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クリスマスの朝

 増さん一家の朝は戦場だ。

 現在大学二回生双子の長男次男に、青春謳歌中の三男は中学三年生、そして一家のお姫様である小学三年の末娘と、近年珍しい六人家族は、時たま訪れる『休戦日』を除いて常に戦いを繰り広げている。

 慌しく朝食の仕度を整えた長男優一は、末姫くりすの部屋へ向かうと、布団に包まる少女を優しく揺り起こした。朝だよ、くりす。呼びかけに応じ目を擦るくりすに、優一はさらに囁いた。

「届いているぞ」

 何を、とは言わない。

 けれども優一のその一言でくりすはぱちくりと目を瞬かせると、すぐさま身体を起こしていた。まん丸に目を見開いて、ベッドに腰掛ける優一を見上げる。

「ほんとう!?」

「もちろん。優兄が嘘をついたことがあったか?」

「うん!」

 元気よく返事をすると、お姫様は部屋を飛び出しリビングへとさっさと駆け出した。

「そこはううんって、いうべきところじゃないのかな」

 苦笑しながら呟いて、優一は部屋を出ると戸を閉めた。――――隣の部屋から聞こえる、次男秀一の怒鳴り声を聞きながら。

「だっから、起きろっつってんだろうが!」

 布団を引っぺがし蹴りを食らわし怒声をあびせ、それでも足りないやつにはどうするべきか。

 即座に答えを導き出した秀一は、近くの棚に飾ってある置物へと手を伸ばした。手にした置物を高く高く持ち上げて、いまだ惰眠を貪りつづける三男真二の頭めがけて思い切りよく振り下ろす。

 がこんっ。

 間一髪、野生のカンが告げたのかはたまた運がよかったのか。一撃を避けた真二は、響いた鈍い音の正体を知って青ざめ叫んだ。

「死んじゃうじゃんかそんなことしたら!」

「ったらそうなる前に起きろってんだ!」

 てめーの分も俺がもらうぞ!

 兄の言葉にぴしりと固まった弟は、次の瞬間はじかれたように布団から自主的に飛び出した。転げるように部屋をでて、目指す先はリビングだ。

「プレゼント! 忘れてた!」

 遅れて聞こえてくる歓声に、やれやれと秀一は肩をすくめる。

 今日は十二月二十五日、クリスマス。

 サンタクロースからの贈り物は、どんな目覚ましよりも効果的だ。



「今日は優兄も秀兄もバイトなんだよね?」

 くりすの問いかけに、ご飯のおかわりをよそってやりながら優一は頷いた。

「あぁ、だから真二と大人しく待っていてくれな?」

「ケーキ買って来てくれるんだよね、俺ショートケーキ!」

「あ? 何言ってんだ、チョコに決まってんだろチョ・コ・レ・エ・ト」

「えー。くりすブッシュ・ド・ノエルがいい」

 おのおのの好き勝手な主張を聞きながら、呆れ顔で優一は卵焼きを口へと運ぶ。

「秀はチョコ、真二はいちご、くりすはノエルな。ちゃんと買ってくるから安心しろ」

 大根卸しをつけた出し巻き卵の味に、自画自賛しながら優一は頷いた。

「え、今年ってホールじゃないの!?」

「ホールにしてほしかったら好みを統一するか、遠慮という美徳を身につけるんだな。兄ちゃんみたいに」

「……優、お前遠慮って言葉一度辞書で引きなおせ」

「さて、そろそろ時間だな」

 片割れの忠告を軽く流して、優一は立ち上がった。続く秀一とふたり自分の食器を片付けると、上着をきて鞄を手にする。

 子供たちの手がかからなくなったことをきっかけに、両親は年に一度、夫婦水入らずで旅行することを宣言した。その宣言通りに、昨日から増夫妻は二泊三日の温泉旅行の真っ最中。

 つまり今夜は、四人だけでクリスマスを過ごすことになる。

 はやく帰ってきてね!

 期待に満ちたくりすの笑顔に見送られながら、二人はそれぞれバイト先へと向かったのだった。

短編であげてもいいかな、と思ったのですが投稿作品の練習もかねて連載にしてみました。季節はずれなお話ですが、しばらくお付き合いいただけると幸いです(^^)


※3/6誤字脱字修正

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