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閑話:事件の気配

気まぐれトーカ。

ガラガラガラ――――――――― 

城塞都市メルキドに繋がる街道を一両の馬車が駆けていた。

白で装飾された落ち着いた色合いに、金細工を施し身分を表しているような豪華さと平和の象徴である白鳩に中立を意味する天秤の紋様、このアスラエル王国の国章が施されている馬車である。



その馬車とともに四人の騎士甲冑を着た護衛が馬に乗り並走している。

御車台には二人の騎士が待機し、馬車内には一人の少女と付き添いと思われる侍女風の女性が座している。



少女はこの国を総べる国王の実の娘で、国始まって以来の『天才児』『神の子』などと呼ばれている。

文武両道に加え容姿も良いと評判の第三王女である。名を【アクアリア=フォン=アスラエル】と言う。



それはお世辞ではなく事実、彼女は国始まって以来の天才であった。

齢5歳にして言語を完璧に理解し、剣術や魔法といった全てにおいて同世代では勿論、王国守護を行う騎士団の中でも卓越した実力を備えていたのだ。



齢五歳児とは思えぬほど博識で賢く、また容姿も整っており将来有望。そんな存在が王家に生まれたのだ。それを好機と思い、同世代の子を持つ貴族たちからは「我が子を婚約者へ」と求婚を求められるようになるのは必然的であった。



今日も王族の親族にあたるリルクヴィスト侯爵家とのパーティの後、グラシア辺境伯にある城塞都市メルキドにで開催される予定のパーティに出席するため、この辺境地を馬車で駆けているのだ。



少女は馬車に揺られながら、窓の外に広がる光景を見ながらため息をつく。

そのため息を一緒に乗車している侍女の女性が注意する。



「……だって、行きたくないもん」


「そうおっしゃらないでください。これはお嬢様が人気であらせられるからこそ、お声がかかるのです。それに交流会は王族の務めでございますよ? 素敵な御仁と出会える素晴らしい機会だと思い下さいませ」


「分かってますよ。王族としての責務をしっかり果たさせていただきます!」


「その意気込みでございます!」


侍女の女性はそう言ってニコニコと微笑んでいる。

この女性は私の教育係兼家政婦さんだ。

名はマリア=クライシスという子爵家の令嬢だそうだ。真面目だけどどこか人当たりの良い話しやすい人なので私は好きだ。


そのマリアが言う王族に生まれたために付き纏う責務とは、王族と生まれたからには他の貴族の方々と交流しなくてはならない。それは未来のための交流であり、通過儀礼だ。そのため、私はこうして呼ばれたパーティに出席しなくてはならないのだ。



「……本当にめんどくさい。」



一緒に乗っている侍女のマリアにばれないようにボソッと愚痴を零す。



本当は茶会や交流パーティなんかに参加せず、せっかく異世界に転生したのだから、もっと異世界を楽しみたいのだ。しかし、どういうわけか王族に転生してしまったため、自由がほとんどないのだ。



様々な習い事から始まり、武術の稽古や勉学。礼儀作法… 覚えたくもないダンスのレッスン。

創造神様から頂いた【加護】のおかげで難なくやり遂げられるが、それが教師に熱意に火をつけ、拍車をかけてレッスンが厳しくなっていく。



そもそも、なぜ、私が天才児と呼ばれるようになったのは五歳の時に行う儀式の時に司祭によって鑑定され私の持つ【加護】が見られてしまった為である。



【加護】とは、この世界を創造した創造神と世界を管理運営を行う四柱の神々によって与えられるものだ。与えられたものは神の寵愛を受けし者であり素晴らしい才能が秘められているとされている。



その【加護】を私は創造神を始め、全ての神々から直接いただいているのだ。それは私が地球からの転生者で実際に神々にあったことがあるからだ。



私には前世の記憶がある。前世は私の不注意で交通事故に巻き込まれ亡くなってしまったのだ。



亡くなった後、私は神界に連れていかれた。死んだ人が行く地獄か天国に送られるのだろうと思っていたが、その場でなんと異世界に転生できるチャンスを貰えたので迷わずそれを選んだ。



その後、創造神の計らいで「幸せで安全で快適な異世界生活」が約束された所に転生させてあげるってことでさせてもらったが、確かに安全で快適だが、何不自由のない生活だか、私に自由はなかった。



いや、確かに自由はあるが、ほとんど私のプライベート時間は他の貴族の方々の茶会やパーティが奪われてしまうのだ。



そもそも司祭が鑑定後に「この子は神々の寵愛を受けし子だ!」と大胆に宣言してしまったのが原因だ。そのおかげで普通の王族より過保護に扱われているのだ。



【加護】の影響で武術も何でもできたし、前世の知識や様々な知識を引き出せる『世界を語る辞書』のおかげで知らないことがないっていうくらい様々なことがわかるようになった。



