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振り向けばデュラハン  作者: 沙φ亜竜
5.過去
28/39

-2-

 電話ということは、おそらく職員室に行ったのだろう。

 廊下を歩いているあいだに戻ってきた先生と鉢合わせしても困る。

 ぼくたちは一旦職員玄関から外に出て、渡り廊下から再び校舎内に入ろうと決めた。


 また上履きが汚れてしまうけど、この際細かいことは気にしていられない。

 ……だけどひとつだけ、気にしなければいけないことが……。


「る菜先輩、ローブを羽織ってください」

「む? だが、ローブ姿は怪しいのだろう?」

「水着で出歩くほうがずっと怪しいです!」


 る菜先輩は、しぶしぶとローブを羽織る。

 正直ローブを着ていても怪しいから、一緒に歩いて同類だと思われたくはないのだけど……。

 もとの時間に戻るための手がかりをつかむ必要があるわけだし、る菜先輩がいないことには始まらない。先輩のオカルト研究会会長としての知識はきっと役に立つはずだ。

 ……というか、そうでなくちゃ困る。だいたい先輩のせいで、こんな状況に陥ってしまったのだから。


 職員玄関から外に出てみると、校庭のほうからたくさんの生徒たちが、まるで波のように押し寄せてくるところだった。

 昇降口前にある広場に建てられた時計台を確認してみると、そろそろ昼休みが終わる時間。

 校庭で健康的に遊んでいた生徒たちが戻ってくるタイミングに、ちょうどぶつかってしまったのだ。


 ……あれ? ぼくたちがオカルト研の部室から飛ばされたときって、放課後じゃなかったっけ?


「過去に飛ばされたこと自体が異常なんだから、時間が少しずれてるくらい、気にすることもないんじゃない?」


 疑問を口にしたぼくに、閃太郎は考えなしにお気楽な発言を返してきた。

 でも、確かにそうかもしれない。

 タイムスリップがどういう原理で起こるのかは知らないけど、日付をまたぐというよりは、一本の時間の流れを巻き戻しや早送りのように移動すると考えたほうが自然な気がする。

 る菜先輩や月見里さんも同じように考えているのか、閃太郎の発言に否定を重ねたりはしなかった。


 校庭から校舎へと戻っていく生徒たちの流れは、当然ながら昇降口へと向かっていく。

 だけどぼくたちは、彼らと同じように昇降口に行くというわけにもいかない。

 る菜先輩はともかく、他はみんなこの学園の制服を着ているわけだから怪しまれる可能性は低いかもしれないけど、なにか問題が起こらないとも限らないし。


 当初の予定どおり、ぼくたちは渡り廊下へと足を向ける。

 渡り廊下を歩いている途中、


「あっ、またいた!」


 みゃーが不意に声を上げた。


「ん? 股が痛いのか?」

「ち……違います! あれですよ、あれ!」


 る菜先輩のセクハラまがいの問いかけに、みゃーが顔を真っ赤にしながら反論。そして前方を指差す。

 みゃーの指差す先には、先ほども見かけた女子生徒が歩いていた。


「門倉さんね」

「うん。お友達と一緒みたい」


 確かにみゃーの言うとおり、門倉さんの左右には、友達と思われるふたりの女子生徒も並んで歩いている。

 ショートカットの門倉さんとは対照的に、そのふたりは長い髪を揺らめかせていた。片方は長いストレートの髪で、もうひとりはポニーテールにしている。

 仲よくお喋りしながら歩いている三人の声が、ぼくたちのいる場所まで微かに聞こえてきた。


「ちょっと、なに言ってるのよ、唯! 相変わらず、天然入ってるね~!」

「え……べつに、そういうのじゃないよ! っていうか、真紀(まき)、天然って言うな~!」

「ん~、でもねぇ~。どう考えたって、否定できないし。智子(ともこ)もそう思うでしょ?」

「あははっ、うん、そうだね~。唯は天然で大ボケでドジでノロマな亀だよね~」

「ちょ……あんた、それ言いすぎ……」

「うう……みんながいぢめる……。でも、わたし負けない! だって、女の子だもん!」

「なんだそりゃ!?」

「あはははは。やっぱり天然~!」

「ええ~~~っ!?」


 ……う~ん、なんというか、失礼だけどちょっとおバカな会話が展開されているようだった。

 他のみんなも、どうやら同じように考えたみたいで、


「門倉さん、なんか雰囲気が違うね。もっとしっかりしてる人っぽかったのに」

「そうね。失礼だけど天然だとは思わなかったわ。今度会うことがあったら、そこのところを突いて、たっぷり楽しませてもらいましょう」


 閃太郎と月見里さんの悪巧みコンビがほくそえんでいる。

 る菜先輩もふたりと同じような笑みを浮かべ、ぼくにこんなお願いをしてきた。


「うむ。儀式に最適な逸材だ。今度わたしにも紹介してもらえないか?」

「ダメです!」


 当然ながら即答するぼく。

 と、そんなバカなことをやっていたら、いつの間にか門倉さんたちの姿は消えていた。


「あ……」

「どうやらおバカなのは、こっちも同じだったみたいね!」


 なぜだか楽しそうに、みゃーはそう言って微笑んだ。


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