第二十話 透けて見えるぞ首領の姿!
三月も終わりを迎える。
わたしは卒業式の日を迎えていた。式を終え、校庭に学生たちが思い思いに蠢いている。
「紫ー、写真とろーよ」
灯ちゃんがそう言って近づいてくる。
もちろん、断る理由などない。
「うん、いいよ。あれ?香理ちゃんは?」
「えっ?一緒に来たつもりなんだけどな…。香理ー!」
広い校庭だ、見つけるのは難しいと思ったけど、思ったより近くにいた香理ちゃんはすぐに姿を現した。
「ごめん!他の人と写真撮ってた!じゃ撮ろっか!3人で!」
そう、わたしはあれから灯ちゃんと香理ちゃんと、前みたいに話せるようになっていた。完全に元通りって訳じゃないけど、普通に、話せるようには戻れていた。
「じゃー、いくよー」
香理ちゃんの合図で3人でくっ付いて写真を撮る。
ちょっと前までは信じられないようなことだ。だって…わたしは…。
「あ、何?紫ってばまた2人とつるむようになったんだ」
そこに1人現れた。そう、莉嘉だ。
「莉嘉…」
そう、口にしていた。あの時、わたしに言ってきたことを思い出す。
おかしいと思わない?
身体が少し震えるような感じがした。でも、今なら答えられる。答えは…決まっている。
「で、どうなの?またつるんでてさ?どうなの、変だとか思うんじゃないの?」
いつかと同じような質問。
「莉嘉!」
灯ちゃんが叫ぶ。
「待って」
やめよう。だって…今日で最後だもん。灯ちゃんとも香理ちゃんとも…そして、莉嘉とも。
「わたしは、2人の友達だよ。何もおかしくなんかない。だって…友達だもん」
あの時、言えなかった言葉。言いたくても口にできなかった言葉。勇気だとか、決心みたいなものなんて必要なかった。初めて口にした。わたしは、灯ちゃんと…香理ちゃんと…2人の友達なんだ!おかしなことなんてない!
「そっか」
莉嘉はそう言って人混みの中に姿を消していった。別れ際、その表情は笑ってるみたいに見えた。
「なんだったのアイツ?」
香理ちゃんが嫌悪と困惑の表情を浮かべている。まぁ…そうだよね。
「いいじゃん!行っちゃったんだし」
とにかく、済んでしまったことを考え込んでも仕方がない。
「ね、もう何枚か写真撮っとこう?中学生なのはさ、今日までなんだから!」
わたしの提案に2人がまた近くに集まってくる。
あぁ、わたしは何やってたんだろう。こんなに、わたしを大事に、好きでいてくれている人たちを突き放すようなことして…。
わたしは強くなれたかはわからない。天晴は強くなれてたって言ってくれてたけど…実感らしいものはまだない。木葉ちゃんも…いなくなっちゃったし…。
これから先、わたしを探して、強くなろう。
まだ…始まったばかりだもん!
