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4 〜 救出作戦 〜 後編

攫われたエルフたちの救出へと向かった奏とアリシア。

衰弱したエルフたちを急ぎ搬送するために、アリシアは魔術により村へと帰還する。

それに同行できない奏は単身、その場に残るのだが・・・

 視界が一瞬で切り替わる。

 樹海からエルフたちの集落へ。

 場所は集落の中央、村長であるベルガモットの家の側。

 事前の打ち合わせ通りである。

「魔女様――っ!」

 突如としたアリシアの出現に驚くエルフたちだが、アスメリアが直ぐに切り替えてこちらへとやってくる。

「今すぐ人を集めてください。刃物を使える者も魔術を使える者も全員です」

 蔓の繭は大元から既に切り離されているとはいえ、まだ微力ではあるものの攫われたエルフたちの生命を喰んでいる。

 直ぐにでも彼等を繭の中から助け出さなければならなかった。

「まずは彼等を繭の中から出しましょう。一秒でも早く助けることが、彼等の命を救うことだと思ってください」

「は、はい!」

 アスメリアが直ぐに近くのエルフたちに声を掛けて、仲間たちを集めに行かせる。

 騒ぎを聞きつけて近くの家屋からは続々とエルフたちが駆けつけてくる。

「繭は丁寧に剥いでください。中で癒着している可能性が高いです。無理やり剥がせばそれだけで致命傷になりかねません」

 言葉で説明しながら、アリシアは同時に実演も行う。

 指先に小さなナイフほどの炎の刃を形成し、的確に蔓を切断して繭を解体していく。

 その動きは的確で素早い。

 彼女は簡単に蔓を切断して見せているが、ソレを見ながら直ぐ側で同じ作業に勤しんでいるアスメリアは同じようにはいかない。

 火属性の魔術であれば切断するのに苦労することはないだろうが、エルフ族の多くはその適性が低い。

 どうしても短刀やナイフで解体することになるのだが、繭を形成している蔓は見た目以上に頑丈で一本を切断するのにもかなりの力がいる。

 アリシアの魔女の知識を持ってしても、一つの繭を解体するのに要した時間は十五分程。

 初めてのケースだからというのはもちろんあるが、流石に時間がかかり過ぎている。

 彼等の治癒はここからが本番なのだ。

 解体された繭の中からは、体にいくつも蔓が突き刺さった状態のエルフの男性が力無く転がり出てきた。

「治癒魔術を使える人は?」

「は、はい――」

 事前にベルガモットの呼びかけに応じて待機していたエルフが慌てて駆け寄ってくる。

「今から彼の体に寄生しているこの蔓を除去していきます。やり方を教えますので、見ていてください」

「わ、分かりました――」

 口ではそう応えるものの、彼女の顔は緊張と恐怖で蒼白に彩られている。

 やる前からこれでは少し不安が残る。

「私も一緒に見せて頂きましょう」

 全体の指揮をとっていたカルデナが彼女の肩にそっと手を添える。

「落ち着きなさい。大丈夫、できることを確実にやっていきましょう」

「は、はい――っ」

 彼女の励ましに治癒師の表情がどうにか持ち直す。

「助かります、カルデナ」

「いえいえ、私も治癒魔術は得意ですから。治療班は私の方でまとめましょう」

 確かに、カルデナの治癒魔術はこの集落どころか、国際基準で見ても上位に入る腕前だ。

 彼女になら治療班の監督を安心して任せられる。

「それでは実演して見せますので、見ていてください」

「「分かりました」」

 まずは一本、腕の奥まで突き刺さっている蔓に手を添える。

 ソレは蔓というよりも根と呼んだ方が近いかもしれない。

 ギュッと力こを込めて引き抜こうとするが、しっかりと抵抗を示してくる。

「ここで焦らないように慎重に――」

 一気に引き抜いてしまえば簡単ではあるが、それだと体内で枝分かれしている蔓が千切れて残ってしまう可能性がある。

