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29.失った心の欠片

気まぐれトーカ。


※いろいろと考えて書いていたら、まったく終わらない…。そして話を繋げるのが難しい!

いったいいつになったら第一章は終わるのだろうか…?それは作者自身にも分からない。


※題名を 帰還後の変化、失った心の欠片 から現在の題名に変更しました。

数十体の大型魔物を瞬殺したアレクを武士鎧を纏った男が睨みつけている。


男の眼にはアレクに対する純粋な殺意のみが感じ取れる。初めて相対した時に感じられた怒りや余裕と言った邪念は無く、侮りの感情もない。ただ目の前にいる敵を殺すという純粋な殺意が向けられていた。


男はアレクを殺すべき敵と認識した、そう男の眼が物語っていた。


男はアレクの一挙手一投足に気を配る。微塵の油断すらも与えない、そう男の気迫が言っている。


少年の技術、技量には感嘆した。卓越した剣術に的確な判断能力、急所を一撃で射貫く正確さ、思いっきりの良さ、どれをとっても一流とさほど変わりない卓越した実力で、度胸の持ち主だ。しかしそれでも男は自分の敵ではない、そう思っていた。


少年の動きは的確で男から見ても見事な技量ではあったが、あまりにも遅すぎた。技量と本人の身体能力が釣り合っておらず、あまりにチグハグだった。少年の年齢を考えれば凄まじい努力と才能(センス)齎した(もたらした)結果なのだと理解できるが、少年の技量を十分発揮できるほど体は成長しきっていなかったのだ。


単純明快、身体が幼すぎたのだ。本人の力量に躰がついていけていないのだ。


それ故に、ここで確実に殺しておかねばならない脅威だが、自分が手を下すまでもない雑魚だと男は判断していたのだ。しかし、それは誤りだった。目の前に立っている少年はさっきまで瀕死だった少年とはまったくの別人として考えなければならない、それほどまでの圧倒的なチカラを見せつけられている。


先程の少年の動きを、男は眼で捉えることが出来なかった。魔力が膨れ上がり、それに気づいて振り向くまで一秒も掛かっていない。その間に少年はオーガや血濡れ熊を含めた数十匹の魔物を蹂躙したのだ。


男は少年を即座にここで殺すべき敵と認識、この先、これ以上の脅威へと成長しないようにここで確実に摘み取るべく、全身全霊で向かうことを決意した。


少年は剣を持った状態で止まっている。その眼はこちらを観察する眼をしていた。一見すると剣を構えずに、ただ手に持っているだけの隙だらけだ。しかし、どこか凄みがあって隙が無いように感じる。少年から溢れ出すあまりの爆発的な魔力はあっという間に周囲を蹂躙し、“勝手なことはするな”と言わんばかりに暴れまくる魔力の奔流。


隙だらけだが、手を出せば一瞬で殺される。そう錯覚させられるほどの魔力を放っている。故に攻撃することが出来ずにいた。






男はアレクの一挙手一投足に気を配って最大限の警戒を引いていたが、アレクはそれをつまらなそうに見ていた。


アレクは、初めて男を見たときのことを昔のことだったように思い出していた。

本能的に絶対勝てない、すぐに逃げ出さないと殺される、そうと思わさせるほどの圧倒的な実力差を感じていたが、今はまったく脅威を感じない。どこか矮小な存在に思える。そこらへんの塵芥(ちりあくた)の存在だ。


「…動く気配がないな。いや、こっちが動くのをまっているのか?」


このまま睨めっこを続けていても埒が明かないと思い、少年の方から動き出す。そのままの直立不動の体制から魔力を纏い一気に加速する。男との距離はおよそ二十。この距離なら一歩で届く。


今の状態は極限の集中状態時に使っていた身体強化とは一線を画す量の魔力を纏っていた。光速度にすら迫る速度で一瞬で男の横をすり抜ける。すり抜けざまに男の首目掛けて剣を振り抜くが、男はそれを紙一重で躱す。


男の顔には驚愕の表情をしていたが、すぐに持ち直し、距離を取ろうとバックステップをする。得体の知れない敵と戦うときは敵の動きを見る、戦闘の基本だ。しかし、それを悠長に待ってやれるほどこちらに余裕はない。短期決戦で確実に倒す。


ゼロから百、百からゼロと、緩急をつけた速度の斬撃で男に斬りかかるが、ギリギリで躱されていく。剣戟だけでは、どうやら勝てないようだ。俺の持っている剣は片手剣にカテゴリーされる武器だ。当然のことながら右手で持ち、剣技を放っている。左手はお留守状態だ。


