託されたお願い
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控え室で用意してあったミネラルウォーターを飲み暇を持て余していると、元気な声が近づいてくるのが分かった。
声からして三心であろう。廊下の声がドアを挟んだ楽屋にまで響く声のデカさに呆れる。
「おっしゃー。今日もREIと一緒の撮影じゃん!」
二人で映った表紙のBiBiが発売されて以来、完全に二人セットでの仕事が増えた。しかも毎回どのカメラマンも笑えと強要してくる。そこは「はい」と答えながら、笑う努力をするのだが、未だ俺が笑った写真を撮れたカメラマンはいない。撮られる事で表情を要求されるようになり初めて気づいたのだが俺は人より表情筋の発達が進んでいないようだ。こんなところに、ひきこもりの弊害があったようだ。
「REI君笑ってー」
「はい」
「お前のそのカメラマンの言うこと無視する度胸すげーよ」
三心はどうやら俺が笑わないと思っているみたいだが、笑わないのではなく笑えないだけだ。
カメラマンの要求通りの表情が作れなくても、カメラマンは俺を責めることはしないし、毎回俺を撮れて良かったと伝えてくる。
そう言われるたびに、三心は横で「このイケメンめ」とキーっとなっているのだが、それはほぼ無視だ。
「いいよいいよー」
「二人もっと近づいて-」
「ちょっと三心君、REI君にじゃれる感じで」
三心が俺の腰に手を回してくる。
「おい、やめろ」
「なになにー。いや、俺お前みたいにカメラマンの指示に逆らえないからさー。はーい。もっとですかー。」
調子にのって三心が手を進め、もう俺に三心が抱きつくような体勢になっている。
「くそっ」
俺は一瞬で三心の手から下へ逃げ、身体をひねるようにして三心の後ろをとる。そして、さきほど三心が俺にしていたような腰に手を回した体勢をとり、その肩に顎を乗せた。
「逆転だな。」
カメラに向けてちょっとしてやったりな笑みを浮かべる。
カメラマンもいきなりのポージングチェンジに驚いていたがシャッターを切るのは止めない
三心は先ほど俺がやった腕抜けを必死にやろうとしているが、抜けられず俺の腕の中でジタバタもがいている。そしてそのまま、カメラマンは俺の腕の中でぐったりしている三心を見て、笑いながら撮影の終了を告げた。
「くっそー。今日は俺の負けか・・」
「まだやってるのか?それ」
先ほどまで暴れまくってぐったりしていた三心は、終了後の一瞬の休憩で復活したようだ。
「なあ。今日は差し入れはねーの」
「ない」
「まじかよ。つまんねー」
毎日毎日、それに雑誌の撮影でいちいち差し入れをもらっていたらキリがない。
「無駄に疲れた。」
「なになにー。俺と一緒の撮影で楽しかったくせに。」
「はぁ。」
控え室にもどると一気に撮影でふざけすぎたと後悔が襲ってくる。コーヒーを二人分入れ、三心のものには砂糖とミルクをたっぷり入れてやる。コーヒーを飲んでいる三心を見たことはないが原型を留めていないコーヒー牛乳は甘党の彼にピッタリだ。
三心はケータリングに用意してあったクッキーを両手にいっぱいもって帰ってきた。戻ってきた三心にコーヒーカップを渡す。
「おー。まさかこれ俺のか?」
「おう」
「サンキュ」
ゆっくりと熱いコーヒーを身体に入れるように飲んでいると訪問者を告げるノックの音が楽屋に響く
「REIさん。お願いがあるんです」
そういって入ってきたのは見覚えのある顔。ショートカットの髪を耳にかけ、スラっとした身長を際立たせるタイトなパンツを着こなした智加が立っていた。
隣にいた三心が耳元でぼそっと声をかけてくる。
「この子ってあれだよな。姫さんと仲いい子。」
「だな」
三心は人差し指でどこか居心地悪そうに顔をかいている。とりあえず、智加をずっと立たせて置くわけにもいかず、楽屋の中に案内する。その隙を狙って、三心が動く気配がしたので、横を見ると、廊下に出ようとする三心の姿があった。
「いや、ちょっとトイレにいこうかなーっと思ってて」