 多少であれば後で切開して取り除くということも可能だろうが、できればそうならないようにしたい。

「ここでこの蔓と彼の体の両方に活性化の魔術を施します。大事なのは蔓と体、それぞれを別のモノとして認識して魔術を行使することです」

 それぞれを別の存在として扱うことで、体がきちんと蔓を異物だと認識させる補助になる。

 蔓にも魔術を施すのは、体内で千切れてしまわないためだ。

「蔓の方に掛ける魔術を強くしすぎると、体内との癒着を強化してしまうので気をつけてください」

 言うのは簡単だが、実際にやるとなると話は別だ。

「これは私たちがやる分にはそれぞれ役割分担してやった方が良さそうですねぇ」

 アリシアだからこそ、一連の流れを一人でやってのけているだけで、実際には三人一組で取り組むのが妥当だろう。

「焦らず、ゆっくりと――」

 アリシアの手が、ゆっくりと蔓を引き抜いていく。

 ブチ、ブチッ――と体から小さく、蔓が千切れる音がする。

「ふぅ。後はこれの繰り返しです。最初は加減が難しいかもしれませんが、慣れればもう少し早くできるはずです」

 そういう意味でもそれぞれの役割を分担するのは良い案だろう。

 しかし、それでも正直人手と時間は圧倒的に足りない。

 エルフたちが分担して作業にあたったとしても、そのレベルはアリシア一人に遠く及ばない。

 必要に応じてアリシアが遅れている作業をサポートしてどうにかといったレベル。

「ふぅ……」

 はやる気持ちをどうにか抑えつける。

 目の前のことに集中できないのはもちろん、奏がここにいないからだ。

 こうしている今も、彼はあの場所に残り、殿を務めてくれている。

 無理はしないと約束したものの、それでも彼は冷静に情報を収集するだろう。

 客観的に見れば、それは間違いなく必要なことだ。

 現状、この集落に起きている事象は明らかにイレギュラーに分類される。

 そんな中で、現状もっとも調査するべきなのが、霊樹のあるあのエリアだ。

 そこは先刻の魔物の襲撃よりも遥かに多くの魔物が巣食っており、更に無数の蔓が魔物以上の苛烈さで襲ってくる場所だった。

 できることなら今すぐにでもあの場所に戻り、彼のサポートに加わりたい。

 しかし、それはできない。

 そう、彼と約束した。

 誰一人としてエルフたちを死なせないと。

 その為には他でもないアリシアがこの場を離れるわけにはいかない。

「すぅー、はぁー」

 目一杯の酸素を体に取り込み、吐き出す。

 パンッ――と、両頬を力強く叩き、雑念を振り払う。

 やるべきことをやろう。

 でなければ、この後、どんな顔をして奏に会えばいいというのか。

 彼は必ず帰ってくる。

 そう約束してくれた。

 だから自分も約束を果たさなければ。

 集中しろ。

 今、この場を切り抜ける為には魔女である自分の知識と魔術が必要不可欠だ。

 惜しむのは、自らの過去への冒涜。

 一人として死なせてはならない。

 例え、それがただの自己満足であったとしても。

 きっと彼なら「自己満足? 上等じゃねぇか」、そう言ってくれるだろうから。

「待ってますからね、奏――」

 アリシアの全身から魔力が迸る。

 自身の全てを駆使して、アリシアは三十五の命に全力で手を伸ばす。


 一方その頃、奏は樹海を飛び回っていた。

 蔓による襲撃は縦横無尽、全方向からやってくる。

 気配が読めないため、どうしても視認または風の流れを察知してからの回避行動にならざる得ない。

 とはいえ、完全な無機物というわけでもないらしかった。

 蔓はこちらの動きに対して反射的に動いているだけではなく、定めた獲物を追い込もうとする動きを見せていた。

 それは機械的ではなく、明らかな意思を持った動き。

 しかし、その動きはどうにも拙い。

 例えるなら、そう――

