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【幕間-執務開始前の手紙-】 

アルセンの使い魔である白い鳩が、リコとライが住む王族護衛隊の女子寮に来たのは、朝早い時間の事でした。

「にゃ~、ひこにゃん、はとひゃんがまどにひてるにゃ~。

あるふぇんひゃまからみたい、にゃ~」

「ライちゃん、教えてくれてありがとう。ただ、歯磨きブラシをくわえたまま喋べるのは、危ないから止めましょうね」

リコが苦笑しながら、鳩が来ている窓に手をかける。


ちなみにライが歯ブラシを口にしながら言ったのは

『リコにゃん、鳩が窓に来ているにゃ~。アルセン様からみたいにゃ~』

であった。


カチャリと鍵を開けると、鳩が羽ばたいて窓の縁に止まり、頭を一度ぺこりと下げた。

「あら、お行儀良いわね」

「クルックルー」

独特の鳴き声をあげると、鳩は自分の足首を見せるように半回転すると、その足首には美しい銀の輪と、手紙を収める為の小さな筒が付いていた。


「さて、リリィちゃんの様子はどうかしら。鳩さん、失礼しますね」

リコが鳩の足首の筒から、手紙を取り出して広げる。


「リコにゃん、ワチシにも見せてぇ~」

歯磨きを終えたライが、髪を梳くブラシを手にしながらやって来た。


「じゃあ、整髪の香油も持ってきてね。手紙を読みながら、ライちゃんの髪を整えるから」

そんな事を言いながら、リコはもう手紙をつらっと総て読み終えていた。

リコとライが暮らす王族護衛隊の女子寮は、女性騎士でも高いランクだけが住める寮である。

それなりにお洒落ではあるが、やはり『騎士』故かシンプルな仕様で、部屋は各人の個性が出る物となる。


リコとライは2人での相部屋で、寝室が別々な事以外は共有スペースで過ごしていて、両人の好きな黒猫のグッズが多かった。


「はい、ライちゃんじっとしていてね~」

リコが手際良くライの艶のある黒い癖っ毛をブラシで梳いて整え、仕上げに香油で髪を落ち着かせて、セットを仕上げた。


「にゃ~、リリィちゃん何ともなかったみたいだにゃ~」

リコの手ですっかり髪型が整ったライは、手紙から顔をあげて、部屋の壁に掛けてある丸鏡を見る。


「リコにゃんいつもながら、ナイスだにゃ。ありがとにゃ~」

ニコニコするライから言われるお礼を、リコは自分の髪を手早くポニーテールに結い上げながら聞いていた。


「どういたしまして。私はストレートだからライちゃんの髪がいじれて楽しいしね」

リコがそう言い終わる頃には、彼女は完璧に髪型は整っている。


「さて、朝食に行きましょうか」

2人で揃って部屋を出て、行き先明示板の食堂の所に印をつけて、そちらに向かう。


「リコリス、ライヴ、おはよう」

後ろから聞き慣れた、凛とした声に呼び止められた。

リコとライが振り返ると、そこには2人の上司で既に出勤の準備を完璧にすませ、これから登城しようとするデンドロビウム・ファレノシプス、騎士呼称ディンファレが立っていた。