OP
「…で、どうでした?イエローチームの人たちって」
ボク、若月才二は舞さんと淹煎さんと顔を合わせていた。場所は淹煎さんの自宅だ。家具などが最低限揃っている…少し殺風景な部屋。ボクと舞さんはソファに座り、対面にあるベッドに淹煎さんは腰掛けていた。
「そうだな…なんていうか…大体聞いてた通りって感じだったな」
俯きながら淹煎さんはそう言った。けど、イエローチームよりも別のことが気になっているような感じがした。悩んでいるような表情。
「天然鈴という人間が中心になりすぎているというのは淹煎の目で見ても間違いはなさそうだった、というわけね」
舞さんは額に手を当てる。どう動くべきか考えているのだろう。
「無理矢理、構造を変えるっていうのは難しいと思います。やっぱり、話し合いで足並みを揃えるっていうのが無難な落とし所ですかね」
ボクがそう言うと2人は頷きつつも難しい顔をしていた。
「…宝城さんの家を訪ねてから、結局、イエローの人達とは接触らしい接触は出来ていないです。そろそろ、動いたほうがいいと思ってるんですけど…どうですかね?」
念の為、2人の考えを聞いておこうと思い聞いてみた。
「そうだな。実際に会って話してみたほうが問題…っていうか、今後どうしていくかってのが見えてくるからな。何かするとかは置いておいて、接触してみるのはいいんじゃないか」
「そうね。急ぐことはないけど、一度会っておくのはいいと思うわ。私もまだ墨名夜星という少年にしか会えていないし」
淹煎さんと舞さんはそう答えてくれた。あとは…夢奈さんと…陰山さん。2人はなんて答えるだろう。
「あ、そうそう。実はさ、1人顔見知りがいたんだよイエローチームにさ」
不意に淹煎さんがそんなことを言った。
「えっ!?そうだったんですか!?」
「まぁ、この前の戦いの時は纏めて何人も途中参加してきたから声かけることも出来なかったんだけどさ。多分、あっちはまだ俺に気がついていないと思う」
そう言う淹煎さんの目はいつもと違った。なんというか、遊びがないといった感じだろうか。
「取り敢えず、何話すか纏めたらあっちに連絡してみるよ。連絡先はまだ…持ってるからな」
目線を落とす淹煎さん。おかしい…。
「…話したくないならいいのだけど、何かあったの?その人とは」
舞さんが問いただす。やはり、普段とは雰囲気が違うと思ったのだろう。
「やー、単純にさ、しばらく会ってなかったもんだからどうしようかと思ってんのさ。それだけだって。なんていうか気恥ずかしいみたいな感じあるだろ?そういうのって」
いつもの飄々とした表情に戻った。さっきまでの感じは嘘みたいだった。
「そう。まぁわからなくもないわ」
「確かに…久しぶりに会うってなると少し緊張っていうか、そういうのありますよね」
舞さんと一緒になって同意する。
「さて、今後はどうすっかね。才二さんよ?鈴って子に会ってみるのか?」
「はい。そうしてみないことには何も始まりませんから」
そうだ。動かないと。ボクはスマホを開き、天然鈴さんに連絡しようと決めた。
「お腹すいたー」
街中。木葉は夢奈さんと一緒に歩いていた。彼女から食事に行こうと誘われたのだ。
「夢奈さんってば、さっきから何回も言ってますね」
少し笑いながらわたしはそう言った。
「だってお腹すいちゃったんだもん。たまに言いすぎて舞さんから『うるさい!』って言われちゃたりするんだけどね」
「ふふ、なんとなく想像できます」
あぁ、楽だ。心が軽い。自然豊かなところではないが空気が美味しく感じる。
と…暗い気持ちが押し寄せてきた。天晴に電話をかけたあの日。電話を切る間際の彼の言葉が頭の中を反芻する。
「えぇっ!?それってどういうことですか!?俺、何か陰山さんに…」
違うよ陽向くん。君は何もしてない。わたしが…わたしが悪いの。
