20.間に合った!
気まぐれトーカ。
※あと数話でアレク覚醒と一章終了予定。
「ぐぁっ!!」
銀色の輝きを放つ騎士鎧を纏った騎士が一人、魔物の一撃を躱すことが出来ずに地面に倒れ込む。
魔物が追撃とばかりに鋭利な爪で倒れ込んだ騎士の顔目掛けて振り下ろす。倒れ込んだ騎士は躱すことが出来ずその一撃を受け短い断末魔とともに動かなくなった。
動かなくなった騎士を見た周りを囲んでいた魔物たちが極上の餌が手に入ったとばかりに騎士に襲い掛かる。
鎧が砕ける音と、何かがブチッと千切れ噛み砕き食べる咀嚼音が辺り一面に響く。
あぁ… また一人、私たちを守って戦っていた騎士が魔物の凶牙に倒れてしまった。
外からは絶え間なく戦え!守り抜け!と激を飛ばしている騎士隊長さんの声が聞こえるが、それに答える騎士の声が少なくなってきている。また一人、また一人と騎士たち魔物の圧倒的な数の前に倒れていく。
私は第三王女でありながらも、今回護衛についてきた騎士たちの中で一番強いのだ。それは創造神を含めた神々の【加護】の影響と、前世の知識を使った魔法がこの世界に存在していたこれまでの魔法とは一線を画す強力な魔法だったからだ。
本当なら我先にと魔物の群れに突っ込んでいっていれば騎士たちに犠牲は出なかっただろう。隊長さんの言葉を無視して戦っていれば、きっと今倒れていった騎士も倒れなかったかもしれない。
だけど私は、馬車の中で侍女のマリアと一緒に震えていることしかできなかった。マリアとともに馬車の中でうずくまり、自分の耳を抑え外から聞こえてくる音を聞こえないようにと膝を抱え震えていることしかできなかった。
騎士たちの声がだんだんと聞こえなくなり、馬車のすぐ近くで隊長のアップショーが必死に戦っている音が聞こえてくる。
そんな中、私は一体自分は何をしているんだろうかと思う。
私は転生者でチート持ちで、おそらくこの世界最強クラスの実力所持者なのに…
自分のチート能力を使いさえすれば、きっと騎士たちは助かっただろう。
それなのに、
私は、戦うことが出来なかった…
私は一度も魔物と言われる生き物を見たことがなかったのだ。
私は一度だけ狩猟を経験したことがある。
それも、無傷で捕まえてこられた動物を王城の庭園で放し、それを遠距離からの弓矢で仕留めるという戦場とは程遠い安全対策をきっちりとられた中でしかやっていない。
そんな中でも私は一度しかやっていないのだ。
それは地球と言う魔物もいない安全な国で育った代償ともいえる結果なのだ。
狩猟とは、その字の通り生き物を狩る行為だ。
知らず知らずのうちに殺してしまっている昆虫や小さな生き物や道路で稀に轢き殺されているタヌキや鳩といった小動物たちの死とは違い、今回の経験では自らの意思と手で生き物を命を“奪う”行為だ。
生きていくためには必要なことなのだが、平和な場所で育ち、誰かが採った肉をスーパーで買って食べているだけの生活では決して体験することもない経験を今してしまったのだ。
その時に感じた命の重たさは一生忘れられない痛みを精神に刻み込んだ。
自分の手で生き物の命を奪ったという事実が彼女には重たすぎたのだ。
私はそれ以降、動物狩りを行っていないのだ。
動物とはいえ、生き物をその手に掛ける勇気が、覚悟が私にはなかったのだ。
それ以降私は狩りをすることを辞めてしまった。
周りの人たちも幼子には早すぎた、酷すぎたとばかりに仕方がないと許してくれた。
それはただの甘えでしかないと気づいていなかったのだ。
地球ではなく、ここは異世界なのだ。地球と言う物差しで考えてはいけないという大切な教えを私は知らず知らずのうちに甘え忘れていたのだ。
その結果、私には戦う覚悟が出来なかったのだ。
