151.訓練の視察
昨日投稿出来てなかったので、本日二話更新します
「整列っ! 代表様に礼っ!」
バッ! ババッ!
その掛け声に、目の前に並んだ二十人ほどの統一された服装の集団が、俺に向かって一斉に礼をした。
うん……訓練始めたばかりって聞いたけど、一糸乱れなさすぎじゃないか?
ある日のレースピア。
場所は警察署。
俺はここに視察……というか俺的には見学に来ていた。
先日終わった闘技祭の目的の一つだった警察と消防の人員の確保。
それは無事に済み、訓練を始めたと報告を受けた。
なので見に来ているというわけだ。
まずは警察の方から。
そして来訪して早速、先ほどの場面につながる。
俺の目の前では深く頭を下げた警察隊の者たちがそのまま静止している。
ピクリとも動かない。
凄い体幹だ。
と、感心している場合じゃないな。
あー……楽にしてくれ。
「代表様は楽にしろと仰せだ! 休め!」
ザッザッ!
号令に再び、一糸乱れぬ動きで頭を上げ、腕を後ろに組み、足を肩幅に広げる体勢を取る警察隊の者たち。
本当に凄いな。
あぁ、その……す、素晴らしい動きだ。これからもその調子で頑張ってほしい。
俺は少し気圧されながらもそう声を掛ける。
一糸乱れぬ動きって少し圧を感じるからな。
「……ありがたいお言葉です。ですが、正直まだまだです。これからもっと練度を上げ、選んでいただいた事実に恥じない働きをしてまいります」
あ、うん……。
ま、まあ……それじゃあ頑張ってくれ。期待している。
「「「はいっ!!!」」」
一糸乱れず腹の底から出た返事。
ビックリした。
「今少しご覧いただいた通り、訓練は順調に進んでおります、代表様」
少し後。
号令をかけていた教官役……ハイラから警察隊の進捗を聞く。
ちなみに隊の者たちは、別のハイエルフに連れられ、街の外周を十周するそうだ。
……レースピアの外周ってかなりあるんだが……。
「結局のところ何事も体力勝負ですから」
まあ……それもそうだな。
特に警察とか消防はそういうとこある。
とにかく。
滑り出しは順調みたいだな。
「はい。やはり闘技祭で選抜を行ったのは正解でした。体力、戦闘力、咄嗟の判断力……様々な物を勘案し、現在の人員を選抜することが出来ましたから」
そう口にするハイラ。
選抜はハイラに一任していたが、満足できる結果だったみたいだ。
そういう意味では闘技祭開いてよかった。
「しかも訓練も代表様にご指導いただき素晴らしいものになりました」
いや、指導したつもりは無かったんだが……。
あれは闘技祭終了後の宴会の席で、しっかり選抜は出来た? などとハイラと雑談していた時。
まずは訓練から始めるつもりです、とのハイラの言葉に、話の流れで前世のことを思い出していろいろ口を挟んでしまった。
なんというか、自衛隊式というか、そんな感じの。
するとハイラは、まるで目からうろこが落ちた、といった様子で訓練計画を見直すと言ってきた。
その時は宴の席ということもあり、全然気にしていなかったが……結果としてこうなったらしい。
あー……でも、大丈夫なのか? 皆着いてこれているのか?