一人逃げ出そうとする三心の首根っこを引っ込め、隣に引っ張る。俺一人で女の子の相談なんて絶対面倒くさい。彼女との接点は、咲良関係でしかない。相談といったら、三心も無関係では無いということで巻き込ませてもらおう。
「ぜってー、この前の姫さんのやつじゃん。」
逃げるタイミングを逃した三心ばぶーたれながらも素直についてくるので、そのままお茶を入れるよう頼む。
それでも、逃げる最後のチャンスとばかりに智加に声をかける。
「えーっと、それって俺も聞いていい話しかな?」
「構いません」
「で、なに?」
落ち着かないのかソワソワしている智加にREIが言葉を促すように声をかける
「相談と言うのは。あの子と友達になってください」
あの子、というのは咲良の事だろうか。共通の知り合いなど彼女しかいなから間違いないだろうが。言われた事が突拍子も無さすぎて頭の処理が追いつかず返事が遅れる。咲良とは今、友だちとは正反対の関係であると自負している。
「似てるって言われたことありません?咲良に」
似てる?確かに強烈な印象が残っている仮面の話をしていた時にそんなことを言っていたような気もする。
「ああ」
俺の返事を待ち、智加は続ける。
「咲良は芸能界で孤独な子なんです」
「はぁ、孤独?姫さんが?」
どこから聞いていたのか、お茶を零さないように運びながら三心が口を出す。智加は三心からありがとうとお茶を受け取り、大きく頷く。
三心と顔を見合わせる。どうやらこの前の雑誌の表紙の件を攻めるわけではなく、それでいてちょっと理解しがたい話であった。
「詳しくは言えないけど…。よろしくお願いします」
それだけ伝えると、智加は出されたお茶を一気に飲み、一礼をして楽屋から去っていった。
しかし、お願いされても困る。
「おい、まて」
俺は去ろうとする智加を呼び止めた。智加は、振り向き足を止める。
「お前は?」
「私じゃダメなんです。私とは違うから。」
「じゃあ俺が姫さんの友達になっちゃおうかなー」
「あんたも違うからダメよ」
三心の冗談半分な提案も智加に一言でKOされてしまった。智加や三心では違う?咲良が俺の事を似ていると言っていたのと関係あるのか?しかし、似ている要素などどこにも感じない。
「最近の咲良を見て思うんです。多分彼女はもう限界です。」
「だから、あなたにお願いしているんです。」
じっと目を見つめ、真剣にそう言い残し、智加は今度こそ本当に去っていった。
「ちょっとまてよ、おいおい。よく分からないけど、頑張れよREI。」
自分は関係ないと、笑顔でそう言う三心にとりあえず茶碗を渡した。
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レイ>なんか「友達になってあげて」って言われた
あきら>wwwwww
レイ>笑うな。これはお前への俺からの真剣な相談だwww
あきら>なになに俺レイから相談されてるの?www
あきら>こりゃ俺の腕の見せ所だな
あきら>にしても面白いやつだなー。そんなこといって友達になるやついないだろ
レイ>そいつが、孤独だから・・・とか言ってたな。孤独そうには見えないやつなんだがな
あきら>まあ、人は見かけによらないって言うしな
レイ>いや、あんなよく分からん女どうしたらいいっていうんだ
あきら>そいつ女か?
レイ>ああ
あきら>ああー。女はな、なに考えてるか分からないからな。気をつけろよレイ
レイ>なんだ?それはお前の体験談か?
あきら>まーな。いっやーだって絶対お前女慣れしてねーだろwww
レイ>うるせーwww
あきら>俺は、誰に何を言われたとしても、お前が友達になりたいかなりたくないか
あきら>本人を見定め決めればいいと思うぞ
あきら>ただな、女には優しくな
レイ>それも経験談か?
あきら>どーてー君へのアドバイスだ
レイ>黙れどーてー
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