27話 終戦
ジレッタ達、兵士たちの士気は最低だった……
混乱のまま、どう見ても無謀な突撃を強いられた。
敵は完全にこの場所に防衛の要を完成させている。
深い堀、高い壁、とりあえず突撃したり弓を射るも、何の成果も出せない。
「ひ、火矢だ! 火矢を使え!!」
「いけませんジレッタ様、万が一火災になれば魔物があふれ出します!!」
「やらねば、妻が、娘が!!」
『ジレッタ中佐……貴方の娘と妻は我らが保護下に収めました。それに、兵士諸君、皆の家族もすでに安全な場所へと非難させている。もちろん、今の帝国に忠誠を尽くすのなら我らは胸を張ってお相手しよう。
もし、そうでないのなら、我らは皆を受け入れる準備がある』
兵士たちのどん底の士気をぶち壊す報告がされたのは、右往左往どう攻めればわからずにオロオロするばかりだった最中であった。
「母さん! ちょっと! 知らない話ばかりでなにがなんだかわからないんだけど!」
「ペステ殿、先ほどの話は本当なのですか?」
しばし時を与えてほしいというジレッタの申し出を受けて、ピースメイカー軍内部でもペステに質問が集中する。
「皇帝の話は、半分本当で半分はブラフね。
確証はないわ、それでも証拠を積み上げていくと、どうやら間違いないと思う。
薬を使って無理やりの線もありるかもしれないけど、先代皇帝は筋金入りだから」
「筋金入り?」
ペステはアルテに聞かれないように唇の動きだけで大人たちに伝える。
先代皇帝は筋金入りの巨乳好きであることを。
そして一同は納得する。現皇帝の母であるヴェルトジークの娘は、まな板だ。
ペステは、見事な物を持っている。
「なに? 何の話?」
「いや、アルテ様、それよりも今は敵の反応を待ちましょう」
バーゼルが強引に話を戻す。
なお、バーゼルは表だって行動するのは控えている。
名の売れた人物である以上、アルテたちがある程度の力を得て、表立って大貴族が支援できる状態になるまでは後方待機と決めている。
「敵のよりどころであった家族を保護している以上、たぶん白旗を上げてくると思うわ。
アルテ殿に無駄な血を流させないためにも最善と判断しました」
「アルテ殿を試されたのですね」
「……ありがとう、ペステ。今回はその好意に甘えるとする。
でも、次からは僕は戦いを、血を流すことに躊躇しないようにするよ」
「はい。お辛いでしょうが、それがこの帝国で立つということですから。
まぁ、取り込めそうな戦力は取り込んだ。という面もありますから過分な礼は不要です。
そして、すぐにでもあの町を落とさなければいけませんから、これからが大変です」
「セラの街を?」
「ええ、そこを抑えなければ、帝国全土にアルテ様の名を響かせられませんからね。
さらに、セラを落とせば北のアイスバーグ、南のドラグガフトも協力しやすいですしね。
もう一つ加えれば、あの町を治めているダーク男爵はヴァルトジーク派筆頭ヴァルゼン侯爵の下っ端。
言って見ればちょうどいい感じの小物なんですよ」
帝国内の地図を示しながら理路整然と状況の説明と狙いを説明していくペステ、その見事な手腕に一同は静かに聞くことしかできなかった。
「ペステ、こういうことは事前に説明してもらえると助かるのだけども……」
「失礼、今回はいろいろとギリギリだったもので、特に敵兵の家族を匿うのは成功するかどうかというところでしたので、今後は少し余裕を持って行動できるようにコントロールしますね」
にっこりと笑うその笑みが頼りがいもあるが、少し怖く感じた人も少なくなかった。
「セラの街の残存兵力は300、流石にジレッタ中佐の軍は使用できませんから、こちらも100は彼らの監視やお世話に残して、200の兵でセラを落とさなければいけません。
ジレッタ殿がこちらに降ってくだされば、町の中から扇動して一気に男爵邸まで攻め落としましょう」
「ペステ殿はどこまで手を回しておられるのだ……」
「うふふふふ……」
間もなく、ペステの読み通りジレッタ以下500名の兵士は投降した。
砦内部の兵装の充実に驚き、この戦いが、ピースメイカー軍が本気であれば、自分たちが屍の山になっていたことを確信し、ジレッタもピースメイカー軍へと完全に降るのであった。
「なんと、ドラグガフトの鉄壁、バーゼル殿まで……我らに勝てる道理などなかったのですね」
「ジレッタ殿もおつらい立場でしたでしょうに、ご婦人とご息女は数日以内に街へと保護いたします」
「アルテ様、私も今回の件で目が覚めました。妻や子を人質に取り、兵士たちを奴隷にすると脅すようなやり方がまかり通る現在の帝国は変えなければなりません。
私の命はどうなっても構いません。どうか家族の幸せと、部下たちには温情を与えてくださいますようにお願いいたします」
「ジレッタ殿、貴方のご覚悟しかと受け止めました。
しかし、僕には一人でも多くの力を貸していただきたい。
兵士の皆さんもその家族もピースメイカー軍が安全をお約束します。
どうかジレット殿も僕に力を貸してもらえないだろうか?」
「もったいないお言葉、このジレッタ身命をアルテ様にお預けいたします!」
セラの街攻防戦は、戦が始まる前に、すでに終了していた。