確かに厳しくすれば当然練度は高くなるが、その分振り落とされるものが増える。
前世の自衛隊の学校も結構退校する人間はかなり居たって聞くし。
「問題ありません。しっかりとその辺りも考慮して人員は選んでいますし、限界も見極めています」
俺の問いに対してハイラはそう返答。
う~ん、まあそれなら……。
いざという時に能力不足で住民が守れませんでした、なんてことになるくらいなら……って話だしな。
いざという時なんて正直来てほしくないが。
もしそうなったら、助けようとした側も、もっと厳しく訓練しておけばよかったって後悔するだろうし。
そう考えるのであれば、厳しい訓練は必要だろう。
俺はそう結論付け、ハイラにも伝える。
「分かっております。いざという時……闘技祭決勝での乱入の時のようなことが起きても、住民をしっかり守り切れるような……そんな組織に育て上げていきます!」
……そう言われればあったな、いざという時。
……ま、まあ、よろしく頼む。
後は、まあ本当に起きて欲しくはないが、犯罪等が起きた時の為に捕縛用の訓練もしっかりしておいてほしい。
「安心して、お任せください」
ああ、頼む。
「あ、いらっしゃ~いあるじ~!」
その後。
警察隊の見学を終えた俺がやってきたのは消防署。
こっちも様子見ておかないとな。
そう思ってやってきた俺を迎えたのはフィーネ。
訓練用に作った高い壁の上に座っていたからか、いち早く俺がやってきたことに気付くと、そこから飛び降りて、水クッションでぶにょっと着地。
俺の方へやってきた。
……いや当然のようにやってたけど焦るからやめてほしい。
着地地点に水クッション出来るのが目に入ってなかったらうちわ振るところだった。
俺はそう咄嗟に出した創造神器をしまいながらフィーネに答える。
「えへへ~ごめ~ん」
てへへと笑いながら謝って来るフィーネ。
……まあ、気を付けてくれればいい。
その笑顔に怒る気も減退した俺はそう流して、早速進捗を聞くことにする。
「どんな感じかって~? じゅんちょーだよ~!」
俺の質問に間髪入れず答えてくるフィーネ。
ふむ……順調か。
その言葉に、俺はフィーネの向こう側を覗くようにして目をやる。
そこではさっきまでフィーネが座っていた高い壁、およそ十メートルほどはあるだろうそこに、ロープ……いやアラクネの糸か? でよじ登っている者たちの姿があった。
これはいわゆる登攀訓練かな?
高所での消火や救護の必要がある時を想定した訓練。
いやまあレースピアの街にそんな高い建物は無いし、そもそも飛べる種族もそれなりに居るしで、別にわざわざこんな訓練する必要もないんじゃないかとも思ったが。
でもまあ万が一飛べる種族が動けなくなった時とか想定すると必要だしな。
それに純粋に体力つける訓練にもなるし。
そんな感じで見ていたら、登攀訓練を行っていた者たちがチラチラとこちらを見てくる。
心なしか壁を登るスピードも落ちているようだ。
こちらが気になるのは分かるが、注視するべきか?
俺がそう考えていると。
「どうしたの~? 何か面白いものでもあった~? わたしは壁を登るようにって言ったよね~? よそ見しろなんて言った覚えないんだけどな~?」
……怖。
悩んでいた俺の横でフィーネがニコニコしながらこちらを見ていた者たちにそう言い放った。
それを聞いた消防隊の者たちはぐりんっ! という音がこちらまで聞こえてきそうなほど勢いよくこちらから視線を逸らすと、先ほど以上の速度で壁を登り始めた。
「えへへ~皆やればできるよね~」
フィーネは全く表情を変えず笑顔のまま俺と会話を続ける。
いや……うん。
一応任せてはいたが、ぽわぽわしたフィーネに厳しい訓練とか出来るのか? と内心思っていたが、全然心配はいらなかったらしい。
めちゃくちゃ上手く出来てる。
「ほんと~? ハイラたちに教えてもらった甲斐あったなあ~」
教えてもらったからってすぐに出来るのは才能あると思う。
「ありがと~嬉しいな~!」
そう言ってかなり上機嫌になったフィーネと共に登攀訓練の様子を見守る。
先ほどのフィーネの叱咤? が効いているのか、こちらに視線をやる者はいない。
手元と登るべき壁の上を真剣に見つめ登っていく。
凄いな、するする登っていく。
でも……心なしか、ちょっと違和感。
皆少し遅くないか?
確かにかなり速くするする登っていくが、それは前世の価値観を引きずっている俺から見てだ。
異世界なんだし、ここに居るのは選抜された優秀なメンバー。
俺が驚くくらいのスピードで登っても不思議じゃないと思ったが……。
「はいお見事~! 皆、三百往復お疲れ~! それじゃあもう一回三百往復行ってみようか~!」
なんて考えていたらそんなフィーネの声が耳に入る。
はい? さんびゃく?
その言葉に、訓練していた者たちの雰囲気もなんだか絶望的なモノになった気がする。
えぇっとフィーネ? 三百往復って……?
「ん~? あ~ハイラがね~体力は大事だっていうからこうしたの~」
フィーネは何でもないことのようにそう言う。
もしかして、さっき訓練中の者たちがこっちをちらちら見てきたのってもしかして助けを求めて……?
ちらりと目をやると、絶望したような雰囲気を出しながらも再び登り降りし始める隊員たち。
凄いな。
それを見ながら俺は口を出そうか悩むも、いざという時のための体力作りと考えると頭ごなしに否定は出来ず……。
あー……お手柔らかに頼む。
俺はそんな言葉を口から出すにとどまった。
すまない。
頑張ってほしい。