 まるで狩りを覚えたての肉食動物のような。

 加えて、蔓に寄生された魔物たちの知能も明らかに低かった。

 地面を徘徊する数こそ多いものの、頭上を飛び回る奏に対しては何一つとして有効打を持っていない。

 おかげで奏は蔓からの強襲に意識を割くことができた。

 もしこれが、樹上にまで魔物の脅威が及ぶようであれば、かなり手こずっていただろう。

 追尾してくる蔓から距離を離しすぎないように、奏は大木を更に上へと駆け上る。

 蔓は獲物を捕らえようと追ってくる。

 どこまでも、それこそ大樹のてっぺんまで。

「ふむ――」

 樹上を飛ぶ。

 初めこそ、蔓は奏をピッタリと追尾していたものの、とある地点を境にその距離はどんどん開いていった。

 そして、その距離は等しく一定であることが分かる。

 どうやら蔓を伸ばせる距離には限界があるらしい。

 つまりこれで、奏が今すぐここを離れたとしても、蔓自体が集落を襲うという最悪の事態は回避されたわけだ。

 後はこの元凶について、少しばかり把握したい。

 ソレがこの場所に巣食っているのは確実だった。

 問題は、その場所。

 本丸は既に見定めている。

 霊樹だからなのか、奏の予想が的中しているからなのか、その場所の守りは硬い。

 特に気になるのは根本付近にあるはずの洞の部分。

 しかし、そこは蔓が幾重にも重なっているだけでなく、常に多数の魔物が狛犬のように蔓延っている。

 こじ開けるには流石に少々苦労しそうだった。

「でもなぁ、そこまで頑なだと余計に中が気になるわけで」

 ゲームは難しいからこそ面白い。

 姫守が疾る。

 魔物個々の強さは大したことはない。

 駆除するだけなら姫守の一閃で事足りる。

 ただ、やはり数が厄介で、駆除しても直ぐに補充されてくる。

「だったら――」

 ギアを上げれば良い。

 姫守の閃く速度が一段階上がる。

 徹底的に、かつ機械的に効率だけを追求して狩る。

 襲い掛かってくる魔物の数は尽きることはなく、霊樹を覆い隠す蔓の数もまた同じ。

 それでも――

 その厚みは同じではなかった。

 拮抗していた波は徐々に徐々に、奏の側へと傾いていく。

「何だよ。無尽蔵ではあっても、無限ではないのか――」

 要するに早さの問題というだけの話だ。

 どれだけ大量に湧いてきても、無限に再生しようとも、それを上回るスピードで削れば、それはそのうちゼロへと辿り着く。

 そして今、ゼロにするべき場所はこの霊樹のあるエリアの内、千分の一にも満たないほんの僅かな空間だけで良い。

 そのほんの僅かな場所だけにおいて矛と盾の話をするのでれば、明らかに矛の方が有利だった。

 盾が復元される速度はどれだけの広さが削られても変わらない。

 対して、矛は狙う場所を限定し、振る速度を上げれば、その分だけ効率を上げられる。

 どちらが優位なのかは明らか。

 もし仮に、奏がこのエリアに蔓延る魔物や蔓全てを狩り尽くそうとすれば、分は向こうにあっただろう。

 だが、今行われている攻防は全てを賭けるモノではない。

 姫守を通じて感じる確かな手応え。

 やがて、蔓を切り裂く手応えの向こうに僅かに覗いた真っ暗な伽藍の洞。

 アリシアの話では霊樹の根本には人が一人入れる程度の小さな洞があるという話だった。

 しかし――

「何だよ、お前は――」

 その暗がりの奥から何かがこちらを覗いていた。

 それは人の頭ほどの巨大な目玉。

 邂逅は一瞬。

 反射的に姫守を閃かせていた奏だったが、その一撃は再び頑丈に絡まった蔓に阻まれていた。

 今の僅かなやり取りで危機感を覚えたのか、蔓の密度が一気に増した。

 奏への急襲を切り捨てて、防衛の強化に全振りしたような気配。

 試しに一度、蔓を切断してみるも、その再生速度は先ほどよりも明らかに早くなっていた。

「学習したのか……?」