あれから天晴から、玲花や紫からも連絡は来ていない。そっとしてくれているのか…それとも…。
わたしやっぱり必要なかったのかな。
そんな考えが頭をよぎる。
「あー!陰山さんてば、今暗くなってるでしょ」
夢奈さんが顔を覗き込みながら言ってきた。隠せていなかった。
「ごめんなさい…」
「もー、謝らなくていいよ…何考えてたの?」
「陽向くんたちのこと…」
「だよね。でも今はさ、考えないようにしよ?考えられるタイミングってのがあるからさ」
「…はい。ありがとうございます」
夢奈さんのその言葉に少し、ほんの少しだけ気が晴れた。
行く予定だったお店にたどり着く。時刻はお昼過ぎ。少し混み合っているように見えた。おしゃれな感じのカフェ。4人掛けテーブル席が十個ほどある。
「すみませーん。予約してた昼飯です。2人です」
夢奈さんが店員さんに声をかけると奥の席に案内された。向かい合って席に着く。
「ここのね、サンドイッチがもう絶品なの!中に入ってるソースがすごく美味しくてやみつき!」
夢奈さんは、はしゃいでいるように見えた。こんな時、気を遣ってくれてるのかな?とか考えてしまうが、彼女からはそういう風なのは感じられなかった。あくまで自然体。
わたしと夢奈さんはサンドイッチのセットを注文した。飲み物はわたしがカフェラテで夢奈さんがジンジャーエール。
「夢奈さんはいつもそんな感じなんですか?」
少し、疑問だった。
「えー、そうだなぁ…。自分がどんな感じとかあんまり考えたことないけど…そうだね。いつもこんなだと思うよ」
相変わらずニコニコしている。そんな夢奈さんに惹かれている感覚がある。
ふと、天然さんのことが頭をよぎった。人を惹きつける人間。でも、天然さんと夢奈さんじゃ…全然違うな…。なんだろう。
「あんまり、取り繕うみたいなことって得意じゃないんだよね。思ってることとか結構、顔に出ちゃうタイプなんだわたし」
あちゃー、みたいなジェスチャーをしながら夢奈さんはそう言った。裏表が無い。そういうことなんだろう。
「…わたしは…自分で言うのもなんですけど、取り繕うのが得意だと思ってました。この前に話しましたけど、それが楽なのかなって」
そう、それで円滑に人と関われるならそれでいいと思う。そう思っていた。でも、辛くなっていった。
「んー、そうしたほうがいい時もあるよね。でもさ、ずうっとそうしてるわけにもいかないじゃん?程々にしとくってのが1番なんだけど…難しいよね」
少し夢奈さんの表情は暗くなった。
「ご、ごめんなさい!なんか暗い話にしちゃって」
「だーかーらー、謝らなくていいんだってば陰山さん!気遣ってるの?嬉しいけど、それで陰山さんが疲れちゃうなら嬉しくないな」
そう言う夢奈さんの目は真剣だった。
「ごめんなさい…」
「よし!陰山さん!」
夢奈さんは身を乗り出してきた。
「すぐ謝るのは禁止!って言っても簡単じゃないから…ちょっと辞めてみよ?」
「ご…わ、わかりました」
「強く言ってごめんね…って、あはは、そう言ったわたしが謝っちゃった!とにかく、約束ね!指切りしよ!」
夢奈さんが小指を突き立て差し伸ばしてきた。それに応えるためわたしは彼女のそれに自分の小指を絡めた。
「大変かもだけど、ちょっと意識してみよっか」
「はい。ありがとうございます!」
…少しわかってきた。わたしは…自分に嘘をつきすぎていた。夢奈さん…それにブルーチームの人達といると本当の気持ちみたいなものがポロポロと出てくる。陽向くん達といる時は、しっかりしなきゃって思って…隠していることが多かった。
…素直に言えるようになろう。きっと、そうした時、わたしは陽向くんたちの所に帰れる。そんな予感がする。
宝城家。玲花の部屋。応接間ではない。
「なぁ宝城。俺さ…どうしたらいいんだろうな」
俺は宝城の部屋の椅子にもたれかかるみたい座りながら聞いてみた。