左手に魔力を集め、初級魔法の《ウィンド・カッター》や《サンダーボール》と言った魔法を放っていく。こんな初級魔法では決定打にならないが、敵の隙を作るのには効果的だ。


しかし、その攻撃すら男は見事な躰捌きで躱していく。放った魔法は掠りもせずに近くの木や地面に着弾し、虚しく土煙を巻き上げるのみ。


想定内だ、とばかりに立て続けに魔法を放っていく。ただの初級魔法や魔力弾だけではなく、男の背後から襲うように誘導操作したり、足から地面に魔力を流し、足場を崩して相手の動きを妨害してから斬りかかったりするが、男は見事に捌ききる。


男は足場を崩したコチラの一瞬の隙をついてバックステップして距離を取る。男の右手から魔法陣が空中に現れ、その中から一本の剣を取り出した。


男の取り出した剣からは、魔力が感じ取れる。おそらく魔剣の類だろう、そう判断する。


男は一瞬で跳躍し、上段から一気に斬り下ろしてくる。それを下段からの斬り上げで相殺する。力は見事に拮抗し、僅かな膠着状態が生まれる。


「……てめぇ、急に強くなったな。力を隠してやがったのか?」


鍔迫り合いの中男は話しかけてくる。


「買い被りすぎだ。俺はそんなに強くない、お前が弱くなったんじゃないのか?」


「ちげぇよ。てめぇが急に強くなったんだよ。死にかけだったガキがどうしてここまでの力を手に入れることが出来た? 消えかけだった魔力が急激に上昇するなんてありえねぇ。一体なにをしたんだ?」


「それを教えるとおもうか?」


「…チッ! だよな… ならよぉ!力づくで聞き出してやるぜぇええ!!」


男の剣に掛ける力が上がった。やはり純粋な筋力勝負では、たとえ魔力を纏った身体強化を使っても押し切られる。どうにかして距離を取らないと、ここまま押し込まれてしまう。


脚から地面に魔力を流し、先ほどの同じく足場を崩す。さっきは自分が動けるようにある程度加減して地面を割ったが、今度は加減せず、一気に崩す。結果、純粋な力勝負であった鍔迫り合いはお互いが見事にバランスを崩したことによって終わった。


お互いに距離を取り、相手の出方を窺う。

派手に地面を割ってしまったので、辺り一面ボコボコだ。こんな所、もう馬車は通れないだろうな、整備しないとまずいな、と思ってしまう。


(そういえばアイツは気になることを言っていたな。)


俺が急激に強くなった、だったか?


確かに実感はある。というより、右手に持った剣から凄まじいほどの魔力と力が流れてくるように湧いて出てくる。それに、先ほどまで重症だった肉体も今は完全に修復されていく。千切れ掛けだった左手も元通りに修復されている。


なによりも、心の中にずっとあったモヤモヤっとした何かが吹っ切れた気がする。

長年の苦悩から解放されたように心が軽い。今なら何でも出来そうだ、そう錯覚させられるほどの力が湧いて出てくる。負ける要素などない。




それにこの剣は特別だ―――――――




師匠から貰った刀身のない柄のみの『無名の魔剣』が二年かけてようやく進化した俺だけの専用の魔剣。

灰色を帯びた黒い幅広の両刃片手剣で、刀身の根元まで刃の魔剣だ。俺が使っていたショードソードより手にしっくりと手に馴染む。


この世界の剣は両刃で、西洋の剣に似ており、中世ヨーロッパ時代に実用されていたブロードソードに似ている剣が主流だ。片刃の剣はカトラスやククリなどもあるが、日本刀などの東洋の刀系は少ない。



そういえば、この剣を手に入れたのは俺自身の精神世界だったか…



転生前の姿を模った雪村幸樹がやってきて、なにか話し合ったけど、とりあえずソイツを()()()()()()()()()()()()()()()()。雪村幸樹が何を話したのか全くと言っていいほど思い出せないが、とりあえずアイツは俺に対して何かを言って怒らせたのだと思う。


そうでもしないと、俺はアイツを斬ったりはしていなかっただろう。


何を言って俺を怒らせたのか?それすらも思い出せないが、アイツを斬ったことに寄って身体が凄く軽くなったことと、心にずっとあったモヤモヤっとした違和感が消えたのは事実だ。


しかし疑問は残るし、積み重なる。



精神世界から出るときに頭に響いたシステム音みたいな音声はなんだったんだろう?



斬った後に雪村幸樹が消えていく時に見せた切なそうな表情は一体なのを物語っていたんだろう?



心にぽっかりと穴が開いた気がする。心はすっかり晴れているのに、何かが欠けてしまった気がするのはなぜだろう?



