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第六章 始まらない授業と最強の超能力者(二)

 五人分の問題集を買って、学校に戻った。まだ、午前中の授業時間が余っていたので、皆で数学検定二級の問題集を開いてみた。

 まったくわからなかった。解答に際して詳しい解説もなかったので、なぜ解答のような答になるか、わからなかった


「よし、明峰。俺にこの問題の解き方を教えてくれ」

 明峰が怪訝(けげん)な顔をして、突き放す口調で発言した。


「教師は天笠なんだから、天笠が教えてよ」

「俺は確かに教師だ。だから、授業について采配を振るう権利がある。俺の授業は生徒に理論的思考を身に付けさせるために、教師に教えるスタイルを取る。解法がわかっていれば、人にも教えられるはずだ」


 明峰は、どこか挑戦的な顔で応じた。

「私には、できない。そう、考えたんでしょう。残念だけど、できるわよ。この問題はね」

 明峰は黒板を前に問題を書いた。流れるように説明をしながら、次々と公式を展開していった。

「――というようにして解くのよ。合っているでしょう」


 蓮村を見ると、何も言わないので、明峰の解き方で正解らしい。だが、なぜそうなるのか、天笠には全然わからなかった。

「すまない、明峰。説明が正しいのは、解答集と同じだから、正解だとわかるが。ただ、俺に教えるには不十分だ」


 明峰の顔が、露骨に馬鹿にしたように笑った。

「しょうがない先生ね。どこがわからないか、指摘してよ。もっと詳しく、説明するわ」

 天笠がわからない点を挙げて聞いて行くと、明峰は答える。明峰の答を聞くと、また疑問が出るので、質問する。明峰が質問に対して解説を加える。


 そんな、やりとりが十五分も続くと明峰が怒り出した。

「天笠、いい加減にしないさいよ。どうして、わからないのよ。ずっと説明しているでしょうが!」

「わからないものは、わからないんだから。怒るなよ。俺に付き合って最後まで教えろよ」


「初歩的な内容ぐらい、すぐに覚えないさいよ。前に戻って説明していたら、先に進まないでしょう。馬鹿でしょう」

「馬鹿とか、言うなよ。傷つくな。そんなだと、明峰が結婚して子供ができたときに、子供に勉強を教えてとせがまれて、明峰が教えたら、ショックを受けて、子供がグレるぞ」


 亜門も天笠を馬鹿にしたように「頭の悪い教師だな」と口にした。

「俺にわかるように説明できるのか、亜門は?」


 亜門が見下した顔で、冷たく言い放った。

「無理だね、天笠に教えるのは」

「なんだ、そのいい方は。じゃあ、次の問題を解いてみろよ」


 亜門が次のページを捲って問題を読んで即答した。

「あ、これは解けないわ」

「ほら、みろ、お前だって俺と頭の中身は、変わらないだろう」


「偶々(たまたま)だよ」と次のページを開くと、亜門が少しの間、固まってから、更に次のページを開いた。

「ちょっと待てよ、勝手に飛ばすなよ。きちんと教えろよ」


 亜門が開き直った態度で堂々と宣言した、

「俺は、天笠より下だとは考えない。だが、数学は苦手だ」

「国語なら俺に勝てるのかよ」と口にすると「勝ってやるよ」と亜門が受けた。


「よし、いいだろう。国語で勝負してやるよ。その代わり、負けたら頭を下げろよ」

 亜門も張り合うような態度で応じた。

「いいぜ。その代わり、天笠が負けたら、天笠が参りましたと頭を下げろよ」


 予期せずして、亜門と国語で戦う事態になった。

 超能力勝負なら負ける気がしないが、国語での勝負はわからなかった。亜門の頭は良くないとは思うが、実は理系がダメで、文系が得意な人間である可能性は捨てきれない。だが、こればかりは、勝負してみないとわからない。


 勝負の結果、互いに「参りました」と、何度も頭を下げ合う結果になった。互いの正解率が二十%で、正解箇所が同じだったために起きた現象だった。


 二十%正解したが、問題が五択だったので、亜門はまるで正解がわからなかった可能性が高い。

 ちなみに、蓮村は全問正解で、竜宝は八十%正解、明峰が六十%の正解率だった。


 国語と数学を終えて、蓮村が冷たい顔で評価した。

「亜門の学力は予想していたとして、天笠先生がここまで酷いとは、思わなかった。四人しかいないクラスを学力別で二つ分ける訳には行きません。これは、計画を根本的に見直す必要がありますね」


 蓮村の発した「先生」の響きが、なんとも痛かった。

 とても冷たい表情で蓮村が辛辣(しんらつ)な言葉を続けた。

「対策は生徒の側で話し合いますから、先生は別の仕事をなさってください」


 生徒から戦力外通告を受けた。悔しいが、成り行き上になった教師とはいえ、やはり「要らない人材」と評価される立場は、辛いものがあった。されど、天笠の能力のなさが招いた学級崩壊である事態は明白だった。


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