第98話 残り続ける怒り
「いやはや、随分と頑張るじゃないか」
「あんたもだいぶ頑丈だな、それで体が消し飛んでも大丈夫なんだって?」
タケミは既に身体中傷だらけだ。
「まあ、昔は腕を切り落とされたり、魔術で灰にされた事もあった。だがそれを乗り越える度に我が肉体は更に強固になっていた」
「だからか、さっきからあんたの身体殴る度に拳が砕けそうになるんだよな」
手を振ってそう言うタケミ。
「なら殴るのを止めたらどうだ?」
「断る!」
タケミは姿勢を低くし突進する。
「その突進、中々迫力があるな」
突っ込んで来るタケミに向かって魔法を放つ不死王。
「やはり止まらんか、その構え中々に厄介だな」
近づいたタケミは一発右拳を叩き込む、相手の胴体を捉えた。
不死王は強烈な衝撃に襲われるがそれは正面からだけではない。まるで壁に挟まれたように背後からも衝撃が走る。
(なんだ?!身体が吹き飛ばない、背後から衝撃が?)
「ーーーッ!」
タケミは空気の壁と挟撃する技を叩き込む。
「なる……ほど、これは効くな」
不死王の肉体には無数の潰れた箇所ができていた。だがみるみるうちに損傷した箇所が元に戻っていく。
「だが残念ながら、それで俺を殺すことは出来んな」
不死王はそう言って剣を構える。
「その剣、不死王から貰ったんだって?」
「この剣は込めた魔力を増幅させる。大抵の者はこの一振りで終わりだが、お前は耐えれるようだなだが……」
不死王は顔にかかっていた霧をはらう。
霧の下から現れた顔は青黒い肌に、黒い髪を生やした男の顔だった。
「そんな貴様が俺を倒せなかった事を知り、朝日と共に散っていく死神!その時奴はどんな顔をしているのか、そして奴の顔を見た時、俺はどんな気分になれるのか楽しみだっ!」
不死王が初めてみせたその顔は笑っていた。
「どうしてそんなにネラへの復讐にこだわるんだ」
「良いのか?先輩、特に年配の昔話は長いぞ?」
不死王は笑いながらそう答えた。
「アイツは恨まれる性格なのは重々承知だが、あんたの執着は異常だと思ってな」
「俺は死を恐れていた。まあ前世では当然死んだんだが。生きている者は死を恐れる、当然の事だろ?それで不死を望んだ。そして奴は俺に不死の力を与えた。その力で俺はこの周辺一帯を支配し、王国を築いた」
不死王は壁にある絵を指さす。
絵にはドレスを着た美しい女性が描かれていた
「彼女は私の妻だ、とても心優しく、この世の何よりも美しかった」
「今ところだいぶ順調じゃねぇか」
「だがある日反乱がおき、全てを失った、彼女も、そして生まれてくるはずの子も。あの日程苦しみを味わった事はない、殺したくても殺せない自分の存在が憎くてしょうがなかった」
徐々に彼の声に怒りがこもっていく。
「後で聞いた話ではその反乱を裏で手引きしたのは女神だと言うじゃないか……俺はその時にアイツが元々は女神だったことを知らされた。裏切り者が生み出した存在である俺が国王である事を良く思わない連中がそそのかしたのだろう」
「それじゃあ何で女神じゃなくてネラなんだ」
「当然女神だって恨んでいる、だがその前に奴だ。なぜ、奴は俺に一言も自分が女神の裏切りものであることを伝えなかった?その事を知っていれば結果は変わったかも知れぬ!」
不死王はここにきて怒りをあらわにする。
「まて、ネラはあんたに自分の手伝いをするように頼まなかったのか?」
タケミが質問をする。
「そんな話は無かった。どうやら奴は魔神軍も女神達も討ち取る気らしいな、もしかしたら俺は奴にとってただの実験体だったのかもしれん。貴様らを作り出す為のな」
「でもそりゃ全部ただの憶測だろ。それから話した事あんのかよ」
「話す?そんな事できるか……俺の中で奴は復讐の対象になったのだ。強引なこじつけかもしれん。そんな事は分かっている、最初からな」
不死王の声は怒りに震えていた。
「反乱者は全員一人残らず殺した、それでもこの怒りが収まる事はないッ!死ぬことも出来ない俺の中で、この怒りは残り続けている、どうやってこの怒りを鎮める?怒りが消える瞬間まで復讐するしかないだろう!」
彼のその顔にはもはや憎悪しか残っていなかった。
「そして俺は気付けば魔神王の配下になっていた」
彼はそう言って剣を構える。
「勇者になれると思いこの世界に来たというのに魔神王の配下になるなんてな。中々皮肉が効いてるだろ?」
不死王は突然笑い始める。
「まずはカウセリングでも受けたらどうだ?それかぬいぐるみに相談するとか」
タケミは情緒が不安定な不死王にそう言った。
「さあ、休憩はもう良いだろうっ!」
不死王が同時に複数の魔術を放つ、灰炎の球体、矢のように迫りくる大量の赤い稲妻が襲い掛かる。
「まあ、その何かに怒りをぶつけたい気持ちは分かるぜ。おれもそうだからな!」
タケミは先ほど同様に突撃する。だが今度は相手の攻撃を当たる寸前ギリギリで避ける、先ほどよりも正確に相手の攻撃を感知し、最小限の動きで進む。
(そんな動きもできるのか!)
