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【あわただしい幕間】

パドリック中将の執務室に、グランドールのやや強引な魔術によりホットラインの魔法鏡で最初に出てきたのは、 当直勤務でアルセンの執務室の掃除をするロマサ・ピジョン曹長でした。

『オッサン、ここアルセン様の仕事部屋じゃん!』

少しだけ聞いたことがあるような少年の声が聞こえて、ピジョン曹長は掃除の仕上げるべく手にとった布巾の手を止めた。

それから首を捻り、魔法鏡も備え付けてあるアルセンの執務机に向かうと、上司の親友のグランドール・マクガフィンとその弟子ルイ・クローバーが半ば喧嘩しているような感じで映っている。

『仕方ないじゃろ、自宅の魔法鏡にしても、メイドからもう出勤したと言われたんだから。こっちで待つしかあるまい』

『あ~、間が悪いなぁ!』

イライラするルイ少年の後から、ピジョン曹長には懐かしい人物の声がする。

『ルイ君、落ち着きなよ。エリファスさんがちゃんとリリィの事はしてくれているんだし、今回、自分達は連絡の仕事をキチンとこなせば、それでいいんだよ』

「アルス・トラッドか?」

ピジョン曹長は思わず声を出しながら魔法鏡を覗くと、上司の親友が弟子に拳骨をくらわすのを宥めている元教え子が目に入った。

名前を呼びかけられて、ハッとした顔して魔法鏡越しにアルスとピジョンは視線が合った。

『ピジョン曹長!、お久しぶりです』

「何だ、マクガフィン殿と随行した新人はアルスだったのか」

『あれ、ご存知なかったんですか?』

アルスがピジョンが知らなかった事に、不思議そうな顔をする。

「今回のロブロウ研修で1人の賢者が行くってのは知っていたんだ。

その賢者は偉く優秀ではあるが、それ以上に気難しいって噂を耳にしていたんだ。運の悪い新人兵士の1人が、賢者の護衛騎士になったとは聞いたが、まさかアルスだったとは思わなかった。

お前は、アルセン様に気に入られていたから、軍本部に残るものばかりだと、私は思っていたんだよ」

『何だか、賢者殿の護衛騎士になるのが試練というか罰ゲームみたいな話っすね』

ピジョンの言葉を受けてのルイのこの反応に、グランドールは思わず肩を震わせながら、自分の大きな手で口元を押さえた。

しかしながら、グランドールの努力虚しく少量ではあるが、クククっと笑いが漏れ出てしまう。

『ピジョン曹長、その、自分の上司になる賢者殿はそこまで扱いが難しいって事はないですよ。"変わり者"ではあるとは思いますけれど』 

アルス的には上司になる賢者は"変わり者"ではあるが、罰ゲーム扱いされる程、悪い賢者ではないと言いたかった。

しかし、確かに国法触れる禁術を使って姿を変えていたり、信頼且つ尊敬するアルセン・パドリックが賢者の頼み事によって、苦労していたのだろうという部分を、数度ではあるが拝見した事があった。

そして何より、その賢者殿の姿はウサギである。

最初にウサギの賢者と出逢った時は、アルスも度肝を抜かれてたものだ。

ところが、ウサギの賢者を含め、灰汁(あく)の強い魔法屋敷や妹みたいな気の強い少女の同僚と相俟って、

(特に変わった事でもないかもしれない)

とアルスは配属先を考えていた。

だが、ピジョンに言われて改めて確かに配属先は"変わった場所"ではあるが、"嫌な場所ではない"と認識したのだった。

そして、配属先の"同僚"であるリリィの事も思い出した。

『そうだ、ピジョン曹長は王族護衛隊の魔法鏡に接続できますか?。

その、女性騎士の方なんですけれど』

ピジョンが何かとアルセンの秘書的業務もこなしていた事を思い出し、

(もしかしたら、ピジョン曹長はリコさん達への連絡方法を知っているかもしれない)