 更に変化はもう一つあった。

 魔物たちの動きが変わったのだ。

 今は魔物全てが、奏を異物と認識し、全力で排除しようと動いていた。

 その勢いは、これまでの比ではない。

 とはいえ、樹上が比較的安全地帯であることには変わりない。

 蔓が防衛に重きを置くようになったおかげで、その安全性は格段に増していた。

 しかし、互いにこれ以上打てる手も無くなっていた。

 奏には今以上の攻め手はなく、向こう側にも奏を仕留める手立てはない。

「流石にこれ以上は難しいか」

 潮時かと思ったその時――


 ギギ――


 樹海が鳴動した。

 その心当たりは一つしかない。


 ギギギギギギギギ――――ッ!


 鼓膜が震えるほどのそれは絶叫。

 込められた感情は、怒り。

 そして、それは他でもない奏、ただ一人へと向けられていた。

「ユルサナイ! ユルサナイ!」

 地鳴りのような怒号が響き渡る。

 脳裏に浮かぶのは先ほど霊樹の洞から覗いた巨大な目玉。

「何だよ、言いたいことがあるなら面と向かって言えよ。姿も見せないようなヤツと話す気はねぇぞ」

 奏の言葉で樹海の空気が一瞬、凪いだ。

 まるで樹海そのものと対話しているかのような、そんな感覚。

 眼前で蔓が組み上がり、人型を成した。

 それはトレントのようであったが、一点、決定的に異なる所があった。

 胴体の部位に大きな目玉が埋め込まれていたのである。

「オマエナンダ?」

「ただの旅行者だよ」

 嘘は言っていない。

 奏にとって、これは旅行のようなモノだ。

「お前こそ、何なんだよ」

 むしろ聞きたいのは奏の方である。

「ワレ、ココノオウ。コノモリ、ワレノモノ――」

「王とはまた大層な物言いだな……」

「オマエ、ワレノエサトッタ。ユルサナイ!」

「餌って、エルフたちのことか?」

 後からいきなりやってきて王を名乗った上に、エルフたちを食料呼ばわりするのはどう考えても暴論だ。

「エサ、カエセ!」

「お断りだね!」

 交渉の余地はない。

 目玉に向かって中指を立てた瞬間、ソレを内包していたトレントが爆ぜた。

 破片のように解けた蔓は四方八方へと蔓をしならせて周囲を叩く。

「危ねぇ――」

 多少の衝撃は受けたものの、致命的なダメージはない。

 後退しながら、奏は冷静に状況を分析する。

 エルフたちを攫った大元は、まずあの目玉で間違いない。

 そして、その本体があるのはおそらく霊樹の洞。

 ここまで判明したのであれば、一度引いて、アリシアと相談した方が賢明だ。

「よし、決まりだ」

 携帯ポーチからあらかじめ用意しておいた投擲用の煙幕弾を取り出すと、勢いよく岩肌へと叩き付ける。

 煙幕は市販のモノをベースに奏がこの樹海で得られる素材を使って改造したモノ。

 効果自体は少し下がるが、煙幕自体の散布される範囲が大きく拡大される仕様だ。

 そもそも煙幕が有効なのかどうかは疑問が残るところではあるが、魔物の群れから姿を隠せるだけでも十分。

 見通しの悪くなった視界に乗じて、気配を殺す。

 蔓が探るように乱雑に辺りを薙ぎ払っていくが、精度が低いこともあり、避けるのは容易い。

 正直、これは嬉しい誤算だった。

 おかげで、撤退するのにさほど苦労することはなかった。

「ここまで来れば一安心か……」

 まだ徘徊する魔物の姿は散見しているため、油断はできないとはいえ、その動きは霊樹付近と比べると緩慢だ。

 それでも発見されないように魔物たちの視界からは逃れつつ、奏は殿の任を切り上げる。

 問題は山積みだが、考えても分からないことはしょうがない。

 こちらには頼れる彼女の存在がある。

 一足先に集落に戻っているはずの恋人の存在を想い、奏は急ぎ樹海の木々を蹴った。

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