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27.精神と心

気まぐれトーカ


「いい加減に過去に囚われるのはやめろ!アレク!」


若かりし頃の雪村幸樹の姿をかたどった男が何かを言っている。

過去に囚われている?俺が?このアレクが?意味が分からない。一体何を言っているのだ?


「それすらも理解出来ていないのか…」


理解?なんの理解が出来ていないんだ?分からない、分かりたくもない。


「思考を放棄するなよ。逃げるな!考えろ!」


この男が何を言いたいのかさっぱり分からないのだが?

そもそも、俺が過去に囚われているってどういうことなんだ?

俺はただ、朱莉に会いたいんだ、朱莉に会いたいだけなんだよ!



朱莉に会って… 会って? 会ってどうするんだ…?



俺は朱莉を… 見捨てたのに… わざわざ会ってどうするんだ?



あれ…?俺何のために異世界に来たんだ? 何しに来たんだっけ?



分からない… 思い出せない… 



俺は一体何をもって今まで努力してきた? 



何を考えて頑張ってきたんだ?



分からない… 



理解できない…。



思考が纏まらない。俺は一体何のために異世界転生をしたのか?

それすらも思い出せない、考えても考えても分からない。




「……落ち着いて」


目の前に立っていたはずの雪村幸樹が、うずくまるアレクの傍まで来ていた。

頭を抱え、うずくまって震えているアレクの頭に手を置く。


さっきまで「逃げるな!考えろ!」と言っていた奴とは思えない手の裏返しだ。

しかし、なぜだろうか。凄く落ち着く…


「落ち着いたか?」


あぁ… おかげさまで何とか落ち着いたよ。


「そうか、それは良かった!ここでアレクくんに精神崩壊されると、この世界が崩壊するからね!」


精神崩壊? 俺の心が壊れるってことか。

それよりも、ここはどこなんだ?


「落ち着いた途端、質問か… 相変わらずでなによりだよ。」


うるせぇ、知らないことだらけなんだから知りたくなるもんだろ。

知らないとなんか… モヤモヤするだろ。それ嫌なんだよ!


「俺とはやっぱ違うな…。 まぁ質問には答えようか。

ここはいわばいわば、アレクくんの精神世界だよ。簡単に言えば君の心の中に広がる世界さ!」


こんな真っ白な世界が? 本当になんにもないぞ?


「そりゃ… 今のアレクくんは時が止まってるからね!心の中は真っ白な状態さ」


俺の時が止まっている?どういうことだ?


「まぁ、その話はおいおいな。本当なら今すぐにでもアレクくんの時を動かしたい。しかし、どうやら君自身、なんで止まっているのか理解できていないようだから…」


俺が理解できていない? まったく分からない。


「なぁアレクくん。君なんで異世界転生してきたの? 確かミスラ様だっけ?あの神様は地球での輪廻転生に乗ることを進めてきたよね?それなのに、なんで異世界転生を希望したの?せっかく前世は善行で死んでペナルティもなく地球で蘇れるのに」


そんなの、分かり切ってることだろ。 朱莉に会うためだよ!


「朱莉に会うため、か。何しに会いに行くの?なんのために会うの?彼女は彼女の第二の人生を歩んでるんだよ。そこに過去の人物であるアレクくんが会いに行ってどうするの?」


んっ… そう言われると… 俺は何で会いに行こうとしてるんだ?

俺は朱莉を苦しめたうちの一人なのに、どうして会いに行こうとしてるんだろう。


……だめだ。考えても分からない。


「アレクくん。一つだけ答えてくれないか? 君は『アレク』か?それとも『雪村幸樹』か?」


……? 何を言いたいのか分からないんだが…?

