2-48.聞き耳犯
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Σ(・ω・ノ)ノ!
「どうして嘘だと思ったんだい、アイリス?」
私の放った言葉にアレクがベットに座りながらこちらをまっすぐ見つめている。彼から少しだけ殺気が威圧となって私に襲い掛かる。だけど、その瞳からは一切の害意や悪意が感じられなかった。
きっと踏み込んで欲しくないんだろう。
アイリスは直感的に察した。
アレクはこれ以上俺を詮索するな、と私に訴えているんだ。
だけど……
「前々から… いえ、初めて会った時からアレクくんはどこか何かを隠してる。そんな気がしてならなかったんです。 それに、すごく親しそうに私たちと居ますけど…どこか…そ、その… なにか壁のようなものを感じるんです」
アレクの眼が一層険しくなる。目線で「それがどうした?」とばかりに威圧するようにアイリスに問いかけているような感じだ。
アレクの異様な振る舞いにランバートもトールはこれはいけない、と思いアイリスを止めようとするが、二人の静止が入る前にアイリスが話し始める。
「初めて見た時のアレクくんは凄く優しくて、カッコよくて… 凄く頼れる人だと思いました。それは今でも変わりありません。 だけど、アレクくんは私たちに何も言ってくれない…っ!何も頼ってくれないっ! アレクくんは私たちより圧倒的に強いから… 私たちがアレクくんより劣るから… そう最近までは思ってたけど… 最近、アレクくんの様子からそれは違うんだと、何となく思ったの!」
アレクくんはとっても優しい。
まるで私のお父さんのような人だ。
一緒に居ると心が安らぐし、どこか安心する。
アレクくんになら、なんでも話せる。
どんなことでも黙って聞いていてくれる。
私の師匠として、超えるべき目標として、友人として、親友として近くに居てくれた。
まだ私たち出会って半年なのだけど、家族にも似た想いを感じる。
きっとこれがアレクくんが言っていた「小さな幸せ」であり「繋がり」なんだと私は理解できた。きっとこれが私の考え続けてきた疑問の『答え』なんだろう。
アレクくんからたくさんの感情を教えてもらった。私は与えられてばかりだけど、それでもアレクくんと肩を並べられるように努力してきた。肩を並べられている、なんて言えないし、同じ目線で立場でアレクくんと居ることは出来ないけど、それでもアレクくんの隣を歩いてきたつもり。
だからこそ感じた大きな違和感。
アレクくんは自分のことは絶対に話してくれない。そのことは少なからずランバートも感じていた。今日お互いを知り合ったトールでさえも薄々感じていたのだ。
ランバートも何度かアレクからその違和感の正体を探るために聞き出そうとしてきた。しかし、すべてアレクに逸らされてきた。言いたくない……と、いうよりは話すことに戸惑いがあるといった感じをランバートは感じていた。
だからこそ、ランバートは沈黙を貫いている。正直アイリスを止めるべきだと思うが、自分でもアレクの違和感を知りたいという好奇心が理性を上回ったのだ。
「どうしてアレクくんは… 私たちを頼ってくれないの?」
◇◇◇
アイリスのその言葉は俺には「どうして話してくれないの?」と言われているような気がした。
確かにそうだな、とも自分で思う。
今までに何度かアイリスやランバート、ロイスに聞かれたことがある。どうしてそんなに強いのか、と。俺と初めて会ったころの三人はなまじ強かっただけで、俺の実力を見抜くことは不可能だった。しかし、一緒に訓練していく内に俺との実力差に気づいていたんだろう。
そして極めつけは今日のトールとの模擬戦だな。
少しハッスルしすぎた。今思えば普通に降参なり、ジョナ先生の静止に大人しく従っていればこんなことにはならなかっただろうに。まぁ過ぎたことをどうこう言っても仕方がない。
別に話しても構わない、と俺は思う。
この世界では転生者はザラにいる。アクアリアも転生者だと知れ渡っているしな。
だけど俺はアイリスの言うように、俺は恐れているんだ。
俺の正体が『雪村幸樹』だと、幼馴染だとアクアリアにバレることが…。
正直、今の俺には昔あったような胸を締め付けるような何かが消えている。それすら思い出せない。ただ残っているのは「概念」だけだ。いや、もっと正確に表すなら…「恐れ」だ。
俺は何故だか、アクアリアにだけは知られたくないんだ。
今となっちゃもう分からない。なぜそう思うのかも、全て全部消えてしまったように… ただの残留意思となって残っているだけなのだ。
アクアリアと会った時からそうだ。
朱莉の転生体であるアクアリアに出会った時に、俺は「嬉しい」とも「楽しい」とも何も感じなかった。それは今でも同じだ。たまにアクアリアから話しかけられるが、胸が高鳴ったことなど一度もない。ただあるのは「虚無」と「恐れ」だけだった。
(俺は人として、壊れてしまった、のかな…?)
