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21話 金狼立つ

「アルテ様……いや、アルテ・ライトディア陛下!

 今こそライトディア帝国の正当な後継者としてこの地に国を興しましょう!!」


「村長……知ってたんだ……」


「バウルから聞きました……数々のご無礼、なにとぞ「そこまでにしよう。」


 アルテはふぅっと一息をつき村長をまっすぐと見つめる。


「僕は皆と一緒に過ごす仲間だと思っている。それはこれからも変わらない。

 それでも、確かにいろいろ考えると今の帝国と対立関係は避けられないと思う。

 それでも僕は、出来れば自分の名を出したくはないと考えていた。

 この名前を出せば、帝国は僕を絶対に許さない、帝国全ての力を向けた戦いになる。

 そうなれば、僕たちに勝ち目はない」


 村長は自らの浅はかな発言を恥じるしかなかった。

 アルテ自身は村長が考えるより遥かに先まで考えて名乗らずにいたのだ。


「わ、私はまた愚かなことを……」


「いや、いいんだ村長。僕が覚悟が足らなかったのかもしれない……」


「……アルテ……陛下と言ったほうがいいのか?」


 マギウスが真剣な顔でアルテを見つめている。普段の彼は飄々としているので、その態度に只者ではない気配をアルテは感じた。


「今まで通りでいいよ」


「そうか、アルテ……もし、その名を使うなら、リーダーから言伝がある。

 『もし、アルテ・ピースメーカー氏が何らかの形で表舞台に出るというなら、この手紙を渡しなさい』

 そして、その手紙がこれだ」


「……漆黒の封筒……失礼……こ、この紋は!? まさがドラグガフト家!」


 ファーンは封筒を確かめる。真っ黒い封筒の裏には見事な竜の封印が施されていた。そのマークは帝国でもっとも古い歴史を持つ公爵家ドラグガフト家の紋章だった。


「ファーン、開けてもらっていい?」


「は、はい!」


 少し震える手で封筒を開けると、中には真っ青な紙が二枚。


「……? すみません、何も書いていないようです……」


 ファーンが紙をアルテ手渡す。


「あっ!」


 アルテが持つとその青い紙に赤い文字が浮かび上がってくる。

 その光景を見届けたマギウスは立ち上がり、アルテの前に跪くと臣下の礼を取る。


「アルテ陛下、命の恩人である貴方様に恩を返すためにこの日までおりましたが、ただいまをもって私マギウス・デュッセルは陛下の忠実な配下となります。どうぞお役立てください」


「アルテ陛下、私もマギウスと同じく、ただいまより陛下の配下として使ってくださいませ」


 ファーンまでもが臣下の礼を取り始める。

 ファーンもマギウスもその神に秘められた文字の意味を理解した。


『真の皇帝陛下に、忠誠を誓います。ライオネル・ドラグガフト』


『必ずや皇帝陛下のお力となります。ローザス・アイスバーグ』


 アイスバーグ家も歴史ある家で侯爵家、北部に巨大な鉱石地帯を持ち、その豊富な資源を背景に、帝国でも大きな力を持っている。

 ドラグガフト家、アイスバーグ家はともに新皇帝、正確にはその背後にいるヴァルトジーク大公によって苦汁をなめさせられている。

 さすがに表立って領地を取り上げたりはしないが、地味な嫌がらせを受けて、少しづつその力を削がれつつあった。

 両家共に帝国を支える貴族としてのプライドと責任から、嫌々ながらも新皇帝を支え続けていた。

 その両家から、協力を申し出る手紙に相違なかった。

 皇帝の血を引く人物しか読むことのできない手紙によって、彼らの覚悟はうかがい知れる。

 彼らは信じていた。いつの日か皇帝の血を引く者が現れ、今の腐りきった帝国を正してくれることを……


「マギウス、黒い羽根のリーダーは何者なんだ?」


 カイラの疑問も最もだ。

 このような手紙を託される人物ということは帝国内全土にネットワークを持ち、さらには公爵家にも絶大な信頼を置かれていることになる。


「それは俺にもわからない、だが、アルテ陛下がお立ちになるならば、リーダー自身が陛下の前に現れるはずだ……」


「お、俺も陛下って呼んだ方がいい?」


「カイラ、怒るぞ……」


「で、でもさぁ……」


「とりあえず。この二人に連絡を取ろう。すべてはそれからだ……

 それでも、戦いになることは、避けられそうにないね。

 僕も、逃げるのはやめる。村長の言う通り、この国を、今の非道な貴族から取り戻さないと!」


 アルテは決意する。

 母から受け継いだ首飾りを懐から取り出す。もう隠すことは無い。


 それから、森の民へアルテは自分の出自とその証である首飾りを示す。

 そして、これから、帝国を相手取っての大きく長い戦いが始まるだろう話をする。

 村を出る者は止めない、食糧を持って出て行って構わないと話した。


 しかし、誰一人街を出るという選択をする者はいなかった。


「皇帝陛下バンザーイ!」


「アルテ様は初代皇帝の生まれ変わりだ!」


「銀狼ウォル様バンザーイ!!」


「非道なヴァルトジークを倒せ! 帝国を取り戻せ!!」


 町の中心部の広場に集まった人々は、混迷した帝国に現れた救世主に熱狂した。


 アルテ・ライトディアが自らの決意を語ったこの日を新生帝国元年とされる。

 死の森に築かれた街は彼の名乗った冒険者名よりピースメイカー、平和を築く街と名付けられた。

 基本的には軍事面をマギウス。政治面をファーンが中心となって動き出した。

 カイラは皇帝付き料理長としてその素晴らしい功績の第一歩を建国の宴の料理で存分に振るうのだった。

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