14話 ギルドマスター
冒険者ギルドに到着すると、噂の二人を見ようと人が集まっていた。
カイラは自分の容姿に少し手を入れていたことを安堵する。
これだけ多くの人が居ればキースとしての自分を知る者もいるだろう、カイラの髪は明るい赤っぽい茶色、以前のキースは暗いこげ茶色だった。森にあった果実の実から取れる汁を使って髪の色を変えていた。
これから大きな取引をすれば当然目立つことになるだろうからという対策だったが、大正解だった。
さらに森で生活をしていたキースは、以前の細身な肉体からは想像できないほど、ガタイがよくなっている。
よく知る者でもなければ遠目ではキースとは気が付かず、冒険者カイラとして認識する。
「待っていたよ。取りあえず、その車ごと裏で話そう」
ギルドの前では職員がわざわざ待っていた。
ギルドの建物の裏手に回ると比較的広い空間がある。
ここはギルドの訓練場的な場所でもあり、周囲の建物もギルドの建物の一部となっている。
荷車を入れても十分な広さがある。
「……どういうつもり?」「グルルルル……」
広間に入ってすぐにアルテとウォルが異変に気が付く。
今通った道にはギルドの職員が立ち、まるで帰り道を塞ぐような動きを見せる。
「ほう……なるほど、只者じゃないのは確かみたいだな」
先ほど二人を迎えた人懐っこい中年の声からはうってかわって威厳さえ感じる野太い声、それにまるで体躯が一回り大きくなったかのように錯覚する威圧感を受ける。
「貴方は只者じゃないですね。かなり強い」
「お、おい、アルテ……」
「でも、あんまりいい気分はしないですよ? こんなことされるのは」
うなるウォルの前に立ち、その人物の瞳をアルテはまっすぐに見つめる。
その視線には少し怒気をはらんでいた。
「……こ、これは……!? お、お前、いや、貴方は一体……」
その瞳の奥底に輝く煌めきに気が付いた男はアルテに名を訪ねる。
アルテは、懐から首飾りを取り出す。決して人には見せるなと言われたが、アルテは直感的にそれを取り出した。
「……!! その、その赤い輝きは!!」
アルテは人差し指を唇に当て、静かに首飾りを懐に戻す。
同時にはじけるように男は片膝をつきこぶしを合わせるように礼を示す姿勢を取る。
「大変なご無礼をいたしました。私はべりオン。冒険者ギルドの責任者をさせていただいております。
あれだけの功績をあげられたお二人に多大な失礼をいたしたこと、重ねて陳謝いたします」
ベリオンが右手を払うようなしぐさをすると、帰り道にいた職員や周囲からの敵意が消える。
ウォルも険しい顔を崩してその場に伏せる。
「わかっていただけて良かったです。こちらも訳アリなので」
「お、おいアルテ、何が起きたんだ?」
「誤解が解けただけだよカイラ」
「詳しいお話は私の部屋で、そちらの……銀狼様はこちらでお待ちいただいてよろしいですか?」
「わかるんだ」
「もちろんです!」
そう答えたベリオンの目にはうっすらと涙が溜まっていた。
それからアルテとカイラはベリオンの部屋、ギルドマスターの部屋へと通される。
「誰も入れないように」
ベリオンは職員にそう告げて扉を閉める。
これで内部の情報は絶対に外には出ることは無い。
「改めまして、アルテ様、カイラ様この度は多数の魔物討伐にご助力いただきありがとうございます。
持ち込まれた物はすべて本物、さらに中にはリーダー級やヒーロー級の物まで確認しました。
やはり噂通り森にはそれほど恐ろしい魔物がいるのですね」
二人が応接用のソファーに腰かけると正面に腰かけたベリオンは話し始める。
同時にベリオンは慈しむような目でアルテの姿を見ている。
「アルテ様、こちらのカイラ様とはどのようなご関係で……」
すこし鋭い目線でベリオンが問いただしてくる。
「冒険者仲間、そう、仲間です。ほかにも少数の仲間と共に森で暮らしています」
「お、おいアルテ」
「大丈夫、この人は大丈夫だよカイラ」
「……少々私の話を聞いていただけますか?
私の名前はベリオン・マックスウルフ、元は皇帝直属の近衛騎士団長を務めておりました」
とんでもない名前を聞いてカイラはごくりと喉を鳴らしてしまう。
マックスウルフ家、代々皇帝に仕える近衛騎士団長の家名だった。
先代の騎士団長は歴代最強との声も多く、カイラ自身が剣士を目指した憧れの存在でもあった。
「先代皇帝が崩御なされ、その死を不審に思い独自に調査を進めておりましたら、突然騎士団長の任を解かれ、このギルドの管理を任されました。そして、先代からはいろいろなお話を伺っておりました」
アルテには今の発言だけで十分だった。
この元騎士団長は、先代に帝国の外に子がいることを知っていたのだ。
首飾りを持ち、赤い光を放ち、伝説の銀狼とともに現れた青年の正体も理解したことも。
「……死の森……いや、恵みの森となる日も近そうですな。
商業ギルドからも連絡をもらっております。すでに口座にはお二人に分けて入金してあります。
どうぞ、お使いください。さらにこちらの魔物の報酬の内訳、そちらも一緒に……」
ベリオンが取り出した紙には持ち込まれた魔物の素材の一覧と、依頼達成内容、それに買取金額が書かれている。
「全て出金されると我がギルドが潰れてしまいますな、ハッハッハ!!」
「ひ、一人……750万z……」
カイラはパンツとズボンを濡らしそうになるのを必死でこらえる。
「そちらの銀貨もこちらで預かりましょう。いつまでもお持ちになるのは危険でしょう。
10枚づつほどお渡しすればよろしいですか?」
ウンウンウンウンとカイラは壊れたようにうなづく。アルテは銀貨の入った布袋をベリオンに手渡す。
ベリオンは袋を受け取ると、そのままアルテの手をがっしりと両手で握りしめる。
「よくぞ、よくぞご無事で……」
とうとう隠し切れず、涙を流すベリオン。
さすがにカイラもその様子をいぶかしげに見ていたが、アルテの目が後で話すと告げていたのでその場はその気持ちを抑えておいた。
それから現状の話しと町へ来た目的を話し、ベリオンは苦い顔をする。
「それは……黒い羽根でも少し苦労するかもしれませんね、あのあたりを治めている貴族のボスはヴァルトジーク卿の甥にあたるヴァルゼン侯爵ですから。なんというか、悪辣な方です」
帝国は皇帝を頂点に貴族が支配階級に存在する。
大公、公爵、侯爵、辺境伯、伯爵、子爵、男爵、ここまでが貴族と呼ばれる家名を持つ歴史ある家々、その下には準男爵、騎士となっていく。
マックスウルフ家は特殊で名誉騎士、という位置づけで侯爵と同等だった。
現在はただの騎士扱いになってしまっている。
「とりあえず、連絡を待つしかない……」
「私の方でも少し調べておきます。なんにせよお気を付けください。
お二人はすでに街での有名人ですからな」
誇らしげに笑うベリオンの笑顔はとても嬉しそうだった。




