新規
……意識が覚醒していく。俺は、椅子に座っているのか。
「どうだ意識は?」
掛けられる声には聞き覚えがある。
それもそのはず、コイツとの付き合いは5年程になるからな。
「ああ、はっきりしてるさ太一。」
「それは良かった。データ入力は成功だ。“フェイド”と意識に訴えれば発動する。やってみるか?」
返事はせず、消していた『BetweenLINE』を起動する。
メニューを見ると、確かに『FADE-out』が組み込まれていた。
“フェイド”。
意識に訴えてやると、一瞬で俺の体が不可視の存在となる。
なってる……?
「成功だな。正面見てみな。」
言われた通り前を見る。鏡が掛けられている。
田中太一がニヤニヤ笑っている。
そしてその隣には誰も座っていない椅子が置いてある。
「……ほ、本当だ!スゲー!消えてるよ俺。」
「だろ?知ってると思うが、エルステッドの“変換”を組み込んである。体細胞を、原子から透明の色に変える。更に着衣にも派生し、同じ様に原子レベルで色を透明にする。今までのフェイドと違い完全に透明だ。温度すら透明で、サーモグラフィーでも捉えられなくなった。」
……ついうっかり馬鹿な事を考えてしまいそうだ。
「止めとけよ?その内、視覚情報での連携を取れる様にする予定だからな。」
「大丈夫。何もやましい事はない。」
表層に出さなければ意識など妄想に過ぎないのさ。
「ならいい。宗司達ももう終わってる頃だろう。」
「そうか。じゃあ行くわ。」
フェイドを解き、着ていた病院服を脱ぎ捨てる。
「ああ言い忘れていた。もし透明のまま戻れなくなったら、エルステッドを訪ねて直接“変換”掛けてもらってくれ。」
「んな可能性があるのかよ。」
「大丈夫。五千回程使ったが、一回しかならなかったからな。安心してくれ。」
……出来ねえよ。
扉を開け放ち、白い廊下に出る。
「お?よお薫。」
「よっ。」
廊下の長椅子に杵築宗司が座っていた。
「すげえよなコレ。」
瞬間、宗司が透明になる。
「完全に透明や。こら水無月の爺さんもビックリの透明度だよな。」
「まあな。だけど存在がこの世から剥離は出来ん。攻撃が当たれば死ぬぜ?」
「まあそら仕方ないわな。つっても、当たらなきゃええんやで攻撃なんて。」
「それと、戻れなくなるリスクもある。」
「へ?そんな事聞いてへんで!」
医者がやったら訴えられそうな行いではあるな。
「安心しろ。エルステッドに直接“変換”を掛けてもらえば直る。」
「ああそうなん?なら安心や。」
見えない相手に、どうやって“変換”を使うかは知らんけどな。
「あ、そうだ時間は?今日定例会だろ?」
「現在時刻13時34分。定例会まであと26分よ薫。それくらいベリネで見ましょうね。」
前からやって来た大塔凜が俺の疑問に答えた。
顔を向けると、ニヤニヤ顔の凜と目が合った。
「見ようとしたのにお前が先に答えたんだろ?」
「言い訳なんていらないわ~。もうちょっとで頼ちゃんも終わるから、そしたら飛びましょうね。」
子供に話し掛ける様に俺に語りかけてくる。
「今日は誰が来るん?太一も来るんか?」
「来るだろ多分。」
「凜ちゃーん!」
今度は女の子の声が響く。
俺の後ろの方からだ。
「あ、頼ちゃん!おっと!お疲れ様。」
「凜ちゃんもお疲れ様!」
ニャンゴロゴロと凜と戯れているのは仲代頼子。
大地の原点使い。身長143cmと超ちっちゃいけど18歳だ。
「んーんーよしよし♪さ、じゃあそろそろIFLCに行こっか。」
<お前はどうするんだ太一?>
ベリネで太一に話し掛ける。
<後で行く。先に行って構わんぞ。>
<分かった。>
「太一は後で来るらしい。という訳で頼む凜。」
「あいよーりょーかい。MultiFlight“複数飛行”」
凜の瞳が、黒から青色に変わり、俺達は飛んだ。




