2-14.アレクの教育
きっまぐれとぉーおーっか!
※気まぐれトーカ!
一対四十ハの模擬戦は一方的なモノ… に、なるはずだった。
中々決着のつかない模擬戦に観客たちも戦ってる冒険者たちもイラ立ちが見えていた。
ただ一人、彼女以外は。
◇◇◇
避けて、避けて、避けて、避けて、避けて、避けて、避けて、避けて、避けて、避けて、避けて、避けて、避けて、避けて、避けて、避けて、避けて、避けて、避けて、避けて、避けて、避けて、避けて、避けて、避けて、避けて避けて、避けて、避けて、避けて、避けて、避けて、避けて、避けて、避けて、避けて、避けて、避けて、避けて、避けて、避けて、避けて、避けて、避けて、避けて、避けて、避けて、避けて、避けて、避けて、避けて、避けて、避けて、避けて、避けて、避けて、避けて、避けて、避けて、避けて、避けて、避けて、避けて、避けて、避けて、避けて、避けて、避けて、避けて、避けて、避けて、避けて、避けて、避けて、避けて、避けて、避けて、避けて…
避けまくる――――――
四十八人の冒険者たちから繰り出される魔法や斬撃を全て軽快な身のこなしで全て避ける。
ただ一つの攻撃でさえも当たることもなく、ただのかすり傷さえ与えることが出来ずにいた。
「ひらひら… ひらひらと…!! 真面目に戦え!」
ついにAランク冒険者のダズがキレた。
それに同調して一緒に戦っていた冒険者たちも怒り出した。
「そーだ!真面目に戦え!」
「避けるだけか!無能がぁ!」
「さっさとくたばれ貧弱小僧ぉ!」
とても数十人で一人を袋叩きにしようとしている人たちのセリフではない。
怒った冒険者たちの攻撃はさらに単調な攻撃へと変わる。
魔法攻撃も誘導型から単純な線の攻撃に代わっていた。
模擬戦開始時からひらひらと全て完璧に避けることが出来ていたのに、さらに単調な攻撃となったことにより、さらに回避し易くなっただけであった。
それから十分後。
剣と剣がぶつかり合う白熱する模擬戦とは違い、一向に勝負のつかない模擬戦に、観客席にいる冒険者たちもイラ立ち始めた。
当然ヤジが飛び交う。
「さっさと決めろよ!」
「貧弱小僧一人相手にいつまで時間立ててんだ!」
「普段の威勢はどうしたダズ!」
「なめられてるぞ!さっさと決めちまえ!」
(アレクくん… どうか怪我しないで‼)
◇◇◇
(そろそろいいかな…?)
アレクは回避に専念していた。
一対複数で戦うときのセオリーはより多くの敵を眼中に入れておくこと。
そして… 攻撃は全て避け切ること。
――――――これが鉄則だ。
攻撃と食らえば隙が生じる。
複数の敵と対峙したときに隙を作ると、戦況が変わる。
即ち死だ。
魔界での修行初日か数か月はとにかく回避を叩き込まれたものだ。
敵の攻撃を見切りって確実に回避する。
魔界では俺の攻撃はまったく通じなかった。当然攻撃力を鍛えようとしたが、師匠ヴェルからストップがかかってしまった。まず攻撃力上げるよりも回避力を上げること、それが大切だと、なによりの優先事項だと師匠ヴェルからの教わったのだ。
始めはまったく回避できなかった攻撃が、見えるようになってきた。
見えるようになってくると相手の癖や隙が解るようになってきた。
今では少しの動きで、次の攻撃の映像が脳内に鮮明にイメージすることが出来るようになった。
そんなことを思い出しながらアレクはとにかく避けまくっていた。
そしてそろそろかな、と思った。
アレクと戦っていた冒険者たちに次々と疲労の色が見えてきたのだ。
武器を数十回程度振り回した程度で疲れるとは… とんだ訓練不足な冒険者たちだな。
戦っていた冒険者たちから一旦距離を取る。
「「「「ハァハァ…ゼェ―ゼェ―」」」」
どいつもこいつも疲れすぎだろ。
本当にこいつらは、この国のエリート冒険者なのか?
「だいぶ息が上がってるようだけど… 大丈夫ですか?」
アレクが冒険者たちに声をかける。
「真面目に、戦え…ない、奴が!! イキってんじゃねぇ!」
「そーだぜ… 俺たちと真面目に戦いやがれ!」
「戦えない腰抜けに言われたくないぜ!」
気遣い無用って感じじゃなく、一向に戦おうとしない俺に対する罵倒ですか。
まだまだ元気があってよろしいじゃないか!
「小僧ォオ! 正々堂々と戦いやがれええええ!!!!」
ダズがキレた。またキレた。
というより、なんて言ったコイツ?