「…どうしたらいいというと?」
宝城は聞き返してきた。ベッドの上で足を抱え込むようにして座り込んでいる。
「ほら…鈴たちのこともだけど…1番は陰山さんのこと…」
あれからバイトのシフトも被らず顔を合わせていない。連絡も…する気にはなれなかった。
「申し訳ありません。私もどうすればいいか考えていますが…何も思いつかないんです」
静かな声だった。
「私…先日、執印さんと2人で話す機会があったんです。口論…とまでは行きませんが、あまりいい空気で話すことはできませんでした。本当にどうすればいいのかわからなくて…」
変わらず、静かな声。
「あのさ、紫のことさ。自分でもすげぇ雑な言い方したなって思ってるんだけど、正直、うまくいったじゃん。もちろん、陰山さんや宝城の助けがあったからこそだけど」
少し思い返してみる。
「言っちゃえば、その…綱渡みたいな感じだった。危ない綱渡。それじゃ…ダメなんだよな。ほら、宝城が言ってた、再現性が無いってやつみたいに」
「陽向くん…でも、上手くいったのは事実ではないですか。貴方のその在り方が誰かを救えたんです。人の問題なんて…全部綱渡みたいなものです。自分を卑下しないでください」
少し、宝城の声が強くなった気がした。
「なんか俺さ。空気良くして、盛り上げていけば皆と上手くやってけるとか思ってたんだよ」
天井を見つめながら言う。
「そのやり方が間違っている…とは言えません。実際、いい方向に進めたと私は思っています」
「ありがと。でも、俺ってばダメっぽいな」
「陽向くん!」
急な宝城の大声に俺は驚き、少し飛び上がった。
「なんだよ宝城…急にデカい声出して…」
「そんな…そんなことを言わないでください」
宝城はベッドから降り、こちらに向かってくる。
「陽向くんは…明るくて、皆を見ていて、太陽みたいで…そんな人です。そんな貴方が…そんな…そんな哀しいことを…言わないで欲しいんです…」
珍しく宝城が取り乱している。そんなふうに見えた。
「宝城…。うん…でもさ…実際、どうにもなってないんだよ…。何も上手くいってない」
俺がそう言うと宝城の表情は暗いものになっていく。
「皆のこと見れてないんだよ。明るいって言ってもさ…なんつーか、自分がそうしたいからだったし。空気悪ぃなって思ってどうにかしようとしたのも、自分のためなんだよ。そういうのが嫌だから…」
自分で言っていて気が滅入ってきた。でも事実だ。俺は俺のために盛り上げてた。
「そんな…こと…陽向くんが言うと…私…」
宝城は涙声だ。
なんでだよ…。なんで宝城、泣きそうになってんだよ。
「どうしたんだよ」
「私は…陽向くんが居て良かったです。戦うようになって、貴方と一緒に居られて良かったです。貴方のその在り方に助けられてきたんです。なのに…それがダメだったみたいなこと…言わないで…」
宝城はトボトボと歩きながら、椅子に座る俺の前でへたり込んだ。
「やっぱさ…上手くできてねぇな。宝城にこんなこと言わせちまうし」
「やめて…」
宝城の声は今までにないくらい、か細かった。どうしたらいいんだ。
あ。頭の奥がヒリついた。
予兆だ。戦いの時だ。無意識に立ち上がってしまう。
「陽向くん…?」
顔を上げた宝城の目からは少しだが涙が溢れていた。あぁ…ホント何やってんだろうな俺は…。
「悪い宝城。予兆が来た…。宝城は来てないんだな」
「はい…」
そう言って宝城は涙を拭った。
「今回は休んでてくれ」
「そ、そんなわけにはいかないです」
「あのさ、もしかしたら陰山さんがいるかもしんないだろ?出来れば、宝城や紫抜きで会いたいんだ」
「…わかりました。でも…」
「でも?」
「あまり、自分を卑下しないでくださいね」
「あぁ…ありがとな」
空間が捩れた。
あの世界。陰山さんはいるだろうか?