それに私は創造神からある魔眼を貰っている。

その魔眼がある意味便利だが、使いづらい能力なのだ。



私の魔眼は"波長の魔眼"と言う。

相手の考えている事が何となくわかるのだ。それ「この人悪そう」や「この人良い人」なども何となくほぼ直感に近い形で分かるのだ。



この魔眼のおかげで貴族の濁った思惑が事前に知る事ができるのだ。



そうこう魔眼を使っているうちに気づいてしまった真実が私をさらに憂鬱にしたのだ。貴族は私のことをただの出世道具としか見ていなかったのだ。



人だからある程度の欲望があるのは理解できるが、自分が道具のように思われていることは知りたくは無かった…。



私は人の欲望を満たす道具じゃない!そう言ってやりたいが、そんな事を口にすれば私の事を本当に大切に思ってくれている両親やマリアに申し訳ないので黙って耐えるしかないのだ。



それに昨日行われたリルクヴィスト侯爵は特に酷かった。表面上はニコニコお世辞を言っていい人アピールをしてくるが、その目には確かな欲望が滲み出ていた。魔眼を使わなくても分かるくらい気持ち悪い欲望に満ちた目をしていた。



そんなリルクヴィスト侯爵の長男から求婚された時は本気で拒絶仕掛けたが、何とか堪えてやんわりと断りを入れるのが大変だった。



そして今日はリルクヴィスト侯爵領の先にあるグラシア領のメルキドで行われるパーティでグラシア辺境伯が主催で行うパーティに招待されている。今こうして向かっている最中なのだ。



「冒険者となって、アイツと一緒にこの世界冒険できたらどんなに楽しかっただろうな」



そんな口からでた言葉は、騎士たちが慌て騒がしくなっている音でかき消された。



馬車が止まり、護衛として一緒に来ていた騎士たちが急いで馬から降りて、剣を抜く。



騎士たちの表情からは何か重苦しい覚悟を決めたような雰囲気(オーラ)を感じられる。



一体何が起こるのだろうか、そう思っているとこの護衛騎士たちの隊長であるアップショーが深刻な表情を浮かべながら馬車に歩いてくる。



アップショーは一度大きく息を吸って吐き出すとはっきりした口調でその騒動の事実を語った。



「前方より魔物多数出現いたしました。われわれが命をかけて殲滅いたします!馬車の中で息を殺してお待ちください。そうすれば魔物には気づかれないので大丈夫です。では失礼致します!」



それだけ伝えると、体調は何故か馬車から馬を切り離した。そして、急いで護衛隊長が騎士たちが戦闘陣形を組んでいるところに戻っていった。



一瞬何を言っているのか分からなかったが、遠くから何か大量の何かが迫ってくるような地響きが聞こえてきた。



私は馬車の窓から身を乗り出し騎士たちの前方を見る。



そこには数えきれないくらい魔物が群れをなして砂埃を立てながら向かってくる姿が見える。そこには熊や虎に似た大型の禍々しいオーラを放つ魔物の姿も含まれている。



砂埃で確かな数は分からないがはっきり分かる事がある。その数は30匹を軽く超えている。とても今ここにいる騎士たちだけで防ぎきれるとは思えない。



あ、そうか…

アップショーの言いたいことが分かってしまった…


おそらく… いや間違えなく騎士たちは死ぬつもりだ。騎士が餌となって馬車に目がいかないようにしたんだ…。


馬のいない馬車はただの障害物だ。少なくとも中の私たちが騒がずに大人しくしていれば外は騎士たちの死臭や血の匂いで充満するから匂いでは気づかれにくくなる。あとは、気配を殺していればバレない。



騎士たちは自分たちの命を捨てて私たちを守ろうとしているのではないか?



いや… 考えすぎだ!そんな事はない!

きっと殲滅してくれる!私たちは信じて待てばいいんだ!



それなら一層の事、私も一緒戦おう!

そう思ったが、足が動かなかった…



そうだ!私は武器を持っていないし、ドレス姿という動き辛い格好だ。この姿では例え武器があったとしても戦えない。



いや、そんなの言い訳だ…



無理だ…

きっと私が参戦しても意味もなく殺される。

これはまぎれもない事実であり起こるであろう何も変わらない冒険者のありふれた末路だ。



あの数に禍々しいオーラを纏った魔物に圧倒され足がすくんでいるんだ…



私は認め諦めてしまった。隣のマリアを見ると、マリアはすでに半泣き状態でグッと涙が溢れないように耐えていた。きっと彼女もこのままこの先起こりうる事を想像したのだろう。



私は異世界に転生して初めて感じる死の気配を間近で感じてしまった…





そうこう考えている間に魔物の群れが到着し、騎士たちが命懸けの時間稼ぎが始まった。


私はその戦いで倒れていく騎士たちをただじっと見ていることしかできなかった…。











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