私はただ、騎士たちが魔物たちに弄ばれ無残にも喰われていく光景を馬車の中から膝を抱え震えながら見ていることしかできなかった。
「—————————間に合った!」
ふいにそんな声が馬車の外から聞こえてきた。
「子供がこんな所に何しに来た!」
「助けに来ました!」
「バカヤロォ!早く逃げるんだ!」
騎士隊長であるキースと乱入してきた声の主が言い争っている声が聞こえてくる。
私が気になって声の主を見ると、その声の主は隣のキースと見比べると明らかに低身長で弱弱しく見えた。その顔はまだ成人も迎えていないであろう年頃で駆け出しのような冒険者の姿をしている少年だった。
そんな少年が、騎士たちですら手に負えずに次々に倒されていく禍々しい雰囲気を纏った魔物たちに立ち向かっていく。
その少年は腰には二振りの剣があり、少年がそのうちの一本を引き抜く。
長さから見ておそらくショートソードだろうか。それも安物で品質もそれほど良くないだろう。
王都の武器屋で一番安く手に入る片手剣にそっくりだ。それに装備もいかにも駆け出し風の装備しかつけておらず、明かに場違い感が凄かった。
そんな少年が馬車の近くで意識を失って倒れている騎士に群がった魔物たちに向かって駆けだす。
一匹の狼の魔物が少年が走ってくることに気が付き、餌がやって来た!とばかりに少年に襲い掛かる。
「危ない!」
私は無意識のうちに叫んでいた。
だが少年は、襲い掛かってくる魔物を躱しすれ違いざまに剣を一閃。
狼の魔物が地面に降り立つ頃には胴を真っ二つに斬られていた。
少年は狼の魔物を仕留めたにも関わらず、後ろを振り向くことなく騎士に群がる魔物に立ち向かっていく。狼の魔物がやられたことに気が付いた魔物たちが一斉に少年に襲い掛かるが少年は魔物たちの攻撃をすべて見事に躱し、躱すたびに剣を一閃。あっという間に魔物を騎士に群がった数十匹を斬り殺し、騎士を助け出してしまった。
そんな少年を見て思った。
どうして戦えるの?と――――――――——
おそらく私とそんなに年も離れていないだろう少年が、思わず身震いし逃げ出したくなるような禍々しいオーラを纏った魔物たちにどうして立ち向かっていけるの?
そんな思いが私の中に生まれた。どうして戦えるの?命を奪う行為に躊躇いはないのか?どうして立ち向かっていけるのかと、私は少年にふいに聞きたくなった。
そんな少年は救い出した騎士を引きずって馬車まで後退し、まだまだいる魔物たちに立ち向かっていった。その少年の立ち向かう小さな背中を私は数々の疑問と共にただ見ていることしかできなかった。
◇◇◇
少年はアレクだった。
アレクは、ただひたすらに戦っていた。目の前の魔物を斬って斬って斬りまくる。だが、斬っても一向に数が減らない。そのこともわかっていたはずなのに飛び込んでしまった。
魔物の数を脳内地図で確認しても、まだ百匹近く残っている。
それもゴブリンや狼といった小型の魔物から熊に似た禍々しいオーラを放つ大型の魔物といったバラバラの種類の魔物による混合集団だった。
はじめ脳内地図で気づいたときには冒険者ギルドに即座に報告に向かおうと考えていたが、その集団の向かう先にこの街に向かう人たちのグループが見て取れた。
そのグループは魔物の集団と正面から戦い始めたのだ。
はっきりいって無謀だと思った。だが次々に人が倒されていく反応が見て取れた。このままではマズいと思いアレクは近くにいた門番の人に「この先魔物の集団が誰かを襲っている!」と短く伝え、一目散に走りだした。
アレクは「こんな依頼じゃなかったのになぁ」と思いながら、ただ迫りくる魔物たちから負傷し倒れている騎士たちや馬車を庇いながら戦い続けていた。
時は少し遡る――――――――
昨日投稿の後書き、お目汚しすみませんでした。
現在は削除させていただいております。