と考え、アルスが尋ねた。

「何だ、アルス意外だな。もう色気付いたか?。確かにあそこは綺麗な女性が多いからな」

と言った様子で、少しアルスをからかう感じで返事をする。

『いや、そう言った意味ではないんですけれど、ちょっと急いで連絡を取りたいんです』

真面目な教え子の、真面目な返答にピジョン曹長は眉を上げて、こちらも真面目に返答すべきと考えたらしい。

「アルスが連絡を取りたい相手と内容によっては、軍の権限や私の判断でもって連絡を取ることは可能だ。

だが、私がすると記録に残るし(おおやけ)になるって事にもなる。

その、お前の上司の賢者は表に出るのは嫌がるんだろ?」

ピジョンの言葉に、アルスがどう答えていいかわからない、と言った表情を浮かべる。

それからグランドールの方を見ると、その顔は苦笑いをしていた。

『曹長殿、出来れば隠密に連絡を取りたい内容なのだ。

仕方ない、連絡は急ぎたいがアルセンを大人しく待つとしようか』

そのグランドールの答えにルイは不満そうな表情で、頬を膨らました。 

『オッサン、リコの姉ちゃんやネコの姉ちゃんに早く知らせた方がいいんだろ?!』

尊敬するグランドールにも遠慮なしに、ルイは文句をつける。

弟子の思った以上のフェミニストぶりに、グランドールは再び苦笑した。

今度は拳骨ではなく、宥めるようにルイに言って聞かせる。

『ルイ。そう、子犬みたいに吠えるな。お嬢ちゃんなら、大丈夫だから』

「あの、『リコの姉ちゃん』と『ネコの姉ちゃん』というのはもしかして、リコリス・ラベルさんとライヴ・ティンパニーさんの事ですか?」

ルイの言った"名前"に、何となく心当たりあったピジョンが具体的に名前を出して尋ねた。

『曹長、あのお二方を御存知なんですか?』

アルスが驚いて目を丸くした時、執務室の扉が部屋の主のアルセン・パドリックによって開かれた。

「曹長、何か緊急の連絡でも?」

魔法鏡の前にいるピジョン曹長に、軍の出勤用のコートを脱ぎながら、アルセンが尋ねる。

「パドリック中将、丁度良かったです。

ロブロウのグランドール様から連絡が入ってます―――。中将。何ですか、それは?」

コートを脱いだアルセンは肩に見慣れないものを"鎮座"させていた。

「何に見えますか?」

アルセンの表情は幾分荒んで見えるのは、ピジョン曹長の気のせいか。

ピジョン曹長は一応見たままに答える。

「"金色のカエル"に見えますが。どなたかの使い魔ですか?」

アルセンが肩に鎮座するのを(嫌々ながらっぽいが)容認している両生類なので、それを含めた意見をピジョン曹長は付け加えた。

「そうです、私やピジョン曹長が手塩にかけて育てたアルスの、上司である賢者の使い魔です」

アルセンの整った顔の笑顔がこれ程まで怖いと感じたのは、軍隊生活の中でピジョン曹長は初めてだった。

「――――は、はあ。そうですか」

ピジョン曹長も先程賢者の事を悪口を喋ったわけではないが、"変わり者"と言った手前、使い魔ではあるが少し挙動不審な態度となる。

そんなピジョン曹長の前を、肩に金色のカエルを乗せたアルセンが悠々と通り過ぎて、魔法鏡の備えつけられている執務机の椅子に腰掛けた。 

『アルセン、機嫌が悪そうじゃのう』

親友による笑顔の判別は的確だったので、アルセンはニッコリと魔法鏡に向かって綺麗に微笑んだ。

「ええ、通勤途中でいきなり背後の女性に悲鳴をあげられると、紳士としては大変ショックでしてね」

それから肩にいる金色のカエルをつまみ上げて、魔法鏡の前に移動させた。

「何故だか知りませんが、いつも金色なのに(いぼ)ガエルみたいな色をして人の背中に張り付いて登場してくれたものだから、背後の女性が耳を突き抜けるようなソプラノボイスで叫んでくれましたよ」

