に向かって続いていく。西門は支配する村々へと伸びていく道につながっていく。

 西門からの街への入場は比較的規制が緩く、金さえ払えば入ることが出来る。

 その理由の一つに街の中の構造にある。

 街の内部は西と東で区切られており、西は貧民街や闇市、比較的安価な店が並ぶエリアになっており、東側の高級住宅街、高級店舗へは東西を分ける壁を抜けなければいけない。

 東側の入り口の審査は厳密で、市民に与えられる証か身分を表す証が必要となる。

 その代わり街へ入る税金はかからない仕組みになっている。


 キースは念のために簡単な変装をして、二人で街へと入る。

 アルテが人の溢れる街へ来るのは、10年ぶりぐらいのことだった。

 

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