2-7.一輪の氷の花
気まぐれトーカ!
※次回からようやく学園入試に向けて王都に向かう描写が描けそうです!
「…少し、やりすぎちまったかな?」
俺の周りには、かつて魔物だった残骸が転がっている。それもほとんどがバラバラだ。
メルキドの滅亡とまで言われた数万にも及ぶ大規模魔物暴走はそこに壊滅していた。
フッと意識が一気に浮かび上がってくる感覚に襲われる。
それと同時に少し疲労感が襲うが、たいしたことはない。いつものことだ。
極限の集中状態が解除されたようだ。
身体をひねったり、伸ばしたりして自身の体調を確認する。
どうやら今回は、そこまで疲労しているわけではないようだ。
(まぁ… ほんの数十秒の間の発動だったから反動もないな。)
極限の集中状態は肉体的疲労よりも精神にかかる負荷が大きく、修行を行って来たアレクでも最大五分ほどしか保つことができないのだ。
「これで、とりあえずメルキド滅亡の危機は逃れられたかな?」
右手に持っていた魔刀:笹雪を一振りして血糊を振り払って鞘に納刀する。
別に血糊なんかついているわけでもないが、あくまで格好だ。だってかっこいいだろ?
後ろを振り向くと、メルキドの外壁と城塞門が見える。その上には複数の人影が見える。
おそらく南門を封鎖していた駐屯騎士団の騎士たちだろう。
(このまま俺が戻ったら… 街はパニックどころか、少し目立ちすぎるな)
俺は出来る限り目立ちたくない。
これは宇野惚れでも過大評価でもない。おそらく俺はこの功績から貴族たちに目を付けられることになるだろう。そうすれば師匠と同じスカウトされ、王国の騎士団に入団することになる。
普通に考えればエリートコースに乗ることが出来る輝かしい未来が待っている、と思われがちだが、実際は違う。貴族の権力者たちの権力争いに巻き込まれる恐れがある。
それに剝奪されたとは言え、俺は四男とは言え元貴族だ。有名になれば、かつて父だったリルクヴィスト侯爵に目を付けられる。それだけは勘弁だ。
それに、一か月後には王都の学園に入試をうける予定だ。
当然入試に受かるように勉強もしないといけないので、冒険者ギルドに報告すると当然のように取調べを受けることになる。はっきりいってめんどくさい。
それに俺には目的がある。
俺の目的を見据えるために学園に入学しないといけないのだ。
学園で失ったものを再び取り戻す手掛かりを見つけるために行くのだ。
このまま南門には向かう訳にはいかないので、とりあえず力技で出てきた東側の外壁辺りまで行って、壁を飛び越えることにする。
そう思い、歩を進めようとしようとした所で、アレクは立ち止まった。
なぜなら、目の前に異様な魔力を感知したのだ。魔力の流れから察するに、これは転移系の魔力波長だ。
読み通り、目の前に淡い光を放った半透明の光の壁が現れた。これは無属性魔法の一つ【転移門】と呼ばれる転移魔法の一種だ。空間と空間を繋ぐ魔法で、膨大な魔力が必要な魔法だ。
その半透明の壁から一人の男が出てきた。
紫色の髪にをワックスか何かでツンツンに尖らせた髪型に、オークのような豚顔。図体は大きく、おそらく二メートルは優に超えているだろう。棘付きの肩当に人間が着用するような甲冑鎧を着込んだ男が出てきた。
纏う魔力は、人間や森精人の纏うソレとは違ってどす黒い魔力だ。
間違いない、コイツは魔族だ。それも上級魔族に分類される奴だろう。
「……凄まじいほどの魔力量の膨張が見られたが、おめぇがコレをやったのか?」
魔族の豚顔男が周りで無残にも細切れになされた魔物たちの残骸を見て、俺に問いかけてくる。
その眼には殺意ともとれる怒気がビリビリと伝わってくる。間違いない、この魔物暴走を起こさせた黒幕のようだ。
「…あぁそうだ。俺が殺った」
「……おめぇみたいなクソガキが、これをやったってのか?」
「そういってるんだが、聞こえなかったのか? お前についている耳は飾りか虫食い穴か何かか?」
嫌味をたっぷり込めて返す。
「へっ! 俺を前にして皮肉を言えるとは大したタマじゃねぇーか!その度胸だけは驚嘆に値するぜ! しかし… よくもまぁ、ここまでやってくれたもんだなガキィ!」
凄まじい威圧と魔力をぶつけてくる。
コイツの強さは間違いなく、五年前に戦った魔族の男と同等かそれ以上だ。
魔力が漲って、奴の躰を渦巻いでいる。制御している魔力量が凄まじい量だ。一般的人間界の平均を軽く上回っている。
と、言ってもビビるほどではない。
「なぁ、一ついいてもいいか? なんでメルキドを襲うんだ?」
「あぁ?そんなこと聞いてどうする? これから死ぬてめぇによ!」
は?何言ってんだコイツ、という言葉を飲み込んで言葉を続ける。
