2-9.The First Contact!
気まぐれトーカッ!
※やっとヒロイン登場しました。最後に少しだけ。
※サブタイトルが『2-7.』になってましたので『2-9.』に変更しました。
冒険者ギルドを飛び出た後、俺はそのまま王都へと向かった。
メルキドからリルクヴィスト領にある道には人がごった返していた。おそらくあらかじめ避難していたメルキドの領民たちなんだろう。殲滅されたことを知ってメルキドに引き返してきたってところかな。
リルクヴィストの街までは馬車では三時間。徒歩では半日かかる距離だ。
だけど、俺ならそのくらいの距離なら数分で踏破できる。
身体に認識疎外の魔法をかけ、自分の姿を周りから見えないように隠蔽する。それから一気に身体強化魔法で躰を強化して一気にリルクヴィストの街まで駆け抜けた。ここからは乗合馬車を乗って王都まで旅をする予定だ。
この街は俺の実の父親が治めている街だ。
正直長居したくないので、さっさとリルクヴィストとアスラエル王国の王都まで結ぶ乗合馬車に乗ることにした。
この世界では乗合馬車といっても、地球の乗合バスとは大きく違う。
主に街と街を商売しながら歩く行商人の荷台馬車に賃金を払って乗せてもらうのだ。
馬車でも王都までは十日間かかる。長い道のりだ。
一気に身体強化魔法で駆け抜けてしまおうかと考えたが、別に急ぐ用でもないし、初めてのゆっくりと景色を眺めながらの旅には少し興味があったので、馬車に乗せてもらうことにする。それに、一か月後の入試試験に向けて、一応勉強しないといけないのだ。ここは乗合馬車に揺られながら勉強するほうが効率的だと思ったので、ゆったりと馬車に揺られながら王都を目指すことにした。
俺がなぜ王都を目指すのかというと、それは王都にある学園に入学する為だ。
王都には王国中の優秀な生徒が入学する『王立アスラエル学園』がある。
この学園は、他の教育学園と違って入学者は無条件で入れるわけではない。地球でいう高校入試に当てはまる試験に合格した者だけが入学を許可されるのだ。
この学園には身分制度は適応されない。
完全な実力至上主義の学園だ。
『強いものほど偉い、賢いものほど偉い』と、そう決められているのだ。
学園は二つの科に分かれている。
将来この国を運営する官僚などの文官なるための『経法科』
将来この国の防衛や治安維持などの武官になるための『武官科』
『文官科』は頭が賢くないと入れない。
『武官科』は強くないと入れない。
俺が受けるのは『武官科』だ。
この科に入学して卒業したら基本的に騎士団か軍に入る人が多いらしいが、別に強制ではない。
俺は卒業しようが退学しようが冒険者になる、そう決めているのだ。
この国に仕える気はさらさらない。
俺は俺の目的のためだけに生きると決めている。
そのことは師匠には既に伝えている。
師匠は何も言わずただ「頑張って来い!」と俺を送り出してくれた。
それに、餞別として師匠が使っていた『偽装の指輪』を貰った。
これはただステイタスを偽装できるだけではなく、魔道具の認識すらも阻害できる代物なのだ。俺の今のステイタスはとてもじゃないが、他人に見せれるようなものじゃないのでこれには助かっている。
転生して今日で八年。
メルキドでは三年ほどしかいなかったが、少なくても俺にとっては思い出深い街だ。俺にとっては故郷みたいな街だった。別れるのは少し寂しいが、それ以上に俺はこれからの学園入学に想いを馳せ、胸を躍らせていた。
魔界で死ぬ気で鍛え抜いた実力と、前世からの知識。
俺なら問題なく合格できるはずだ。あとは最低限この世界の歴史とか色々と勉強しないといけない。
師匠から『武官科』の入試試験について少し聞いている。
問題やお題などは毎年変わるらしいが、基本的に共通していることがあるらしい。
それは問題形式だ。