「いやだなぁ、単にアルセンの後をつけいてて、わざと背中にぶつかりそうになったのを防いであげただけだよ」

金色のカエルが綽々(しゃくしゃく)と口を開いた。

「喋る、というか会話が出来る使い魔ですか?!」

使い魔には大して驚かなかったがピジョン曹長だが、"会話"する事には大層驚いた。

『喋る使い魔って、珍しいんすか?』

そんな驚いた曹長に、魔法鏡からルイが不思議そうに声を出した。

それにはアルスも同意見の様子で、無言で頷く。

ウサギの賢者から悪ふざけをされて、腹を立てていたアルセンだが、若人の魔術に対する認識に少し杞憂かもしれないが心配を感じ、説明を始める。

「使い魔自体は、使役している魔術師や魔法に心得があれば難しい事ではありません。大体の使い魔は手紙を持たせたり、喋れたりするのも伝言のみで、会話は出来ません」

『使い魔って、そんな感じだったんですね』

アルスは"意外だ"といった感じで、魔法鏡越しに自分の上司の使い魔である金色のカエルを見つめる。

アルセンにとっては"案の定"の反応だったので、苦笑する。

アルスにしてもルイにしても、側にいるのが農家や賢者と自称はしていても、普通から比べたら内容はハイスペック。

でも、家族のように"当たり前"として接していたらそう思い込んでいても仕方ない。

『自分は配属されたその日に、金色のカエルの使い魔に案内されたので、こういったのが普通かと思ってました』

「いや、アルス。すっごく難しい事だからな」

ピジョン曹長が慌てて、アルスを説得するように魔法鏡に向かって喋る。 

曹長は新人の生活面での教育係りが主だった任務ではある。

ただ、役割的には"世話役お兄さん"か"軍での一般常識を教える責任者"なので、教え子の"とんでる"発言に肝を冷やした。

例えるなら外出先で、子どもが突拍子のない発言で

『親はどういう躾をしているんだ!』

と罵られる事を戦々兢々(きょうきょう)としている保護者のようなものであろう。

「と、言うわけなので使い魔は」

そう言ってアルセンが指をパチリと弾くと、白い鳩がスウっと姿を表した。

「こんな風に伝言や連絡するのが主だと、アルスもルイ君も考えを改めるように」

『はーい』

『はい、気をつけます』

と素直に返事をする2人にアルセンは満足そうに頷きながら、デスクにある筆立てから羽ペンを手に取った。

「で、規定の時間外に連絡したい内容とは何ですか?」

『リコリス嬢に例の事で連絡をしたい事が出来たのでな』

アルセンがペンを持つ手をピタリと止めて、形の良い眉を上げた。

「おや、そうですか。道理で、男3人集まってオタオタと慌てているのですね」

『実際お前もこちら側におってみい。何にも出来んぞ』

グランドールが苦笑しながらアルセンに言うと、朗らかに笑って、確かに、と短く言ってペンを素早く走らせて何か短い伝言を書いた。

素早過ぎて、ピジョン曹長は内容を見ることも出来なかったが、グランドールとアルセンの会話から察するに『男が介入すべき事ではない』に感じられたので、黙っている事にした。