「まぁ冥途の土産って奴だよ。教えてくれてもいいだろ?」
「…フッ。その度胸に免じて教えてやるよ! と言いたいが、俺もてめぇには興味がある。ここは交換条件といかないか?」
チッ!見た目の割にはお頭が回るようだ。
「……何が知りたい?」
「この惨状はてめぇがやったんだろ?そのタネを教えてくれよ!そしたら、俺もてめぇの冥途の土産に教えてやるよ!」
なんだ…そんなことでいいのか。少し拍子抜けの交換条件だが、手の内の一つくらい晒しても何も問題はない。それに、相手の目的を抜き取れるのだ。これも安い取引だと思い応じることにする。
「…いいだろう。俺がこの惨劇を生み出したタネを教える。そのかわり、てめぇは目的を話す。これが交換条件だ!いいか?」
「…いいだろう、さぁまずはガキからだ!話してみろ!」
相手から喋らせる方が普通はいいのだが、それを言うと「俺は嘘はつかねぇ。約束は守る男だ」と訳の分からないことで締めくくられた。このまま言い争って相手の機嫌を損ねて情報が抜き取れないとこっちが不利になる。こちらから離すことにした。
「俺の編み出した固有魔法だよ」
魔族の男は驚愕した。そして次に怒鳴り始めた。
「はぁ!? てめぇみたいな明らかに成人したてのガキに固有魔法なんて編み出せるわけがねぇだろ!」
それもそうだ。本来、固有魔法とはそうそう編み出せるものではない。
一流の魔法使いが何年もかけてようやく完成させることができるその人専用の魔法であり、必殺技のような切り札的魔法だ。ちみちに改良されてきた万人に扱える汎用魔法を超えた魔法、それが固有魔法だ。俺みたいな成人したての子供が持っているなんてまず、ありえない芸当だ。
しかし、残念ながら俺にはこの世界の常識は通用しない。
なぜなら前世の記憶から知識と経験を引き継いだ転生者なのだから。
俺は懇切丁寧に魔族の豚顔男に説明してやった。
俺の固有魔法〝殲滅型固有魔法〟について―――――
俺の【万引凶星雲】の正体それは―――――
極限の集中状態で自身の風魔力を高速で回転させ渦を生み出し、強烈な引力を発生させる。発生した引力は周囲の魔力を持つ生物のみを猛烈に引き寄せる。しかし、それだけだと敵味方関係なく引き寄せてしまう欠陥魔法になってしまうので、少しアレンジを加えた。『俺自身に対して敵意、または害意のある者のみ』を引き寄せるようにしたのだ。結果、うまく作用して敵のみを引き寄せることに成功したのだ。
…そして俺の剣が届く範囲、つまり俺の“間合い”のみに魔力を集中させ、気配感知。その間合いに踏み込んだあらゆるものを脊髄反射による回避不能の神速斬撃で斬り散らす。さらに風魔力を無数の小さな刃に変質させ、俺の射程圏内に入ったものをさらに細かく斬り刻むのだ。
単純にして繊細、視界も聴覚といった五感感覚に頼らず、間合いに入ったものを強制的に細切れに斬り裂き刻む、俺だけの対集団戦用〝殲滅型固有魔法〟【万引凶星雲】の正体だ。
「…………ッ!!!!」
魔族の男はどうやら言葉も出ないくらい驚いていた。
目の前に広がる惨状が現実だと物語っている。そして律義に説明までされた、もう疑う余地はない。
「さて、次はてめぇが話す番だ!」
「クッ……ッッ‼」
魔族の男は確信した。こいつは今ここで確実に殺しておかねばならない存在だと。こいつの前に集団は無意味、嬉々として一瞬で殲滅してしまうだけの魔法を所持している。
しかし、約束は守らねばならない。
すべて話し終えた後、コイツはここで確実の俺が仕留める。そう決意し、話し始めた。
「…俺がここを襲った理由は簡単だ。魔王の復活のための生贄作りのためだ」
「生贄…? どういうことだ?魔王の封印は年々弱まっており、時期に封印は自動的に解けるのではないのか?」
「ハッ! 意外と物知りじゃないか。確かに年々あの忌々しい勇者の封印は弱まっているが、それとは別にもう一つ、当時の賢者によって封印されたものがあるんだよ。それは勇者の封印よりも強固で、劣化することもないものだ」
「賢者の… もう一つの封印? それを解くための生贄なのか?」
「あぁ… そうだよ。その封印を解くには負の感情が沁み込んだ魂が必要なんだ」
どうやら、かなり強固な封印のようだ。それと同時に、かなり凶悪な封印ともいえる。なんて封印を施したんだ…当時の賢者は。
「これで全部話したぜ?俺の目的は… じゃ、てめぇには死んでもらうか!」
魔族の男が一気に魔力を集束させる。
どうやらよっぽど俺を殺したいようだ。明らかに人族の一人、それも成人したての少年を殺すために集める魔力量じゃない。俺のことを、それほどの脅威を考えてくれたのは嬉しいが、その魔力を暴走させると後ろのメルキドまで吹っ飛んでしまう。
