848
「う、こうして見ると露骨に狙われてますね」
シニフィエがそう言って溜息を吐いた。
蹴りから爪先を相手に引っ掛けてそのまま掴みに持って行こうとしていたのだが、絡みついたタイミングで空間転移。 そのまま背後に移動して一撃。
コックピットを起点に胴を斜めに両断。
この時点で死亡は確定だが、反応がロストする前に一仕事させるつもりだったらしく上半身を串刺しにしてふわわへの盾にしようとしたのだが――
ヨシナリは思わずひぇと声を漏らし、マルメル、ツガルは絶句。
ポンポン達はおいおいおいといった様子でふわわを一瞥する。
何故なら彼女はシニフィエごと敵機を斬りに行ったからだ。 こうして見るとシニフィエは死亡確定なので問題はないが、何の躊躇もないのは少し引いてしまう。
「盾にするって話は前に聞いとったからなぁ」
「あ、そっすか」
敵機は流石に反応が遅れたのか機動ではなく転移で躱していた。
ヨシナリ達が参戦した事により勝ち目が消えたと判断した悪魔型は思い切った手に出る。
地面がせり上がって地下の施設が丸ごと地表に露出したのだ。
このマップはスケールダウンこそしているが、イベント時とほぼ同一だ。
地下は水で満たされており、それが巨大な柱となって天へと伸びていく。
マルメルが迫力すげぇなと呟いているのを聞きながらヨシナリは無言。
柱の根元――恐らくは反応炉が何らかの作用を及ぼしたのか水が徐々に濁ると生々しい肉へと変わっていく。 忘れもしないイベントの最終盤で現れた巨大なボスそのものだったからだ。
ただ、このミッションでは確認されていない事もあってタヂカラオからの情報にはなかった。
ちらりと視線を向けると完全な無表情だったが、アバター状態にも関わらずその瞳の奥には激情が宿っている事が窺えた。 要は滅茶苦茶怒ってるのだ。
それはそうだろう。 これだけ入念な準備と情報収集を行って作戦立案もそれを基に行ったのだ。
練りに練ったプランを根底から引っ繰り返す事がこうも立て続けに起これば面白くもないだろう。
こうして見るとこの辺りからタヂカラオの姿が見えなくなっていた。
気付かなかった要因としては肉の柱から無数の敵性トルーパーが現れた事と地上から次々とエネミー等の常駐戦力が出撃して大挙して向かって来ていたからだ。
気になった事もあってフォーカスするとこの時点でタヂカラオが施設へと侵入しているのが分かった。
「どこまで読んでたんですか?」
「わざわざ引っ張り出したんだ。 誘い込むつもりなのは明らかだったからね」
この時点でタヂカラオが指揮を放棄して私怨を優先した事が分かった。
正直、彼はあまり感情で動かないと思っていた事もあって、意外だったのだ。
視線を地上に向けると追い込まれた悪魔型が敵性トルーパーに紛れて施設内へと逃げ込む。
ベリアル達が追撃に入るが、反応炉が移動している事もあって手分けをする必要もあってヨシナリ達が対処するという形になるのは自然な流れだろう。
あの悪魔型はその辺を見越した上で逃げ込んだのだろう。 勝てないなら勝てる数に分断する。
分かってはいても乗らざるを得ない状況を作るのも上手い。
正直、初見のギミックを連打するのはどうかとも思ったが、一応はルールの範囲かと納得はしていた。
何処にフォーカスするか迷ったが、地下を選択。 敵機を追ったベリアル達に視点を合わせる。
「こうして見ると施設の構造自体は変わらないんだな」
呟く。 部屋の配置、通路等の見た目はそのままだった。
部屋の中までは確認していなかったので細かい変更点があるかは不明だが、この辺りはそのまま使いまわしたようだ。 感じ的に広さもそのままのように感じる。
そのまま逃げる敵機を追って施設の最奥へ。 懐かしい場所だった。
ヨシナリ達がイベントでボスに挑んだ場所だ。 あの時はベリアル、ユウヤと三人で運営の複座機であろう敵との死闘を繰り広げたのは良い思い出だった。
悪魔型は分断に成功した事で勝ちを確信したのか、自信満々で短剣から剣に持ち替えると挑発するように手招き。 煽り始めた。
「これ、先の展開知ってると笑えるな」
「え? ウチは全然面白くないけど?」
「あ、すいません……」
マルメルがそんな事を言ったが機嫌がすこぶる悪いふわわには地雷だったようだ。
流石に不味いと判断したのか即座に謝っていたが。
ヨシナリは映像を停止させると無言で空間の上部にフォーカスするとタヂカラオが――居た。
かなり上部の壁面にセミのように張り付いている。
さて、こんな状態の彼だが、下にいる全員が気付いていなかった。
何故かというとタヂカラオが機体の動力を完全に落としていたからだ。
それにより壁と見分けが付かなくなっていた。
ここまでやられると居ると知らないと厳しいだろう。
「ステルス機能がなくても身を隠す手段はあるという事さ」
「……少なくとも俺と厨二野郎は気付かなかった。 シックスセンスでもあれは無理なのか?」
ユウヤの質問にヨシナリとポンポンは顔を見合わせる。
「まぁ、居ると知らないと厳しいな」
「だナ。 熱、動体、エネルギー流動は軒並み引っかからないから、目視か暗視系の項目で行けるか?」
「行けるとは思いますが、そもそもこんな隠れ方は想定できませんよ。 俺は気付かない自信がありますね」
知っていれば思い切った手としか思わないが、知らなければ効果的だ。
基本的に生きている機体はジェネレーターからエネルギーを発している。
つまり発していない物は木石と変わらない。 少なくともヨシナリは罠を警戒していない限りは気付かないだろう。
加えてここは敵機が誘い込んだと思っている場所なのだ。 伏兵が居るとは夢にも思わないだろう。
視点を下げると挑発に嬉々として乗ったふわわが斬りかかるが、敵機は太刀の斬撃を剣で流す。
さらりとやってるがふわわの斬撃をここまで簡単に流すのはランカーでもできる者はそういない。
ただ、その上段は囮で本命は小太刀だ。
真っすぐに腹――コックピットを抉りに行く辺り殺意が高い。
それを体勢を変えながら膝と肘で白刃取り。 ヨシナリも過去にやったが、あれは来ると分かっていた上、ふわわの攻撃タイミングをある程度知っていたからできた芸当なのだ。
初見でやる場合は難易度が桁違いに跳ね上がる。
それをあっさりと成功させている時点でこの敵機を操っている中身の技量と反応の良さがよく分かった。
誤字報告いつもありがとうございます。
宣伝
パラダイム・パラサイト一~二巻発売中なので買って頂けると嬉しいです。
Kindle Unlimited、BOOKWALKERのサブスク対象にもなっていますのでよろしければ是非!