考えれば考えるだけ分からなくなってくる。


なぜこうなったのか、こんな思いをしているのかそれは分からない。


しかし、今は戦闘中だ。相手の観察を忘れてはならないな、と自分に言い聞かせて今はその疑問を頭の片隅に追いやる。


躰は自動的に修復されたが、どうなったのかは分からない。

そもそも今身体は動いているだけの状態の可能性だってある。突然の動かないようになる可能性だって捨てきれない。ともかく、短期決戦で終わらせるしかない!


そう考え、俺は男に斬りかかっていく。






◇◇◇



時少し遡る。


真っ白な精神世界でアレクが昔の雪村幸樹の姿をした何かを斬った後、頭の中に響いたゲームさながらのシステム音のような声。その声が頭に響いた時には既に現実世界に引き戻されていた。


現実世界でのアレクは既に瀕死の重傷を負って木に倒れ込んでいた。そこにトドメを刺そうとレッドグリズリーが腕を振り上げている。その場面でアレクは現実世界に帰ってきたのだ。


本来であれば、絶対に躱せない不可避な死の現実。


しかし精神世界から帰還したアレクは違っていた。


精神世界で進化した『無名の魔剣』は、現実世界に戻ってもそのままアレクの手にあったのだ。

そこから無限に溢れ出す魔力がアレクの躰にに流れ込んでくる。流れ込むたびにボロボロだった身体が修復されていき、力があふれ出したのだ。


そして何よりもアレクを驚かせたのが、目の前で腕を振り上げてトドメを刺そうとしているレッドグリズリーの動きが()()()()()()。いや、()()()()()()()()()。まるでゆっくりと流れる時を見ている気分だった。僅かにだが、動いている。ゆっくりと振り下ろされている。


「ハハッ なんだこれ…?」


こんなの躱すの余裕じゃないか、そう感じるほど遅い。


アレクはゆっくりと立ち上がり、手を振り上げているレッドグリズリーの横を歩いていく。他の魔物たちはアレクが動き出していることに気が付いていない。男ですら気づいてはいない。前を向いて歩き出していた。


アレクは手に持っていた進化した魔剣【愚者の魔剣】でレッドグリズリーに首目掛けて一閃する。俺の今まで使っていた剣では絶対に刃が通らなかったが、この剣はまるで豆腐でも着るようにすんなりと刃が通り、首と胴体を真っ二つに分けた。


レッドグリズリーの首を跳ねたのに、周りの景色はまったく変わっていない。誰もレッドグリズリーが死んだことに気づいていないのだ。


一体何が起こっている、そう思ったが、この好機を逃せば俺は助からない。無反応な魔物たち一匹一匹、確実に首を跳ねていく。背が二メートルと図体の大きいオーガは急所である心臓を一突きにして仕留めていく。


まったく動かない魔物たちを仕留めるのはあっという間の出来事だった。

全ての魔物を殺し終えた後、世界はブレた。時が動き始めたのだ。


男は勢いよく振り向いて驚愕を露わにしている。

何をそんなに驚いているんだ、とは声に出さない。アレク自身気づいているのだ。自分が異常なことをしたことに。


男はすぐに厳戒態勢を取り始めた。その眼には、純粋な殺意が見て取れる。

今までのアレクだったなら、一瞬で体の自由を奪われるほど濃密までの殺気が辺りを支配するが、なぜか全く怖くは無かったのだ。


確かに男が放つ殺気はケタ違いに恐ろしく、悍ましいものだが、そこまで怖くは感じなかった。


男とアレクの睨み合いが続く。戦いはどちらかが斬り込まない限り始めらない。普通なら相手の出方を窺うのが常套手段であり、敵が格上であるなら尚更斬り込むのはバカか命知らずくらいだ。


しかし、初対面の時には絶対に勝てないとまで思わされた脅威を感じられなかった。確かに男の放つ殺気や纏う魔力は凄まじいものを感じる。しかし自分の脅威になるとは思えなかった。


ここままでは埒が明かないと自分から斬り込むことにした。

そして男との戦いが始まった。


◇◇◇





明日、卒業式だ。みんな、社会へと旅立っていく。

同じ年に入学したのに、みんな先に旅立っていく…


あっれれ~↑ おっかしぃ~ぞぉ~?

同じ年に入学したのに、みんなが先に旅立っていくのはなぜだぁ?


あはははははははははっ! みんな卒業おめでとうございます。

元気よく社会で活躍していく勇士を僕は学校から応援したいと思います!



さて、どうでもいい上の文章はほっといて…

ここまで読んで下さりありがとうございました!これからも更新頑張っていきます!

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