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レールに乗った未来と、スマホ画面に跳び込んできた「実質20万円」

鏡に映る自分を見る。

黒髪のショートボブに、運動部仕込みの健康的で無駄にスポーティな笑顔。見た目だけなら「元気一杯のイケてる女子高生」に見えるかもしれないけれど、今の私の頭の中はどんよりとした雲で覆われていた。


「はぁ……咲、また溜め息? ほら、大根の皮むき手伝って」

「はーい、お母さん」


私の実家は、小さな街でこぢんまりとした小料理屋を営んでいる。

実家は決して裕福というわけじゃない。私の通う高校も進学校ではなく、私の成績も下から数えたほうが早いレベルだ。ぶっちゃけ、私には「自分の意思で進路を選ぶ」なんて選択肢はないと思っていた。


なんとなく料理の専門学校に進学して、卒業後は親の店を手伝う。そのうち常連さんの紹介か何かで縁があった人と結婚して、この街で一生を終える。

……別に、それが悪い人生だとは思わない。温かい家族がいて、美味しいご飯があって、平和な日常がある。

だけど、胸の奥で何かがモヤモヤしていた。


(本当に、このまま決められたレールを歩くだけでいいのかな……?)


他に何か私にできる選択肢はないんだろうか。

そんな淡い期待を抱きながら、ベッドにゴロンと横になってスマホのSNSをパラパラとスクロールしていた、その時だった。


『高校卒業後、進路に迷った私が「実質20万円」のドイツワーホリに飛び込んだ結果〜デュッセルドルフで働き、走り、ヨーロッパを旅する最高の日常〜』


「……え? ドイツ……?」


指がピタッと止まった。画面に躍り出てきたのは、ドイツ・デュッセルドルフでの「ドイツ生活挑戦プラン」という聞いたこともないワードだった。


『到着初日から日本語だけで働ける環境!』

『家不足のヨーロッパでも安心! 住居は現地でフルサポート』

『各種チャレンジ(マラソン・語学・ビジネス)達成でお祝い金獲得!?』


「な、なにこれ……!?」


海外経験なんて修学旅行レベルすらない。英語の成績は『2』。ドイツ語なんて「グーテンターク」しか知らない。

普通なら「私には縁のない世界だ」とスルーするところだった。だけど、「語学不問」「初期費用が抑えられる」「現地で手厚いサポートがある」という言葉が、まるで磁石みたいに私の心を強烈に引き寄せた。


(海外で暮らすなんて、私の人生の選択肢に一度も出てこなかった……。でも、今動かなきゃ、一生このままだ!)


勢いに任せて、私は画面に表示されていた問い合わせフォームにメッセージを送信した。



「初めまして、松原咲さん。現地でサポートを担当している岩間いわまです」


数日後、オンライン画面越しに現れたのは、落ち着いた雰囲気を纏った現地在住の日本人・坊主頭の岩間さんだった。

緊張していた私に、岩間さんはデュッセルドルフという街の魅力を熱っぽく、でもとても分かりやすく語ってくれた。


ヨーロッパ屈指の日本人街があって言葉に困らずすぐ働けること。物価(特に自炊の食材!)が日本より安いこと。そして、ただ暮らすだけじゃなく、いろんな目標を持って挑戦できる環境があること——。


「咲さん、ワーホリは単なる自分探しじゃありません。現地で何かに挑戦して、自分の足で立つ経験をする場所です。全力でバックアップしますよ」


岩間さんの言葉を聞いているうちに、不安はすーっと消え去り、胸の高鳴りだけが残った。


だが、最大の難関は両親だ。

「高校卒業してすぐドイツ!? 咲、お前バカ言っちゃいけないよ!」

案の定、最初は父親に猛反対された。


しかし、岩間さんは違った。「ご両親が不安に思われるのは当然です。ぜひ直接お話しさせてください」と、両親とのオンライン面談を設定してくれたのだ。


ドイツと日本の時差を超えて行われた面談で、岩間さん元刑務官という公務員からの管理体制、住まいや治安、病気の際のサポート体制、そして現地での雇用先について丁寧に説明してくれた。


「……咲。この岩間さんって人、本当にしっかりした方だな」

面談が終わった後、頑固な父親がぽつりと呟いた。

「お前が大学や専門学校に行くために貯めていたお金がある。どこに使うかは、お前の人生だ。任せる」

「お父さん……お母さん……!」


こうして、私のドイツ行きが正式に決まった。


旅立ちの日。スーツケースひとつと、リュックサック。

空港の搭乗口で振り返ると、両親が手を振っていた。


「行ってきます!」


レールの上を歩くだけだった18歳の私に別れを告げて。

私は、まだ見ぬ憧れの地・ドイツへと高く飛び立ったのだった。

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