俺は俺だろ。アレクだろ。前世は雪村幸樹で、今はアレクだ。


雪村幸樹としての知識と記憶を引き継いだアレクだ。


「アレクとして生きているってことなんだよね?」


そうだ。俺は今アレクだ。


「なら、なんで咲花朱莉にこだわっているの?前世の雪村幸樹の片思い人だったんだよね?なんで今のアレクくんもそれを引き継いでいるの?」


それは… 俺が『アレク』であって、『雪村幸樹』でもあるからだ!


「結局どっちなんだ?」


俺は俺だ!アレクでもあっても、雪村幸樹だ!


「意味が分からない。言いたいのは同一人物ってことかい?」


そうだよ。アレクと雪村幸樹は同一人物なんだよ!


「なら余計、理解できなんだけど。君はアレクであっても、雪村幸樹だ。その雪村幸樹が、かつて虐めていた咲花朱莉に会いに行くってどうよ?」


俺は虐めてなんかいない!虐めていたのは、クラスメイトや学年の奴らだ!俺はやっていない!


「けど、傍観していたよね? 朱莉が事故死する前に教室で二人きりになった時に、君は何をした?「久しぶり。」って勇気出して声をかけてくれた朱莉に対して君は何をした? 見捨てたよね? 助けてほしそうな顔をした彼女を、見捨てて教室を逃げるように出ていったよな! そのお前がどのツラさげて朱莉に「会いたい!」なんてほざいてんだ?ご都合主義もいい加減にしろよ!」


「お前は結局、ずっと過去しか見てないんだよ。朱莉は朱莉で第二の人生を歩んでるんだよ! そこにお前が、過去のトラウマであるお前が出ていって何をするんだ? また彼女を苦しめるのか?」


……うるせぇ。


「またそうやって、逃げるのか? 汚いことから目を逸らして逃げ出すのか?」


逃げてねぇよ… 俺はただ会って… 謝りたいんだよ。


「謝ってどうする? 彼女に思い出させる気か? 辛かった日々を! ようやく手に入れた至福の人生をお前の勝手な自己満足で穢すのか?」


「黙り込むなよ。お前が行おうとしているのは、そういうことなんだよ」




分かっていたさ… 俺はただ忘れていたわけじゃない。ただ考えたくなかったんだ!


朱莉に会って… 拒絶されるのが怖いんだよ。


ずっと… ずっと好きだったんだよ!なのに守れなかった!自分の保身に走って見捨ててしまった!ほんとは嬉しかったよ!あの教室で久しぶりに朱莉の声を聴いたとき!めちゃめちゃ嬉しかったよ!だけど、怖かったんだよ…。恐ろしかったんだよ!


あの後、話して… 「どうして無視するの?」「どうして助けてくれないの?」って聞かれるのが怖かったんだよ!そんな風に聞かれたら… 俺、答えられねぇよ。なんて答えればいいんだ? ずっとアイツの前でカッコつけてきた俺が、どのツラさげて「いじめられたくないから!」って答えればいいんだ?


分かってんだよ…。本当は分かってんだよ…。


俺が会いに行っても、何もできないことくらい。自分の気持ちを素直に伝えることすらできない情けない自分だってことも、自分の身可愛さに逃げ出したクズだってことも!全部わかってんだよ…。


俺はただ、一目見たいだけなんだ…。


アイツが幸せそうな姿を。遠目からでもいいから見たいんだけなんだよ…。


俺はどうすれば良かったんだよ…。



「……なぁ、話少し変えるけどよ。お前の理想の夢ってなんだ?理想の過去ってなんなんだ?」


……そんなの決まっている。


『朱莉と楽しく高校生活を送ること』だ!それが俺の理想の夢で、欲しかった過去だ!


「けどお前は、その理想から最も遠い道を歩んでしまったな。それについてはどう思ってんだ?」


どうって… そ、そんなの分からねぇーよ。


考えたってわかるようなもんじゃねぇーだろ!もう起こってしまって!過ぎ去った過去だ!

それが今でも凄まじい後悔が俺を襲ってる!俺の足枷となってくるしてめている!