不死王はタケミの事をタフネスとパワーで押し切るだけのタイプだと思っていたようだが、ここに来て俊敏に動く彼を見て驚く。
「そこだァ!!!」
射程距離に入った彼は相手の顔面目掛け先ほどよりも強烈な一撃を叩き込んだ。
「ッ!」
顔面に命中した。
「まだまだァ!!」
タケミはすかさず二発、三発と同様の攻撃を叩き込む。
不死王はタケミの攻撃により体を粉砕されるが構わず反撃を繰り出す。
魔力を纏わせた剣でタケミを斬り返した、今度はかなり深く斬られ大量の血が地面に飛び散る。
「クソッ、仕留めきれねぇか」
タケミが手を止めた一瞬で不死王は距離をとった。
「これほどの破壊力を持った攻撃は久しぶりだぞ。ましてやそれを素手でやってのけるなんて前代未聞の経験だ」
相手の身体はすぐに修復されていく。
「やはり俺の不死は絶対的だ。そしてそれに対峙するお前には絶対的な死が訪れる」
不死王はタケミに剣の切先を向ける。
「勝手に決めつけんじゃねぇよ」
タケミは赤鬼の出力を更に引き上げる。
彼の身体にヒビが入り始める。
(相手の動きは一通り見れた。まだ全力じゃないかもしれねぇが、これ以上出し惜しみしてるとこっちが持たねぇ)
タケミの皮膚が黒く変色し赤い煙が昇り始める。
(亀裂に皮膚の変色、それと赤い煙。変身能力?いや違う。こいつの能力は……)
「黒夜叉ッ!」
タケミは再び深い前傾姿勢になる。
「来るか」
剣を構える不死王。
タケミが地面を蹴ると彼は姿を消した。
次の瞬間、正面から強烈な衝撃が不死王を襲う。
「ッ!?」
不死王の胴体にタケミの拳が突き刺さっていた。
「これで終わりじゃねぇぞ」
相手にラッシュを叩き込むタケミ。
不死王は大きく吹き飛ぶ事はなく、一撃一撃を受けるたびに肉体が大きくへこむ。 最後の一撃を放たれ、不死王の肉体は粉砕された。
「プロエさんなら、こんなに力を入れなくても出来ちまうんだろうな、まだまだ修行がたりねぇな」
「その状態、先程の比ではない強さではあるが。能力の使い方がなってないな」
肉体を元に戻しながら不死王がそう言う。
「全力で戦える方法を探してたらこうなっただけだ」
タケミは不死王にそう返す、不死王はそんな返答を笑った。
「【全力】だと?必死だとか、死ぬ気でだとか全力だとか、貴様らはいつも下らない事をいう。所詮そんなものは戯言だ、最後の最後では自分が可愛くなり手を抜いてしまう。だがそれは当然なことだ本能的にそうなるんだからな、ブレーキをかけた状態で【全力】とは笑わせる」
「へぇ流石に説得力がちげえや。じゃあ死なねぇあんたは常に全力出せるってか」
タケミは大きく拍手をした。
「まあ貴様はその本能のブレーキをある程度は緩められるようだが」
(黒夜叉でもまだまだか……)
「本能のブレーキを完全に外さねぇとな」
彼は構える。
「そんな事が簡単出来たら誰も苦労なぞしないさ」
「まあ、見とけって」
タケミは笑って見せた。
タケミは身体からより大量の赤い煙を噴き上げる。
「なら俺も本気を出してやろう」
不死王から大量の魔力が噴出する。
「うお!なんだよ出し惜しみしてたのかよッ!でもとにかく速攻だ!
タケミは即座に相手に近づき胴体を貫く、だがその貫いた腕を掴まれてしまう。
「あ!」
「こういう事も出来るんだ、便利だろ?」
不死王は掌に紅い稲妻が駆け巡る黒炎球を発生させ、タケミの腹部に叩き込む。
吹き飛ばされた彼はその先で大爆発にのまれ、紅い刃に身を斬られ、黒い炎にその身を焼かれる。
彼の腹部には酷い火傷が出来ている、致命的な一撃だった。
「効くなぁ……これは」
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