Wizard
はぐれる事はどんな世界でも有り得る事だ。
万人にとって居心地が良い世界でも、それは自らにとってもそうとは限らない。
「孤立狼ってのは、魔術師の正道から外れた、言わばはぐれ魔術師を指す侮蔑語だよ。」
[ほう。落伍者など興味が無い故、知らなかったなそんな存在は。]
「いや落ちこぼれとかじゃないんだ。寧ろ逆。優秀な人ばかりらしいよ。」
テレビの音しか響かない家で独り言を言っている俺。
傍から見れば気持ち悪いだろうな。
[では貴様の口を借りて私も声を出そうか。]
「それでも結局独り言だろ?遠慮しとく。」
W.W.Sで、初めて孤立狼と呼ばれる魔術師に遭遇した。
俺が知る孤立狼の情報と言えば、さっき悪魔に説明した事と、優秀だが、どこかおかしいという事だけだった。
だから、ベルサーチと一緒だったとは言えかなり緊張した。
[奴の操っていた蟲だが。]
「ん?どうかしたのか?」
[あれは人肉を食しているぞ。]
「……は?」
[ヘラクレスオオカブトだろうがカブトムシはカブトムシだ。いくら集まろうとも人一人を支える事など出来ない。]
「……それで?」
[太古の魔術師にも蟲使いはいたのだが、奴らは生贄の肉を蟲に喰わせる事により、その蟲を強化していた。別にそれが全てという訳ではなく、蟲自体に“強化”を掛けたりもしていたが、やはり人肉を喰わせるのが一番効率がいい。]
……想像したらキモい。
[あのカブト共は、一匹につき一人の人を喰っていると考えていいだろう。]
「そうか。それをしていた、もしくはしようと思ったから孤立狼になったのか。」
[そう考えるのが自然だろう。見ろ。私の記憶から奴が起こしたであろう事件の記事を持ってきた。]
悪魔の記憶にリンクする。
世界立魔術学校で事件。2219年、今から5年前の8月16日、W.W.S内にいた6人の魔術師が、たった一人の魔術師に殺された。いや、1人は生き残ったらしい。名前は……書いていないな。
えーっと、殺された魔術師は共通して、脳を喰われていた。
[脳には記憶や知識、その人間の本質が入っている。昔の人間も、死んだ賢者なんかの知識等を受け継ぐ為に食べていた。ま、食べた奴が軒並み狂ったので、二世紀しか続かなかったがな。]
つまり蟲は、魔術師の知識とかを奪おうとして脳を……?
[さあな。糸井の命でやったのは確かだろうが、そういう意図を持っていたのかは分からん。単純に脳が一番良い食料と考えて喰わせたのかもしれん。]
もういいや。えーっと、……て、これだけか。
魔術師が5人も死んだにしては随分サラっと片付けるな。
[そういう風潮にしたのは現代の人間だろう。殺人許可法などを作ったせいでな。]
「それは否めんな。」
もう一度記憶を覗く。
あれ?残った一人の名前もあるな。
[成る程。だからあれだけ冷静さを欠いていた訳か。]
……みたいだな。
“ベルサーチ・マリオネット”。
「この短期間で、何だか随分深みに嵌まった気がする。」
[気がするだけではなく、確実に嵌まっている。]
だな。
明日、学校に行きたくないぜ畜生。
夜は更けていく。
鬱々とした気分を黒く覆う様に。




