1話
僕とヤクザなお兄さん 1話
『終わりの始まり、そして出会い』
懐かしい夢を見ていた。
それはまだ僕は幼かった頃の記憶。僕が犯してしまった罪の記憶。
母親、それは僕には無いものだ。
いや、正しくは僕のせいで、僕の最大の罪である。それが母親だろう。
優しく抱き締めてくれる、一緒に楽しく笑ってくれる、その温もりも癒しも今はもうない。
夢の中で僕はただただ謝り続けていた。
それは誰に許されたいのか、はたまは自己満足の為の言葉なのか、あの日から僕はこの夢を見続けていた。
でも、この夢は嫌いではなかった。
だってお母さんに会えるのだから。例え結末が変わらなくとも、でも僕に『お母さん』と言う記憶を忘れさせない、そんな夢だ。
意識が朦朧とする。気怠さが身体中を襲う。
ゆっくりとだが、夢から目覚めた僕の目に映るのは、いつもと同じ僕の部屋だった。
机があって、クローゼット、僕が寝ているベット、多分あまり物が多い部屋ではないが、それでも僕は不自由なく暮らせている。
倦怠感と言うのだろうか、そんな感情があるが、ゆっくりとベットから身体を起こし、身体がゆらゆらと足取りが重い中、部屋を出た。
僕の家は俗に言うアパートだ。
可もなく、不可もなく、一世帯が住むのに丁度良い家だろう。
部屋を出てリビングに向かうと共に、美味しそうな匂いがする。
寝ぼけながらもリビングに着くと、お父さんが朝食を用意してくれていたようだ。
テーブルの上に並べられているのは、トーストに目玉焼き、ベーコン、サラダと、オーソドックスな朝食だ。
すると僕が起きてきたのを察したのか、
「おはよう、ショウ」お父さんはそう僕に挨拶をした。
ちなみにショウとは僕の名前だ。
僕もお父さんに「おはよう、お父さん」そう挨拶をしてから、席に着き、2人で手を合わせて「「いただきます」」と言い、朝食を食べた。
しっかりといい感じの焼き色の付いたトースト、僕好みのカリカリのベーコン、いつも食事はお父さんが作ってくれる。
なんでも、包丁や火は危ないから、触らせたくはないらしい。
僕はお父さんのことが好きだ。でも、なぜかお父さんは僕を見るたびに少し、ほんの少し寂しそうな顔をしながらも、優しい笑みを浮かべてくれる。
でもそれは、まるで僕に僕以外の誰かを当てがっている、そんな感じがする。
ここで、少し僕の話をしよう。
僕の世界は、この家の中だけだ。いや、正確に言えば僕は外に出かけることを禁止されている。
なんでも、外には悪い大人が沢山居て、そんな人達から僕を守る為らしい。
昔、6年くらい前までは確かに家の外にも出ていた。だけど今は、ここだけが僕の世界になっている。
なんでかな?そんな気持ちが浮かび上がるが、それはきっと僕のことを思っての事なのだろう。
だから、僕は気に留めない。
食事を食べ終えた僕はリビングで座っていた。
お父さんは僕達が食べた食器を洗っている。
キッチンの方から水が流れる音や、食器がカチャカチャと当たる音が聞こえて来る。
今は朝の9時を過ぎたところ。ちなみに今日は休日でなんでもない日だ。
なら何故、僕が学校に行っていないかと言うと、僕はお父さんから学校に行ってはダメと言われているからだ。
なんでかは分からない。けど、それもお父さんが言う悪い大人が居るからなんだろう。
だから、僕のやる事と言えば、お父さんと喋るか、お父さんと遊ぶか、お父さんが出かけて居る間に本を読む、そんな感じ。
今日はお父さんが外に出かける事はないらしい。
「ショウ、お父さんと一緒に遊ぼうか」
食器を洗い終わったお父さんが、何か温もりを求めるようにそう言いながら近づいて来た。
スルリとお父さんの手が僕の身体に伸びて来て、僕の身体を触る。
それに嫌な感情は抱かないが、僕には分からない気持ちが身体に感じられた。
最初は撫でるように頭をナデナデしてくれた。
僕の髪は長く伸ばされている。お父さんが切っちゃダメと言うので、伸ばしている。
たまにお父さんが整える為に切ってくれるけど、膝丈まで伸ばして、それよりは短くしてはいけないらしい。
ゆっくりと、でも止まる事はなく、だんだんと髪から下の方に、お父さんの手が伸びていく。
頭から耳を撫でるように触られ、首はスッと指の腹でなぞられる
身体がビクビクッと震える感じがするが、お父さんの手は止まる事なく、進んでいく。
朝ごはんを食べたばかりの、ちょっとぷっくりと出たお腹をさすられた。
「ショウのお腹、食べたばかりだから、可愛く出ちゃってるね」
そんな声が僕の顔を熱くした。
恥ずかしい、そう言おうとした瞬間、今度は胸を触られた。
さっきよりも激しいビクビクが身体を襲った。
それは何かが駆け巡るような、電流?そう言うのかな。そんな足腰が震える何かが身体を駆け巡った。
息が上がる。肩で息をして、呼吸が荒くなっているのを感じていると、まただ。またお父さんが何か、いや。多分薄々分かっているけど、解りたくない。
そんな気持ちと共に、僕に僕自身以外の誰かを当てがった。少し悲しそうな、でもそれを隠した優しい笑顔で「さぁ、ベットに行こうか」そう言いながら、僕はお父さんに、お父さんの部屋のベットに行くように言われた。
「はい、お父さん」
少年にしては高く、女の子にしては多分低い、中性的な声でそう答えた僕は、お父さんの部屋に向かった。
それからは少し記憶が曖昧だ。
何かを僕に当てがうような笑みで、何かに狂ったようにお父さんは愛情をたっぷり与えてくれた。
お父さんの体が何度も果てて、僕はただ終わるのを待つように、ベットの横にある写真を見つめ続けた。
ベットから見つめ続けた写真には、僕にそっくりのお母さんと、僕を優しく抱きしめているお父さんが映る写真を見つめていた……