「ディンファレ様、おはようございます。今朝はお早いんですね」

「ディンファレ様、おはよーにゃー」

リコが丁寧に、ライは元気よく挨拶を返す。


「本日はロッツ様と朝食をご一緒せねばならないんでな。そちらにも、『お嬢様』の知らせは届いているか?」

「はい、先程いただきました。ロッツ様は、今回の事をどのように感じていらっしゃいますか?」

周囲に人がいないのを確認して、リコが質問した。

ロッツはこの国の法王で、現国王の腹違いの弟でもあるので"王族護衛騎士"のディンファレが専属として護衛をしている。


国の機密とされているが、リリィの実の父親でもある。

諸事情があってリリィに事実は伏せられ、少女は自分が孤児だと認識している。


「さあ、こればかりはどうなんだろうか」

ディンファレにしては、珍しく困ったように笑ってみせた。


「普通一般の父親も、娘の体の成長を逐一気にしているものではないだろうからな。私としては、ロッツ様に『成長された』ぐらいと捉えてもらえればと考えている」

「バリケードな問題にゃ~」

ライがふざけて言うのを、ディンファレは笑って受け止める。


「フフフ、ライヴは相変わらず楽しいな。

でも、周りの『女性』の先輩がしっかりしていれば、こういった事は特に構えないで自然に流してしまえる事なんだろうが」

ディンファレは肩を少しだけすくめた。

リコは柔和に微笑んで、それでもリリィの心配を無事に旅を終えるまで続けるであろう上司に、敬愛の眼差しを送った。


「さて、では本日もあまり動きがある任務ではないだろうが、2人とも頑張って欲しい。私は先に失礼する」

そう言って、ディンファレは颯爽と女子寮の出口へと向かっていった。


「ディンファレ様、頑張ってにゃ~」

「本日も頑張ってくださいね、ディンファレ様」

そう声をかけると、ディンファレが振りかえらず手だけを振って出ていく。

それを見届けたあと、2人は食堂に向かったなら、どうやら一番乗りとなります。


「さて、今日の朝の献立は何かにゃ~♪」

食堂の入り口には"本日の朝食メニュー"として、メインがプレーンオムレツと焼き魚の2つに別れていた。

ちなみに、プレーンオムレツはパンで、焼き魚はライスがセットとなっている。


「―――困ったわね」

リコリスが至極真面目な顔で、腕を組み、美しい形をした眉を潜め、これでもかというぐらい困った顔を作る。


「今日もメニューが選びにくいにゃ~?」

「―――うん」

慰めるように言われるライの言葉に、リコは素直に頷いた。


"名門ラベル家"の出自である、リコリス・ラベルにも苦手なものがある。

その一つに"食事のメニューを自分で選択する"というものがあった。

最初から決められているのならば、そのメニューのままで食べようと思うのだが、選択がある場合は困る時が多い。

リコ自身も自分でも直したいと思う"癖"なのだが、中々決められない。


「出きれば、ライスとプレーンオムレツを一緒に食べたいのだけれども、プレーンオムレツはパンで、ライスは焼き魚なのよね」

そして、こうやって欲しいものとメニューが合致しないという"悲劇"に、リコリスはよく見舞われてもいた。


「にゃ~、だったらワチシが焼き魚メニューするから、リコにゃんはプレーンオムレツにして、食べる時に交換しようにゃ~」

ただ、ライと行動を共にしているとこうやって明快に解決してくれる事が多い。


「ライちゃん、そうしてくれる?」

「良いにゃ~♪、ワチシもパンと魚が食べたかったから、気にしないでほしいにゃ~」

そう言ってから、食事を乗せるためのトレイを2つ手にして、1つをリコに渡した。


「オバチャーン、ワチシは魚のセットくださいにゃ~」


ボテリ


「にゃ?」

「猫のおじょうちゃん、この"カエル"をどけてもらわないと、置けないよ」

ライが抱えたトレイの上に金色のカエルが鎮座していた。


「にゃ~」

ライがカエルをむんずと掴まえて、自分の頭の上に置くと、食堂のオバサンは驚きながらも、ライのトレイの上に焼き魚のセットを置いた。

続いてリコが食堂のおばさんに


「あの、卵のセットでお願いします」

と言うと、おばさんは苦笑しながらプレーンオムレツのセットをリコの上に置きながら


「端の方で食べないと、他の騎士様にカエルを見られたら、やられちゃうよ」

と"アドバイス"してくれた。

「はい、そうします」

リコも思わず苦笑しながら、食事が載せられたトレイを手にして食堂の端へと向う。


「このカエルさんは、喋るかにゃ~?」

ライは頭に乗せたまま、食堂の端の席に移動して座った。

リコもライの真横に座りながら、落ち着いた顔で鎮座し続ける金色のカエルを眺める。


「この前の使い魔と同じだから、喋るとは思うんだけれど。とりあえず、頭からは下ろしましょう、ライちゃん」

「はいにゃ~」

ライは頭に乗せていた金色のカエルを掴み、テーブルの上に置いた。


「やあ、お嬢さん方おはよう」

金色のカエルが口を開く。

リコとライには、その声はウサギの賢者の物とすぐわかった。


「ご飯時にすまなかったね」

カエルから出される声は、大してすまないとは思っている様には感じさせない声で、そんな事を言う。


「私達は構いませんけど、気をつけないとこのカエルの使い魔さんがやられちゃいますよ?」

リコは前にも似たような事を言ったなと思い出しながら、金色のカエルの横に食堂のランチメニューを衝立ついたてのように置いた。


「何か、あったか、にゃ?」

ライがブルーベリージャムが盛大に盛られたパンを頬張りながら尋ねる。


「ついさっきグランドールと話して、一応君たちの上司にも一足先に使い魔を飛ばしたんだけどね。ワシ等が『農業研修』に行く先の領主様が、『変わった用心棒』を雇っていた事を確定したんだよ」

「変わった?」

「用心棒にゃ?」

リコはライのプレーンオムレツと自分の焼き魚を交換しながら、ライはミルクを飲み干して白い可愛い口ひげを作りながら、金色のカエルを見つめた。


「でも用心棒を雇ったのは偶然かもしれないんだな~。貴族が用心棒を雇う事事態は、珍しいことでもないんだけれど」

ライは食堂の紙ナフキンで口ひげを拭きながら、何か考えている様子だった。


「用心棒って物騒な人に備えることにゃー。偶然っていっても、やっぱりタイミングが良すぎるにゃ。領主殿にとって、賢者様達――この場合は、グランドールのオッチャン達は物騒なんだにゃ?」