「あっ、天晴がいるんだ」
「陽向さん久しぶりです」
振り向くと鈴と若月くんが居た。
そして…。
「ちっ!赤いのと…誰かわかんねーな。誰だアンタ?」
陰山さんではなく居たのは墨名夜星だった。
「初めまして。ボクは若月才二って言います。すみません、お二人の名前を教えていただけますか?」
若月くんは丁寧な口調で鈴と夜星に問いかける。
「こちらこそはじめまして!あたしは天然鈴です!よろしくね若月くん!」
元気よく、いつもの調子で応える鈴。若月くんの方に目をやると少し驚いた顔をしていた。そうか、初対面か。想像と違う感じだったのかな。
「やめろよ鈴。そんなヤツと関わんなくていいって」
夜星も…まぁいつもの調子って感じだ。
「ダメでしょ夜星くん!そんなこと言わないでほら挨拶!」
「…墨名夜星。よろしく」
「はい!よろしくお願いします天然さん、墨名さん!一緒に力を合わせて頑張りましょう!」
取り敢えず、揉めたりはしなかったみたいだ。
「そうだな!若月くんの言う通り、力合わせようぜ!」
そういうことを言える気分ではなかったが、若月くんの言葉に乗っかった。やっぱ、頼れそうだなこの子は。
「綺麗だね」
知らない声…。いや、一度聞いたことがある。クヴァレを止めたあの声!
声の方に俺たちは顔を向けた。
この前のブリッツと…誰かが立っている。
「赤、黄、青、黒…か。美しいな…ブリッツは…どう思う?」
声の主がブリッツに問いかけるが返答はなかった。
「答えてくれてもいいだろ。無視は酷いよ」
「その…我々は色を憎むべきものだと…思っていますので」
「憎いよ。でも憎くても綺麗って思うのは別におかしくないだろ?」
「はぁ…」
何を話してるんだアイツらは…?そんなことより…ブリッツの隣にいるヤツが気になる。
アイツの姿は…変身した俺たちと似ていた。透明感のある衣装…バイザーは濁っているようで顔は見えなかった。
「ねぇ…天晴…アイツ」
鈴も多分俺と同じことを考えているんだろう。でも…どうしたらいい?普通に、いつも通り戦えばいいのか?
「変身しないのかい?」
!!?
こちらに話しかけてきた。何だ…どういうつもりなんだ!?
「僕はやる気だよ…勿論ブリッツも。だろ?」
「えぇ…はい」
「ほら、早く変身しないと」
塗り潰しちゃうよ?
2人の敵がこちらに突っ込んできた!
「ヤバい!皆行くぞ!」
「「「彩色顕媄!!!」」」
「えっと…さ、サイショクケンビ!」
皆、透明な衣装のアイツの雰囲気に焦っているのかいつもよりまとまりが良かった。
それぞれ、槍、ハンマー、鎌、棍を握り敵を迎え撃つ!
「へぇ〜それがキミたちの武器か」
透明のヤツは目前まで迫ってきていた!
「僕のはこれさ!」
ヤツの右手にはいつの間にか巨大な絵筆が握られていた!
「なんだ!?筆!?」
「攻撃が想像できませんが、とにかく動きに注意しましょう!」
テンパる俺に若月くんが落ち着けるように言葉をくれる。
「何言ってんだよ!こっちからも突っ込めばいいだろ!?」
そう言って夜星が突っ込む!
「ちょっと!夜星くん!」
それを鈴が追いかける!
「ダメです!」
若月くんの声は届かない。
「くそっ!悪い若月くん!俺も行くからな!」
駆け出そうとしたその時、何かが横を通り過ぎた。
「今、僕が興味を持っているのはキミさ」
透明なヤツが若月くんの首を掴み押し倒した!なんだよコイツ!?
「若月くんを離せよ!」
「ほらブリッツ仕事だ」
!!!
後ろから撃ち抜かれるような衝撃が走った。ブリッツの身体から放たれた針が俺を襲っていた。
「へへへ!俺に勝てるかな?」
ブリッツはニヤついていた…どうする!?若月くんを助けなきゃいけないけど…コイツも!
「天晴!コイツはあたしと夜星くんで!」
鈴が叫んだ。
「…っ頼む!」
そう言って若月くんの元へ向かう!
「カオスグレイ…ライト」
透明なヤツがそう言ったのが微かに聞こえた。俺の足元からドロドロした灰色の泥のようなものが浮き上がってきた。
「なんだコイツっ!?」
泥はやがて人の形になり、明るい灰色の…宇宙人のような見た目になった。
「あはははははは!!!!」
ソイツはヤケクソ気味に笑い出した。ゾッとするのを感じた。手には…なんだ?メガホンかこれ?