そう何度も思わされた。
だけど、俺としての意思、いや雪村幸樹としての使命だけははっきりしていた。
『朱莉を護る』
ただそれだけが俺の躰を突き動かす原動力となっていた。
それが今、俺がこの場所にいるすべての理由だ。
「…俺の過去なんか、めちゃめちゃしょーもないだけだぞ? それでも聞きたいのか?」
そう言葉に出すのが俺の精一杯だった。
アレクがみんなの方に顔を向けると、みんなは「早く言え」とばかりにこちらを見ていていた。
そんなみんなの様子をみたアレクはふいに立ち上がる。
「どうした? 話さねぇのか?」
立ち上がったアレクにランバートが訪ねる。
「いや、別に話しても構わんのだけど… その前に――――――――――――」
アレクが部屋の入口の方にテクテクと歩いていき… そしてバンッ!と大きな音を立てて扉を思いっきり開く。
「きゃあああーーーー!!!」
「うわぁっー!?」
ロイスとミルベリアの二人が吃驚した声を上げて、部屋に倒れ込むように入ってくる。どうやら二人は部屋の扉の前で聞き耳を立てていたようだ。
寮の個室扉は内側からは引きドアで、外側からは押しドアなのだ。そのため、扉前で聞き耳を立てていた二人が突然に扉をあけられたことによって、体重を扉に預けてた二人はなすすべなく、転がり込んだ。
「その前に、部屋の前でコソ泥めいたことをしているお二人様をご案内しようかと思いましてね。 なぁロイスにミルベリアさん?」
転がり込んだ二人にアレクが薄ら笑いを浮かべた顔で睨みつける。
「な、ななな!え、えぇ…っと… そ、そのですわねっ! わ、わたくしは…そ、その…」
「えっと、ぼ、ぼくは! そ、その! あ! ダンジョンのことで… そう!ダンジョンのことで!」
「あぁ思い出しましたわ! そう私はトールが心配でしたので!トールの後を追いかけてましたわ!」
「ぼ、ぼぼぼぼくも! アレクさんにダンジョンのことでお話が、あ、あありましたのでっ!」
慌てて弁明の言葉を言う二人の前にゆったりとアレクがしゃがみこむ。
「ロイスはともかく、ミルベリアさんは何でトールの後を追いかけてきたのかな?」
その言葉にギクッとなるミルベリア。
「え、えっと…その… あ、そうですわ! トールが停学処分を受けたのに家に帰らずアレクさんと後ろに続いて寮へと入っていきましたの! そ、それでどうかしたのかなっと思い追いかけたわけなのですわ!」
「へー ふ~ん。 で、どこまで聞いたの?」
「いえ、私は何も聞いてませんわ!」
「ほー? ロイスくん」
「は、はいっ!」
アレクが突然、ロイスに声を掛ける。突然声を掛けられたことによりロイスが一瞬にして縮こまった。それをみたアレクがニヤっとし…
「ロイスくんは、どこまで聞いたのかな?」
「アレクさんが『退学してメルキドに戻ろうかな?』と言ってたところからです!」
ほぼ初めから扉の前で聞いてたのね。
「ちなみにそこにミルベリアさんは居ました?」
「はい! ぼ、僕と同じようにずっと初めからいました!」
「ちょ、ちょちょっと! なにをいっているのですか!?」
ロイスが全てゲロった。
それを見たミルベリアさんがロイスくんの胸元を掴んでぐわんぐわんっと振り回す。その光景は見てて面白かったが、段々とロイスが白目をむいてきたので、ミルベリアを止めて諫める。
諫められたミルベリアは大人しくなって話し始めた。
「も、申し訳ないですわ… わたくしはトールのことが心配になって後を追いかけましたの… そしたらアレクさんの部屋に入っていくのが見えまして、 それで…」
「それでずっと聞き耳を立てていた、と?」
「は、はしたない真似をしてしてしまい、申し訳ないですわ」
「アレクさん ご、ごめんなさいっ!」
二人がそろって謝罪してきた。まぁ別に怒っている訳じゃないんだけど。
「まぁ二人とも部屋に入りなよ。 随分と前になるけど、ロイスに聞かれたあの質問… 結局はぐらかして、教えなかったけど… 今日で全部わかるだろうしな」
そう言ってアレクは二人を部屋に招き入れた。
指を穢してしまって… 執筆がキツい…。