ライの言葉にリコも頷いた。

ウサギの賢者は偶然というけれど、どう考えても時期を合わせて用心棒を呼んだようにしか考えられなかった。


「う~ん、やっぱり心配してくれちゃう?」

金色のカエルからは、何とも間の抜けた質問が返ってきた。


「心配してくれちゃうって、言われましても」

リコは再び苦笑しながら、ライスを口に運びながら用心棒について考えてみる。

「でも地方領主となればこちらの王都に連絡を頂ければ、それなりの騎士を護衛に派遣出来ます。どうして要請なさらなかったんでしょうか?」

そう言ってリコはプレーンオムレツを一口、小さな口にほおり込みながらまた少し考え始めた。


「にゃ~。そう言えば賢者殿、用心棒が変わっているって言っていたけれど、どう変わっているにゃ?」

ライは器用に「ハシ」という食器を使いこなし、焼き魚と骨を一発で分離させるという、見事な作業をしながら金色のカエルに尋ねる。


「いやあ、ワシのウサギの体がある、使い魔をだしたこちら側の今、目の前にその用心棒君達がいるんだけどね?」

リコは紅茶を、ライはミルクを少量だけ吹き出した。


「ワシは今ぬいぐるみに扮しているわけだから、声を出すわけにも動くわけにもいかない。ただ、意識はあるからね。

リコさんとライさんにこうやって現在進行形で、『用心棒』君達とグランドール達が朝食をとっているの中で、必要な話を中継している感じなんだな」

無表情なカエルから、何だかやけに流暢に言葉が紡がれる。

ライはほんの少しだけ、感じ取った事を口に出してみた。


「もしかして賢者殿、あっちで会話に参加出来ないのが寂しいのかにゃ?」

「―――"ゲコっ"」

カエルの鳴き声にしては、わざとらしさが拭えなかった。

どうやら寂しいのは、図星だったらしい。


「それはともかくとして『変わった用心棒』さんがどういった方か教えていただけますか?」

リコが助け舟を出すように話題を戻してくれて、金色のカエルは頷いて話始める。


「まあ、まず用心棒って言うには年が若すぎるかな。男というよりは、"男の子"の2人組の兄弟だね。上のお兄さんがうちのアルス君より少し上の、18才ぐらいかな?。弟くんは2つ下の16才ぐらい」

「にゃ~、お兄さんはワチシの1つ下だにゃ~」

ライは考えるように、人差し指を顎にあて、リコは胸のポケットから愛用のメモを取り出した。

そしてメモに使い魔のカエルが言った事を忠実に記す。

金色のカエルはリコの方を向いて、また語り始める。


「リコさん。用心棒の情報を伝えるけれど、おそらく王都での情報と、今ワシらの前にいる用心棒の情報は違うものになっているだろうから、そこらへんの照らし合わせを頼んでもいいかな?」

「今はどうせ城に缶詰めで、資料室も使いやすいんで、少しぐらい面倒臭いことでもどうぞ」

リコはニッと口角を上げて、ウサギの賢者の要望に応えた。


それから金色のカエルの口から代替わりをしたらしい、現在の『銃の兄弟』の話を聞き、リコはメモを取り終える頃には食堂は大分混みはじめていた。

食堂の一番端に席を取ったリコとライから、余り離れていない場所にも寮に住む女性騎士達が席を取り、朝食を食べたりもしている。


「ワシはそろそろ席を外した方が良いみたいだね。リコさんや食堂のおばさんがいうように、やられかねない。―――ゲコっ」

本当のカエルの声には、幸い誰も気がつかなかったが、リコもライもほんの少しだけ肝が冷えたのと同時に、金色のカエルは姿を消した。


「ちょっと危なかったわね」

リコはメモ帳をしまいながら一息ついた。


「カエル苦手な女の人が多いから、仕方ないにゃ~」

ライは先程まで金色のカエルを隠すために使っていた、食堂のメニューを元の位置に戻す。

リコはメモをとるために遅れていた食事を、急ぎながらも行儀良く食べてしまった。


「にゃ~、お昼はリコにゃんがゆっくり食べれるように、調べ物ワチシもいっぱい手伝うにゃ~」

リコがメモをとっている間に、食事を終えてしまっていたライが申し訳なさそうに言う。

そういった事を気にするリコではないと分かってはいるが、ライは言葉をしっかりかける。


「ありがとうね、ライちゃん。じゃあ部屋に戻って、早速登城する支度をしましょうか」

リコが涼やかに微笑んで、トレイを持って立ち上がった。


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