『ワ ッ !』
メガホンを構えたソイツが叫ぶと、衝撃波に襲われ…俺はブリッツや鈴たちのいる後方に吹き飛ばされた。
「ぐ…っ…!」
苦しい…息ができない。
「キミ、若月才二って言ったね。才二くんって呼ぼうか」
透明なヤツはボクの首を絞めながらそんなことを言ってくる。
「おっと…ごめん息できないよね。力入れすぎちゃったよ」
首から手を離されたのも束の間、絵筆の反対部分を胸の辺りに突き立てられた!
動けない。
「キミさ、力を合わせようとか言ってたね。何でそんなこと言うの?」
なんだ?質問の意味がわからない。そんなこと聞いてなんになるんだ。
「ねぇ、聞いてるんだよ。答えてよ」
「なんでそんなこと…」
「あ、ごめん名乗ってなかったね。僕のことはマスターって呼んでよ」
なんなんだコイツ…自由すぎるぞ。
「人は!分かり合える!力を合わせれば…困難を乗り越えられるんだ!」
とにかく答える。時間稼ぎにもならないかもしれないけど。
「へえ」
マスターの声は急に冷めた。
「…甘いって言いたいのか?」
マスターを睨むが反応は無い。
「素晴らしい」
…は?
「素晴らしいよ才二くん!本当に…素晴らしい!感動した!」
「な、何を言って…」
「でもキミは現実を知らない」
そう言うとマスターはまたボクの首を掴んだ。苦しい!
「理想だけだよキミは。現実を知るんだ。意味のない理想だとわかるよ」
「う…うるさい。ボクは信じてるんだ…!」
「青いね」
ボクは…投げ飛ばされていた…陽向さんたちのいる方へ。
「ブリッツ!」
マスターが叫んだ。ヤバい…トドメを刺す気か…?
「ライトと一緒に帰るから…やられて!」
マスターの言葉の意味がわからなかった。どういう意味だ?
「マスター!?それはどういう!?」
ブリッツの方を見ると動揺したのか動きを止めていた。
鈴と夜星はその隙を見逃さなかった。
「行くよ夜星くん!」
「オッケー鈴!」
『イエローホームラン!』
『刈月光狩!』
ブリッツは同時攻撃をモロに受け、色が抜けていった。人の姿になっていく。
「あーあ」
マスターの気の抜けた声が聞こえた。
本当に何を考えているんだアイツは…。
光に包まれる!
…くん!…たくん!
「陽向くん!」
目が覚めた。あの世界から戻ってきたみたいだ。宝城が俺の身体を激しく揺すっていた。
「…宝城」
「よかった…椅子に座ったまま目覚めないので…心配しました」
「ごめん」
「謝らないでください…それで…陰山さんには会えましたか?」
「いや…今回はいなかったんだ。それに途中参加の人が来る前に戦いが終わったっぽいし」
「…そうでしたか」
っぽい、というのは最後のほうは意識が朦朧として、あまり覚えていないからだ。あの宇宙人みたいな奴の攻撃を受けて…意識まで吹き飛びそうになっていた。
「…一つデカい情報がある」
「な、なんですか?」
「この前声だけだった…マスターみたいなヤツが出てきた」
「それは…!敵の首領ということでしょうか?」
「あぁ…多分な…」
僅かな記憶だが、途方もなく強い…というのは何となく感じた。で、その下っぽい宇宙人にノックアウトされてしまった…。
なんか…全部うまくいかないな俺。
「なぁ宝城」
「どうしました?」
「ごめん、話変わるんだけど…」
「はい」
宝城は心配してるみたいな目で俺を見る。
「若月くんを…頼ろう…俺はもう…あんま自信ない」
俺がそう言うと宝城は目を伏せてからゆっくりと頷いた。
次回ッ!
第二十一話 過去を見つめて茶をしばけ!




