第90話 残るもの
足音が、少し軽くなっていた。
振り返れば、さっきの広場が見える。
列はまだ動いている。
ゆっくりと。
静かに。
そして――
もう、私がいなくても動いている。
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(……手を離れた)
私は立ち止まった。
不安はない。
寂しさも、ない。
ただ。
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少しだけ、空いた感じがした。
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「……どうしました?」
ミレイアが隣で聞く。
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「いえ」
私は小さく笑った。
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「終わったなと」
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彼女は少し考えて。
それから。
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「でも、動いてますよ」
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そう言った。
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私は振り返る。
列。
人。
順番。
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「ええ」
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私は頷いた。
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「終わっていませんね」
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沈黙。
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それでいい。
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アルヴェリックが後ろから来る。
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「……行くのか」
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「ええ」
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「もう、ここにいる必要はない」
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彼は少しだけ目を細めた。
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「放っておくのか」
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「ええ」
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「壊れるかもしれないぞ」
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私は少しだけ考えた。
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そして。
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「壊れます」
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答えた。
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沈黙。
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「それでも」
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私は続ける。
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「戻ります」
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彼は、しばらく何も言わなかった。
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やがて。
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「……信じているのか」
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私は首を振った。
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「違います」
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「知っているんです」
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沈黙。
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順番は壊れる。
戻らないこともある。
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だが。
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戻ることもある。
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それを。
私は見てきた。
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アルヴェリックは、小さく笑った。
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「……厄介なものだな」
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「ええ」
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「管理できない」
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「ええ」
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「だが」
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彼は空を見た。
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「消えない」
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私は頷いた。
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それが。
すべて。
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ミレイアが、少しだけ前に出た。
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「……私、思ったんです」
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彼女が言う。
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「順番って」
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少し迷って。
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「優しいですね」
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沈黙。
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私は彼女を見る。
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「どうして?」
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「だって」
彼女は言う。
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「急がなくていいから」
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静かな言葉。
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だが。
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(……そうか)
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私は、少しだけ笑った。
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順番は。
強くない。
速くない。
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だが。
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急がなくていい。
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それが。
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人にとって。
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必要なもの。
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かもしれない。
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私は歩き出した。
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もう。
広場は見えない。
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だが。
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音は聞こえる。
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足音。
声。
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そして。
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順番。
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それは。
ここにはない。
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だが。
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どこにでもある。
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私は空を見上げた。
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同じ空。
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変わらない世界。
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だが。
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少しだけ。
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違う。
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順番が。
残ったから。
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それでいい。
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それだけでいい。
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私は、歩き続けた。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。
「順番」という小さなテーマから始まった物語が、国家や人の在り方まで広がり、そして最後は「残るもの」として静かに着地しました。
派手な勝利ではなく、消えないものが残る――そんな結末です。
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本当にありがとうございました。