アルセンは伝言を書いたメモを手早く小さく畳み、使い魔である白い鳩の足元にある銀の筒に入れた。

「ピジョン曹長、窓を開けていただけますか」

「はい、わかりました」

アルセンのデスクの後ろにある、大きな観音開きの窓をピジョン曹長が開く。

使い魔の鳩を指に止まらせ立ち上がり、窓辺に立った。

「リコリス・ラベルさんの所までお手紙をお願いします」

使い魔の鳩は、一瞬だけ鈍く体を発光させてから飛び立った。

『あれ~、魔法鏡で連絡しないんすか?』

ルイが不思議そうに尋ねる。 

「朝の支度の最中かもしれない女性に、いきなり魔法鏡は失礼になりかねませんからね。

それに伝えるべき内容も、重要でおめでたい事ではありますが、大っぴらにする事でもありません。私はこういった形が一番だと思いますよ」

アルセンがニッコリと笑う。

その笑みは優しいものだが、他の意見の有無を言わせない迫力があった。

ルイはアルセンの意見に納得出来たのもあるが、軽く整った笑みに気圧されて、コクコクと無言で魔法鏡の向こう側で頷く。

若さとやんちゃぶりで、稀にグランドールの仕事関係者にも遠慮の無さ過ぎる意見を言うルイも、アルセンにもかなわないらしい。

「で、使い魔さんはわざわざ、どうして、こちらまでいらっしゃったんですか?」

一々区切りを入れながら、アルセンは自分のデスクに鎮座する金色のカエルに向かって声をかけた。

「昨日と同じ様に行って、リコさんに報告しようと思ったんだけど。

やっぱりデリカシーに欠けるかなぁ、と三十路半ばを過ぎた賢者さんは思ったんですよ」

「厚かましいバリケードのようなハートを持った不惑に片足突っ込んだ賢者のオヤジが何を言っているんですか」

使い魔のカエルが流暢な言葉に、軍属で一応親友である貴族はスムーズに返した。

ピジョン曹長はまだ使い魔が滑らかに会話するのが慣れないらしく、少し遠巻きに1匹と1人を眺めている感じだった。

『とは言っても、本当に男はこういう時は何もできないなぁ~』

グランドールはウサギの賢者とアルセンの"やり取り"に慣れているらしく、のんびりとした声を出す。

『そう言えばルイ、珍しく"腹が減った~"と(のたま)わんな』

旧友達の口喧嘩も面白くはなくもないが、この時間帯には「腹減った~」と喚いて仕方がない弟子がちっともそう言った事を言わないので、少しだけ心配して尋ねた。

『リリィの事が心配でそれ所じゃねえよ』

悄気(しょげ)ていたり、落ち込んでいたりするわけではないが、ルイの機嫌は悪い。

『ルイ君、リリィは病気なわけじゃないから』

励ます様に声をかけると、ルイは思いのほか思いつめた顔でアルスを見つめる。

『だって、血が出てるんだろ!?』

この一言に、三十路に至る1匹と2人は吹き出した(ピジョン曹長、ギリギリ29歳の独身)。 

吹き出した三十路連中を後目に、アルスが慌ててルイをフォローする。

『ルイ君あのね、確かに女性の月経は血が伴うものなんだけれど、重い病気か何かでもない限り、鈍い痛みはあるらしいけれど、切り傷みたいな痛みはないから安心しても良いと思うよ』