情報は聞けた。もうコイツには用がないし、生かして置く意味もない。
せめて、俺の養分となれ―――――
俺は一度納刀した魔刀:笹雪をもう一度引き抜く。
そして魔力を集め唸っている魔族の男目掛けて刀を突きさす。普通の剣や刀では、今の異常な魔力を纏っている魔族の男には届きやしないだろう。届く前に折れるが、弾かれる。しかし、そうはならない。
俺の魔刀は魔族の男が纏っている魔力を押しのけ、突き刺さる。
この魔刀は特別性なんだよ、その程度の魔力すら力押しで開くことが出来る。
そして突き刺した魔刀に付与されてある魔法の一つを発動する。
「笹雪一刀の太刀〝氷葬死花〟」
発動効果は、拘束及び吸引。
氷の蔦が魔族の男に絡まる。その蔦が男から生命エネルギーを吸い取り始める。吸い取られ、生命エネルギーが枯渇した先から氷へと変質していく。蔦によって吸い取れた魔族の男の生命エネルギーはやがて一輪の綺麗な氷の花を咲かせる。
「グ… な、なんじゃこりゃぁ!ま、魔力が感じねぇ…!!!! あ、足が氷になった!? 貴様なにをしたぁああ!!!」
生命エネルギーとは、魔力であり、その者を動かす命そのモノだ。
失えば、当然待っているのは不可避の死のみ。
「その絡まった蔦はてめぇを拘束し蝕む。そして、胸にある蕾が芽吹く時…
てめぇはここで終わる―――――――――――」
魔族の男の下半身は既に氷を化した。
すでに半分以上の生命エネルギーを吸われ、蕾が花開きかけていた。
さすがは魔族、普通の魔物よりも段違いの生命エネルギーを有している、と感心する。
「お、俺がこんなところでぇえ!!! 俺がこんなガキにぃ!!! ありえねぇええ!! 俺はまだ死ぬわけにはいかないんだ!! 俺には大儀を果たすと約束した兄貴がぁああ!」
魔族は必死に抵抗を続ける。
上半身を左右に振って氷の蔦を砕こうとするが、無駄だ。砕いた先からすぐに再生する。
その状況を見た魔族はより一層激しく身体を揺さぶるが、効果は焼け石に水を一滴垂らす光景をみるように明らかだ。まったくもって無意味な行動、それに再生した氷の蔦がさらに男をきつく縛り上げる。
(あ、待てよ… そういえば兄貴最後になんて言ってたっけ…?)
縛り上げられる中で魔族の男はふと、ある会話を思い出した。
俺が転移門で出ていくときに、兄貴から投げかけられた言葉は… なんだっけ…?
※※※
「白髪のガキには注意することだな…」
※※※
脳裏にローズの兄貴の声が鮮明によみがえる。
目の前に俺に剣を突き刺しているのは白髪の少年…
(ま、まさかぁあ!!)
こいつがローズの兄貴を両断した白髪のガキなのか!?
や、ヤバすぎる奴にあっちまた…
やべぇ身体がもう動かねぇ!
体の胸まですでに氷になっちまった!
どうにかして助かる方法は!?
俺は… 俺はまだ死ぬわけにはいかないんだぁああ!
「俺はぁ!嫌だ!嫌だ嫌だ嫌だ! 俺はまだ… 死にたくねぇええええええええええ!!!」
「……じゃーな。名の知らぬ魔族の男よ。てめぇの命は… ここで終わりだ」
最後に冷たく言い放ち、男の最後を見送る。
パキィ—————————————————————ンッッ!!!!
魔族の胸にあった蕾は開花し、綺麗な花が咲き芽吹く。
そして男は完全な氷の彫像を化し、その命は終わりを迎えた。
彫像と化した男の胸から『笹雪』を引き抜き、納刀する。
引き抜くと同時に花が落ち、男の彫像が一気に砕き割れる。
地面に落ちた綺麗に咲いた氷の花を拾う。
「…てめぇの命は大切に有効活用させてもらうからな……」
だから、ゆっくりと眠れ―――――――
そう言い残し、アレクは東外壁へと向かい歩き始めた。
圧倒的強者は無駄な戦いとしない――――
なぜなら、それは戦いにすらならないから… (`・ω・´)キリッ
かっこよく締めくくれたかな…?
魔族の名前すら出す前にアレクが瞬殺してしまいました(´▽`*)
ここまで読んで下さりありがとうございました!
暇つぶし程度に読んでいって下さい!聞きたいことや知りたいことがあればお気軽に感想欄にご記入ください!できる限り早く返信を返します!
これからも頑張って執筆していきますので応援のほどよろしくお願いします!(´▽`*)
■2019/04/04 17:00 現在評価
ブックマーク登録数:70件突破 (;゜Д゜)スゲェエエエッ!!!!
総合評価ポイント:300pt突破 Σ(゜Д゜)エェッ—―!!
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