実技試験と筆記試験のトータル点によって合否が判断されるそうだ。
それぞれ五十点づつあり、合計点百点中で競い合う。毎年の合格平均点は七十点だ。
筆記は主に『文法力、計算力、アスラエル歴、戦術法』の四つから出る。
地球でいう所の『国語、算数、歴史』みたいなもので、最後の戦術法は作戦立案みたいな問題らしい。
実技は『魔法、戦闘技術』の二つから出る。
魔法は用意されている的に向かって自分の得意な魔法をぶつけ、その数値を図るらしい。戦闘技術は試験官との一対一の実戦形式の試合らしい。
学園への入学は成人を迎えた人ならだれでも受けることが出来るらしいが、ほとんどの入学している人が貴族か名のある豪商の跡継ぎらしい。ようするにボンボンたちだ。平民でも受ける人はいるらしいが、よっぽど優秀じゃない限り合格しない。
貴族は幼少から優秀な指導者による的確にな戦闘技術の訓練に、専属の家庭教師から教えられている。ようするにエリートコースを順調に歩んできたボンボンだ。そりゃ合格しないと情けない。一体何を教わってきたんだ?ということになるだろう。
この国は一応『平等』を掲げているらしいが、貴族制度がある時点で平等ではないよね。
それに意識改革も進んでおり、奴隷制度も廃止されてはいるが、一部ではまだ認可されている。
選民意識の高い貴族の奴とかも入学してくるだろう。
まぁ学園に入学してしまえば貴族も平民も関係ないらしいが、さてどうなることやら。
そんなことを考えながら、俺はたまたま見つけた行商人に頼み込み、荷台に乗せてもらい王都へと向かうことになった。
◇◇◇
馬車に揺られて、五日間たった。
正直暇だ。
たまに魔物が襲ってくるが、行商人の雇った冒険者がすぐに狩ってしまう。それにこの辺りに出る魔物と言えば最大でオークくらいなものだ。それほど強くないので、俺が戦ってもおもしろくもなんともない。まぁ魔界で戦ってきたせいで、人間界に存在している魔物全てが弱く感じてしまうんだが…。
勉強用に異空間収納に入れておいた書物や歴史書は全て読みつくした。
師匠から貰った『アスラエル王国軍 兵法書』なる本も一応読んだけど、正直どうでもいい内容でしかなかった。そもそも、こんなものが学生レベルの試験に出るのか?と疑問になるレベルだ。
荷台には俺しか乗っていないので、話し相手が居ない。
先頭の馬車に行商人と護衛の冒険者パーティが乗っている。
「こんなことなら… とっとと王都に突っ走っていけばよかった…」
いまさら後悔しても遅い。すでに王都まで乗せてもらうためにお金は払っているのだ。
森の中の街道を走っているため、景色はさっきからほとんど変わらない…。っていうか木か草原かのどっちかだ。いい加減見飽きたぞ。
馬車の荷台でボーっと空を見て時間を潰していたら、馬車が止まった。
どうやらここらへんで一旦休憩を入れるらしい。休憩というのは荷台を引いている馬車のことだ。馬だって疲労がたまる。定期的にこうやって休ませるのだ。
空はまだ日が高い。
数分くらい休憩入れたら、また走り出すのだろう。
俺は荷台から降りて近くにあった木の幹に腰かける。
森の中なので涼しく心地いい風が吹いている。
「こんなところで何してるんですか?」
「ん? あぁ。雲をボーっと眺めてた」
声をかけてきたのは二十台くらいの女性冒険者だった。ここの行商人の護衛依頼についてきた冒険者パーティの一人だ。名は知らない。
「休憩中の時はずっとボーってしてますね」
「ボーっとするしかやることないからなぁ…」
「…本読んでませんでしたっけ?」
「あれねぇ… もう読み終えた」
「オーイ!さっさとこっち戻ってこーいっ!」
男性の声が響く。
「あ、呼ばれたから私行くね!」と言ってタッタッタと走っていった。