もう、何が何だかわからねぇよ!考えたくもねぇよ!思いたくもねぇよ!


それに、もしもあの時、朱莉が虐められていなかったら今頃こんな危険な異世界なんて来てねぇーよ。

異世界でこんな苦しい思いや、苦行なんてやってないはずなんだ!ましてや、死にかけるような重症も想いもしなかったはずだ!


地球人で、日本人らしい普通のありふれた日常を過ごせていたはずなんだよ!


地球で楽しい青春を送れていたはずなんだよ…。

楽しい高校生活送って、恋愛して、青春謳歌して、普通の大学に進学して、普通の就職して。


今でも地球のありきたりな日常を送れていたはずなんだよ!

きっと今も地球で楽しい日常を遅れていたはずなんだったんだよ…。


それなのに… 


俺には出来なかったんだよ――――――――――





なんでこんなことなんってんだ? 


そうだ… 虐められていた朱莉が悪いんだ…。 いや、そんなの関係ないな。

どういう過程であれ、いじめを続けたアイツらが悪い。


いや悪いとか、悪くないとかじゃない。


そもそも覚えておきたくも過去が、出来事があったからダメなんだよ。


その出来事が俺の心の足枷であり、苦しめている要因であり、後悔なんだ。


俺が朱莉のことを好きになったから?


赤の他人ならよかったんじゃねぇの?


たまたま家の近くに引っ越して来ただけの赤の他人だろ?


なんで俺がそんな奴に苦しめられないといけないんだ?


そんな過去が俺を苦しめているのなら、要らないわ。


ん?なんか、昔の俺の格好をした奴が騒いでるな。うるさいな。目障りな奴だ。

何か必死に叫んでいるが、言っている声が聞こえないし、分からんわ。


あぁ、雪村幸樹も邪魔だな。


邪魔な過去に、邪魔な雪村幸樹、邪魔な出来事。


本当に邪魔だ―――――――――




後悔するだけバカらしい。後悔したって遅いのに。それをグダグダと考えるとかアホかってんだ。



もう後悔も何もしない。



俺はアレクだ。雪村幸樹じゃねぇ。



もう夢も要らないや… 過去も、後悔も、雪村幸樹も、朱莉との日々も、全部要らない。



邪魔なものは削除すればいい。邪魔ならば斬ればいい。そういえば俺って、剣持ってなかったっけ?

あ、そういえばどこぞの熊野郎にへし折られたっけ?



あっ!そういえばなんか、俺もう一本剣持ってたよな。刀身ない奴。

あれ?なんか刀身あるじゃん。これで全部斬ればいいんじゃね。



目の前の目障りなこの男も、邪魔な過去も、くだらない理想も、夢も、全部斬っちまえばいいんじゃね?

ここは異世界だ。弱肉強食の世界だ。強いものこそ正義だろ?なら勝ったものが正義だ。



まだ目の前で必死に叫んでいるな。本当に目障りだわ。俺の昔の格好真似しやがって。



非常に不愉快だ。さっと消えてくれねぇかな?



邪魔なものは全部斬ればいい、不都合な過去も全部変えてしまえばいい。



後悔しない過去に変えてしまえばいい。



後悔するような未来でも自分の理想とする未来に変えてしまえばいい。



納得できないのなら斬ってしまえばいい。



全部… 全部、全部だよ。 


すべて… すべてを、すべてな。全部、全部…


全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部……






自分の思い通りに変えちまえばいい―――――――


















《所持者の心の変化を観測。負の感情を感知。本来の進化候補であった【賢者の魔剣】を削除。所持者の望む魔剣を選択します》



《新しい魔剣候補を発見しました》



《新しい魔剣候補の進化条件————————クリア》


《進化条件―――――――心の変化を確認、同調完了、進化可能》


《所持者の所有していた『無名の魔剣』は進化を開始――――――成功》




《無名の魔剣は無事【愚者の魔剣】へと進化しました》









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