『でも、痛いのはやっぱりあるんだろ?』

『―――それは』

ルイの反論にアルスがグッと詰まる。

育った孤児院で、アルスが言ったような話をシスターに教わって月経の話で納得出来たけれど、ルイは納得が出来ないらしい。

「ルイ君、リリィの心配してくれてありがとう」

不意に金色のカエルが口を開き、注目が集まる。

「成人してから結構時間が過ぎると、"当たり前"って気持ちが強くなって、女性が毎月頑張って受け止めていることに鈍感になってしまっていたよ」

表情のない両生類のカエルの顔が不思議と柔和に見える。

「ルイ君に男のワシ等の意見を話しても、納得は出来ないだろう」

この言葉は的を得ていたようで、ルイは黙って頷いた。

「そもそもは血が流れるから痛いとかじゃなくて、"どうして女性だけが血を流さなければならない"かって気持ちがあるんじゃないのかい?」

これにも、ルイは素直に頷いた。

それを見た使い魔もコクリと頷いた。

「今、ルイ君と丁度同じ様な気持ちにリリィがなっているよ。

どうして、月経なんかあるんだろう?ってね。

ルイ君はグランドールの農場で畜産をしているから、月経の理屈は知っているだろう?」

『――子どもを作るため』

明け透けなルイの言い方には、聞いた者によっては『確かにその通りだ』『家畜と人間を一緒にするな』と言った賛否両論があるだろう。

「他の人にも、動物の『女性』にも月経はある。

ルイ君はそれにも『どうして女性だけが』って思うかい?」

金色のカエルがまた尋ねると、今度は首を横にフルフルとルイは振った。

それから気がついたようにハッとして、慌てて

『オレはリリィだけ、心配っす』

と言葉を吐き出した。

「うん。ルイ君がそう言った心持ちなら、はっきり言おうか。

『他の人』も多分そういった気持ちだろう。自分の大事な人以外、月経なんて知った事ではないんだよ」 

『おい、ウサギ』

グランドールが渋い顔をする。

穏健で温厚なグランドールにしてみれば、ウサギの賢者のバッサリとした言い方に苦言を呈した。

例えそれが世間一般で、暗黙で口に出されはしないが認識されている事実としている事でも

『もう少し、言い方があるだろう』

と言葉を出す。

『でも、オッサン。実際にそうなんだ。オレは、リリィが苦しんだり痛がる事がない方がいいんだ』

ルイが振り返り、真摯な眼差しでグランドールを見上げる。

グランドールはその眼差しからは視線を逸らすような事はしなかったが、何かを心配している感じが充分伺えた。

『ルイ、お前がリリィをどういう理由(わけ)かは知らんが、心底好きなのは承知しとる。

だから大事にするのは、とても良い事だとワシは思うよ。でもな、あまり頑なになるなよ』

『頑なって、何だよ』

グランドールとルイは互いに視線は逸らさないが、前にリリィと言い争った時のように冷たく冴えていた。

『今のお前は、リリィに冷たい態度とった人物全てに飛びかかりそうな雰囲気だぞ』

『間違ってねえよ、オッサン』

ルイは薄く笑って、グランドールから漸く視線を外した。

それから魔法鏡の向こう側にいるアルセンから、突き刺さるような視線を注がれている事に気がついて、ドキリとする。

「――――ルイ君、君はどうやら自分の強さに、かなりの自信があるみたいですね。

勿論、グランドールの強さににはかなわないし、何より恩人で心が広いのもわかっていて、これ以上不遜な態度ににならないように話を切り上げたのも、解りました。でもね」

笑顔でアルセンは一気にここまで口にし、一息をつき、

「ルイ君がリリィさんに冷たい態度をとる相手をブン殴りたいのと同じように、

私も"親友"を威嚇するような、まだまだ世間知らずの小僧は捻り潰したくなるんですよ」

と言葉を締めた。魔法鏡越しでも、充分過ぎる圧力がルイにはかけられた。

『ご、ごめんなさい』

ルイは思わずと言った感じで、謝罪の言葉を口にする。 

「さて、ルイ君。何となく解ったと思うだろけれど、君がリリィを大事に思っているように、君が珍しく威嚇したグランドールを『大切』に思っている人もいるんだよね。

威嚇した相手を捻り潰したくなるくらい、大切な友人だ。

んでもって人間なんてのはそんな気持ちを抱えていたり、(かて)にしていたりして生きている生き物だ。

でも、大事にしている相手を(けな)されてる度に争っていたらキリがない」

『はい』

鏡越しの使い魔からの『賢者』の言葉にルイは素直に頷いた。

「ルイ君の真っ直ぐでやんちゃな気性は、とてもカリスマ性があると思うよ。

でも、それはまだルイ君が"14歳の少年"だから許されている部分もあるんだよ。

そして、英雄グランドール・マクガフィンという後見人がいるからだ」

『―――分かってるすよ』

少しばかり調子に乗っていた事とグランドールに『甘えて』いたのを自覚したためか、ルイは使い魔から恥ずかしそうに視線を逸らしてしまった。

金色のカエルは喉をクツクツと鳴らしてから、使い魔は再び喋り始める。

「まあグランドールも気兼ねなく話す"弟子"が欲しかったから、ルイ君を選んだんだろうけれどね。元英雄の跡目と、国最大の農家になれるかもしれない"弟子"の立場が、ルイ君にはそんなに魅力的ではないかも知れない。

けれど、傍目から見ればルイ君の立場は有力な貴族でも子どもを是非にとごり押して、グランドールの養子にしてまでやりたい方々もいるからね」

何気に、先程ピジョン曹長が言った事を踏襲している。

《自分のいる場所の『分別』を弁えろ》

『んじゃ、どうすりゃいいんすか?。確かにやたらめったら誰かに当たるのは悪いかも知れない、だけどオレはリリィが心配で―――』

そう言って再びルイがヒートアップしそうな時に、アルスがルイの肩をポンと手を置いた。

『ルイ君。多分ね、言葉は悪いかもしれないけれど"それくらいの事で動揺するな"って言いたいんじゃないかな』

『―――それくらいのって』

ルイは思わず二の句を失ってしまったが、アルスは構わず続けた。 

『さっき言ってたじゃない。ルイ君がリリィを大事に思うように、アルセン様も友人のグランドール様が大事だって。これを広げていったら、誰だって"大事な人や子どもに月経が始まった"っていう出来事は更にある事なんだよ。

出来事としたら、互いに初めてのリリィやルイ君にはショックかもしれないけれど―――』

そこでグランドールがルイの頭にポンと手を置いて、

『ありふれた出来事ってわけだ』

としめる様に言った。

少しだけ恨みがましい視線で、ルイがグランドールを見る。

『ならオッサンが、最初からそう言ったら良かったじゃないか』

今更ながら慌てまくっていた自分が恥ずかしくなったらしいルイは、ポンと置かれたグランドールの大きな手を掴んだが外そうとはしない。

『しかし、お前はワシが言ったところで素直に聞ける事ができたか?。

最近、最初の頃のような緊張感もなく、少しだけだが、気の抜けた態度で農業の仕事携わっていただろう。しかし、ワシがリリィの事を説明しても、従いはするが効力が低いだろうから、アルセンやウサギが気を効かせて言ってくれたんだ。

ま、捻り潰すなんて、ちょいと過激なやり方だったがのぅ』

『そうを言われると』

頭に置かれた大きな手を両手で掴んだまま、ルイは押し黙る。

「良くも悪くも、グランドールもルイ君も中弛みの時期だって事だね。ワシもこの研修の前にリリィと軽くあったよ。

まあ、リリィはワシの言う事を素直に聞くけどね~」

使い魔のカエルが口を挟んだので、そのタイミングでルイはグランドールの大きな手を掴んで下ろした。

グランドールはルイには微笑んでから、魔法鏡の向こうにいる旧友の使い魔に指差して文句を言う。


『お前は子育て"2人目"なんだから、こういったコミュニケーションが1人目のワシより上手(うわて)なのは当たり前だろう』

グランドールの"2人目"という言葉に、アルスもルイも"えっ"という顔をした途端に、魔法鏡の表面がマーブル状になる。


『おめでとうございま~す、にゃ~♪』

『ラ、ライちゃん!』

うら若い乙女2人がセクシーではないが、十分殿方がドッキリと出来る寝間着姿で魔法鏡に『乱入』してきて、"2人目"の話はうやむやになったのであった。


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