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残夏の園(改訂版)  作者: ずんだもち
二章 軋轢
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妖怪のいる日常

深い、深い闇の中。


私は宙に浮いていた。


いや、闇と表現したが、私の周囲には13もの小さな点が微かに明かりを放っていた。


ーーー頼りない。


そう私は思った。

この光点は一体何で、ここは一体何処なのか。全く解らない心細い状況下で、かの点が放つ光はどうしても力不足と思えた。


だが、その内の2つの光点が距離を縮め、交わった。


光は微々たるものだったが、少しだけ、私の周囲から闇が払われた。


これは一体何なのだろうか?


興味が沸き、軽く触れてみる。


光は一瞬、跳ねたような動きをし、私から距離を取ったが、またゆっくりと近づいてくる。


・・・?


今度はその光を鷲掴みにーーー、





「け、啓太さん!止めてください!」


「え?」


若い娘の悲鳴と共に、私の名前が叫ばれた。


「んぁ・・・?」


霞む視界を覚醒させようと、目を何度も擦る。


はっきりとしていく視界。


そして掌から伝わる柔らかい感触。


「あわ、あわわわわ・・・。」


少女が目の前に居た。

背中からは紫色の翼を生やしている。


何かのコスプレか?


いや、そういやここはそういう世界だったか?


・・・うーん。


手を握ると先程の感触がまたやってくる。


さわり心地が良く、程よい反発力がある。だけどどこかすぐに壊れそうで、無意識の内に力加減をしてしまう程、かよわい感覚。


「んー・・・?」


不思議に思い、掌を見る。


「・・・?」


もう一度。


今度は掌を握ってみる。


「んっ・・・。」


目の前の少女が何とも悩ましい声を出した。


・・・。


「うおおおお!?」

「っひゃあ!?」


何故私は沢見さんの胸を掴んでいるんだ!?


というより、何故沢見さんがここにいる!?


そういや神社に泊まるって言ってたか!?いや、そうじゃない!


「・・・啓太さん。」


沢見さんは若干顔を赤らめ、視線で批難してきた。


「す、すみません!」


私は彼女の胸から手を離し、額を畳に擦り付けた。


土下座である。


「こ、今度からは気を付けて下さいね。」


沢見さんはさして怒る様子も無く、頬を紅潮させゆっくりと立ち上がる。


腕の時計を見るとまだ朝の五時。


朝日は登り始めた所だろうか、

外の空はうっすらと白みがかっている。


先程の出来事で眠気などはもう綺麗さっぱり吹っ飛んでいた。


「は、早起きなんです、ね・・・?」


何とも言えない空気の中、私の口からついて出た言葉はそんな無難なものだった。


「ふふ・・・夜雀族は

早寝早起きなんです。」


先程の出来事からか、ほんのり頬を赤く染めていた彼女はそう言って花のような笑顔を私に向けた。


その様子が何とも愛しく、私は思わず彼女の髪に手を伸ばす。


「啓太さん?」


どうしたの?と、言いたげな彼女の髪をそっと撫でると沢見さんは嬉しそうに目を細めた。


会った時からどこかよそよそしい言葉遣いになってしまった彼女だが、これが彼女の素なのだろう。


昨夜、寝る前に少し疑問に思って清瀬さんに聞けば、


「あぁ見えて、あの娘9歳よ。

見た目は私達と同じぐらいだけど、まだまだお子様だから目を離さないでね。・・・それでも、アンタと違って充分常識はあるし、素直で礼儀正しい子なのよ。」


との事だった。


驚いた。


が、同時に本当の自分を見せてくれてるまで信頼されてると思うと、素直に嬉しい。


見た目は高校生・・・いや、中学生ぐらいの容姿なのに。中身は子供。


夜雀族が短命と言われる由縁が解った気がした。


「あれ?清瀬さんは?」


隣を見ると、清瀬さんの布団がきちんと整頓され、部屋の端に畳まれていた。


「結構前に出て行かれましたよ。」


「えっ!?そうなんですか?」


「はい。

布団は・・・私が畳みました!」


褒めて、とでも言うように、沢見さんは胸を張る。


・・・というか。

9歳児にも出来ることなのに、清瀬さんは出来ないのか・・・。


内心、清瀬さんに溜め息をつきつつ、

私は自分の布団を片付けた。


沢見さんは私の布団の片付けも、

手伝ってくれる。


「ありがとう。助かりました。」


「ふふふ・・・。」


頭を撫でてあげると

沢見さんは嬉しそうに目を細めた。


可愛い。


自然と私も微笑んでしまう。


私も結婚して娘が出来たら

こんな感じの家庭だったのだろうか?


なんて、ありもしない事を考えながら、私はふと自分が空腹な事に気が付いた。


・・・よし!

朝ごはんは少し豪華にしようかな!