この女性冒険者は休憩になると良く話しかけに来てくれるが、すぐ同じパーティメンバーのリーダーらしき男の声でパーティに戻っていくのだ。
—————————————あぁ暇だなぁ…
(もういっそのこと… このまま王都まで俺一人で突っ走ろうかな。)
と考えていたら、もう今では癖になっている魔力探知に反応があった。
いつも引っかかってる雑魚魔物や小動物とは違う。これは人間の反応だな。それも一人だけか、それにしても中々強い魔力反応だ。おそらく、この護衛としてついてきている冒険者パーティよりも強いだろう。
木の幹に腰かけながら、街道から歩いてくる人物を見る。
やがて目視できるような距離まで近づいてきた。
大きな荷物を背負って歩いている。どうやら女性のようだ。年は俺と同じくらいだ。薄ピンク色の髪に、整った顔立ち、思わず見とれてしまいそうな可愛さを持った女の子だった。
顔立ちからして貴族かと思ったら、服装が平民だった。
それに腰に帯剣している武器が貧相な鉄製な片手剣のみだ。それに大きな荷物を背負っているところを見ると、どうやら異空間収納魔法が使えないのか、それとも容量オーバーで持てなかったのかの二択だが、おそらく使えないのだろう。
内服している魔力量は高いし、汚れがなく澄んでいて綺麗だ。
あれは魔法を行使したことがない人特有の魔力波長だ、せっかくの魔力量が勿体ない。
段々と距離が近づき表情まで鮮明に見えてきた。
顔は汗びっしょりで、襟元には汗が沁み込んで少し濡れていた。せっかくのかわいい顔が台無しだろ、と突っ込みたくなるが、女性に対して言っていい言葉ではないので黙っておく。
その女性は俺が休んでいる近くの木まで来ると腰を下ろして休み始めた。
さすがに疲れたのだろう。見るからにめちゃめちゃ歩いてきました感すごいし。
その女性はチラっと俺の方を見たが、すぐに興味を無くしたのか、それとも疲れて尋ねる気力がないのかその場でぐったりとしている。
俺もあまりにも可愛い顔立ちに少し見とれていたが、迷惑だと思いすぐに空を見る。こういう時は空を見るのが一番だ。あぁ雲がゆったりと流れている…。
変なことを考えている間に、馬の休憩が終わったらしく、そろそろ出発するようだ。
いつも声をかけてくれる女性冒険者が「出発するそうですよ!」と言いに来てくれた。
さて、行こうかな… と思ったがすぐ斜め左側を見るとさっきの女性がぐったりと下を向いてしゃがみこんでいる。かなり疲労しているようだ。
俺は悩んだ。
いかにも体調が悪そうなか弱き女性を見捨てて馬車に乗るか、を。
いやいや、それはダメでしょ。男としてより、人としてダメだ。
なんとなくだが、見てられねぇや。
俺は声を掛けに来てくれた女性冒険者に「ここで降りますわ!商人のおっさんにはそう言っておいて!」と言って、俺はしゃがみこんでぐったりしている女性の方に歩き始めた。
「どうかしましたか?」
なるべく警戒心を与えないように、優しく声をかける。
「…え? あ、はい…大丈夫です!少し歩き疲れて休んでいました。どうかお気になさらないでください。」
突然声を掛けられて、少し驚きながらも返答してきた。
驚き方が少し可愛かったのは口に出さない方がいいだろう。変質者と思われたくないのでな。
これが俺と長い間一緒に過ごすことになる相棒とのファーストコンタクトだった。
初期設定では学園で同じクラスになった時がファーストコンタクトにしよう!って考えてたんだけど、その後々のことを考えれば、旅路中に出会った方がロマンあるんじゃね?と解釈しました( ̄▽ ̄)
テンプレ的に魔物に襲われている時に、アレクが助け出す!
それもありかなぁ~って思ったけど、それじゃ面白くない!ってことで、こんな設定で行きました!
ここまで読んで下さりありがとうございます!
これからも頑張って執筆していきますので、暇つぶし程度にお読みください!(´▽`*)