44.怪盗騒動の後と来た者
怪盗騒動から一週間たったその日、俺は今日も今日とて採掘に行くためムイを肩に乗せて歩いていた。
すると歩いていた俺に急に影がかかった。
疑問に思った俺は立ち止まって上を見上げると、上から人影のようなものが落ちてくる。
それは俺の前ににふわりと着地し、こう言った。
代表様、宣言通り住人を連れてきました――と。
いや、うん……突然のことでちょっと混乱している。
あの……フォイル? 宣言通り、住人? を連れてきてくれたのは良いんだが……、なぜ上から?
それにいくらなんでも早くないか? あれからまだ一週間しか経ってないぞ?
「ふふ……その答えはもちろん私、怪盗フォイルがファンタスティックだからです……と、言うのは冗談で。実は……私は転移魔法が使えるのです」
転移魔法って……あの?
フォイルに話を聞くと。
転移魔法って言うのは俺の想像しているもので間違いないらしい。
イメージ通りのいわゆるテレポート。
知っている場所にならどこにでも行くことが出来る。
それゆえたった一週間で遠い場所から住人を連れてくることが出来たらしい。
それと上から落ちてきたのは、転移魔法に他の何かを巻き込まない為だそうだ。
なろほどな……教えてくれてありがとう。
でも……よかったのか? 結構大事なことなんじゃないのか それ。
そう、俺は異世界で数年過ごして魔法のこともそれなりに聞いてきたが、それでもこの世界に転移魔法があるとか聞かなかった。
それはつまりかなり転移魔法は希少だってことなんじゃないのか? と、そう考えたわけだ。
「ええ、大事ですよ。何と言ったって怪盗フォイルの百不思議の一つですから」
……不思議多いな!
「もちろんです、怪盗ですから。まあ、それに仮に私が言わなくても連れてきた彼女たちが口にするでしょうし……ね」
「……心外ですね。私はそんな真似はしません。彼女は知りませんが」
「ひどくな~い?私もしないってば」
「おや。では盛大にファンタスティックな自爆をしてしまいましたね。ハハハハ!」
後ろの彼女たちにそう返されたフォイルは高らかに笑う。
……あっとそうだ。
ついフォイルの登場の仕方に気を取られて後回しにしてしまった。
挨拶しないと。
ほったらかしにしてすまない。
俺はここの代表だ。
そちらは……移住希望者ってことで良いんだよな?
「いえ、かまいません。これからお世話になろうというのですから。返答ははい、です。願わくばここに住まわせてもらいたいと考えています」
「あたしもあたしも~。」
ふむ。
その返答を聞きながら俺は改めて二人を観察する。
最初に返答してくれた方は……秘書風のかっちり美人って感じだ。
腰より下まで伸びた黒髪のロングヘアーに紫色の瞳、そこに眼鏡をかけて、首にはゴツい首輪をつけている。
スタイルはかなりいい、デキる女性って感じが溢れ出している。
そして……特筆するべきは背中に生えた小さな黒い羽とこれまた黒いしっぽ。
もう一人は……うん、失礼かもだがお気楽な美人って印象だ。
後ろでまとめた金色の髪に碧色の目、こっちはメガネはかけてないが、首にゴツい首輪をつけているのは最初に返答してくれた方の彼女と同じだ。
こっちもスタイルはかなりいい、ズボンのポケットに手を突っ込んでたたずむ姿が似合いそうだ。
こちらは背中に小さな白い羽が生え、しっぽなどはない。
代わりに……頭の上に光の輪っかがある。
ヘイローって言えばいいのか? そういうやつ。
なるほどな……。名前と種族を聞いても?
「私はリネイア。悪魔族……デモンズです」
「あたしはシエル。天使族、エンジェルだよー」
二人とも迷わず答えてくれた。
背中の黒と白の羽で少し予想は出来ていたけど、やっぱり天使と悪魔か。
……大丈夫か? 喧嘩とかしない?
「ああ……どうやらそんな誤解が広まっているようですが。天使と悪魔が不仲というのは根も葉もないデマです。ご心配なさらず」
「そうそう、そりゃ中には仲悪い奴もいるだろうけど、大半は特に何とも思ってない感じだよ。もちろんあたしたちもねー」
そうなのか。
ならよし。
あとは……ここに移住したい理由は?
フォイルに無理矢理連れてこられた……とかそんなわけじゃないよな?
「あははっ!無理矢理とかないない、むしろ助けてもらったんだよ」
「はい、その通りです。少し長くなりますが――」
リネイアが話してくれたことを要約するとこうだ。
リネイアとシエル……彼女たちは悪魔族と天使族の中でも外向的な方で、とある国に別々で漫遊で訪れていた。
するとその国の王から、ぜひ会ってみたいと両方にお達しがあったそうだ。
確かに異種族排斥の機運は高まっていたが、その国は二人がまだ安全と判断してやってきた国だった。
なので断る理由はなかったため二人は王宮へ。
そして謁見前に控室に通され……ここで二人は対面。
面識はあったが、示し合わせてなどはない。
偶然の出会いに驚きつつも、話に花を咲かせていると、急に眠気が襲ってきた。
その後目覚めると、そこは先ほどまでとは違う部屋。
扉には外から鍵がかかっており、首には魔乱しの首輪がついていた。
魔乱しの首輪というのは今も二人の首についているゴツくて黒い首輪の事で、これをつけられたものは魔力を乱されうまく扱えなくなるらしい。
二人が困惑していると、その国の兵士からあなたがたには国家反逆の疑いがあるため拘束させてもらうと通達が。
弁解しても聞き入れてもらえず、魔力をうまく扱えない状態では強行突破も現実的ではない。
二人は途方に暮れ……一月ほど。
突如部屋の中にフォイルが出現。
そしてこの街の事を聞き、連れてきてもらった……ということらしい。
なるほど。
だから助けてもらった、と。
「その通りです」
「ほんとにラッキーだったよー」
無理矢理じゃないことは理解した。
でもなんで移住を決めたんだ?