沢見さんみたいないい子と知り合えた記念に、ね。


そして件の沢見さんを見ると私は大事な事を失念していたのに気が付く。


「・・・?」


どうしたの?と、首を傾げる彼女の髪はぼさぼさで、顔には若干汚れも目立つ。


何より服は山道を歩いて来たからか、うっすらと土気色の斑点が目立つ。


泥か何かが乾いてしまったのかも知れない。


極めつけに、若干ながらも彼女と私ら異臭を放っていた。


「ところで沢見さん。

昨日お風呂入ってませんよね?」


私は彼女に聞いた。


「え・・・?くさい、ですか!?」


泣きそうになりながら、

自分の臭いを確認している。


「ち、違いますよ。臭くはないです。」


あまり、と言う言葉は敢えて付けなかった。


「お風呂入りませんか?」


「お風呂・・・?」


思い立ったら行動すべきだ。

首を傾げる彼女を尻目に私は布団を片付け、ゆっくりと腰を上げる。


「じゃあ沸かしますから、

待っててくださいね。」


「わ、わたしも手伝います!」


「あ、お構い無く、

私は外で温度調整しますので、

ごゆっくりしてください。」


「え・・・。」


そんな不安そうに

見つめられても・・・。

さすがに一緒には入れない。


「このお風呂は外で薪を炊いて、

炎の大きさで温度を調整

しなきゃ駄目なんですよ。」


「そ、そうですか・・・。

なら、でも・・・うーん。」


そのままうんうん唸る沢見さんを半ば無理やりお風呂場に案内する。


「うわぁ!すごい・・・!」


神社の風呂場はちょっとした銭湯みたいに広くて天井も高い。


沢見さんのはしゃぐ声が壁や床に反響して二人だけしか居ない筈なのにとても賑やかに思えた。


「広いですね。」


「広い!広いです!!」


両手を目一杯広げ、くるくると回る沢見さんはとても楽しそうだ。


「ここは普段、妖怪定例会議の時に、

遠路からやって来た客人の疲れを

癒すために使われるそうです。」


「ようかいていれいかいぎ?」


「はい。

それぞれ種族の偉い人が集まって、

みんなが幸せに暮らすには

どうしたら良いか話し合う場。

・・・らしいですよ?」


確か清瀬さんはそんな風に

言っていた気がする。


「へぇー・・・そんなのがあったんですねー。」


「沢見さんのご両親も、

ここに来ていたそうですよ。」


「お母さんが!?」


沢見さんの顔がぱっと明るくなる。


「何度か沢見さんもお母さんと一緒に

来ていたと聞いたのですが、

覚えてませんか?」


「んー・・・覚えて無い・・・です。

多分、私にはどうでも良い事だったんだと思います。これでも、記憶力には自信がありますから。」


なんという極論!


・・・まあ、記憶喪失なら仕方無い。


記憶喪失・・・なのか?


・・・ふっかけてみるか。


「沢見さん、

家に帰りたいとは思わないですか?」


両親にも早く会いたいだろう。


「え?・・・あ、うん。帰りたい。」


ん?・・・どこか歯切れが悪い。


もしかして。


「帰り道・・・思い出せない、とか?」


「は、はい。」


「そうですか。なら、思い出すまで、

ここで一緒に過ごしましょう。

楽しい生活とは言えないですが、」


「そ、そんなこと無い・・・、です!」


焦ったように

沢見さんは私の言葉を遮った。


「私は松村さんに出会ってから、色んな事をさせてもらってます。


しんどいこともあるけれど、私、今が一番楽しい!・・・です。」


必死になって言葉を続ける沢見さん。

そこまで言われたら、少し照れる。


「それは、よかったです。」


「でも、

お父さんとお母さんには会いたい・・・。」


さっきまで力説していた彼女は

うってかわって、

またしょぼんと俯いてしまう。


「少しずつ、思い出していきましょう。

そんなに肩に力が入っては、思い出せる物も思い出せないですよ。」


軽く彼女の両肩を叩く。


私は清瀬さんの話を受けてから、一晩中悩んだ。


記憶喪失の彼女がまた、凄惨な事件の記憶を取り戻すと再度心が壊れるのではないか?


いっそこのまま暮らした方が彼女の為か?


いや、どんな悲惨な事件があっても。どんなに都合の良い出来事があっても。彼女に起こった事全てが彼女の人生なのだ。


・・・例え取り戻す事で心が再度壊れたとしても。


私は、彼女が記憶を取り戻す手助けをしようと思う。


勿論、最善を尽くす。心が壊れないよう、ゆっくりと。


私は精神科医では無いし、どこまでやれるか分からない。だがやれる事はやろう。


以上が私が昨日一晩中考えた答えだ。


「は、はい・・・。」


「さ、それじゃお風呂に

入りましょうか。」


「はい・・・。」


私は大浴場を後にする。


「あ、待って、待ってください。」


着物の裾を掴まれ、私は振り返った。


「どうしました?」


「その・・・。あの・・・。」


「?」


何か言い辛そうにしているが・・・。


「私、一人でお風呂に入ったこと、無いんです・・・。」


ん・・・?

確か沢見さんは9歳になる筈だが・・・。


9歳にもなって未だに一人で風呂に入れない・・・?


親はどこまで過保護なんだ!


放任主義の親の癖に過保護でもあるのか・・・?いや、それは果たして過保護なのか?


・・・もう訳が解らない。

考えるのを止めよう。


「そ、その!私達!翼が!だからその!」


「???」


「おっきいし!その!届かないから!」


焦る彼女の言葉を要約すると、


"夜雀族は翼を自分では洗うことができないので、洗ってほしい"


ということらしい。



ん?

洗ってほしい?


・・・。






どうしよう?

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