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帰路(5)

実はこの帰路というタイトルが付いたお話しは三話で終わる予定でした。帰路が終わって新章! はっじまっるよー! だったんですがエレオノーレ達が勝手に動いてこんな回り道になっています。あと一話ぐらい続きそうです。

 脳震盪の振りをしながらアルフォンスが再び〝神術〟を行使する。

 次に行うのは風精による捕縛の〝神術〟だ。周囲の空気をかき集め、囚われた者を内側に押し留める高風圧の風の渦を作るとエレオノーレの周囲を取り囲む。この風の渦は熊を始めとした猛獣を無傷で捉えるのによく使われている。現状のアルフォンスの力量ではこの捕縛系統の〝神術〟が察知されぬ最高の術だ。

 そしてそれは成功し、エレオノーレを内に捕らえる事に成功した。――一瞬だけ。

「アルフォンスさん、もう演技はいいですよ?」

 エレオノーレがくすりと笑う。それは敵意のない、僅かに賞賛が混じった笑みだ。

 アルフォンスは現在脳震盪の振りをしており、地に右足を立てて左膝を突け、手の平を額に当てて俯いている片膝立ちだ。その彼の視線の先、今にも抜けそうな木床。右足と左膝の間に何かが突き立っている。

 それは鈍色の輝きを放っており、彼の人差し指の長さに換算して一本と半分程度の長さの金属だ。投げるための持ち手は短く、まるで子供が扱うようなもの。それはアルフォンスがエレオノーレと出会った時、全体が軽く、刀身が短い小ぶりの物ながらも狼を一撃で死に至らしめた刃。

(投げナイフ……!)

 それがアルフォンスを牽制するかのように床に突き立っていた。ナイフが突き立ち、それを理解した瞬間〝神術〟の維持に必要な集中が吹っ飛んだ。

「やっぱり貴方でしたか。脳震盪にしてもとっくに立ち直っている時間はあるはずなのにいつまでもしゃがみ込んでいるから変だと思ったら」

「はは……エレオノーレさんこそ、よく〝熊囲い〟に囚われているのに投げれましたね……」

 アルフォンスが繰り出した風の捕縛神術、猟師達の間で熊囲いと呼ばれているそれは外からも内からも生半可な攻撃を通さぬと言われている。戦闘系の神術や大質量の攻撃ならば通してしまうが、個人で行う剣や弓と言った物理攻撃は余程威力を乗せないと風の渦に阻まれて本来の太刀筋、射線から弾かれ、逸れてしまう。それなのにエレオノーレは指一本すら動かすのもままならぬあの風の檻の中からアルフォンスの足元へ正確にナイフを投げて見せた。盗賊の祠で岩壁を腕一本で打ち崩した光景を思い出してアルフォンスはこの人なら出来ても可笑しくは無いと思った。

「凄いですねアルフォンスさん。〝神術〟は使えないだけで感覚は他の普通のエルフと同じ私に気付かせないなんて。才能ですかね? それとも努力? まぁなんにせよ邪魔しないで下さいね。恩人に手荒な真似はしたくないので」

 さて、と一つ置いて、

「リンゼ、いい加減にそいつを私にくれませんか?」

「イヤよ。アンタこそ諦めなさい」

 エレオノーレは目を細めてリンゼを見て、直ぐに彼女の背後に居る少女に視線を滑らせた。

 どこか見覚えがある白の旅装。純白のローブとフードが一体になったクロークだ。両肩に風を表した銀の刺繍。クロークの淵には蔓草を模った様な銀の刺繍が施されている。胸倉を掴んだ時の感触をエレオノーレは思い出す。一級品どころか特級品の絹とも手触りが違う。雛鳥の羽毛のように柔らかく、まるで〝命力〟のような生命の波動を感じた。服飾に疎い者が見ても一目で上物だと分かる代物だ。