「お前がそのセリフを言うのか?」
「あぁ? 正々堂々戦えない腰抜けが威張ってんじゃねぇぞ!」
「いやいや… 一人を複数で叩きのめそうとしてるのに、『正々堂々』はないでしょ」
「あ? てめぇ何が言いたいんだよ!」
アレクは一つため息をついた。
「お前が『正々堂々』なんて言葉を使うなよ。『正々堂々』というカッコいい言葉の方が汚れちまうだろ? って言ってんだよ!耳が聞こえなかったのかAランク冒険者くん」
その言葉に次々の冒険者たちが怒り始めた。
本当にこいつら学習しないな。
「さて… そろそろ教育してやるよ」
その挑発とも取れるセリフに冒険者たちが次々と言い返す。
「アァ!? ガキが威張ってるんじゃねえぞ!」
「そーだ!生意気だぞ!」
「正々堂々戦えよ!」
「腰抜けに教えられることなんざねぇよ!ガキが!」
それを無視してアレクは続ける。
「まず一つ! 見え見えの挑発に乗っかって怒るなバーカ!」
怒りは大切だ、だけどそれを心の中に秘めてこそ意味がある。
怒りは冷静な判断を鈍らせる。戦場じゃ一瞬の迷いが命取りだ。
感情抑制もできないようじゃ戦場では生きられない。
さらに冒険者たちが怒り出す。
「二つ目! 人を見た目で判断するなボケ!早死にしたいのか?」
相手を見た目で判断する奴は長生きできない。
敵の力を侮るな、敵の力を見誤るな。
どんな敵だろうが警戒を怠るな、常に最悪を想定して戦え!それが鉄則だ。
冒険者たちがさらにヒートアップ!
「そして三つ目…!!」
「あぁ?戦えねぇ腰抜けが… もっともらしいこと口にするな!」
そう吠えたダズの目の前に一瞬で移動してダズの胸倉を右手で持ち上げる。
「グハッ!!」
突然目の前に現れた俺の姿に冒険者たちが驚いて黙り込む。
「俺のことは別に構わない…。罵倒しようが食べ物ぶっかけられようが大抵のことなら二、三日たったらへらへら笑って忘れてやるよ…!!」
「……だけどな…!!」
「アイリスを侮辱したことだけは赦さねぇ… 俺の大切な友達を侮辱する奴だけは絶対に赦さねぇぞ!三下冒険者共がァ!!」
無意識に胸倉をつかみ上げているダズに殺気を放ってしまった。
今まで感じたことのない本気の殺気にダズは怯えあがり、そして失神した。
右手で胸倉を持ち上げていた失神したダズを思いっきり冒険者たち目掛けて投げ飛ばす。
投げ飛ばすついでに周りに威圧を放つ。もう誰も逃がさん、とばかりに威圧をぶつける。
投げ飛ばされたダズは気を失っており、突然飛んできたダズに冒険者たちが驚き、そして俺の怒号に怯える冒険者たち。始めの威勢はどこいったのか、もう誰も解らなくなっていた。
「三つ目! お前らは怒らせてはいけない奴を怒らせた! それがてめぇらの最大の失態じゃボケが‼」
俺の怒号に怯えた冒険者たちが一斉に逃げ出そうとするが、足が動かないことに気が付いた。拘束系の魔法を使われたのか、と思ったが魔法の気配がない。じゃ…なんで動かないんだ!と口に出そうとするが、口も動かない。
目の前いる少年からは信じられないくらいの圧を感じた。
まるでドラゴンにでも睨まれたように恐ろしい威圧感だ。
そこでようやく冒険者たちは気が付いた。
絶対に起こらせてはいけない奴を怒らせてしまったこと…!!
そして理解した。
自分の足が動かないのではなく、動かせないことに。
「覚悟しろよ‼ 一匹残らずボッコボコにしてやる!」
そこからの戦いは一方的なものになった。
安全対策としてダメージ軽減と致死ダメージ対策の結界が張られているが、それを上回る攻撃で一瞬で冒険者たちを蹂躙しつくした。
次々と冒険者たちが外に飛ばされていくが、飛ばされた冒険者たちは全員が立ち上がる気力どころか、気を失い瀕死の重傷を負っていた。
顔面陥没、頭がい骨骨折、鼻骨骨折… 特に顔に対する被害が重症を負っている者たちがほとんどだった。
時間にして僅か一分未満。
アレクに挑んだ自称エリート冒険者たち総勢四十八名の冒険者たちは全員治療院送りになった。
審判を買って出た受付嬢もアレクの威圧に充てられ、失神し、地面に倒れ込んだ。
その光景に観客たちも黙り込んで、座っていることしかできなかった。
その時、訓練場への入口の扉がバンッと大きな物音を立てて開けられた。
入口からは身長二メートルはあるだろうか、スキンヘッドにスーツ姿の大男が勢いよく入ってきた。
「なにごとだっ‼ って何が起きたんだこりゃあ‼」
観客席にいた冒険者たちが「ギルドマスター…」と言っている。
どうやら、こいつがアスラエル王国の冒険者ギルド本部の統括者にしてギルドマスターか。
(面倒なことになっちまったな…)
と少し後悔したアレクだった。




