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振り向けばデュラハン  作者: 沙φ亜竜
5.過去
30/39

-4-

「なんかさ、門倉さん、立場弱いみたいだったね!」

「でも、仲はよさそうだったよ」


 ちょっと失礼な発言をする閃太郎に、ぼくは思わず軽いフォローを入れた。

 ……フォローになっているのかは、よくわからないけど。


「それはいいんだけど、気になるわね」


 と月見里さん。


「門倉さんたち、屋上に行くって言ってたわ。放課後になってからみたいだけど」

「……確か事故で転落するのって、二階からのはずだよねぇ?」


 月見里さんの言葉に、みゃーが首をかしげる。


「怖い考えがある。わたしたちがこの時間軸に来てしまったことで、過去が変わったという可能性だ」


 る菜先輩は腕を組み、状況を分析するコンピューターのように淡々と述べた。


「……というと?」

「つまり、本来ならば二階から転落するはずだった門倉唯の運命が、わたしたちのタイムスリップの影響で捻じ曲がり、屋上から転落する運命にすり替わってしまった可能性がある、ということだ」


 ゆっくりと、る菜先輩の言葉を頭の中で噛みしめる。

 屋上から転落って……。


「……それって……」


 口にするのが怖い結論に、ぼくの声は震える。

 そんなぼくを意気地なしと責めるかのように、る菜先輩は躊躇なく言い放った。


「もしそうならば、おそらくは助かるまい」

「そんな……! どうしよう……?」


 みゃーが真っ青な顔になって動揺し始める。

 自分たちのせいで、門倉さんを死に追いやってしまうかもしれない。それが怖いのだ。

 ……当たり前だ。ぼくだって怖い。

 だけど、怖がってばかりいるわけにもいかない。


「あたしたちでできることを考えて、門倉さんを助ける。それしかないわね」


 月見里さんはいつもどおり落ち着いた様子ではあったけど、顔は真剣そのものだった。

 彼女とて怖いのだ。

 ともあれ、確かにそうする以外ないだろう。ぼくもみゃーも、他のみんなも、黙ったまま頷いた。


「それにしても、どうして運命が変わっちゃったんだろう?」


 閃太郎のつぶやきに、る菜先輩はやはり淡々とした口調で自らの意見を返す。


「推測するに、わたしたちが時空を超えたひずみが、門倉唯の運命線に引っかかったのではないかと考えられる」

「運命線? 手相とかのやつ?」

「いや、違う。人からは運命線という線が絶えず放出されている。そうだな、地球で言うところの磁力線みたいなものか。その線の軌跡が乱れると、不幸が訪れるとされている。もちろんそんな線なんて見えないわけだから、そういった理論があるというだけだが」


 しかし、わたしにはしっかりと感じられるのだ。

 る菜先輩はハッキリと、そう言いきった。

 言わんとしていることは、実のところあまりよくは理解できなかったけど、この先輩なら本当に見えていても不思議はない気がする。


「とにかく、門倉さんたちが屋上に行くのを絶対に止めないと」

「そうね。だったらまず、作戦会議が必要だわ」


 ぼくの言葉に頷きながら、月見里さんが微かに笑みをこぼす。


「ああ、作戦会議……。なんて素敵で甘美な響きなのかしら……」


 ……月見里さんの趣味は、いまいちよくわからないけど……。

 ぼくたちは円陣を組んで座り、作戦会議を始めた。



 ☆☆☆☆☆



 授業のあいだは、門倉さんたちが動くはずはない。その時間を使って、じっくりと作戦を練ることにする。

 とはいえ、どうしたらいいのか……。


 正直に話したところで怪しまれるだけだろうし、どうにかして屋上に行くのを阻止するしかない。

 ただ、向こうにはカギがある。だから、仮に途中で足止めしたとしても、諦めてくれるかどうかは賭けになってしまう。

 確実に諦めさせるためには、どうするのが一番いいだろう?


「……やっぱり、カギを奪うってのが最善の手かな?」

「うん、そうね。カギは確か、真紀って子がポケットに入れてたわよね? それをどうにかして奪い取るのかぁ……」

「オレや維摘がスカートのポケットに手を入れるのは問題あるだろうし、女子の誰かが実行するしかないよね」

「取り出させたところを奪うって手もあるけど……それよりはポケットから盗み出すほうがいいかしらね。気づかれずに盗み出すことができたら、どこかで落としたのかもって、勝手に思い込んでくれるかもしれないし」

「だが、難しい作戦なのは確かだな」


 ガタッ。

 そのとき、ふと外から微かな物音が聞こえてきた。

 窓から外をのぞき見てみると、ガラス業者の人が古くなったガラスを校舎の壁に立てかけているようだった。


「……あれって、危なくないかな……?」


 る菜先輩が言っていたように、もし本当に門倉さんが屋上から転落するのなら、まず助かりようがない。

 でもそうではなくて、五本松先生から聞いた話のとおり二階から転落するとしたら、校舎の窓から落ちるか、もしくは少々出っ張っている昇降口の屋根から落ちるといった感じになるだろう。

 昇降口の屋根からの落下を考慮すると、今立てかけられている場所ではガラスの上に落ちてしまう可能性がありそうだった。


「ぼく、どかしてくるよ!」

「あっ、みゃーも行く。他の人は、作戦会議を続けてて!」


 ぼくの他にみゃーも名乗りを上げ、ふたりで外に出るとガラスを移動させていった。


「あまり時間をかけてもいられないよね」

「そうね。あそこら辺で、いいんじゃない?」


 みゃーが指差すのは、体育館へと続く渡り廊下の壁面。

 ちょうど植え込みの陰にもなるし、その辺りの壁に立てかけておくのがよさそうに思えた。


「ん、そうだね」


 数枚重ねられていたガラスを、素早く渡り廊下のほうへと運んでいく。


「こんなもんかな?」


 まだ授業時間中だったこともあり、まったく人も通らず、作業は滞りなく終わった。


「よし、それじゃあ作戦会議に戻ろう!」

「ラジャー!」


 ぼくとみゃーがみんなのもとへ戻ると、作戦会議はすでに終了を迎えていた。


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