 どこかで触った事がある、と思いながらも少女の相貌を見る。身長の差を入れれば殆ど己と同じ長さのふんわりとした金の髪、澄んだ湖底で光を受けて煌くような翡翠色の瞳。目鼻立ちは少々幼く、恐怖のせいか今は僅かに青い形の整った唇は本来なら活力を感じさせる桃色だっただろう。さすがに細かい顔の造形は違うが丹念に手入れをされ、十分美しいと言えた。全てのエルフは精霊に愛され、外見は非常に美しい。それが混血だったとしても変わらない。余程薄ければ話しは別だがエルフの血が混じっていれば無条件に精霊の慈愛を受けるが、純血、混血問わずその美は作り物だとあざ笑われる事もあり、やはり目の前の少女のような自然の美しさが尊ばれた。

 別段己が美人だと言うわけではない。エルフが己の美を誇ってもそれは精霊がより愛情を注げるように、より美しくなるように魂を加工し、肉体がそれに追従しているだけのものだ。まるで彫刻するかのように魂の形を勝手に変えられてもそれを変に思うエルフは居ない。エレオノーレも勿論そうだった。

 恐怖で彩られ、涙を湛えた少女の翡翠色の瞳がエレオノーレを見返す。恐れ以外に何も浮かんでいない。それを見てエレオノーレは苛立つ。

「なんですかその目。化け物か何かに見えてるんですかね?」

 一歩近付く。リンゼが少女を背後に庇ったまま一歩下がる。

「別に化け物に見られようがなんだろうが構いませんけどね。私と同じ色の目で泣かないで頂けますか?」

 もう一歩近付く。リンゼと少女が更に下がる。

「金の髪、みどりの目、何も出来ない、泣くだけでなんの力も意思もない体」

 一歩近付く。リンゼは下がらず、カタナの切っ先をエレオノーレの喉元へ突きつける。

 否、突きつけてしまったという方が正しい。何故なら、もう下がれる場所がない。あと一歩も行けば壁に背をつき、そしてその一歩分の距離には少女がいる。

「エル……!」

「お前を見ていると本当に苛立つ……!」

 ただ己に迫る暴力から逃げ、泣いて他者に守られるだけ。エレオノーレは少女のその姿を見て自分でも驚くぐらいに猛り狂っていた。

 理由は分かる。少女のその怯え、泣く姿が過去の己を想起させるからだ。他者に守られる事しか出来ない、足手纏いだった頃を。

 エレオノーレが先代に拾われた時、既に似た境遇の何人かの子供が先代の元に居た。それらは種族も年齢もバラバラで、既に身寄りのない子供達であり、次代の薬屋候補の子供たちだった。紆余曲折あって、その時に過ごした仲間達はもういない。エレオノーレは己の力が足りず、皆が居なくなる契機となったその出来事の事を未だに後悔している。

 だからこそ、〝神術〟という誰でも戦える力を持ちながら、戦わなかった少女に苛立つ。よしんば戦う勇気がなかったにせよ、誰かに頼めばよい。相応の金銭は取られるだろうが払う物を払えば冒険者は簡単に動く。もし助けを待つ人物が救助側の知り合いならばタダでも動いてくれただろう。エレオノーレは己では叶わないから誰かに頼る、という行為を非難することは無い。それはしょうがないことだ。

「貴女はっ……!」

 少女が口を開く。それはエレオノーレの憤怒を一身に浴びている故か、歯の根が合わず、若干不明瞭ではあったが聞き取れるものではあった。

「貴女はっ、誰を視ているんですか……! 貴方の瞳が映しているのは私じゃないっ!」

 足は吹雪に晒されたかのように震え、両手は本能なのか急所となる心臓を覆い隠すように両胸に当てられている。しかし瞳は確固とした意思を持ち、吹き荒ぶ暴風に抗う光を宿していた。

「貴女が私を通して誰を見ているかは知りません……ですけど」

 少女の槍のような鋭い視線がエレオノーレのそれと交錯し、

「私に、八つ当たりしないで下さいっ!」

 こいつ殺そう。エレオノーレはそう思った。

準メインの筈なのにアルフォンス君とリンゼの空気っぷりが凄い。エレオノーレさんの逆ギレを書こうとしたらこうなってしまったんやな……悲劇なんやな……

ちなみに少女が何故すぐに助けを呼ばなかったのかは次回でお話しする予定。

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