聞く限り風来坊気質というか……二人とも一つ所に留まらないタイプじゃないのか?
「それは――」
「もちろんここの作物だよ作物!」
シエラがリネイアの言葉を遮って俺に詰めよってきた。
「フォイルが私たちを助けに来てくれた時ふかし芋を持って来てくれたんだ!あなた方に移住して欲しい場所で採れたものです。って!……それが美味しいのなんの!あたしが今まで食べてきた中でもダントツで美味しかったよ!ほんと――」
「シエル。興奮し過ぎですよ。全く。……まあ、そういうわけです。これほどに美味しい作物、そして異種族を受け入れ共に生きる地。……あの穏健派の国ですらあのような暴挙に出るのであれば、世界はさらに異種族にとって住みにくくなってしまいます。その前に安住の地を得たいとそう考えたのです。私も……彼女も」
「まー言われちゃったけどそんな感じだよ。あ、でも勘違いしないでね? 私が移住を決めた理由第一は作物のおいしさだから。それだけ美味しかったんだよー」
それは……ありがとう。
頑張って作ってるから嬉しい。
他の者にも伝えておく。
さて。
移住する理由も聞くことが出来た。
”安住の地を見つけたかった””作物が美味しかったから”。
そんな理由であればこちらに否はない。
大歓迎だ。
ぜひ移住して欲しい。
「ファンタスティック!どうやら話はまとまったみたいですね」
フォイル。
「ふふ、こちらも骨を折った甲斐があるというものです」
ああ、ありがとう。
……でも聞く限り、解放した時、ウチからさらに作物盗っていったんだよな?
「ふふ……ファンタスティックな必要経費というモノですよ、代表様。作物を持っていったからこそ円滑に勧誘を行えたのですから」
いや、まあ、そうかもしれないが……。
次からは欲しかったら言ってくれ。
少しくらいなら都合するから。
「おや、それはそれは…ふふ。ファンタスティック」
それ”ありがとう”ってことでいいのか?
そう、俺がフォイルと話していると。
今まで俺の肩の上で大人しく話を聞いていたムイがぴょんぴょんと飛び跳ねる。
ん? どうしたんだムイ?
俺がそう聞くと。
ムイはくいくいと俺を引っ張る。
どうやらリネイアとシエルの近付いて欲しいみたいだ。
疑問には思うが別にムイのお願いを断る気もない。
要求された通り二人に近づくと。
ムイがぴょん!と、リネイアの首に飛び乗った。
「? えぇと……代表様、これは……?」
飛び移られたリネイアは困惑している。
とはいっても俺もムイが何をしているのか分からないので、どう言ったものかと悩んでいると。
ぐにゅぐにゅぅ~。
ムイがリネイアの首に絡みつき始めた。
……ムイ? ほんと何してるんだ?
俺が困惑し、他の皆もあわてていると、ほどなくムイはリネイアの首から離れた。
そして……ムイが離れたその首からは先ほどまであったゴツい首輪……魔乱しの首輪とやらが無くなっていた。
……あっ飲み込んだのか!?
ムイは自分が覆えるモノなら何でも飲み込んで自在に吐き出すことが出来る。
前は良く兎を丸ごと飲み込んでもらって肉だけ出してもらっていた。
にしても……俺から見てもかなりがっちり装着されていた首輪すら当然のように飲み込むとは。
流石はムイ。
ムイは俺の肩に戻ってぷるぷると震えている。
「これは……魔乱しの首輪が本当に取り外されて……一体どうやって……」
リネイアはいまだ信じられ無さそうに自分の首元をさすっているな。
そんなに驚くことなのか?
「そりゃねー、あたしも正直目を疑ってるよ。いやそりゃ外すこと自体は可能だけどさ?それをスライムが……っていうのは目の当たりにしても正直信じがたいって感じかなー」
? どういうことだ?
「いやー通常ならスライムが魔乱しの首輪なんて飲み込んだら形を保てなくなっちゃうはずなんだよね。スライムは形状を魔力で保ってるから。だから普通スライムは魔乱しの首輪とか飲みこもうとしないしむしろ避けるはずなんだけど……」
あっさっき慌てていたのってそういう!?
「そうそう……なのに避けないばかりか飲み込んでしかも当然のように形も崩れないとか……どういうこと? って感じ」
なるほどな……確かにそれは驚くだろう。
自分から毒をがぶがぶ飲んでケロッとしている人を目の当たりにした……みたいな感じか。
……俺も目を疑うな。
ムイに目をやるが、形を保てなくなるような……そんな様子はない。
いつもどおりぷよぷよだ。
でも、今の話を聞くとちょっと心配になるな。
ムイ、本当に大丈夫か?
無理とかしてないよな?
ムイは当然だ……とゆらゆら震えている。
ふむ。
俺もいい加減ムイとは付き合いが長い。
付き合い長いのにいまだに衝撃の事実がぽろぽろ出てくるけど。
本当に謎が多いスライムだ、ムイは。
まあともかくだ。
ムイは本当に問題はないようだ。
それならまあよかった……、
「えっとー……あのー……」
と、そう考えている俺にシエルが声をかけてくる。
「あんなこと言っといてこんなこと言うのも何なんだけどー……良ければあたしの首輪も取って欲しいなー……なんて……」
……あぁ、うん。
ムイ、頼む。
ムイがシエルにとびかかった。




