10話 身分証明書
「すごい……人がこんなにたくさん……」
「大丈夫かアルテ?」
「う、うん。村の皆と会っていなかったら、危なかったかもね……」
キースが見てもアルテの顔色はいいものとは言えなかった。
「無理するなよ、最初の中央通り抜ければわき道に出られるから」
「うん、ごめんねキース……」
「仕方ない。あと、町の中では念のために俺のことはカイラと呼んでくれ。紋は消してもらったが、町で騒ぎを起こして奴隷になっているから……」
「わかったよ、カイラ」
慣れた足取りでキースはアルテを連れて中央通りを進む、たくさんの出店が出ており人通りも多い、しばらく進むとキースは脇道へと入る。中央通りに比べるとがらりと雰囲気が変わり、落ち着いた雰囲気、少しもの悲しささえ感じてします。
「一本ずれるだけでこれだけ雰囲気が変わるんだよこっち側は、もう一本奥に入ると身の危険を感じるぜ」
キースが指をさす先の道は、暗く陰鬱な雰囲気だ。
「ま、アルテはいかねーほうがいい。お前はきっと表通りを歩く人間だと思うからな」
「そんなことないと思うけど……」
「そんなことより、目的の場所に着いたぜ。ここでアルテの身分を作るための金を得よう」
キースが目指していたのは買取屋。様々なものを買い取ってくれる商業ギルドが運営している店だ。
いつの間にか再び表通りに出ていたことにアルテは驚いた。
「表通りと呼ばれる大通りは十字に交わっているんだ。
裏を通ってもこうやって出られるって寸法だ。主要な店やギルドは大通り沿いだからな」
話しながらキースは買い取り屋の戸を押し開けて店の中に入っていく。
アルテも慌ててその後についていく。
「いらっしゃい。買取品はなんだい?」
「食糧と、皮類だな」
「どれどれ、おお、これは状態がいい……
ジメリダケもあるじゃないか! どこで……と聞くのは野暮だな」
村のために持ってきた食糧や道具をいくつか換金する。
状況が変わったので、今後を考えてある程度の金が必要だとキースは考えた。
森で手に入る素材は町で売ればいいお金になることはバウル達の総意で、今それが現実として示される。
「銀貨45枚に銅貨30枚、それと鉄銭50枚で合計453050zだ」
「……ああ……」
「あれほどの毛皮はそうそうお目にかかれない、また手に入ったらぜひうちに買い取らせてくれ」
「わかった。楽しみにしておいてくれ」
「頼むよ、毎度ありー」
乱暴に硬貨を袋にしまって足早に店を出るキース、アルテも急いでついて店を出る。
そのままキースは歩みを止めずに横道に入っていく。
「どうしたのキ、カイラ?」
「……周りに誰もいないよな?」
「……うん、僕たちだけだよ」
「ぶはーーーーっ!! びっくりしたーーー!! なんだよこの大金!!
初めて見たぞ!!」
「え? なんか慣れた感じでやり取りしてたじゃん」
「足ガタガタ震えてたんだよ! すげーな……いっぱい転がってるよなあれぐらいの皮……ゴクリ」
「想像以上に森の物は貴重なんだね」
「ああ、やばいなこれ……」
「しばらくお金を使ってなかったけど、これってどれくらいのお金なの?」
「そうだな……俺らが腹いっぱい食事して二人で1000zもあれば足りるから、3食お店で食べても3か月は暮らせる……そういう金額だ……ああ、混乱して変なたとえになったな、村だったら、一年くらいの生活費になるぞ……」
「それは凄いな……」
「と、とりあえずこれでアルテの身分証は作れる。冒険者ギルドへ行くぞ」
「うん」
落ち着いたキースは再び大通りを歩き始める。こんな大金を持ち歩いたことが無いためにずっと腰の硬貨入れを握っていた。
「は、早く入るぞ!」
足早に一つの建物に入っていくキース。周りの建物に比べても一回りぐらい大きく、立派な建物だ。
そのくせ入り口は押戸式の木戸になっており解放されている。
内部に入ると、なんというか独特の雰囲気のある人々が多く、二人を一瞥すると、見るべきところもないといった感じでふいっと興味をなくしていた。
「早く来い!」
アルテが物珍しく周囲を見渡しているとキースが声をかけてくる。
カウンターで受付の人間と話をしているようだ。
受付の女性は周囲のむさくるしい男たちと違って少し可愛らしい二人に興味を持っていたみたいで優しい笑顔で対応してくれている。栗色の髪を肩にまで垂らし、切れ長の瞳にすっと通った鼻筋、薄い唇と全体的に知的で綺麗な女性という印象を受ける。
「俺とこいつの身分証を作りたいんだ」
「どちらの身分証をご所望ですか?」
「冒険者の方を二人分だ」
「わかりました。銀貨10枚になりますが」
キースは素早く銀貨をカウンターに置く。
「こちらに記入してください」
「あっちで書けるから行くぞ……」
キースとアルテは足早にテーブルに移動する。
「ねぇか、か、か「カイラ」カイラ、さっきのどちらのってのはどういうこと?」
アルテは用紙に必要なことを書いていく。
名前、はさすがに皇帝の名を書くわけにもいかないし、襲われた当時の名前を書くわけにもいかないので偽名にすることは決定していた。
アルテ=ピースメイカー
伝説の冒険者ガットランド=ピースメイカーから取った名前だった。
「ああ、村人登録とかの身分証と冒険者としての登録があるんだよ。
村人登録は村長からの書類があれば無料だ。冒険者は……まぁ、訳アリであることが多いな。
お金さえ払えば作れるもんだ。信用度は……冒険者ランクを上げればつく
思ったよりもお金に余裕が出来たから、ついでに俺も作る。さすがに奴隷のままじゃ何もできない……」
カイラ=ホーランド
伝説の冒険者ガットランドの相棒のベグウッド=ホーランドから取っている。
誰がどう見ても偽名なのは一目瞭然だが、ギルドは金さえもらえば気にはしない。
過去も何にも関係ない、彼ら二人は、今冒険者として産声を上げた新しい冒険者でしかない。
「もちろん、奴隷紋なんてついてたらこんなこともできないけど、お前のおかげで今は自由だからさ」
小声でキースがアルテに耳打ちをする。
二人で書類を提出すると手続きは進んでいく、しばらく待たされて呼ばれると妙な機械がカウンターに置かれている。
「それじゃぁまずアルテさんからこの手形に合わせて手を乗せて」
「はい」
アルテが手を乗せて受付嬢が操作をすると上部に置かれた小型のカードの石が光り始める。
「お前の魔紋を刻んでいるんだ。お前が触らないと光らないから本人証明になるんだ」
続いてキースも同じようにカードを作成する。
キースは過去に村人としての身分証を持っているが、奴隷紋が消えた時に魔術師によって死亡認定されている。もちろん二人はそんなことを知る由もない。
「このカードは無くさないでくださいね。再発行もできますが、銀貨10枚かかりますし、期間もかかります。
まぁ、他人のカードを盗んでも役に立たないので、戦いや事故で落とさないように注意してください。
頑丈なのは折り紙付きです! 良くこれを胸元に入れておいたから助かったって話もありますよ。
それと冒険者についての説明はいりますか?」
「お願いしていいかな? こいつは世間知らずだからさ」
「ふふっ、それでは簡単に。
冒険者はこちらの冒険者ギルドに寄せられた依頼をこなしたり、ダンジョンなどを探検したりすることで生活する人々の総称です。
未知のダンジョンで巨万の富を得るもよし、地道に依頼をこなすもよし、その功績はそちらの冒険者カードに蓄積されていきます。
冒険者クラスはSSS,SS,S,AAA,AA,A,B,C,D,E,F,Gそしてみなさんのルーキーを示すRに分けられます。
Cクラスまでは一年に一度の更新費用が掛かりますが、Bクラスになれば免除となります。
Rクラスだけは3か月以内にGクラスに上がれなければ冒険者カード取り消しとなりますので、最初の目標はGクラスになってください。
地道に依頼をこなせば一か月もせずにGにはなりますから」
それからあたりまえの、犯罪をするなとか一般常識を説明され、お開きとなった。
アルテの熱心に聞く姿勢を気に入ったお姉さんは名前を教えてくれた。
「私はカレンよ、ルーキーさん。これからよろしくね」
周りの冒険者らしき男たちが少し悔しそうにしていた。
こうしてアルテとキースは冒険者として生まれ変わったのであった。




